第62話 新しい仲間は手厳しいです
翌朝。
俺は。
宿のベッドから。
ゆっくりと起き上がった。
「…………」
……朝か。
昨日は。
ぐっすり眠れた。
久しぶりに。
屋根のある場所で。
安心して眠れた気がする。
『……随分と寝ておったな』
……疲れてたんだよ。
『……それはそうだろうな』
……珍しく。
素直だな。
俺は。
右腕を軽く動かした。
「…………」
……お。
昨日より。
楽になってる。
まだ。
少し違和感はあるけど。
痛みは。
かなり引いていた。
……よかった。
『……無理はするなよ』
……分かってる。
あんな攻撃。
すぐにまたやるつもりはないよ。
『……その言葉を信じたいものだ』
……信用ないな。
◇
俺は。
身支度を整え。
宿を出た。
目指すのは。
もちろん。
冒険者ギルド。
……ヴァルドさん。
来てるかな。
昨日。
受付の人に。
伝言は頼んである。
でも。
会えるとは限らない。
「…………」
……少し緊張してきた。
『……今さらか』
……今さらだよ。
もし。
俺のこと。
忘れてたら。
どうしよう。
『……そう簡単に忘れるとは思えぬがな』
……どうして?
『……杖で殴る魔法使いなど、そう何人もおるまい』
「…………」
……それ。
褒めてないよな。
『……事実だ』
……そうだけど。
俺は。
大きく息を吐いた。
……よし。
行こう。
◇
ギルドに入ると。
昨日と同じように。
大勢の冒険者がいた。
受付には。
依頼を受ける人たち。
奥の食堂には。
朝食を取っている人もいる。
……さて。
まずは受付かな。
そう思って。
歩き始めた。
そのとき。
「……ノアか?」
「…………」
……え?
聞き覚えのある声。
俺は。
振り返った。
そこには。
大きな剣を背負った。
一人の男が立っていた。
「…………」
……あ。
「……ヴァルドさん!」
思わず。
声が大きくなった。
ヴァルドさんが。
少し笑った。
「久しぶりだな」
「……はい!」
……いた。
本当に。
いたんだ。
「……よくここまで来たな」
「……ありがとうございます!」
ヴァルドさんは。
俺を。
頭から足元まで。
軽く見た。
「……随分と旅をしてきたようだな」
「……はい」
「一人で来たのか?」
「……途中までは、一人です」
「そうか」
ヴァルドさんは。
小さく頷いた。
「……正直、来ないと思っていた」
「……え?」
「だが、来てくれたら面白いとも思っていた」
「…………」
……面白い?
『……また変わり者扱いされておるぞ』
……うるさい。
「……あの」
「ん?」
「……俺のこと、覚えていてくれたんですね」
「当たり前だろう」
ヴァルドさんは。
少し笑った。
「杖で殴る魔法使いなんて、そう忘れられるものじゃない」
「…………」
……やっぱり。
そこなんですね。
◇
「……それで」
ヴァルドさんが。
俺を見た。
「ここまで来る間に、何か学んだか?」
「……はい」
「何を?」
「……一人で戦うのは、大変だってことです」
「…………」
ヴァルドさんが。
少しだけ。
目を細めた。
「……そうか」
「……あと」
「ん?」
「……大きな魔物は、殴っても再生することがあります」
「…………」
「……火魔法が効く場合もあります」
「…………」
……あれ?
ヴァルドさんが。
黙ってしまった。
「……お前、何と戦ってきたんだ?」
「……いろいろです」
「……そうか」
……あ。
絶対。
納得してない。
『……説明が雑なのだ』
……分かってるよ。
ヴァルドさんは。
少し考えてから。
口を開いた。
「……まあ、詳しい話は後で聞こう」
「……はい」
「それより、紹介したい連中がいる」
「……え?」
……紹介?
