第7話 魔法使いがいれば安心だ!
冒険者になって。
数日。
俺は。
一つの事実に気づいた。
「…………」
冒険者は。
稼げる。
これは。
間違っていなかった。
魔物討伐。
護衛。
危険区域の調査。
報酬を見る限り。
治療所で働いていた頃より。
遥かに高い。
問題は。
「…………」
俺に。
その仕事が来ないことだった。
「次」
受付の女性が。
俺の前にいる冒険者を呼ぶ。
「ゴブリン討伐ですね。四名で受注します」
「おう!」
四人組の冒険者が。
依頼書を受け取る。
「次」
別のパーティ。
「街道護衛ですね」
「お願いします」
「次」
「…………」
俺は。
酒場の隅で。
それを眺めていた。
仕事。
いっぱいある。
冒険者。
いっぱい稼いでる。
俺。
「…………」
明かり。
治癒。
荷物持ち。
「…………」
稼げてない。
おかしい。
計算が合わない。
「冒険者なら稼げると思ってたんだけどな……」
財布を見る。
昨日と。
ほとんど変わっていない。
いや。
飯を食ったから。
減っている。
「…………」
むしろ。
冒険者になってから。
貧乏になってないか?
そんなことを考えていると。
「なあ」
声をかけられた。
顔を上げる。
三人の冒険者が。
立っていた。
男が二人。
女が一人。
剣を持った男。
盾を背負った大柄な男。
そして。
弓を背負った女。
「お前、魔法使いだよな?」
「…………」
俺は。
相手を見る。
「そうだけど」
「やっぱり!」
剣士が。
嬉しそうに笑う。
「ちょうどよかった!」
「何が」
「俺たち、今から洞窟に行くんだ」
「へえ」
「一人足りなくてな」
「…………」
嫌な予感がした。
いや。
待て。
違う。
これは。
チャンスじゃないか?
ついに。
魔法使いとして。
パーティから。
声をかけられた。
「魔法使いを探してたんだ」
「…………」
ほら。
来た。
俺の時代。
「まあ」
眼鏡を押し上げる。
「どうしてもって言うなら」
「来てくれるか!?」
「…………」
食い気味だな。
「報酬は?」
金額を聞く。
悪くない。
いや。
かなりいい。
「行く」
「即決だな」
「たまたま暇だっただけ」
財布は。
空だけど。
「助かる!」
剣士が。
俺の肩を叩く。
「魔法使いがいれば安心だ!」
「…………まあな」
悪くない。
こういうの。
悪くないぞ。
「火は使えるか?」
「使える」
「おお!」
「水も」
「すげえ!」
「風も使える」
「万能じゃねえか!」
「治癒もできる」
「マジかよ!?」
三人の顔が。
一気に明るくなった。
「お前、すげえ魔法使いなんだな!」
「…………」
俺は。
少しだけ。
視線を逸らす。
久しぶりだ。
こんなに。
期待に満ちた目で。
見られたの。
「まあ」
眼鏡を押し上げる。
「それなりに」
「よし!」
剣士が。
拳を握る。
「これなら余裕だ!」
「ちょっと待て」
「ん?」
大事なことを。
まだ。
言っていない。
受付の人にも。
絶対伝えろと。
言われている。
「一応、説明しとく」
「何を?」
「俺の魔法」
「おう」
「飛ばない」
「…………」
三人が。
止まった。
「…………」
「…………」
「…………」
剣士が。
首を傾げる。
「何が?」
「魔法」
「…………」
「飛ばない」
「…………」
「火は?」
「出る」
「飛ぶ?」
「飛ばない」
「水は?」
「出る」
「飛ぶ?」
「飛ばない」
「風」
「出る」
「飛ぶ?」
「飛ばない」
「…………」
「…………」
弓使いの女が。
口を開いた。
「じゃあ……何ができるの?」
「治癒」
「おお!」
三人の顔が。
再び明るくなる。
「それなら十分だ!」
「ただ」
「…………」
また。
顔が曇る。
「何だよ」
「直接じゃないと治せない」
「直接?」
「杖を傷口に当てる」
「…………」
三人が。
俺の杖を見る。
「それ」
盾の男が。
初めて口を開いた。
「治癒魔法なのか?」
「治るんだから治癒魔法だろ」
「まあ……」
「多分……」
「…………」
なんだよ。
その反応。
剣士が。
少し考える。
「でも、治せるんだよな?」
「治せる」
「魔力は?」
「多い」
「どれくらい?」
「知らない」
「知らない?」
「測ると毎回驚かれるくらい」
「…………」
三人が。
顔を見合わせる。
「まあ」
剣士が言った。
「回復役がいるだけでも助かるか」
「そうね」
弓使いも頷く。
「今回、そんなに危険な洞窟じゃないし」
盾の男も。
頷いた。
「問題ないだろう」
「…………」
俺は。
少しだけ引っかかった。
最初。
魔法使いがいれば安心。
