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『魔法が飛ばせないので、杖でぶん殴ることにした ~落ちこぼれ魔法使い、なぜか最強の槌使いと呼ばれる~』  作者: 蝶野摩矢


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第58話 魔物は倒しましたが、何か?

……うるさい杖だな。


でも。


まあ。


……悪くない。


俺は。


アストラを抱えたまま。


空を見上げていた。


「…………」


……静かだ。


さっきまで。


あれだけ暴れていた魔物も。


もう動かない。


周囲には。


倒れた木々。


焼け焦げた地面。


粉々になった枝。


「…………」


……ひどいな。


改めて見ると。


とんでもないことになっている。


……これ。


俺がやったんだよな。


『……他に誰がおる』


……そうだけど。


俺は。


右腕を少し動かした。


「……いっ!」


……まだ痛い。


あの一撃。


もう二度と。


無茶な魔力の込め方は。


しない方がいいな。


『……ようやく理解したか』


……うん。


多分。


『……その多分をやめぬか』


……努力するよ。


俺は。


ゆっくりと目を閉じた。


……少しだけ。


休もう。


『……ノア』


……何?


『……寝るなと言っただろう』


……寝てないよ。


目を閉じただけ。


『……同じことだ!』


……本当に。


うるさいな。


そのとき。


遠くから。


声が聞こえた。


「……おい!」


「…………」


……ん?


「……誰かいるぞ!」


俺は。


目を開けた。


……人?


◇


「おい! 大丈夫か!」


声のする方を見る。


倒れた木の向こうから。


二人の男が。


こちらへ歩いてきた。


一人は。


剣を腰に下げている。


もう一人は。


弓を背負っていた。


「…………」


……あれ?


何か。


見覚えがある。


二人も。


俺の顔を見るなり。


足を止めた。


「……お前」


「……あれ?」


「確か、ギルドで……」


「…………」


……あ。


思い出した。


東へ向かう護衛依頼で。


俺を断った人たちだ。


……なんでここに?


剣士が。


辺りを見回した。


「……おい。何だ、これは」


弓使いも。


倒れた木々を見ている。


「……魔物に襲われたのか?」


「あ、はい」


俺は。


身体を起こした。


「……ちょっと」


「ちょっと!?」


……そんなに驚かなくても。


剣士は。


焼け焦げた巨大な幹の残骸へ。


視線を向けた。


「……何と戦った?」


「……木です」


「…………」


「…………」


……あれ?


何か。


変なこと言ったかな。


『……説明が雑すぎる』


……だって。


木だったし。


「……木?」


「……はい」


「木の魔物か?」


「……そうです」


剣士は。


もう一度。


周囲を見た。


「……それが、ここで暴れたのか」


「……はい」


「……で、その魔物は?」


俺は。


近くの黒い残骸を指さした。


「……あれです」


「…………」


剣士が。


ゆっくりと。


指さした先を見る。


弓使いも。


同じ場所を見た。


「…………」


「…………」


……何だろう。


すごく。


静かになった。


◇


「……お前、一人か?」


剣士が聞いてきた。


「……今は、はい」


「仲間は?」


「……先に逃げてもらいました」


「逃げた?」


「……馬車を守らないといけなかったので」


「…………」


二人は。


顔を見合わせた。


「……つまり、お前はここに残ったのか?」


「……はい」


「この魔物を相手に?」


「……そうです」


「…………」


「…………」


……また黙った。


弓使いが。


黒く焦げた根に近づいた。


足元に転がっていた。


太い木片を拾う。


「……これ、根か?」


「……はい」


「ずいぶん太いな……」


……そうなんだよ。


しかも。


地面から。


何本も出てきた。


「……よく生きてたな」


「……俺もそう思います」


「…………」


剣士が。


俺を見る。


「……それで、どうやって助かった?」


「……倒しました」


「…………」


「…………」


……あれ?


まただ。


「……倒した?」


「……はい」


「お前が?」


「……はい」


「一人で?」


「……はい」


「…………」


……何回聞くんだろう。


『……信じられぬのだろう』


……だよな。


俺でも。


逆の立場だったら。


信じないと思う。


◇


「……ちょっと待て」


剣士が。


額に手を当てた。


「お前、魔法使いだったよな?」


「……はい」


「確か……」


「……魔法は飛ばせません」


「……そうだったな」


……覚えてた。


何だか。


ちょっと複雑だ。


剣士は。


周囲を見渡した。


「……で、どうやってこんなことになった?」


「……杖で殴りました」


「…………」


「…………」


……また黙った。


「……杖で?」


「……はい」


「……これを?」


剣士が。


倒れた木を指さした。


「……それもです」


「…………」


「…………」


……まずい。


全然。


伝わってない気がする。


弓使いが。


少し考えてから。


口を開いた。


「……火魔法も使えるのか?」


「……はい」


「じゃあ、炎で焼いたのか?」


「……最後はそうです」


「……最後?」


「……その前に、殴って粉々にしました」


「…………」


「…………」


……あれ?


