第64話 実力を見せるつもりだったんですが
第64話 実力確認のはずなんですが
翌朝。
俺は。
宿の部屋で。
アストラを握っていた。
「…………」
……よし。
右腕を動かす。
軽く振る。
もう一度。
「…………」
……痛くない。
昨日まで残っていた違和感も。
ほとんどなくなっていた。
……よかった。
『……無茶だけはするなよ』
……分かってるよ。
『……本当に分かっておるのか?』
……今日は。
普通に戦うだけだって。
『……お主の普通は信用できぬ』
「…………」
……ひどいな。
俺は。
アストラを背負った。
今日は。
ヴァルドさんたちに。
実力を見せる日だ。
「…………」
……緊張するな。
◇
ギルドに到着すると。
ヴァルドさんたちは。
すでに集まっていた。
「……おはようございます!」
「おう、ノア」
ヴァルドさんが。
軽く手を上げた。
その横では。
ダリオさんが。
優しく笑っている。
「おはよう。腕はもう大丈夫?」
「……はい。だいぶ良くなりました」
「そうか。よかった」
……いい人だ。
本当に。
「……ふーん」
声の方を見る。
リゼさんが。
腕を組んで立っていた。
「……今日はよろしくね」
「……よろしくお願いします!」
「まあ、そんなに緊張しなくていいわよ」
……おお。
意外と優しい。
「ちょっと戦うだけだから」
「……はい!」
「……ちゃんと動ければね」
「…………」
……あれ?
『……不穏だな』
……そうだな。
その隣では。
セレナさんが。
静かにこちらを見ていた。
「……おはよう、ノア」
「……おはようございます」
「今日はあなたの魔法を見せてもらうわ」
「……はい」
「楽しみにしているわよ」
……おお。
期待されてる。
「昨日の話が本当なら、ね」
「…………」
……やっぱり。
手厳しい。
◇
俺たちは。
ギルドの訓練場へ向かった。
広い土の地面。
周囲には。
木製の人形や。
練習用の的が並んでいる。
……おお。
結構。
本格的だな。
ヴァルドさんが。
中央で足を止めた。
「今日は三つ確認したい」
「……三つ?」
「ああ。近接戦闘、魔法、それから連携だ」
……なるほど。
「まずはリゼに相手をしてもらう」
「……はい!」
リゼさんが。
二本の木剣を持ってきた。
「じゃ、始めましょっか」
「……お願いします」
俺は。
アストラを構えた。
そのとき。
ヴァルドさんが。
声をかけた。
「ノア。今回は魔力を使わなくていい」
「……え?」
「まずは動きを見たい」
……ああ。
そういうことか。
「……分かりました」
『……我をただの棒として扱うつもりか』
……今日は我慢してくれ。
『……伝説級魔杖だぞ』
……知ってるよ。
リゼさんが。
軽く木剣を回した。
「……準備いい?」
「……はい!」
「じゃ、行くわよ」
◇
次の瞬間。
リゼさんが。
目の前から消えた。
「……え?」
いや。
消えたわけじゃない。
横へ。
一気に動いたんだ。
……速っ!
俺は。
慌ててアストラを構えた。
かんっ!
木剣を。
何とか受け止める。
……よし!
そう思った。
次の瞬間。
こつん。
「…………」
……え?
もう一本の木剣が。
俺の脇腹に当たっていた。
「……一本ね」
「…………」
……速い。
というか。
二本あるの。
ずるくない?
『……双剣使いなのだから当然であろう』
……そうだけど!
「ほら、もう一回!」
「……はい!」
俺は。
アストラを握り直した。
……今度こそ。
◇
リゼさんが。
踏み込んでくる。
俺は。
アストラを短く振った。
……ここだ!
かんっ!
一本目の木剣を。
弾く。
……よし。
すぐに杖を戻す。
もう一本が。
横から来た。
それも。
何とか受け止める。
「……へえ」
リゼさんが。
少し笑った。
「さっきよりいいじゃない」
「……ありがとうございます!」
……よし。
いける。
俺は。
そのまま。
アストラを振り下ろした。
……今度は。
こっちから!
リゼさんが。
軽く横へ動いた。
……あ。
空振った!
慌てて。
杖を戻そうとする。
その瞬間。
「……隙だらけ!」
どんっ!
「……ぐえっ!?」
横から。
軽く蹴られた。
「…………」
……え?
俺は。
よろけながら。
後ろへ下がった。
「……な、何するんですか!?」
「何って、模擬戦でしょ?」
「…………」
……そうですけど!
リゼさんは。
木剣を肩に乗せた。
「今みたいに大きく振ったら、外したときに隙ができるのよ」
「……隙?」
「そう。杖を戻す前に、簡単に近づけちゃう」
「…………」
……あ。
それ。
前にも。
言われた気がする。
「最初の二回は、ちゃんと短く振れてたのに」
「……はい」
「当てようと思った途端、大振りになったわね」
「…………」
……なるほど。
言ってることは。
分かる。
分かるんだけど。
「……蹴らなくてもよくないですか?」
「軽くでしょ?」
「…………」
……そういう問題?
『……身をもって教えてくれたのだろう』
……お前。
楽しんでない?