だった。
今。
回復役がいるだけでも助かる。
になった。
まあ。
いい。
仕事だ。
金だ。
「で」
俺は立ち上がる。
「何の依頼?」
「洞窟の調査」
「調査?」
「ああ」
剣士が。
依頼書を見せる。
「最近、奥で魔物の姿が増えてるらしい」
「討伐じゃないのか?」
「基本は調査だ。危険なら引き返す」
「なるほど」
悪くない。
むしろ。
初めての。
まともな依頼には。
ちょうどいい。
「それと」
剣士が言う。
「一つ確認なんだけど」
「何」
「光の魔法は?」
「使える」
「おお!」
「…………」
なんだ。
急に。
嬉しそうだな。
◇
数時間後。
洞窟。
「ノア」
「何」
「もうちょい上」
「…………」
杖を上げる。
パァァァ。
洞窟の天井まで。
明るくなる。
「おお、見やすい!」
「すげえな!」
「普通の照明魔法より明るくない?」
「魔力多いから」
「便利だな!」
「…………」
俺は。
杖を掲げたまま。
歩いていた。
先頭。
盾。
その後ろ。
剣士。
中央。
俺。
後ろ。
弓使い。
完璧な隊列。
そして。
俺の役割。
「ノア」
「何」
「そっち照らして」
「…………」
杖を向ける。
「おお、道あるぞ!」
「よし!」
「…………」
明かり。
「ノア」
「何」
「足元」
「…………」
照らす。
「段差ある!」
「危なかった!」
「…………」
明かり。
「ノア」
「何」
「あそこ」
「…………」
照らす。
「コウモリだ」
「びっくりしたー」
「…………」
明かり。
「…………」
俺は。
歩きながら。
自分の冒険者証を取り出した。
職業。
――魔法使い。
「…………」
間違いない。
しまう。
「何してんの?」
弓使いの女が。
後ろから聞いてきた。
「確認」
「何を?」
「自分を」
「…………?」
気にするな。
しばらく進む。
その時。
「止まれ」
先頭の盾役が。
足を止めた。
全員が。
静かになる。
「何かいる」
「魔物?」
「ああ」
暗闇の奥。
何かが。
動いた。
「ノア」
剣士が。
小さな声で言う。
「頼む」
「…………!」
ついに。
来た。
俺は。
杖を握る。
初めての。
冒険者としての戦闘。
さっきまでは。
照明だった。
でも。
ここからは違う。
俺だって。
魔法使いだ。
攻撃魔法は。
飛ばない。
でも。
治癒はできる。
魔力もある。
何か。
できるはずだ。
「任せろ」
俺は。
杖を構えた。
「もっと奥照らして」
「…………」
パァァァァァ。
洞窟の奥が。
明るくなった。
「いたぞ!」
「三体!」
「戦闘準備!」
剣士が。
剣を抜く。
盾役が。
前へ出る。
弓使いが。
矢をつがえる。
「…………」
俺は。
杖を掲げている。
「ノア!」
「何!」
「そのまま!」
「…………」
「見やすい!」
「…………」
戦闘が。
始まった。
剣。
盾。
弓。
そして。
照明。
「…………」
俺は。
杖を高く掲げた。
「俺」
魔物へ向かっていく。
仲間たちを見る。
「いらなくね?」
「明かり消えるだろ!」
「必要だった!」
嬉しくない。
全然。
嬉しくない。
◇
戦闘は。
すぐに終わった。
弱い魔物。
三体。
怪我人。
なし。
「いやー、助かった!」
剣士が。
笑いながら言う。
「何が」
「明るいと戦いやすいな!」
「…………」
「しかも全然光が弱くならない!」
「…………」
「さすが魔力多いだけあるな!」
「だけって言うな」
「あ、悪い」
昔から。
その二文字だけは。
嫌いなんだよ。
「でも本当に助かったよ」
弓使いの女も。
笑っている。
「暗いところだと、狙いづらいから」
「…………」
「ありがとう」
「……別に」
俺は。
顔を逸らす。
女の子に。
真正面から。
ありがとうと言われるのは。
困る。
「顔赤くない?」
「暗いからだろ」
「すごく明るいけど」
「…………」
そうだった。
俺が。
照らしてた。
「先行くぞ」
俺は。
一人で歩き出した。
「そっち逆」
「…………」
引き返した。
後ろから。
笑い声が聞こえた。
「…………うるせえ」
こうして。
俺の。
冒険者としての。
初めての。
まともな依頼は。
順調に進んだ。
魔法使いとして。
活躍できたかは。
知らない。
ただ。
一つだけ。
分かった。
俺の魔力は。
暗い場所で。
ものすごく役に立つ。
「…………」
嬉しくない。
本当に。
嬉しくない。
そして。
この時の俺は。
まだ知らなかった。
この先。
このパーティと。
もう少し深い場所へ進んだことで。
俺が。
二本目の杖まで。
壊すことになるなんて。




