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『魔法が飛ばせないので、杖でぶん殴ることにした ~落ちこぼれ魔法使い、なぜか最強の槌使いと呼ばれる~』  作者: 蝶野摩矢


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第6話 冒険者なら稼げると思ってました

「…………は?」


聞き間違いだと思った。


だから。


もう一度聞いた。


「いくら?」


魔具店の店主は。


同じ金額を言った。


「…………」


俺は。


カウンターに置かれた杖を見る。


先端の球体。


魔石には。


大きな亀裂が入っている。


あの魔物を殴った時に。


割れた。


「いやいや」


俺は店主を見る。


「修理ですよ?」


「そうだ」


「新品じゃなくて?」


「修理だ」


「魔石を交換するだけですよね?」


「そうだ」


「…………高くない?」


「高いな」


「認めるんだ」


否定してくれ。


そこは。


店主が。


俺の杖を持ち上げる。


「この杖、どこで手に入れた?」


「子供の頃。一族から」


「なるほどな」


店主は。


割れた魔石を覗き込む。


「いい物だぞ、これ」


「知ってる」


「多分、お前が思ってるよりいい」


「…………」


嫌な予感がする。


使われている魔石。


魔力伝導率。


耐久性。


魔力の保持。


どれも。


その辺の杖とは違うらしい。


「同等品に交換するなら、この金額だ」


「…………」


もう一度。


金額を見る。


財布を見る。


金額を見る。


財布を見る。


「…………」


無理。


どう考えても。


無理。


「安い魔石じゃ駄目?」


「付けられるぞ」


「じゃあ、それで」


「ただ、本来の性能は出ない」


「…………」


俺は。


杖を見る。


十歳の時。


まだ俺が。


大魔導士になる。


大賢者にすらなれるかもしれない。


そう期待されていた頃。


一族が。


俺のために用意してくれた杖。


八年間。


使い続けた。


「…………やめとく」


「いいのか?」


「金ないし」


それに。


安物の魔石へ。


替える気にもなれなかった。


「いつか直す」


「そうしろ」


杖を受け取る。


そして。


店を出ようとする。


「おい」


「ん?」


「杖なしで帰るのか?」


「…………」


足が止まった。


「…………」


店主を見る。


自分を見る。


壊れた杖を見る。


「…………」


そうだった。


俺。


一応。


魔法使いだった。


◇


結局。


新しい杖を買った。


ごく普通の。


魔法使い用の杖。


先端には。


小さな球形の魔石。


「…………軽いな」


前の杖とは。


全然違う。


試しに。


少し魔力を流す。


パァッ。


問題なく。


光る。


「…………」


使える。


多分。


普通に使える。


まあ。


飛ばないけど。


そこは。


杖の値段に関係ない。


俺の問題だ。


そして。


財布を見る。


「…………」


ほぼ空。


「最悪だ」


修理はできない。


新しい杖で金は減る。


救護所では。


死にかける。


そのうえ。


魔物を一匹倒しただけで。


八年使った杖まで壊れた。


散々だ。


「…………」


このまま。


治療の仕事を続けるか。


怪我人を治す。


一人ずつ。


杖を当てて。


治す。


嫌いではない。


人の役には立つ。


金も。


少しはもらえる。


でも。


あの日。


俺は。


治療係として。


王国軍の救護所へ行った。


戦うためじゃない。


それなのに。


死にかけた。


「治療係でも……危ない時は危ない、か」


だったら。


もう少し。


金になる仕事でもいいんじゃないか。


そんなことを考えながら。


歩いていた時だった。


一枚の掲示板が。


目に入った。


冒険者募集。


護衛。


採取。


調査。


魔物討伐。


そして。


報酬。


「…………」


一枚を見る。


隣を見る。


もう一枚。


見る。


「…………高くね?」


治療の仕事より。


かなり高い。


もちろん。


危険だからだろう。


「…………」


俺は。


財布を見る。


空。


掲示板を見る。


報酬。


財布。


報酬。


財布。


報酬。


「…………」


俺の中で。


命と金が。


天秤にかけられる。


「危ない目に遭うのが同じなら……」


少し考える。


「金になる方がマシじゃね?」


我ながら。


最低の志望動機だった。


