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『魔法が飛ばせないので、杖でぶん殴ることにした ~落ちこぼれ魔法使い、なぜか最強の槌使いと呼ばれる~』  作者: 蝶野摩矢


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第63話 どうやら大物だったようです

……それを。


知ってもらおう。


俺は。


アストラを握り直した。


明日。


ヴァルドさんたちに。


実力を見せる。


「…………」


……大丈夫かな。


『……今さら不安になったか』


……なるだろ。


あの三人。


どう見ても。


強そうだったし。


特に。


セレナさん。


……怖かったな。


『……随分と手厳しい女だったな』


……お前もそう思う?


『……だが、間違ったことは言っておらぬ』


……そうなんだけどさ。


俺は。


もう一度。


テーブルの方を見た。


ヴァルドさんが。


三人と話している。


……あ。


そういえば。


「……ヴァルドさん」


「ん?」


「……俺、今日はこれで失礼してもいいですか?」


「ああ。ゆっくり休め」


「……ありがとうございます」


俺が。


頭を下げた。


そのとき。


ギルドの入口から。


聞き覚えのある声がした。


「……あれ? ノアさん?」


「…………」


……ん?


振り返る。


そこには。


見覚えのある女性が。


立っていた。


「……エリスさん?」


「あ、やっぱり!」


……おお。


昨日。


別れたばかりなのに。


もう会った。


◇


「……ノアさんも、ギルドに来ていたんですね」


「……はい」


エリスさんが。


にこりと笑った。


……あ。


相変わらず。


綺麗な人だな。


『……何を見とれておる』


……見とれてないよ。


「……あの、エリスさんは?」


「昨日の魔物のことを、詳しく報告することになったんです」


「……魔物?」


「はい。あの大きな木の魔物です」


……ああ。


あいつか。


そういえば。


ディランさんが。


ギルドに報告するって。


言ってたな。


「ディランさんとボルグさんも、一緒ですよ」


エリスさんが。


後ろを振り返った。


入口の方から。


ディランさんと。


ボルグさんが歩いてくる。


「……おっ! ノアじゃねえか!」


「……ボルグさん」


「元気にしてたか!」


「……昨日会いましたよね?」


「がっはっは! そうだったな!」


……本当に。


元気な人だな。


ディランさんも。


こちらへ来た。


「……ノア。腕はどうだ?」


「……昨日より、だいぶ楽になりました」


「そうか。よかった」


……やっぱり。


心配してくれてるんだな。


「……ありがとうございます」


そのとき。


背後から。


声がした。


「……ノア?」


「……はい?」


振り返ると。


ヴァルドさんが。


こちらを見ていた。


「……知り合いか?」


「……はい。昨日まで、一緒に護衛依頼をしていた方たちです」


「ほう」


ヴァルドさんが。


少し興味深そうに。


目を細めた。


◇


「……護衛依頼?」


リゼさんが。


立ち上がった。


「……あんた、護衛もやってたの?」


「……はい」


「……魔法を飛ばせないのに?」


「…………」


……そこ。


やっぱり。


気になりますよね。


すると。


ディランさんが。


口を開いた。


「……魔法が飛ばせないことは、承知のうえで雇った」


「……へえ」


リゼさんが。


ディランさんを見る。


「それで、どうだった?」


「……助けられたよ」


「…………」


「何度もな」


……え?


そんなに。


助けられてたかな。


『……お主は自覚が足りぬな』


……そうかな。


ディランさんは。


ヴァルドさんたちへ。


軽く頭を下げた。


「ディランという。今回の護衛では、俺が隊長を務めていた」


「ヴァルドだ」


二人が。


挨拶を交わす。


ボルグさんも。


胸を張った。


「俺はボルグ! こいつには世話になったぜ!」


「……私はエリスです」


エリスさんも。


丁寧に頭を下げた。


……あれ?


何だか。


紹介が始まってる。


◇


「……それで」


セレナさんが。


静かに口を開いた。


「ノアは、護衛で何をしていたの?」


「……えっと」


俺は。


少し考えた。


……何を。


してたっけ。


魔物を。


杖で殴って。


穴を掘って。


根っこに。


引っ張られて。


……あれ?