◇
「……そこまで」
ヴァルドさんが。
声をかけた。
リゼさんが。
木剣を下ろした。
「……どうだった?」
「……悪くないわね」
……お。
「杖を戻すのは速くなってる」
……よかった。
「でも、攻撃が外れたときの動きはまだまだ」
「…………」
……ですよね。
リゼさんが。
俺を見た。
「ま、教えがいはありそうじゃない」
「……ありがとうございます」
「次はもっと蹴られないようにしなさいよ」
「…………」
……次も蹴るんですか?
『……覚悟しておけ』
……嫌だな。
本当に。
◇
「……次は私ね」
セレナさんが。
前へ出た。
「ノア。魔法を見せてもらえる?」
「……はい!」
……よし。
今度は。
魔法だ。
「まずは、火魔法をお願い」
「……分かりました」
俺は。
アストラの先端へ。
魔力を流した。
ぼうっ。
小さな炎が。
灯る。
「…………」
セレナさんが。
じっと見ている。
「……なるほど」
……お。
「次は、もう少し魔力を増やしてみて」
「……はい」
ぼうっ!
炎が。
少し大きくなった。
「……そこまででいいわ」
「……はい」
俺は。
炎を消した。
セレナさんが。
小さく頷いた。
「……魔力の流れは安定しているわね」
「……本当ですか?」
「ええ。無駄も少ない」
……おお。
褒められた。
「……それなのに、飛ばないのね」
「…………」
……はい。
「……不思議だわ」
……俺もです。
◇
「……では」
セレナさんが。
少し離れた的を指さした。
「今度は、あれに火魔法を当ててみて」
「…………」
……え?
「……あの」
「何?」
「……飛びません」
「…………」
「…………」
……あ。
また。
あの顔だ。
「……そうだったわね」
セレナさんが。
小さくため息をついた。
「分かっていても、つい普通の魔法使いとして考えてしまうわ」
「……すみません」
「あなたが謝ることではないでしょう」
「…………」
……あ。
そうか。
「……では、近づいて使ってみて」
「……はい!」
俺は。
木製の的へ歩いていった。
アストラの先端へ。
小さな炎を灯す。
「……それで」
セレナさんが。
声をかけた。
「昨日言っていた、炎の集中を見せて」
「……分かりました」
……よし。
俺は。
アストラの先端へ。
意識を集中した。
炎を。
大きくしない。
杖先の。
小さな範囲へ。
魔力を集める。
ぼっ。
炎が。
細くなる。
中心が。
明るく輝いた。
「…………」
……よし。
今なら。
俺は。
アストラの先端を。
的へ押し当てた。
じゅうっ!
木の表面が。
黒く焦げる。
さらに。
少しだけ。
魔力を流す。
じゅううっ!
焦げた部分が。
深くなった。
……よし。
その瞬間。
ぼわっ!
「……熱っ!」
慌てて。
炎を消した。
「…………」
……やっぱり。
長くは続かない。
「……すみません」
俺が振り返ると。
セレナさんは。
的を見つめていた。
「…………」
……あれ?
「……セレナさん?」
「……少し待って」
「……はい?」
セレナさんが。
近づいてきた。
焦げた部分を。
じっと見る。
「……なるほど」
……何が?
「炎を広げずに、狭い範囲へ集中させたのね」
「……はい」
「……それを、いつ覚えたの?」
「……この前、魔物と戦ったときです」
「…………」
セレナさんが。
ゆっくりと。
俺を見た。
「……戦闘中に?」
「……はい」
「…………」
……あれ?
また。
変な顔をされた。
「……誰に教わったの?」
「……護衛で一緒だった、エリスさんに考え方を教えてもらって」
「…………」
「……あとは、戦いながら自分で試しました」
「…………」
セレナさんが。
小さく息を吐いた。
「……あなた、本当に変わっているわね」
「…………」
……また。
言われた。
「魔力を集める感覚は、悪くないわ」
……お。
「むしろ、かなりいい」
……おお!
「でも、炎の形を保つ技術はまだ不安定ね」
「……はい」
「練習すれば、もっと使えるようになるでしょう」
「……本当ですか?」
「ええ」
セレナさんが。
少し笑った。
「……まあ、教えがいはありそうね」
「…………」
……あ。
リゼさんと。
同じこと言ってる。
『……気に入られたようだな』
……そうなのかな。
セレナさんは。
アストラを見た。
「……それにしても」
「……はい?」
「魔力を飛ばせないのに、そこまで杖先に集められるなんて」
「…………」
「……本当に、奇妙な魔法使いね」
「…………」
……最後は。
やっぱり。
それなんですね。
◇
「……さて」
ヴァルドさんが。
声をかけた。
「近接戦闘と魔法は確認できたな」
「……はい!」
「最後は連携だ」
……連携。
そういえば。
まだ一つ残ってたな。
「ダリオ、頼む」
「分かったよ」
ダリオさんが。
大きな盾を持ち上げた。
「じゃあ、ノア。今度は僕と一緒にやってみようか」
「……よろしくお願いします!」
……よかった。
最後は。
優しい人だ。
『……油断するでないぞ』
……何でだよ。
『……まだ実力確認は終わっておらぬ』
……そうだった。
俺は。
アストラを握り直した。
……よし。
最後も。
頑張ろう。
……できれば。
今度は蹴られませんように。
『……相手が違うだろう』
……それもそうか。




