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『魔法が飛ばせないので、杖でぶん殴ることにした ~落ちこぼれ魔法使い、なぜか最強の槌使いと呼ばれる~』  作者: 蝶野摩矢


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第60話 護衛なのに護衛されてます

……まあ。


でも。


悪くないか。


少しだけ。


そう思った。


俺は。


ディランさんたちの後を追って。


街道を歩いていた。


「…………」


……痛い。


右腕が。


まだ。


じんじんする。


さっき。


回復魔法を使ったから。


少しは楽になった。


でも。


完全には戻っていない。


……やっぱり。


あの一撃は。


無茶だったな。


『……今さら気づいたか』


……分かってるよ。


『……次は加減を覚えることだな』


……そうだな。


……でも。


加減したら。


あの魔物。


倒せなかったんじゃないか?


『……それもそうだな』


……どっちだよ。


◇


「……ノア」


前を歩いていた。


ディランさんが。


振り返った。


「……はい?」


「腕は大丈夫か?」


「……はい。少し痛いくらいです」


「……そうか」


ディランさんは。


俺の右腕を見た。


「……無理はするなよ」


「……分かりました」


……何だろう。


さっきから。


ずっと。


心配されている。


ボルグさんも。


何度か。


俺の方を見ているし。


エリスさんまで。


歩く速度を。


合わせてくれている。


「…………」


……ありがたい。


ありがたいんだけど。


……俺。


護衛だよな?


『……そのはずだな』


……護衛されてない?


『……されておるな』


「…………」


……何か。


おかしくないか?


◇


しばらく歩くと。


街道の先に。


馬車が見えてきた。


……あ。


いた。


マルクさんの商隊だ。


馬車の周囲には。


荷物が積まれている。


馬も。


無事らしい。


……よかった。


本当に。


よかった。


俺たちが近づくと。


馬車のそばにいたマルクさんが。


こちらを向いた。


そして。


目を見開いた。


「……ノアさん!」


「……あ、マルクさん」


マルクさんが。


急いで歩いてきた。


「ご無事だったんですか!」


「……はい」


「……よかった……!」


……あれ?


マルクさんまで。


すごく心配してる。


「ディランさんから事情は聞いていましたが……」


マルクさんは。


大きく息を吐いた。


「まさか、あの魔物を相手に一人で残られるとは……」


「……すみません」


「いえ! 謝るのはこちらです!」


「……え?」


「ノアさんのおかげで、馬車も荷物も無事でした。本当にありがとうございます」


マルクさんが。


深く頭を下げた。


「…………」


……え。


ちょっと。


待って。


雇い主に。


頭を下げられてる。


「……あの、頭を上げてください」


「ですが……」


「……俺も、ちゃんと戻ってこられましたし」


「…………」


マルクさんが。


顔を上げた。


そして。


少し笑った。


「……そうですね」


……よかった。


俺も。


つられて笑った。


「……それで」


マルクさんが。


ディランさんを見た。


「魔物の方は……?」


「……倒したそうです」


「…………」


マルクさんの笑顔が。


止まった。


「……倒した?」


「……はい」


俺は。


頷いた。


「……杖で殴って、最後に燃やしました」


「…………」


「…………」


……あ。


まただ。


『……もう少し説明の仕方を考えたらどうだ』


……考えてるよ。


これでも。


◇


「……とにかく」


ディランさんが。


話を切り替えた。


「ノアは怪我をしている。しばらく休ませたい」


「もちろんです!」


マルクさんが。


すぐに頷いた。


「馬車に空いている場所があります。そこで休んでください」


「……え?」


……馬車?


「……でも、俺は護衛なので」


「護衛だからこそ、怪我をしたら休んでいただかないと」


「…………」


……正論だ。


「それに、ノアさんは十分すぎるほど働いてくださいました」


「……いや、でも」


「……ノア」


ディランさんが。


俺の肩に手を置いた。


「これは護衛隊長としての指示だ」


「…………」


……指示。


「……分かりました」


……逆らえないな。


『……大人しく従っておけ』


……そうするよ。


俺は。


馬車の荷台へ向かった。


◇


「……よいしょ」


荷台に。


足をかける。


その瞬間。


「……いっ!」


右腕に。


痛みが走った。


……痛っ!


