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『魔法が飛ばせないので、杖でぶん殴ることにした ~落ちこぼれ魔法使い、なぜか最強の槌使いと呼ばれる~』  作者: 蝶野摩矢


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第54話 魔法使いに期待されました

翌朝。


俺は。


東門の前に立っていた。


「……よし」


今日は。


商隊の護衛として。


東の街へ向かう日だ。


昨日の面接では。


色々あった。


木剣で負けたり。


魔法が飛ばないと説明したり。


杖で殴ると言ったら笑われたり。


……思い返すと。


なかなかひどい。


『……よく採用されたものだな』


「……俺もそう思う」


『……そこは否定せぬのか』


「……事実だからな」


それでも。


無事に採用された。


ありがたい話だ。


「おう! ノア!」


大きな声がした。


振り向くと。


ボルグさんが手を振っていた。


その隣には。


ディランさん。


そして。


「おはようございます、ノアさん」


エリスさん。


「……お、おはようございます」


……よし。


ちゃんと挨拶できた。


昨日より進歩している。


『……挨拶一つで何を喜んでおる』


……うるさい。


「全員揃ったな」


ディランさんが。


俺たちを見回した。


「今回の護衛は、俺たち四人だ。街道の状況が普段より悪い。油断するなよ」


「おう!」


「はい」


「……はい」


俺も返事をする。


そこへ。


商人のマルクさんがやってきた。


「皆さん、お待たせしました。荷物の確認が終わりましたので、出発できます」


馬車には。


大きな荷物が積まれていた。


布で覆われているが。


かなりの量だ。


……あれを。


無事に届ける。


それが。


今回の仕事。


「ノア」


ディランさんに呼ばれた。


「お前は最初、馬車の右側を頼む。エリスは左側。俺が前方、ボルグは後方を警戒する」


「……分かりました」


「敵が出たら俺の指示を聞け。勝手に突っ込むなよ」


「……はい」


『……聞いておるか?』


「……聞いてるよ」


「ん?」


「あ、いえ! 何でもありません!」


……危ない。


アストラへの返事を。


また声に出してしまった。


ディランさんは。


少し不思議そうな顔をしたが。


それ以上は何も言わなかった。


……助かった。


「それじゃあ、出発するぞ」


こうして。


俺たちは。


東へ向かって歩き始めた。


◇


街を出てから。


しばらくは。


何事もなかった。


馬車の車輪が。


一定の音を立てる。


街道の左右には。


草原が広がり。


少し離れたところには。


森が見えた。


……平和だ。


こういう護衛なら。


俺にもできそうだな。


『……油断するなよ』


「……分かってる」


『……お主の顔に書いてあったぞ』


「……何が?」


『……楽な仕事だ、と』


「……書いてないだろ」


『……似たような顔をしておった』


……杖のくせに。


人の表情に詳しいな。


「ノアさん」


「……は、はい!」


突然。


隣から声がした。


エリスさんだ。


「以前も護衛のお仕事をされていたんですよね?」


「……はい。前のパーティで、一度だけ」


「そうなんですね。私はディランさんたちと何度かご一緒しているんです」


「……そうなんですか」


「はい。お二人とも頼りになる方ですよ」


エリスさんが。


柔らかく笑った。


……なるほど。


確かに。


昨日の面接でも。


ディランさんは冷静だった。


ボルグさんも。


見た目は怖いが。


話しやすい人だ。


「ノアさんの魔法も、楽しみにしています」


「…………」


……え?


「昨日お聞きした、地面に穴を作る魔法とか。どうやって使うのか気になっていて」


「……あ、あれですか」


「はい」


……期待されている。


困った。


俺の魔法は。


普通の魔法使いが見たら。


大体。


変な顔をする。


「……あまり、すごいものじゃないですよ」


「そうなんですか?」


「……はい。小さい穴ですし」


「でも、使い方次第では便利そうです」


「…………」


……あれ?


変だと思われていない?


