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『魔法が飛ばせないので、杖でぶん殴ることにした ~落ちこぼれ魔法使い、なぜか最強の槌使いと呼ばれる~』  作者: 蝶野摩矢


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56/60

第56話 うるさい杖は強力です

「……分かってるよ!」


俺の声が。


森の中に響いた。


「…………」


……静かだ。


さっきまで。


ディランさんたちがいた。


ボルグさんが。


根を防いで。


エリスさんが。


魔法で援護してくれていた。


でも。


今は。


誰もいない。


「…………」


……帰りたい。


『……お主が残ると言ったのだぞ』


「……分かってるって」


『……ならば戦え』


「……戦ってるよ!」


地面が。


盛り上がった。


「……うわっ!」


横へ跳ぶ。


直後。


太い根が。


地面を突き破った。


……危なっ!


俺は。


迫ってきた根を。


アストラで叩き折った。


ごきっ!


……よし。


だが。


折れた根の先から。


新しい根が。


伸び始める。


「…………」


……これ。


どうするんだ?


『……我に聞くな』


「……少しは考えてよ」


『……考えておる』


「……何を?」


『……お主が生き残る方法だ』


「……それ、早く教えて!」


『……まだ思いつかぬ』


「……駄目じゃん!」


◇


俺は。


巨大な幹を見た。


さっき。


一度。


アストラで砕いた。


でも。


もう。


ほとんど元通りだ。


……普通に殴っても。


再生する。


それなら。


もっと強く。


殴ればいい。


「…………」


……いや。


それで済むなら。


苦労しないんだけど。


俺は。


周囲を見た。


……逃げるか?


ディランさんたちは。


もう十分に離れたはずだ。


だったら。


俺も逃げればいい。


そう思って。


街道の方へ下がった。


その瞬間。


ぼこっ!


足元から。


根が飛び出した。


「……うわっ!」


慌てて跳び退く。


だが。


後ろからも。


別の根が伸びてきた。


……通れない!


俺は。


アストラで根を叩き折った。


ごきっ!


しかし。


折れた先から。


また新しい根が伸び始める。


「…………」


……逃がしてくれないのかよ。


『……随分と執念深い魔物だな』


……本当にな。


このまま。


根を折り続けても。


きりがない。


……だったら。


本体を。


何とかするしかないのか。


俺は。


アストラを見た。


……そういえば。


試練のとき。


お前に。


ものすごい量の魔力を流し込んだよな。


『……流し込んだな』


……あのとき。


お前。


すごく光ってた。


『……光っておったな』


……すごく叫んでた。


『……お主のせいだ!』


……でも。


受け止められた。


『……我が耐えたからな』


……じゃあ。


あのときみたいに。


大量の魔力を込めて。


殴ったら。


どうなるんだろう。


『…………』


……アストラ?


『……待て』


「……何?」


『……今、嫌なことを考えただろう』


「……思いきり魔力を込めて殴ろうかなって」


『……やはりか!!』


……何だよ。


『……試練のときを忘れたのか!?』


「……覚えてるよ」


『……我がどれほど苦労したと思っておる!』


「……でも、受け止められただろ?」


『……受け止めたからといって、平気だったわけではない!!』


……そうだったな。


あのとき。


アストラは。


必死に。


耐えていた。


でも。


壊れなかった。


……なら。


試す価値はある。


『……お主、今、何を考えた』


「……いや、別に」


『……嘘をつけ!!』


「……そんなに嫌なの?」


『……当たり前であろう!!』


……懐かしいな。


このやり取り。


◇


俺は。


アストラへ。


魔力を流し始めた。


パァァァァ――。


杖が。


光る。


『……待て』


「……何?」


『……その流し方は覚えがあるぞ』


「……試練のときと同じだからな」


『……やはりか!!』


俺は。


さらに。


魔力を流した。


光が。


強くなる。


『……ノア! 待て!』


「……何!?」


『……それ以上は……!』


俺は。


構わず。


魔力を流し続けた。


……いつもとは違う。


普段は。


殴るために必要な分だけ。


魔力を込めている。


でも。


今は。


そんなことを考えていられない。


……もっと。


もっとだ。


ブォォォォォォン!!


