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『魔法が飛ばせないので、杖でぶん殴ることにした ~落ちこぼれ魔法使い、なぜか最強の槌使いと呼ばれる~』  作者: 蝶野摩矢


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第57話 火魔法は飛ばすだけではありません

ぼうっ。


アストラの先端に。


炎が灯った。


「…………」


目の前では。


根が。


少しずつ。


絡まり合っている。


さっきまで。


巨大な幹だったもの。


それが。


今は。


俺の背丈ほどの。


細い木になっていた。


……再生してる。


でも。


遅い。


あれだけ。


粉々にしたんだ。


さすがに。


すぐには戻れないらしい。


『……ノア』


……何?


『……何をするつもりだ』


「……燃やす」


『……見れば分かる』


……じゃあ。


聞くなよ。


『……どう燃やすつもりかと聞いておる』


「…………」


……それは。


これから考える。


『……やはりか』


……うるさいな。


◇


俺は。


地面から伸びる。


一本の根へ近づいた。


さっきまで。


あれだけ暴れていた根も。


今は。


動きが鈍い。


……よし。


俺は。


炎をまとわせたアストラを。


振り下ろした。


ぼきっ!


根が。


折れた。


切り口から。


炎が上がる。


じゅうっ。


焦げた匂いがした。


「…………」


……おお。


燃えた。


『……火をつけたのだから当然だ』


……そうだけど。


俺は。


折れた根を見た。


さっきまで。


普通に折った根は。


すぐに。


新しく伸びてきた。


でも。


今は。


「…………」


……伸びない。


焦げた部分が。


黒くなったまま。


動かない。


しばらくすると。


その少し奥から。


細い根が。


ゆっくり伸び始めた。


……なるほど。


完全に止まったわけじゃない。


でも。


明らかに遅い。


「……効いてる」


『……そのようだな』


……やっぱり。


エリスさんの。


火魔法が当たった場所も。


再生が遅かった。


……火が弱点なのか。


俺は。


もう一本の根を。


炎で殴った。


ぼきっ!


じゅうっ!


黒く焦げた根が。


地面へ落ちる。


……よし。


これなら。


全部燃やせば。


倒せるかもしれない。


◇


俺は。


アストラの先端へ。


さらに魔力を流した。


ぼうっ!


炎が。


大きくなる。


……よし。


もっと。


ぼおおっ!


「……熱っ!」


慌てて。


顔を背けた。


……近い!


近すぎる!


『……自分を燃やす気か』


「……違うよ!」


……危なかった。


俺は。


アストラを。


身体から離した。


炎は。


大きく燃えている。


でも。


これでは。


近づくのが難しい。


……魔法を飛ばせる人なら。


離れたところから。


燃やせるんだろうけど。


俺には。


それができない。


「…………」


俺は。


大きくなった炎を消した。


……どうする。


そのとき。


ふと。


エリスさんの言葉を思い出した。


『炎を広げずに集中させるんです』


……集中。


魔力を増やすだけじゃない。


小さな範囲に。


魔力を集める。


「…………」


……待てよ。


俺は。


アストラを見た。


……俺の魔法は。


飛ばない。


どれだけ魔力を込めても。


杖先から離れない。


だから。


今までずっと。


杖先に魔力を集めて。


殴ってきた。


「…………」


……あれ?


それなら。


俺。


魔力を杖に集めるのは。


得意なはずだよな。


『……どうした』


「……いや」


俺は。


アストラの先端を見た。


……炎も。


同じように。


杖先に集めればいいんじゃないか?


「……やってみる」


『……うむ』


俺は。


アストラの先端に。


小さな炎を灯した。


ぼうっ。


そこへ。


魔力を流す。


ただし。


今度は。


炎を大きくするんじゃない。


杖で殴るときと。


同じように。


先端の一点へ。


魔力を集める。


ぼっ。


「…………」


……あ。


炎が。


細くなった。


その中心が。


眩しく輝いている。


周囲の空気が。


ゆらゆらと歪んだ。


「……できた?」


『……まだ不安定だな』


……確かに。


少しでも気を抜けば。


炎が広がりそうだ。


でも。


さっきとは。


明らかに違う。


……これなら。


いけるかもしれない。


俺は。


さらに魔力を込めようとした。


ぼわっ!