◇
ヴァルドさんが。
食堂の奥へ。
歩き始めた。
俺も。
その後を追う。
「……実はな」
「……はい?」
「別の依頼に出ていた仲間が、ここで合流したんだ」
「……仲間?」
「ああ」
……そういえば。
前に。
他の人にも会ってもらうって。
言ってたな。
「……今日は、その連中もいる」
「……なるほど」
……いよいよか。
俺は。
少し。
緊張してきた。
食堂の奥。
大きなテーブルに。
三人が座っていた。
「……おう、ヴァルド」
最初に声をかけてきたのは。
がっしりした体格の男だった。
優しそうな顔をしている。
近くには。
大きな盾と。
片手剣が置かれていた。
「……この人が?」
「ああ」
ヴァルドさんが。
頷いた。
「紹介しよう。ノアだ」
「……は、初めまして」
俺は。
慌てて頭を下げた。
男は。
にこりと笑った。
「初めまして。僕はダリオ。よろしくね」
「……よろしくお願いします!」
……おお。
優しい人だ。
何だか。
安心する。
『……よかったではないか』
……本当にな。
◇
「……それで?」
次に。
声がした。
見ると。
茶色の髪をした。
若い女性が座っていた。
整った顔立ち。
涼しげな目。
すらりとした身体。
腰には。
二本の剣。
「……あんたが、ノア?」
「……は、はい!」
女性は。
俺を。
じっと見た。
「……ふーん」
「…………」
……何だろう。
すごく。
見られてる。
「……思ってたより、普通ね」
「……え?」
「ヴァルドが面白い奴だって言うから、もっと変なのが来ると思ってた」
「…………」
……それ。
どういう意味?
『……十分変だがな』
……黙ってろ。
女性は。
椅子から立ち上がった。
「リゼ。双剣使いよ」
「……ノアです」
「知ってる」
「…………」
……あ。
そうですよね。
リゼさんは。
少し笑った。
「ま、よろしく」
「……はい!」
……よかった。
思ったより。
話しやすい。
◇
そして。
最後の一人。
俺は。
思わず。
目を止めた。
「…………」
……綺麗な人だ。
長い銀髪。
整った顔立ち。
落ち着いた雰囲気。
身につけているローブも。
上品なものだった。
……何だろう。
すごく。
近寄りがたい。
その女性が。
ゆっくりと。
こちらを向いた。
「……あなたがノアね」
「……は、はい!」
「ヴァルドから聞いているわ」
……おお。
声まで。
綺麗だ。
「私はセレナ。魔法使いよ」
「……よろしくお願いします!」
セレナさんは。
俺を見た。
「……あなたも魔法使いなんでしょう?」
「……はい」
「得意な属性は?」
「……火、水、風、土です」
「…………」
セレナさんが。
少し目を見開いた。
「……四属性?」
「……はい」
「……珍しいわね」
「……ありがとうございます」
……おお。
褒められた。
「それで、どの属性を主に使うの?」
「……えっと」
……どれだろう。
全部。
使えるんだよな。
「……全部です」
「…………」
セレナさんが。
少し考えた。
「……なるほど。魔力量にも自信があるのかしら」
「……まあ、それなりに」
『……それなり、だと?』
……うるさい。
セレナさんは。
小さく頷いた。
「……それなら、遠距離からの援護も期待できそうね」
「…………」
……あ。
それは。
無理なんだよな。
「……あの」
「何?」
「……俺、魔法を飛ばせません」
「…………」
セレナさんが。
止まった。
「……何て?」
「……魔法が飛ばないんです」
「…………」
「…………」
……あれ?
「……私をからかっているの?」
「……いえ、本当です」
「四属性使えて、魔法が飛ばない?」
「……はい」
「……器用なのか不器用なのか、どっちなのかしら」
「…………」
……俺が。
聞きたいです。
◇
「……ちょっと待って」
リゼさんが。
横から口を挟んだ。
「魔法が飛ばないって、どういうこと?」
「……えっと」
俺は。
アストラを持ち上げた。
「……杖の先でしか魔法が使えないんです」
「……は?」
「……なので、敵に近づいて」
「……うん」
「……杖で殴ります」
「…………」
「…………」
……あれ?
リゼさんが。
すごく。
微妙な顔をしている。
「……ヴァルド」
「何だ?」
「……これ、本当に魔法使い?」
「本人はそう言っている」
「…………」
……そこは。
否定しないでくださいよ。
セレナさんも。
ゆっくりと。
アストラを見た。
「……近接戦しかできない魔法使い」
「……はい」
「しかも、杖で殴る」
「……はい」
「…………」
少し。
間があった。
「……それ、魔法使いである必要はあるの?」
「…………」
……あります。
多分。
『……自信を持たぬか!』
……仕方ないだろ!