でも。


間違ってはいない。


多分。


それに。


一匹だけとはいえ。


俺でも。


魔物を倒せた。


雑魚だったんだろうけど。


弱い魔物くらいなら。


何とかなるかもしれない。


治癒魔法も使える。


魔力も。


腐るほどある。


「…………悪くない」


俺は。


掲示板の隅を見る。


冒険者ギルド。


場所が書かれている。


「……行ってみるか」


夢でも。


憧れでも。


なかった。


金が。


なかった。


それが。


俺が冒険者になろうと思った。


一番の理由だった。


◇


冒険者ギルド。


「次の方、どうぞ」


呼ばれて。


俺は。


受付へ向かった。


その向こうには。


一人の女性。


「こんにちは」


「…………」


若い。


それに。


綺麗な人だった。


「どうしました?」


「…………」


「?」


「いや」


少しだけ。


目を逸らす。


「別に」


「…………?」


まずい。


こういうの。


苦手なんだよな。


「冒険者登録ですか?」


「……はい」


「では、お名前をお願いします」


「ノア」


「ノアさんですね」


「……はい」


さん付け。


なんか。


落ち着かない。


「年齢は?」


「十八」


「職業は?」


「魔法使い」


ここだけは。


即答した。


「魔法使いですね」


「はい」


受付の女性が。


紙へ書き込む。


「使用可能な魔法を教えてください」


「火、水、風。基本的なものなら大体」


「すごいですね」


「……まあ」


眼鏡を。


少し押し上げる。


「では、遠距離攻撃も可能ですね」


「無理です」


ペンが止まった。


「……はい?」


「飛ばないんで」


「…………」


「魔法が?」


「そう」


「でも、使えるんですよね?」


「使える」


「…………?」


その顔。


やめてほしい。


何度も。


見てきた。


「どういうことですか?」


「杖の先に出る」


「はい」


「出たまま」


「…………」


「終わり」


「…………」


受付の女性が。


紙を見る。


俺を見る。


また。


紙を見る。


「では……攻撃魔法による戦闘は?」


「できない」


「…………」


「今のところ」


一応。


付け足しておく。


「治癒魔法は?」


「使える」


受付の女性の。


表情が明るくなる。


「遠隔で?」


「無理」


「…………」


戻った。


「範囲治癒は?」


「無理」


「…………」


さらに。


曇った。


「杖を直接当てれば治せる」


「…………直接?」


「直接」


「傷口に?」


「杖を」


「…………」


受付の女性が。


俺の杖を見る。


「押し当てるんですか?」


「そう」


「…………」


「治るから」


「そういう問題なんでしょうか……」


知らない。


俺に聞くな。


しばらく。


受付の女性は。


紙と睨めっこしていた。


「あの」


「はい」


「でしたら、治癒術師として登録するのはいかがでしょう?」


「魔法使いで」


「…………」


「魔法使い」


「ですが……」


「魔法使いです」


ここだけは。


譲らない。


受付の女性が。


少し困ったように笑った。


「魔法使いに、こだわりがあるんですね」


「……別に」


「そうなんですか?」


「普通です」


「ふふっ」


「…………」


笑われた。


やめてくれ。


余計に。


喋れなくなる。


「分かりました。魔法使いとして登録しますね」


「……お願いします」


「ただし」


「はい」


「パーティに参加する時は、能力を正確に伝えてください」


「はい」


「特に攻撃魔法について」


「はい」


「本当にお願いしますね?」


「……分かってます」


なんで俺。


こんな素直に返事してるんだ。


「それでは」


受付の女性が。


一枚の札を差し出す。


「冒険者登録完了です」


手を伸ばす。


その時。


一瞬。


指先が触れた。


「…………っ」


反射的に。


手を引きかけた。


「ノアさん?」


「…………」


「どうしました?」


「なんでもない」


札を。


受け取る。


危ない。


変な奴だと思われるところだった。


いや。


もう。


手遅れかもしれない。


札を見る。


名前。


ノア。


年齢。


十八。


そして。


職業。


――魔法使い。


「…………」


「嬉しそうですね」


「別に」


「そうですか?」


「普通です」


「ふふっ」


「…………」


この受付。


苦手かもしれない。