炎が。


少し膨らんだ。


「……熱っ!」


慌てて。


魔力を弱める。


「…………」


……なるほど。


まだ。


長くは保てないのか。


『……練習が必要だな』


「……だな」


……でも。


数秒なら。


使える。


だったら。


幹に近づいてから。


集中させればいい。


俺は。


再生中の魔物を見た。


……今なら。


まだ間に合う。


◇


根が。


伸びてきた。


俺は。


横へ跳んだ。


そのまま。


アストラを振る。


ぼきっ!


根が。


折れた。


……さっきより。


動きが速くなってる。


俺は。


再生中の幹を見た。


まだ。


元の大きさには戻っていない。


……今しかない。


次の根が。


足元を狙ってきた。


俺は。


後ろへ下がった。


さらに。


別の根。


……くそっ!


このままじゃ。


近づけない。


俺は。


アストラを構え直した。


……どうする。


根を全部。


倒してから進む?


……いや。


そんなことしてたら。


魔物が元に戻ってしまう。


「…………」


……だったら。


一本。


一本の根が。


横から伸びてきた。


俺は。


それをかわすと同時に。


アストラを短く振った。


ごきっ!


根が。


折れた。


……よし。


できた隙間へ。


一歩。


踏み込む。


また。


根が伸びる。


今度は。


アストラで受け止めた。


がんっ!


「……くっ!」


腕に。


痛みが走る。


……まだ。


右腕が痛い。


もう。


あんな大きな一撃は。


出せない。


でも。


今度は。


そんな威力。


必要ない。


俺は。


根を押し返し。


さらに。


一歩。


踏み込んだ。


……あと少し。


もう一歩。


……届く!


◇


俺は。


幹の目の前に立った。


「…………」


……今だ。


アストラの先端に。


火を灯す。


ぼうっ。


小さな炎。


そこへ。


魔力を流す。


広げるな。


……集中。


ぼっ。


炎が。


細くなった。


中心が。


眩しく輝く。


……よし。


今なら。


俺は。


アストラを。


両手で握った。


右腕が。


まだ。


少し痺れている。


……大丈夫。


今度は。


力任せに。


殴る必要はない。


必要なのは。


……熱だ。


俺は。


一歩踏み込んだ。


そして。


アストラの先端を。


幹に突き立てた。


どごっ!


「……ぐっ!」


衝撃が。


腕に響く。


だが。


アストラの先端が。


幹にめり込んだ。


……入った!


俺は。


炎を広げないように。


必死に意識を集中した。


……もっと。


奥へ。


じゅうううっ!


幹の内側から。


白い蒸気が噴き出した。


……効いてる!


だが。


先端の炎が。


ぐらりと揺れた。


ぼわっ!


「……っ!」


炎が。


広がりかける。


……駄目だ!


ここで。


広がったら。


また表面を焼くだけになる!


俺は。


アストラを。


さらに押し込んだ。


……集中しろ。


あと。


少し!


『……ノア!』


……何!?


『……炎が!!』


……分かってる!


俺は。


アストラの先端へ。


意識を向けた。


大きくするな。


逃がすな。


……ここだ!


ぼっ――!!


炎が。


一瞬。


小さくなった。


そして。


強く。


輝いた。


「……燃えろ!」


じゅううううっ!!


幹の奥から。


白い蒸気が。


勢いよく噴き出した。


ばきっ!


木の皮が。


内側から裂けた。


「…………!」


……おお!


今度は。


表面だけじゃない。


幹の中が。


燃えている。


裂け目から。


赤い光が漏れた。


ばきばきっ!


幹が。


大きく割れる。


その奥で。


新しい木が。


伸びようとしていた。


だが。


熱に触れた途端。


じゅっ!


黒く縮んだ。


「…………」


……再生できてない。


『……効いておるぞ!』


「……うん!」


その瞬間。


ぼわっ!