杖が。


激しく震えた。


『……ぐっ!!』


「……アストラ?」


『……お主……本当に……!』


……声が。


苦しそうだ。


「……大丈夫か?」


『……大丈夫なわけが……あるか!!』


……でも。


耐えている。


試練のときと。


同じだ。


『……我は……伝説級魔杖だ……!』


「……うん!」


『……主の魔力を……受け止められずして……何が伝説か!!』


……おお!


「……じゃあ、もう少し!」


『……馬鹿者!!』


◇


そのとき。


地面が。


ぼこっ。


盛り上がった。


「……うわっ!」


俺は。


慌てて横へ跳んだ。


太い根が。


目の前を横切る。


さらに。


別の根が。


伸びてきた。


……くそっ!


かわす。


また。


かわす。


……駄目だ。


アストラには。


十分な魔力を込められた。


でも。


殴れない。


巨大な幹は。


根の向こうにある。


……どうする。


レオたちがいれば。


誰かが。


隙を作ってくれた。


ディランさんたちがいれば。


根を防いでくれた。


でも。


今は。


俺一人。


「…………」


そのとき。


一本の根が。


アストラへ伸びてきた。


俺は。


反射的に杖を引いた。


根が。


空を切る。


「…………」


……待てよ。


こいつ。


俺を捕まえようとしてるよな。


……だったら。


「……なあ、アストラ」


『……何だ……!』


「……ちょっと、引っ張ってもらおうか」


『……何を言っておる!?』


俺は。


アストラを。


根の前へ突き出した。


太い根が。


杖の中央に巻きつく。


……よし!


『……ノア!?』


次の瞬間。


ぐいっ!!


「……うわあああっ!?」


身体が。


宙に浮いた。


……速い!


速すぎる!


『……馬鹿者!!』


「……うわあああ!!」


……ちょっと待て!


これ。


速すぎないか!?


巨大な幹が。


一気に近づいてくる。


……まずい。


このままじゃ。


俺の方が。


木に叩きつけられる!


俺は。


必死に。


アストラを握った。


根が。


杖を引っ張っている。


だったら。


その力に。


逆らわなければいい。


俺は。


身体をひねった。


引っ張られる方向へ。


肩を回す。


……くそっ!


うまくいかない!


身体が。


横へ振られる。


でも。


もう一度。


腰をひねる。


足を引き寄せる。


すると。


少しだけ。


身体の向きが変わった。


「…………」


……いける!


根は。


まだアストラを引っ張っている。


俺は。


その勢いを利用して。


身体を回した。


……今だ!


『……ノア!!』


「……何!?」


『……お主の腕までは……保証せんぞ!!』


「…………」


……え?


もう。


遅かった。


俺は。


両手でアストラを握りしめた。


……行くぞ!


『……うむ!!』


「……おおおおっ!!」


根に引かれる勢い。


身体を回す勢い。


そして。


アストラに込めた。


今までとは比較にならない魔力。


そのすべてを乗せて。


俺は。


巨大な幹へ。


アストラを振り抜いた。


ごっ――!!


一瞬。


音が。


消えた。


「…………」


……え?


次の瞬間。


ばぎぃぃぃんっ!!


巨大な幹が。


中心から。


吹き飛んだ。


いや。


砕けたなんてものじゃない。


幹も。


枝も。


まとめて。


粉々になった。


「…………」


……何?


少し遅れて。


どおおおおおんっ!!


轟音が。


森に響いた。


木片が。


周囲へ飛び散る。


ばきっ!


ばきばきっ!


背後の木々が。


次々と倒れていく。


地面が。


大きく揺れた。


「…………」


……何。


今の。


俺は。


その場に。


立ち尽くした。


目の前には。


巨大な幹の残骸。


いや。


もう。


幹と呼べるものは。


ほとんど残っていない。


地面から伸びる。


無数の根。


それだけが。


残されていた。


『…………』


……アストラ?