反射的に。


手を離した。


「……ノアさん!」


後ろから。


エリスさんの声がした。


「……大丈夫ですか?」


「……はい。ちょっと腕が」


「無理しないでください」


エリスさんが。


近づいてきた。


そして。


俺の方へ。


手を差し出した。


「……どうぞ」


「…………」


……え?


「……あの」


「はい?」


「……大丈夫です」


「……でも、腕が痛いんですよね?」


「……はい」


「だったら、手伝います」


「…………」


……あ。


これは。


断れないやつだ。


俺は。


左手を差し出した。


エリスさんが。


その手を握った。


「…………」


……柔らかい。


……いや。


何を考えてるんだ。


「……せーの」


「……はい」


俺は。


荷台へ上がった。


「……ありがとうございます」


「いえ」


エリスさんは。


にこりと笑った。


「……ゆっくり休んでくださいね」


「……はい」


「…………」


……近かった。


『……何を緊張しておる』


……してないよ。


『……声が裏返っておったぞ』


……気のせいだ。


『……そうか』


……絶対。


分かって言ってるだろ。


◇


馬車が。


ゆっくりと動き出した。


がたん。


ごとん。


「…………」


……ああ。


座れるって。


素晴らしい。


荷物の間に。


空いた場所がある。


俺は。


そこへ腰を下ろしていた。


アストラは。


膝の上。


右腕は。


なるべく動かさないようにしている。


……楽だ。


さっきまで。


あんなに走って。


根をかわして。


殴って。


燃やして。


……よく生きてたな。


『……我のおかげだな』


……そうだな。


『……珍しく素直ではないか』


……実際。


お前がいなかったら。


勝てなかったと思う。


『…………』


……アストラ?


『……ふん。当然のことだ』


……何だよ。


照れてる?


『……照れてなどおらぬ!』


……そうか。


俺は。


少し笑った。


◇


「……ノアさん」


馬車の横から。


声がした。


「……はい?」


見ると。


エリスさんが。


こちらを覗いていた。


「……腕、どうですか?」


「……まだ少し痛いです」


「……そうですか」


エリスさんは。


少し考えてから。


口を開いた。


「……さっきの火魔法のことなんですけど」


「……はい」


「……炎を集中させたって、言っていましたよね?」


「……はい」


……あ。


そうだった。


エリスさんに。


まだ。


詳しく説明してなかった。


「……どうやったんですか?」


「……えっと」


俺は。


アストラを見た。


「……俺、魔法を飛ばせないじゃないですか」


「……はい」


「……だから、魔力を杖先に集めるのは、慣れてるんです」


「…………」


「……それで、火魔法も同じようにできないかなって」


「……なるほど」


エリスさんが。


頷いた。


「……でも、それだけでできたんですか?」


「……いや」


俺は。


首を横に振った。


「……数秒だけです」


「……数秒?」


「……はい。すぐに炎が広がっちゃって」


「…………」


エリスさんは。


少し黙った。


……あれ?


「……ノアさん」


「……はい?」


「……それ、かなりすごいことですよ」


「……そうなんですか?」


「……そうです!」


……また。


驚かれた。


「普通は、魔力を集めるために何度も練習するんです」


「……へえ」


「しかも、戦闘中に初めて試して成功させるなんて……」


「…………」


……いや。


成功というか。


成功しないと。


死ぬところだったというか。


「……でも」


エリスさんが。


少し笑った。


「……まだ安定していないんですよね?」


「……はい」


「……だったら、練習すればもっと上手くなると思います」


「…………」


……練習。


「……本当ですか?」


「はい」


エリスさんは。


頷いた。


「……よかったら、私も手伝いますよ」


「…………」


……え?