集中していた炎が。


一気に広がった。


「……うわっ!」


俺は。


慌てて。


アストラを引き抜いた。


……熱っ!


もう。


維持できない。


俺は。


炎を消して。


後ろへ下がった。


「……はあっ……!」


……駄目だ。


やっぱり。


長くは続かない。


でも。


幹の奥では。


まだ。


火が燃えていた。


◇


ばきっ。


木の皮が。


割れた。


内側から。


赤い光が。


漏れている。


じゅうううっ!


白い蒸気が。


裂け目から噴き出した。


……すごい。


幹の内側が。


どんどん。


崩れていく。


そのとき。


地面から。


何本もの根が伸びた。


「……っ!」


俺は。


アストラを構え直した。


……まだ。


動けるのか!


根が。


こちらへ迫る。


俺は。


横へ跳んだ。


次の根が。


足元を狙ってくる。


……くそっ!


避けきれない!


そのとき。


ばきばきばきっ!!


巨大な音がした。


「……え?」


幹が。


真ん中から。


裂けた。


内側で燃え続けていた部分が。


崩れ落ちる。


それと同時に。


俺へ伸びていた根が。


ぴたりと止まった。


「…………」


……止まった?


地面の根が。


力を失ったように。


倒れていく。


一本。


二本。


三本。


……全部。


動かなくなった。


幹も。


ゆっくりと。


崩れていく。


ばきっ。


最後に残っていた枝が。


折れた。


どさっ。


そして。


静かになった。


「…………」


……終わった?


『……そのようだな』


……本当に?


『……少なくとも、動いてはおらぬ』


「…………」


……いや。


さっきも。


倒したと思ったら。


再生したんだよな。


俺は。


アストラを構えたまま。


しばらく待った。


……動かない。


燃え残った根を。


杖先で。


軽く突く。


ぼろっ。


黒く焦げた根が。


崩れた。


……再生しない。


ほかの根も。


動く気配はない。


「……今度こそ」


『……うむ』


……勝った。


「……はああああ……」


俺は。


その場に。


座り込んだ。


……疲れた。


ものすごく。


疲れた。


魔力は。


まだある。


十分すぎるほど。


でも。


腕が痛い。


脚も痛い。


身体中が。


重い。


……一人で戦うって。


こんなに。


大変なのか。


『……ようやく分かったか』


「……分かったよ」


……もう。


しばらく。


一人で戦いたくない。


『……賢明だな』


俺は。


アストラを見た。


先端の炎は。


もう消してある。


「…………」


……でも。


できたな。


『……何がだ』


「……火魔法」


『……うむ』


「……強くできた」


『……そうだな』


「……しかも」


『……何だ』


「……飛ばさなくても、倒せた」


『…………』


「…………」


……いや。


ちょっと待て。


今の。


結構すごくないか?


俺は。


魔法を飛ばせない。


でも。


火魔法を。


小さくまとめて。


高温にして。


そのまま。


殴った。


「…………」


……つまり。


「……魔法で殴ったんだよ!」


『……最初からそうだろうが!!』


「…………」


……そうだった。


俺は。


しばらく。


黙った。


そして。


ゆっくりと。


空を見上げた。


……ディランさんたち。


無事に。


逃げられたかな。


「…………」


……迎えに戻るって。


言ってたよな。


俺は。


焼け落ちた魔物の残骸を見た。


周囲には。


倒れた木々。


焦げた地面。


砕けた枝。


「…………」


……これ。


俺がやったって。


信じてもらえるかな。


『……信じぬかもしれんな』


「……だよな」


『……むしろ、説明するのが大変だろう』


「…………」


……それ。


今。


考えたくなかった。


俺は。


アストラを抱えたまま。


その場に。


寝転がった。


……とりあえず。


少しだけ。


休もう。


『……ノア』


「……何?」


『……寝るなよ』


「……寝ないよ」


『……本当か?』


「……多分」


『……その多分が信用できぬのだ』


……うるさい杖だな。


でも。


まあ。


……悪くない。



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