いろんな意味で。


こうして。


十八歳。


俺は。


冒険者になった。


◇


そして。


すぐに。


現実を知った。


冒険者になれば。


金が稼げる。


そう思っていた。


甘かった。


「攻撃魔法は?」


「使える」


「おお!」


「飛ばない」


「……は?」


「治癒魔法も使える」


「おお!」


「直接だけ」


「……は?」


「魔力は多い」


「それで?」


「以上」


「…………」


だいたい。


この流れだった。


攻撃魔法。


使えます。


でも。


飛びません。


治癒魔法。


使えます。


でも。


直接触れないと治せません。


範囲魔法。


使えません。


遠距離支援。


できません。


魔力量。


多いです。


だから何?


「…………」


俺が。


聞きたい。


そんな魔法使いを。


わざわざ。


パーティへ入れたがる奴は。


ほとんどいなかった。


それでも。


たまに。


声はかかる。


「洞窟行くんだけど」


「戦闘?」


「いや」


「じゃあ何」


「杖、光らせられる?」


「…………」


光らせられる。


「明かり役やってくれ」


「…………」


俺の魔力。


ランタンになった。


別の日。


「ノア!」


「何」


「怪我した!」


「…………」


杖を。


押し当てる。


「《ヒール》」


「おお! 治った!」


「じゃあな」


「待て待て」


「何」


「まだ洞窟暗い」


「…………」


また。


杖を光らせる。


治癒。


照明。


治癒。


照明。


たまに。


荷物持ち。


「…………」


俺。


魔法使いだよな?


職業欄を。


何度確認したか。


分からない。


でも。


魔法使い。


間違いない。


少なくとも。


紙の上では。


こうして。


俺は。


冒険者として。


地味に。


本当に地味に。


仕事を始めた。


そして――


数日後。


◇


ここは。


とある街の冒険者ギルド。


昼を。


少し過ぎた頃。


依頼を終えた冒険者たちで。


酒場は賑わっていた。


その片隅。


「はぁぁぁ……」


俺は。


盛大なため息をつく。


財布は。


空。


仕事も。


ろくにない。


酒代すら。


怪しい。


「おい、聞いたか? 例の話」


近くの席から。


声が聞こえた。


「ほら、最近噂になってる奴だよ」


「最近?」


「あれだよ」


男が。


楽しそうに言った。


「《最強の槌使い》」


「…………」


俺の眉が。


ピクリと動く。


また。


その名前か。


「王国騎士や大魔導士でも仕留めきれなかった魔物を、一撃でぶっ倒したらしいぜ」


「マジかよ」


「巨大な光る槌を使う大男だって話だ」


「そんな奴いるかよ!」


「だよなぁ!」


二人が。


笑う。


「…………」


俺は。


グラスを傾ける。


最後の一口。


《最強の槌使い》。


最近。


よく聞く名前だ。


「…………」


そういえば。


俺も少し前。


魔物を一匹。


杖で殴った。


ありったけの魔力を込めて。


思いっきり。


「…………」


いや。


ないな。


俺が倒したのは。


雑魚だ。


一発で死んだんだから。


王国騎士や。


大魔導士が。


仕留めきれなかった化け物を。


俺が一発?


ない。


絶対に。


「…………別人だな」


「ん?」


「なんでもない」


そもそも。


俺が見たのは。


ただ。


馬鹿みたいに光った杖だ。


巨大な槌なんて。


見ていない。


なのに。


なんだろう。


《最強の槌使い》。


その呼び名。


なんとなく。


腹が立つ。


「最強の槌使い……」


小さく。


呟く。


「そんな奴がいたら……」


グラスを置く。


「ぶっ飛ばしてやる」


「は?」


二人が。


俺を見る。


「お前が?」


「…………」


「最強の槌使いを?」


「……悪いかよ」


数秒。


沈黙。


「ぶはっ!」


「アッハッハッハ!」


「やめとけ!」


「お前なんか一発で吹っ飛ばされるぞ!」


「…………うるせえ」


俺は。


顔を逸らした。


知らない。


会ったこともない。


でも。


なぜか。


妙に気に入らない。


最強の槌使い。


俺は。


まだ知らなかった。


その男を。


これから先。


死ぬほど探すことになる。


そして。


どれだけ探しても。


絶対に。


見つからないことも。



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