最後のやつ。


説明していいのかな。


『……あまり聞かせたくない話だな』


……だよな。


俺が。


言葉に迷っていると。


エリスさんが。


代わりに答えてくれた。


「ノアさんには、戦闘でもすごく助けられました」


「……そうなの?」


「はい。土魔法で魔物の動きを誘導したり、杖で敵を倒したり」


「…………」


セレナさんが。


俺を見た。


「……土魔法で誘導?」


「……はい」


「……飛ばせないのに?」


「……杖先から使ってます」


「…………」


……また。


変な顔をされた。


リゼさんが。


少し笑った。


「……本当に杖で殴るんだ」


「……はい」


「……ふーん」


……あ。


まだ。


信用されてない。


そのとき。


ボルグさんが。


大きな声を出した。


「しかもよ! 最後はとんでもねえ魔物を一人で倒したんだぜ!」


「…………」


「…………」


……あ。


ボルグさん。


それ。


言っちゃうんだ。


◇


「……一人で?」


リゼさんが。


首を傾げた。


「……はい」


「何を倒したの?」


「……木です」


「…………」


「…………」


……あ。


また。


変なこと言ったかも。


『……学習せぬな』


……木だっただろ。


ボルグさんが。


笑いながら。


説明を始めた。


「でっけえ木の魔物だよ! 根っこが地面から何本も出てきてな!」


「……木の魔物?」


セレナさんが。


小さく呟いた。


「……それって」


エリスさんが。


頷いた。


「はい。巨大な植物型の魔物でした」


「……どんな?」


今度は。


リゼさんが聞いた。


「幹がとても太くて、地面の下から大きな根を伸ばしてくるんです」


「…………」


「それに、切っても砕いても、すぐ再生してしまって……」


「…………」


……あれ?


リゼさんの。


表情が変わった。


セレナさんも。


さっきまでの。


呆れた顔ではない。


「……ちょっと待って」


リゼさんが。


一歩前へ出た。


「その木、根を使って動かなかった?」


「……はい!」


エリスさんが。


少し驚いた。


「そうなんです。まるで根で身体を引っ張るみたいに」


「…………」


リゼさんが。


セレナさんを見る。


セレナさんも。


リゼさんを見た。


「……ねえ」


「……ええ」


「……もしかして」


「……同じかもしれないわね」


「…………」


……同じ?


何が?


◇


「……少し、詳しく聞かせて」


セレナさんが。


エリスさんに。


向き直った。


「その魔物は、どこにいたの?」


「東の街道です。森の中を通っているときに襲われました」


「……そう」


「最初は倒れた木に見えたんですが、突然根が動き出して……」


「…………」


セレナさんが。


小さく息を吐いた。


「……やっぱり」


「……何がですか?」


俺が聞くと。


今度は。


ダリオさんが。


口を開いた。


「……僕たち、少し前に似た魔物と戦ったことがあるんだ」


「……え?」


……似た魔物?


「別の依頼でね。森の奥に出た大型の魔物を調べに行ったんだ」


ダリオさんは。


穏やかな声で続けた。


「そのとき、巨大な木の魔物に遭遇した」


「…………」


「根を使って動いて、幹を切ってもすぐに再生する」


……あれ?


「……それ」


「うん」


ダリオさんが。


頷いた。


「今聞いた話と、よく似ているね」


リゼさんが。


腕を組んだ。


「……似てるなんてもんじゃないわよ」


「……そうなの?」


「ええ。あたしたちが戦ったのも、まさにそんな奴だった」


「…………」


……へえ。


あんなの。


ほかにもいるのか。


……嫌だな。


本当に。


◇


「……それで、その魔物は?」


ディランさんが。


尋ねた。


ダリオさんは。


少し困ったように笑った。


「……逃がしてしまったんだ」


「……逃げた?」


「うん」


セレナさんが。


言葉を継いだ。


「幹を何度も破壊したのだけれど、地面の根が残ってしまってね」


「…………」


「最後は根だけになって、土の中へ潜ってしまったの」


……あ。


それ。


聞き覚えがある。


「……切っても再生するから、厄介だったわ」


リゼさんが。


ため息をついた。


「追いかけようにも、地面の下に逃げられたらどうにもならなくてね」


「……そうだったんですか」


……なるほど。


あの魔物。


以前にも。


誰かと戦ってたのか。


セレナさんが。


俺を見た。


「……ノア」


「……はい?」


「その魔物、本当に倒したの?」


「……はい」


「……根も?」


「……はい」


「……再生しなかった?」


「……最後は、しなくなりました」


「…………」


セレナさんが。


黙った。


リゼさんも。


口を閉じている。


……あれ?