何か。


余計に。


分からなくなったような。


『……お主の説明では無理もない』


……じゃあ。


お前が説明してくれよ。


『……我の声が聞こえぬ者には無理だ』


……そうだった。


「……とにかく」


俺は。


アストラを持ち上げた。


「……これで倒しました」


二人は。


俺の杖を見た。


そして。


周囲の惨状を見る。


また。


俺の杖を見る。


「…………」


「…………」


……何だろう。


杖と俺を。


交互に見てる。


そんなに。


変かな。


◇


「……ところで」


弓使いが。


ようやく口を開いた。


「お前、怪我は?」


「あ、少し」


俺は。


右腕を動かした。


「……いっ!」


……痛い。


「……腕か?」


「……はい」


「見せてみろ」


弓使いが。


近づいてきた。


俺の手を見て。


少し眉をひそめた。


「……ずいぶん無茶をしたみたいだな」


「……まあ」


……無茶。


確かに。


したな。


「……治療はできるのか?」


「……回復魔法なら使えます」


「……回復魔法も?」


「……はい」


「…………」


……また驚いてる。


俺は。


アストラの先端を。


痛む腕に触れさせた。


……回復魔法。


淡い光が。


手の周りに広がる。


じんじんしていた痛みが。


少し和らいだ。


「……ふう」


……楽になった。


でも。


まだ。


完全には戻らない。


「……どうだ?」


「……少し楽になりました」


「……そうか」


弓使いは。


俺の腕を見ていた。


「……なあ」


「……はい?」


「お前、本当に魔法使いなんだな」


「…………」


……何だと思ってたんだろう。


『……杖を持った変人ではないか』


……ひどくない?


◇


「……そういえば」


俺は。


二人を見た。


「……どうして、ここに?」


剣士が。


街道の方を指さした。


「俺たちも東へ向かう護衛の途中だ」


……あ。


そうだった。


この人たちも。


護衛依頼を受けてたんだ。


「……少し先で、木が倒れるような音がしてな」


「地面まで揺れたんだ」


弓使いが続けた。


「街道に何かあったら危険だから、商隊を止めて様子を見に来た」


「……なるほど」


……木が倒れる音。


地面が揺れた。


「…………」


……あ。


それ。


俺のせいだ。


『……ようやく気づいたか』


……言わなくていいよ。


剣士が。


倒れた木々を見た。


「……しかし、ここまでひどいとはな」


「……そうですね」


「…………」


……何で。


俺まで。


他人事みたいに。


言ってるんだろう。


「……それで」


剣士が。


もう一度。


俺を見た。


「本当に、お前がやったのか?」


「……はい」


「…………」


「…………」


……やっぱり。


信じてもらえない。


まあ。


そうだよな。


俺は。


魔法を飛ばせない。


普通の魔法使いみたいに。


遠くから攻撃できない。


だから。


この人たちには。


護衛に向いていないと。


判断された。


……でも。


別に。


それが間違いだったとは思わない。


実際。


今回だって。


仲間がいなくなった途端。


こんなに苦労したんだ。


「…………」


……それでも。


少しだけ。


見返せたかな。


そんなことを。


考えていた。


そのとき。


遠くから。


別の声が聞こえた。


「……ノアーッ!!」


「…………」


……ん?


◇


「ノアーッ!! どこだーっ!!」


……あ。


この声。


「……ボルグさん?」


俺が立ち上がると。


倒れた木の向こうから。


大きな盾を持った男が。


姿を現した。


その後ろには。


ディランさん。


そして。


エリスさんもいる。


「……いたぞ!!」


ボルグさんが。


俺を見るなり。


大声を上げた。


「ノア!!」


「……あ、ボルグさん」


「生きてたか!!」


「……はい」


……すごい勢いで来るな。


ボルグさんが。


駆け寄ってきた。


「無事か!? 怪我は!?」


「……腕を少し」


「少し!?」


……少しなんだけど。


本当に。


「ノア!」


今度は。


ディランさんが。


駆け寄ってきた。


「……ディランさん」


「無事だったのか……!」


「……はい」


ディランさんは。


大きく息を吐いた。


「……よかった」


「…………」


……あ。


本当に。


心配してくれてたんだ。


「……すみません」


「……謝るな」


ディランさんが。


俺の肩に手を置いた。


「俺たちを逃がすために残ったんだ。謝る必要はない」


「…………」


……そっか。


「……ありがとうございます」


その後ろから。


エリスさんが。


近づいてきた。


「……ノアさん」


「……エリスさん」


「……本当に、無事でよかったです」


「……はい」


……近い。


いや。


今は。


そういうことを考えてる場合じゃない。


「……あの」


「はい?」


「……エリスさんのおかげで、助かりました」


「……え?」


……あ。


説明。


しないと。


でも。


その前に。


ディランさんが。


周囲を見渡した。


倒れた木々。


焦げた地面。


焼け落ちた。


巨大な幹の残骸。


「…………」


その表情が。


少しずつ。


変わっていく。


「……ノア」


「……はい?」


「……魔物は、どうした?」


「……倒しました」


「…………」


「…………」


……あれ?


また。


この反応だ。


ディランさんは。


ゆっくりと。


残骸へ目を向けた。


「……倒した?」


「……はい」


「……あの魔物を?」


「……はい」


「…………」


横では。


剣士と弓使いが。


黙っている。


ボルグさんも。


エリスさんも。


俺を見たまま。


動かない。


「…………」


……何だろう。


さっきから。


同じ説明ばかり。


してる気がする。


『……ならば、もう少しまともに説明せぬか』


……それができたら。


苦労しないよ。


俺は。


アストラを見た。


そして。


小さく。


ため息をついた。


……ああ。


これ。


やっぱり。


説明するのが。


大変なやつだ。



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