「……いいんですか?」


「もちろんです」


「…………」


……おお。


魔法を。


教えてもらえる。


しかも。


エリスさんに。


「……ありがとうございます!」


「……ふふっ。どういたしまして」


……よし。


東の街に着いたら。


練習しよう。


『……随分とやる気ではないか』


……当たり前だろ。


魔法が。


上手くなるかもしれないんだから。


『……それだけか?』


……それだけだよ。


『……ふむ』


……何だ。


その含みのある返事は。


◇


「……おーい! ノア!」


今度は。


ボルグさんの声がした。


「……はい?」


馬車の横を。


大きな盾を背負って。


歩いている。


「……どうだ! 乗り心地は!」


「……いいです!」


「がっはっは!」


ボルグさんが。


笑った。


「……そりゃよかった!」


……元気だな。


本当に。


「……お前、次は無茶すんなよ!」


「……はい」


「一人で残るなんて言われたら、こっちの心臓がもたねえ!」


「…………」


……あ。


そうだった。


この人たち。


戻ってきてくれたんだよな。


「……すみません」


「……だから、謝るなって!」


ボルグさんは。


笑いながら。


手を振った。


「次は俺の盾の後ろにいろ!」


「……はい」


「根だろうが何だろうが、防いでやるからよ!」


「…………」


……頼もしいな。


「……ありがとうございます」


「おう!」


ボルグさんは。


嬉しそうに笑った。


……いい人だな。


本当に。


『……お主は仲間に恵まれるな』


……そうだな。


俺は。


馬車の外を見た。


ディランさんが。


前方を警戒している。


ボルグさんは。


馬車の横。


エリスさんも。


周囲を確認しながら。


歩いている。


「…………」


……あれ?


俺だけ。


座ってる。


「…………」


……本当に。


これでいいのかな。


『……休めと言われたのであろう』


……そうだけど。


俺は。


護衛なんだよな。


『……うむ』


……なのに。


今。


みんなに。


護衛されてるよな。


『……そうだな』


「…………」


……何か。


申し訳ない。


『……ならば、早く治すことだ』


……それしかないか。


◇


しばらくして。


馬車が。


緩やかな坂を上り始めた。


俺は。


荷台の端から。


外を見た。


森が。


少しずつ。


後ろへ流れていく。


……あの魔物。


何だったんだろう。


ただの。


木の魔物にしては。


大きすぎた気がする。


再生も。


すごかった。


「…………」


……まあ。


もう倒したんだけど。


『……妙な魔物だったな』


……お前もそう思う?


『……うむ。あれほど再生するとはな』


……そうだな。


俺は。


遠ざかっていく森を見た。


……また。


あんなのが出てきたら。


嫌だな。


本当に。


「……ノア」


前の方から。


ディランさんの声がした。


「……はい?」


「……起きてるか?」


「……起きてます!」


「……そうか。なら、少し聞いてくれ」


……何だろう。


「……あの魔物についてだ」


「…………」


……あ。


やっぱり。


ディランさんは。


周囲を警戒しながら。


続けた。


「……あれほど巨大で、再生力の高い魔物が、この街道に出るのは珍しい」


「……そうなんですか?」


「……ああ」


「…………」


……そうか。


珍しいのか。


「……最近、東へ向かう街道では、魔物の動きがおかしいという話もある」


「……魔物の動き?」


「……普段は森の奥にいる魔物が、街道近くまで出てきているらしい」


「…………」


……それ。


困るな。


俺は。


これからも。


東へ向かうんだけど。


「……今回の魔物も、それと関係があるかもしれない」


「……なるほど」


……なるほど。


とは言ったけど。


よく分からない。


『……分からぬなら、そう言えばよかろう』


……いや。


何となく。


分かったような気はするんだよ。


『……気だけか』


……うるさいな。


ディランさんは。


少し考えてから。


続けた。


「……東の街に着いたら、ギルドにも報告しておこう」


「……はい」


……そうだな。


あんな魔物が。


ほかにもいたら。


大変だ。


俺は。


もう一度。


森を見た。


「…………」


……東か。


ヴァルドさんも。


この先に。


向かったんだよな。


まだ。


追いつけるかは。


分からない。


でも。


少なくとも。


俺は。


少しずつ。


東へ進んでいる。


「…………」


……よし。


もう少しだ。


俺は。


アストラを握り直した。


「……いっ!」


……痛っ!


……あ。


そうだった。


腕。


まだ痛いんだった。


『……まったく、学習せぬ男だな』


……分かってるよ。


俺は。


大人しく。


アストラを膝に戻した。


……今は。


休もう。


護衛なのに。


護衛されてるけど。


……まあ。


たまには。


いいか。


『……たまにで済めばよいがな』


……不吉なこと言うなよ!



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