何だろう。


さっきより。


怖いんだけど。


◇


「……ちょっと待って」


リゼさんが。


俺に近づいた。


「……はい?」


「あんた、その魔物と一人で戦ったの?」


「……最後は、そうです」


「……最後は?」


俺は。


ディランさんたちを見た。


「……最初は、みんなで戦ってたんです」


ディランさんが。


頷いた。


「馬車が根に絡め取られて、動けなくなったんだ」


「…………」


「ノアが魔物を引きつけてくれたおかげで、俺たちは商隊を逃がせた」


エリスさんも。


口を開いた。


「私たちは、あとから助けに戻ったんです」


「……戻った?」


「はい」


「……それで?」


「戻ったときには、もう……」


エリスさんが。


少し言葉を探した。


「……魔物が倒されていました」


「…………」


「周囲の木まで、たくさん倒れていて……」


「…………」


「ノアさんが一人で残って、倒してくれたんです」


……あ。


また。


すごく。


見られてる。


リゼさんが。


俺を見た。


「……あんたが?」


「……はい」


「……あれを?」


「……はい」


「…………」


……さっきから。


同じ質問ばかり。


『……無理もあるまい』


……そうだけど。


◇


「……どうやって倒したの?」


セレナさんが。


静かに聞いた。


「……えっと」


俺は。


アストラを見た。


……どうやって。


説明しよう。


「……最初は、杖で殴りました」


「…………」


「……でも、再生したので」


「……ええ」


「……もっと強く殴りました」


「…………」


セレナさんが。


ゆっくりと。


目を閉じた。


「……ちょっと待って」


「……はい?」


「説明が雑すぎるわ」


「…………」


……すみません。


『……我もそう思う』


……お前まで!


「……それで?」


セレナさんが。


続きを促した。


「……幹が粉々になったんですけど、根からまた再生して」


「…………」


「……最後は火魔法で燃やしました」


「……火魔法?」


「……はい」


「……飛ばせないのに?」


「……杖の先に集めて、幹に突き刺しました」


「…………」


「…………」


……あれ?


また。


黙った。


「……セレナ?」


リゼさんが。


横から声をかけた。


「……ええ」


セレナさんは。


ゆっくりと。


アストラを見た。


「……なるほどね」


「……何がですか?」


「……再生を止めた方法よ」


……お。


分かってくれた?


「根ごと完全に消し飛ばせなかったとしても、内部から焼けば再生を妨げられる可能性はあるわ」


「……そうなんです」


「……理屈は分かる」


……おお!


「……でも」


「……はい?」


「普通、そこまで近づかないわ」


「…………」


……ですよね。


『……正論だな』


……うるさい。


◇


「……しかし」


ダリオさんが。


俺を見た。


「よく一人で残れたね」


「……え?」


「仲間を逃がすためだったんでしょう?」


「……はい」


「……怖くなかった?」


「…………」


……怖かった。


ものすごく。


「……怖かったです」


俺は。


正直に答えた。


「……正直、残るって言ったあとに後悔しました」


「…………」


ダリオさんが。


少しだけ。


目を丸くした。


そして。


ふっと笑った。


「……そうか」


「……はい」


「それでも、残ったんだね」


「…………」


……まあ。


言っちゃったので。


『……勢いでな』


……言わなくていいよ。


ダリオさんは。


優しく頷いた。


「……立派だと思うよ」


「…………」


……え。


「……ありがとうございます」


……いい人だな。


本当に。


リゼさんが。


俺の方を見た。


さっきまでとは。


少し違う目だった。


「……ねえ、ノア」


「……はい?」


「……あんた、本当に変わってるわね」


「…………」


……それ。


褒めてます?