『……主を間違えたかもしれぬ』


「……今さら?」


『……今さらだな』


……そうだな。


俺は。


倒れた木々を見た。


……これ。


怒られないよな?


『……誰にだ』


……分からないけど。


何となく。


◇


「……いっ!」


右腕に。


痛みが走った。


……痛っ!


手のひらが。


じんじんする。


指に。


うまく力が入らない。


「……何だ、これ」


『……言ったであろう』


……何を?


『……お主の腕までは保証せぬと』


「…………」


……ああ。


言ってたな。


……そうか。


さっきの一撃。


アストラは。


耐えられた。


でも。


俺の腕は。


あの衝撃に。


耐えきれなかったんだ。


……幸い。


動かせる。


でも。


痺れてる。


「……魔力があっても、駄目なのか」


『……当然だろう』


……当然なのか。


『……お主の身体まで、不壊ではないからな』


「…………」


……確かに。


魔力は。


まだ。


十分にある。


あれほどの魔力を。


一気に込めたのに。


……でも。


もう一度。


同じ攻撃をするのは。


無理だ。


少なくとも。


今は。


俺は。


アストラを。


左手でも支えた。


「……さすがに、倒したよな」


『……どうであろうな』


……いや。


倒しただろ。


あれだけ。


粉々にしたんだぞ。


俺は。


目の前の残骸を見た。


幹は。


ほとんど消し飛んでいる。


枝も。


砕け散った。


残っているのは。


地面に広がる根だけ。


「…………」


……よし。


終わった。


そう思った。


そのとき。


ずるっ。


「…………」


……え?


一本の根が。


動いた。


そして。


もう一本。


その隣の根も。


ゆっくりと。


動き始めた。


「…………」


……嘘だろ。


『……ノア』


「……うん」


『……まだ生きておるな』


「……あれだけ殴ったのに!?」


根が。


少しずつ。


絡まり始めた。


一本。


二本。


三本。


中心へ。


集まっていく。


やがて。


細い幹のようなものが。


地面から伸び始めた。


「…………」


……再生してる。


でも。


さっきとは。


違う。


……遅い。


さっきは。


砕いた場所が。


すぐに元へ戻った。


でも。


今は。


身体のほとんどを。


失っている。


枝も。


幹も。


全部。


作り直そうとしている。


だから。


時間がかかっている。


……なるほど。


いくら再生できても。


失った部分が多ければ。


すぐには戻れないのか。


……でも。


このまま待っていたら。


また。


元に戻る。


「…………」


俺は。


アストラを握り直した。


……もう一回。


同じように殴る?


右腕が。


じんじんした。


「……無理だな」


『……賢明だ』


……魔力はある。


でも。


身体がもたない。


……じゃあ。


どうする?


俺は。


ゆっくりと再生する根を見た。


そのとき。


ふと。


思い出した。


エリスさんの。


火魔法。


あの炎が当たった根は。


他の根より。


再生が遅かった。


「…………」


……火。


そうだ。


火なら。


再生を止められるかもしれない。


しかも。


今は。


魔物がほとんど動けない。


……近づける。


俺は。


アストラの先端を見た。


……俺にも。


火魔法は使える。


飛ばないけど。


使える。


そのとき。


エリスさんの言葉が。


頭をよぎった。


『炎を広げずに集中させるんです』


「…………」


……集中。


そういえば。


そんなこと。


言ってたな。


魔力を増やせば。


炎が大きくなる。


でも。


ただ大きくすれば。


いいわけじゃない。


……小さな範囲に。


魔力を集中させる。


「……なあ、アストラ」


『……何だ』


「……ちょっと、試したいことがある」


『……またか』


……まただよ。


俺は。


ゆっくりと。


アストラの先端に。


炎を灯した。


ぼうっ。


小さな炎が。


揺れる。


「…………」


……さて。


うまくいくかな。


目の前では。


巨大な魔物が。


少しずつ。


元の姿を取り戻し始めていた。



ここまで読んでくださり本当にありがとうございます!

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