第65話 新しい仲間になりました
「……それじゃあ、始めようか」
ダリオさんが。
大きな盾を構えた。
「……はい!」
……よし。
最後は。
連携訓練だ。
「僕が盾で相手を止めるから、ノアはその隙に攻撃してみて」
「……分かりました!」
相手は。
訓練場に設置された。
動く木製の人形だった。
一定の範囲を。
左右に動く仕組みらしい。
……へえ。
こんなのもあるんだ。
ダリオさんが。
盾を構え直した。
「準備はいい?」
「……はい!」
◇
木製の人形が。
こちらへ動いた。
ダリオさんが。
前へ出る。
がんっ!
盾が。
人形を受け止めた。
「……ノア、今だよ!」
「……はい!」
俺は。
ダリオさんの横から。
踏み込んだ。
アストラへ。
魔力を流し込む。
……いや。
待てよ。
これ。
訓練用の人形だよな。
……壊したら。
怒られるよな。
『……当然であろう』
……だよな。
俺は。
いつもより。
魔力を抑えた。
……よし。
そのまま。
短く振る。
どごっ!!
人形が。
大きく揺れた。
「…………」
……よかった。
壊れなかった。
『……訓練用の備品だからな』
……危なかった。
そのとき。
人形が。
もう一度動いた。
「……あ」
俺は。
まだ。
攻撃した位置にいた。
……まずい。
次の攻撃が。
来る。
そう思った瞬間。
がんっ!
ダリオさんの盾が。
俺の前へ出た。
「……大丈夫?」
「……はい!」
……助かった。
「攻撃したあとは、少し下がるといいよ」
「……下がる?」
「うん。そうすれば、僕も守りやすいから」
「…………」
……なるほど。
俺は。
頷いた。
「……もう一回、お願いします!」
「もちろん」
◇
もう一度。
人形が動く。
ダリオさんが。
盾で受け止める。
がんっ!
「……今だよ!」
「……はい!」
俺は。
横から。
踏み込んだ。
今度も。
魔力を抑えて。
アストラを。
短く振る。
どごっ!
……よし。
今度は。
すぐに。
一歩下がる。
すると。
ダリオさんが。
盾を前へ出した。
がんっ!
次の攻撃を。
受け止める。
「……いいね!」
「……本当ですか?」
「うん。今の動きなら、僕も合わせやすい」
……おお。
「じゃあ、もう一回いこうか」
「……はい!」
……何だろう。
すごく。
戦いやすい。
俺が殴る。
ダリオさんが守る。
また。
殴る。
そして。
下がる。
「…………」
……あ。
これ。
いいな。
今までは。
敵に近づくことばかり。
考えていた。
でも。
守ってくれる人がいれば。
攻撃したあとも。
安心して下がれる。
『……お主にも、ようやく連携というものが分かってきたか』
……分かってたよ。
前から。
『……本当か?』
……多分。
◇
「……そこまで」
ヴァルドさんが。
声をかけた。
俺は。
アストラを下ろした。
「……ふう」
……終わった。
ダリオさんが。
にこりと笑った。
「お疲れさま、ノア」
「……ありがとうございました!」
「うん。なかなかいい動きだったよ」
……おお。
褒められた。
「……ただ」
「……はい?」
「一人で全部やろうとしなくていいからね」
「…………」
「僕たちは仲間なんだから」
「…………」
……仲間。
その言葉に。
少しだけ。
胸が温かくなった。
「……はい!」
◇
「……さて」
ヴァルドさんが。
三人を見た。
「どうだった?」
リゼさんが。
最初に口を開いた。
「……正直、思ってたよりずっといいわね」
……お。
「まだ動きは甘いけど、直せるところばっかりだし」
「……そうか」
「それに、ダリオとの訓練で見せた一撃」
リゼさんが。
少し笑った。
「……魔力を込めると、あんな威力になるのね」
「……はい」
「まともに食らったら、痛そうね」
……あれ?
そういえば。
俺。
かなり抑えてたんだけど。
「……ちなみに」
「……ん?」
リゼさんが。
俺を見た。
「……さっきは、人形を壊さないように魔力を抑えてました」
「…………」
リゼさんが。
俺を見た。
「……は?」
「……普段は、もう少し魔力を込めて殴ってます」
「…………」
「……あれで抑えてたってこと?」
「……はい」
「……じゃあ、全力だとどうなるのよ?」
「……えっと」
……どう説明しよう。
「……大きな魔物の幹が、粉々になりました」
「…………」
「…………」
……あれ?
リゼさんが。
黙った。
セレナさんも。
こっちを見ている。
「……ヴァルド」
「……何だ?」
「……あんた、どこまで知ってたの?」
「……俺も、そこまでは知らん」
「…………」
……あ。
何だか。
また変な空気になった。
『……お主が余計なことを言うからだ』
……聞かれたからだろ!
◇
セレナさんが。
ゆっくりと口を開いた。
「……ノア」
「……はい?」
「そんな威力の攻撃をして、身体は大丈夫だったの?」
「……えっと」
俺は。
右腕を見た。
「……実は、腕が痛くなりました」
「……腕が?」
「……はい」
「……どうして?」
「……多分、衝撃が強すぎたんだと思います」
「…………」
セレナさんが。
少し考えた。
「……そう」
そして。
静かに言った。
「……その攻撃、今度私にも詳しく教えてくれる?」
「……はい」
「魔力の流れが少し気になるわ」
「……分かりました」
……何だろう。
少し。
真剣な顔だったな。
『……何か気になることがあるのだろう』
……そうなのかな。
◇
「……それで」
セレナさんが。
話を戻した。
「通常の魔力の流れは安定しているわ。魔力量も、かなり多そうね」
「……ありがとうございます」
「でも、魔法を飛ばせないというのは、やっぱり不思議ね」
「……はい」
「いつか、詳しく調べさせてもらいたいわ」
「…………」
……調べる?