「……もちろん」


リゼさんが。


にやりと笑った。


「ちょっと面白くなってきた」


「…………」


……あ。


何だろう。


嫌な予感がする。


◇


「……やれやれ」


セレナさんが。


小さく息を吐いた。


「ヴァルド」


「何だ?」


「……あなたが面白いと言っていた意味は、少し分かったわ」


「そうか」


ヴァルドさんは。


どこか。


楽しそうに笑っていた。


「……だが、まだ半信半疑だろう?」


「当然ね」


……当然なんだ。


「私たちは、ノアが実際に戦っているところを見ていないもの」


「……そうだな」


「……それに」


セレナさんが。


俺を見た。


「魔力の扱いも、確認したいわ」


「……はい」


「四属性使えて、魔法が飛ばない。そのうえ、あの魔物を倒したというのなら……」


「…………」


「……ますます意味が分からないもの」


「…………」


……やっぱり。


毒舌だ。


『……だが、興味は持たれたようだな』


……そうだな。


リゼさんも。


腕を組んだ。


「……あたしも、戦ってるところを見たいわ」


「……はい」


「特に、どうやって敵に近づくのか」


「…………」


……あ。


そこか。


俺が。


一番苦労してきたところ。


「……まだ、練習中です」


「……へえ」


リゼさんが。


少し笑った。


「じゃあ、ちょうどいいじゃない」


「……何がですか?」


「明日、見せてよ」


「…………」


……ですよね。


◇


「……さて」


ヴァルドさんが。


椅子から立ち上がった。


「話は聞けたな」


「……ええ」


セレナさんが。


頷いた。


「少なくとも、最初に思っていたような新人ではなさそうね」


……お。


評価。


上がった?


「……まだ何とも言えないけれど」


「…………」


……ですよね。


リゼさんが。


肩をすくめた。


「でも、面白そうじゃん」


「そうだね」


ダリオさんも。


笑った。


「僕も楽しみだよ」


「…………」


……あれ?


何だろう。


すごく。


期待され始めてない?


『……よかったではないか』


……いや。


期待されすぎるのも。


困るんだけど。


ディランさんが。


俺の肩に手を置いた。


「……ノア」


「……はい?」


「無理はするなよ」


「……分かってます」


「腕はまだ本調子じゃないんだろう?」


「……少し違和感はあります」


ヴァルドさんが。


その言葉に反応した。


「……怪我をしているのか?」


「……あ、いえ。だいぶ治ってきたので」


「……そうか」


ヴァルドさんは。


少し考えた。


「なら、明日は無理な大技を使わなくていい」


「……はい」


「普段の戦い方を見せてくれれば十分だ」


……よかった。


あんな一撃。


もう一回やれって。


言われたら。


どうしようかと思った。


『……我も御免だ』


……そこは。


同意見だな。


◇


「……それじゃあ、俺たちは報告に行くか」


ディランさんが。


ボルグさんたちを見た。


「おう!」


ボルグさんが。


元気よく答えた。


エリスさんも。


頷いた。


「……ノアさん」


「……はい?」


「明日の実力確認、頑張ってくださいね」


「……ありがとうございます!」


エリスさんが。


にこりと笑った。


「……無茶はしないでくださいね」


「……はい」


……あ。


やっぱり。


優しい人だな。


『……顔が緩んでおるぞ』


……うるさい。


三人が。


受付の方へ歩いていく。


俺は。


その背中を見送った。


……また。


助けてもらったな。


『……今度は説明をな』


……そうだな。


俺が説明してたら。


こんなに。


伝わらなかったと思う。


『……間違いない』


……そこまで言う?


◇


「……ノア」


ヴァルドさんが。


俺を呼んだ。


「……はい?」


「……一つ聞いていいか?」


「……何ですか?」


「……お前、本当にあの魔物を一人で倒したんだな?」


「…………」


……え?


ヴァルドさんまで?


「……はい」


「そうか」


ヴァルドさんは。


少しだけ笑った。


「……予想以上だな」


「…………」


……あ。


「……ありがとうございます」


俺は。


小さく頭を下げた。


「だが、まだまだ伸びるだろう」


「……え?」


「お前は、近づくまでの動きが弱かった。今も課題はあるはずだ」


「……はい」


「……だからこそ、楽しみだ」


「…………」


……楽しみ。


……俺に。


そんなことを。


言ってくれるんだ。


ヴァルドさんが。


三人を見た。


「……明日は頼むぞ」


「ああ」


ダリオさんが。


頷く。


リゼさんは。


にやりと笑った。


「……遠慮しなくていいのよね?」


「……加減はしろ」


「……分かってるって」


「…………」


……本当かな。


セレナさんも。


静かに頷いた。


「私も、確かめたいことができたわ」


「……何ですか?」


「……明日のお楽しみね」


「…………」


……怖い。


……この二人。


本当に。


怖い。


『……明日は賑やかになりそうだな』


……他人事みたいに言うなよ。


俺は。


アストラを握り直した。


……でも。


少しだけ。


楽しみでもあった。


魔法が飛ばせない俺を。


初めて見る人たち。


それでも。


今度は。


前より。


自信を持って。


戦える気がする。


「…………」


……よし。


明日。


ちゃんと。


見せてやろう。


俺にできることを。


『……ただし、無茶はするなよ』


……分かってるって。


『……本当に?』


……多分。


『……その多分をやめぬか!!』


……うるさい杖だな。



ここまで読んでくださり本当にありがとうございます!

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