セレナさんは。
ため息をついた。
「……ヴァルド」
「何だ?」
「あなた、高火力の魔法使いと回復役が欲しいって言っていたわよね?」
「ああ」
「……この子で、本当に大丈夫なの?」
「…………」
……あ。
期待外れ。
って顔だ。
◇
ヴァルドさんは。
椅子に腰を下ろした。
そして。
少し笑った。
「……まあ、そう思うだろうな」
「……え?」
「俺も最初は驚いた」
……そうだったんですか。
「だが、こいつは面白い」
「……面白い?」
リゼさんが。
首を傾げた。
「あんた、さっきからそればっかりね」
「……そうか?」
「そうよ。ちゃんと説明してよ」
「……まあ、焦るな」
ヴァルドさんは。
俺を見た。
「……ノア」
「……はい?」
「前に会ったとき、俺がお前に何と言ったか覚えているか?」
「……はい」
……近づくまでの動きと。
殴った後の隙。
そこが。
足りないって。
「……まだ、足りないところはありますけど」
「……ああ」
「……少しは、練習しました」
「そうか」
ヴァルドさんが。
小さく頷いた。
「……なら、それも見せてもらいたいな」
「……はい!」
「それと、一つ頼みがある」
「……何ですか?」
「俺はお前の実力を知っている。だが、こいつらはまだ知らない」
ヴァルドさんが。
三人を見た。
「すまないが、仲間として迎える前に、一度こいつらにも実力を見せてやってくれないか?」
「…………」
……あ。
そういうことか。
「……分かりました!」
「助かる」
ヴァルドさんが。
少し笑った。
「俺がいくら説明するより、実際に見てもらう方が早いからな」
……なるほど。
確かに。
俺の魔法は。
説明しても。
なかなか信じてもらえない。
『……お主の説明にも問題があるがな』
……うるさい。
◇
「……それなら」
セレナさんが。
静かに口を開いた。
「まず、魔法を見せてもらいたいわね」
「……魔法ですか?」
「ええ」
「……分かりました」
……何を。
見せようかな。
火魔法?
水魔法?
それとも。
土魔法?
「……できれば、遠距離魔法を」
「……飛びません」
「…………」
……あ。
また。
あの顔だ。
「……そうだったわね」
セレナさんが。
額に手を当てた。
リゼさんは。
呆れたように。
笑っている。
「……大丈夫なの? 本当に」
「…………」
……大丈夫。
だと思いたい。
そのとき。
ダリオさんが。
口を開いた。
「……まあまあ」
優しい声だった。
「実際に見てみないと、分からないこともあるよ」
「……ダリオ」
セレナさんが。
少しだけ眉を上げる。
「あなたは随分と楽観的ね」
「そうかな?」
ダリオさんは。
にこりと笑った。
「ヴァルドが気に入った人なんだ。何かあるんだと思うよ」
「…………」
……いい人だ。
本当に。
『……救われたな』
……うん。
かなり。
◇
「……まあ」
リゼさんが。
椅子にもたれた。
「どんな奴かは、戦ってみれば分かるか」
「……そうね」
セレナさんも。
頷いた。
「私も、魔力の扱いを見れば判断できるわ」
「…………」
……あ。
これ。
試されるやつだ。
ヴァルドさんが。
立ち上がった。
「……では、明日にでも確かめよう」
「……はい!」
「……ノア」
「……はい?」
「今日は休んでおけ。旅の疲れもあるだろう」
「……分かりました」
……確かに。
腕も。
まだ完全には。
治ってないし。
今日は。
大人しくしておこう。
『……珍しく賢明だな』
……うるさい。
◇
俺は。
三人を。
もう一度見た。
優しそうな。
ダリオさん。
見た目はクールなのに。
何だか。
遠慮のないリゼさん。
そして。
上品で。
綺麗なのに。
言葉が結構厳しい。
セレナさん。
「…………」
……大丈夫かな。
このパーティ。
『……お主には、ちょうどよさそうだがな』
……どういう意味だよ。
ヴァルドさんが。
俺に向き直った。
「……ノア」
「……はい?」
「……来てくれて、嬉しいぞ」
「…………」
……え?
その言葉は。
予想していなかった。
「……ありがとうございます」
俺は。
少しだけ。
頭を下げた。
……よかった。
追いかけてきて。
本当に。
よかった。
「明日は頼むぞ」
「……はい!」
……よし。
ちゃんと。
実力を見せよう。
魔法が。
飛ばせなくても。
俺に。
できることはある。
……それを。
知ってもらおう。