『……実験台にされるのではないか』
……やめろよ!
怖いだろ!
◇
「……ダリオは?」
ヴァルドさんが。
尋ねた。
「僕は賛成だよ」
「……え?」
……賛成?
「ノアは、ちゃんと仲間の動きを見ようとしていた」
ダリオさんが。
穏やかに笑った。
「最初は少し戸惑っていたけど、すぐに合わせてくれたしね」
「……そうか」
「それに、回復魔法も使えるんでしょう?」
「……はい」
「それなら、僕たちにとっても心強いよ」
「…………」
……あ。
そうだった。
俺。
回復魔法も使えるんだった。
『……忘れておったのか』
……忘れてないよ。
ヴァルドさんが。
俺を見た。
「……ノア」
「……はい!」
「……どうやら、みんなも納得したようだな」
「…………」
……え?
俺は。
三人を見た。
リゼさんは。
少し笑っている。
セレナさんも。
静かに頷いた。
ダリオさんは。
いつもどおり。
優しく笑っていた。
「…………」
……あれ?
これって。
もしかして。
◇
「……まあ」
リゼさんが。
口を開いた。
「まだまだ教えることは多そうだけどね」
「……はい!」
「特に、攻撃が外れたあとの動き」
「…………」
……あ。
「次は、蹴られる前に動きなさいよ」
「……頑張ります」
……やっぱり。
蹴るんですね。
セレナさんも。
小さく笑った。
「私は、あなたの魔法をもっと見たいわ」
「……はい!」
「特に、あの炎の集中ね」
「……分かりました」
「……それと」
「……はい?」
「私をからかっていないということは、ようやく分かったわ」
「…………」
……今ですか!?
『……よかったではないか』
……よかったのかな。
ダリオさんが。
俺の肩に。
軽く手を置いた。
「これからよろしくね、ノア」
「…………」
……あ。
「……よろしくお願いします!」
俺は。
深く頭を下げた。
◇
ヴァルドさんが。
その様子を見て。
少し笑った。
「……ノア」
「……はい?」
「お前は、まだ一人で戦うには危なっかしい」
「……はい」
「だが、それでいい」
「……え?」
「俺たちには、それぞれ得意なことがある」
ヴァルドさんは。
三人を見た。
「リゼは速い。セレナは魔法の扱いに長けている。ダリオは仲間を守ることができる」
「…………」
「そして、お前には俺たちにない力がある」
「……俺に?」
「ああ」
ヴァルドさんが。
頷いた。
「回復魔法と、あの一撃だ」
「…………」
……あ。
「それに、お前は面白い」
「…………」
……また。
それですか。
『……気に入られておるな』
……そうみたいだな。
ヴァルドさんは。
俺に手を差し出した。
「……これから、よろしく頼むぞ」
「…………」
俺は。
その手を見た。
「……はい!」
そして。
しっかりと。
握り返した。
……よかった。
本当に。
よかった。
ここまで。
追いかけてきて。
◇
「……さて!」
リゼさんが。
急に声を上げた。
「……ん?」
「これで新しい仲間も決まったし、次はもっと厳しく鍛えられるわね!」
「…………」
……え?
「今日の動き、まだまだ直すところだらけだったし!」
「……あの」
「大丈夫! あたしが教えてあげる!」
「…………」
……それ。
蹴られる回数が。
増えるってことじゃない?
『……おそらくな』
……嫌だな。
セレナさんも。
静かに口を開いた。
「私も、魔力の扱いについては確認したいことが山ほどあるわ」
「……山ほど?」
「ええ。覚悟しておいてね」
「…………」
……怖い。
ダリオさんが。
優しく笑った。
「まあまあ。最初から無理はさせないよ」
「…………」
……ああ。
よかった。
やっぱり。
この人が。
一番優しい。
『……そうだな』
……うん。
本当に。
そう思う。
そのとき。
ヴァルドさんが。
口を開いた。
「……では、明日から早速、次の準備に入るぞ」
「……はい!」
……明日から。
「……ちなみに、どこへ行くんですか?」
俺が聞くと。
ヴァルドさんは。
少しだけ。
笑った。
「……さらに東だ」
「…………」
……東。
まだ。
先があるのか。
「……今度は、少し長い旅になる」
「…………」
……長い旅。
俺は。
アストラを握り直した。
……大丈夫かな。
この人たちと。
ちゃんと。
やっていけるかな。
『……心配するな』
……え?
『……少なくとも、退屈はせぬだろう』
「…………」
……それ。
安心していいのか?
リゼさんが。
こちらを見た。
「……何ぼーっとしてるの?」
「……え?」
「明日から忙しくなるわよ!」
「……はい!」
セレナさんも。
少し笑った。
「……楽しみにしているわね、ノア」
「……はい!」
ダリオさんは。
優しく頷いた。
「よろしくね」
「……はい!」
俺は。
三人を見た。
そして。
ヴァルドさんを見る。
「…………」
……よし。
新しい仲間。
新しい冒険。
……頑張ろう。
『……まずは、蹴られぬようにな』
……そこから!?
……本当に。
前途多難だな。