『……よかったではないか』


……そうだな。


ちょっと。


嬉しい。


「……必要になったら、使ってみます」


「楽しみにしていますね」


……よし。


今の会話。


結構。


普通だったんじゃないか?


『……そう思うなら、にやけるな』


「……にやけてない」


「え?」


「……あっ、いえ!」


……駄目だ。


アストラ。


頼むから。


今は黙っててくれ。


◇


昼を過ぎた頃。


ディランさんが。


急に足を止めた。


「……止まれ」


その声に。


馬車が止まる。


俺たちも。


周囲を警戒した。


「右の草むらだ」


ディランさんが。


低い声で言った。


直後。


がさり。


草が揺れた。


現れたのは。


四足歩行の魔物。


一匹。


二匹。


……三匹。


さらに。


後ろからもう一匹。


合計四匹だ。


……多いな。


『……お主一人なら、面倒な数だ』


……分かってる。


でも。


今日は一人じゃない。


「ボルグ、馬車を守れ! エリス、右の二匹を牽制! ノアは接近してくる奴を止めろ!」


「おう!」


「はい!」


「……はい!」


ディランさんの指示が飛ぶ。


エリスさんが。


杖を構えた。


「《風刃》!」


風が。


草むらを切り裂いた。


一匹の魔物が。


横へ飛び退く。


もう一匹も。


足を止めた。


……すごい。


ちゃんと。


魔法が飛んでいる。


『……羨ましそうに見るな』


……見てない。


いや。


ちょっと見た。


その間に。


別の一匹が。


馬車へ向かって走り出した。


「ノア!」


「……はい!」


俺は。


魔物の進路へ走った。


……正面から。


殴りに行くのは。


危ない。


なら。


足元だ。


アストラの先端を。


地面に突き立てる。


土魔法を使う。


ぼこっ。


魔物の進行方向に。


小さな穴が開いた。


……ちょっと浅い。


でも。


十分だ。


走ってきた魔物が。


穴に気づいた。


……まずい。


避けられる。


魔物が。


横へ跳ぼうとする。


でも。


その先には。


ディランさんがいた。


「そこだ!」


ディランさんが。


踏み込んだ。


魔物は。


体勢を整える間もなく。


剣を受けて倒れた。


「…………」


……おお。


うまくいった。


穴に落ちなくても。


避ける方向を。


読めればいい。


一人旅で。


気づいたことだ。


「いいぞ、ノア!」


「……はい!」


……褒められた。


『……喜んでおる場合か』


……分かってる。


まだいる。


別の魔物が。


エリスさんの風魔法を避けて。


こちらへ向かってきた。


「ノアさん、右です!」


「……はい!」


俺は。


アストラを握り直した。


……今度は。


殴れる距離だ。


魔物が跳びかかる。


俺は。


半歩だけ横へ動き。


アストラの先に魔力を込めた。


そして。


短く振り抜く。


ごっ!


魔物の身体が。


横へ吹き飛んだ。


地面を転がり。


動かなくなる。


……よし。


一撃。


『……いつもどおりだな』


……そうだな。


今のは。


普段と同じくらい。


魔力を込めただけだ。


「……おい」


後ろから。


声がした。


ボルグさんだ。


「……何ですか?」


「今の、一発か?」


「……はい」


「……そうか」


ボルグさんが。


倒れた魔物を見る。


それから。


俺の杖を見る。


「……お前、すげえな!」


「……え?」


「がはは! 昨日、杖で殴るって聞いたときは冗談かと思ったぞ!」


……ですよね。


俺も。


普通の魔法使いが。


杖で殴るって言ったら。


冗談だと思う。


「ボルグ! まだ終わってないぞ!」


ディランさんの声が飛ぶ。


「おっと!」


残りの魔物が。


馬車の後ろへ回り込もうとしていた。


ボルグさんが。


大盾を構える。


がんっ!


魔物が。


盾にぶつかった。


「おら、こっちは通行止めだ!」


……通行止め。


盾で。


道を塞いでいる。


なんか。


ガルムを思い出すな。


その隙に。


エリスさんの魔法が飛んだ。


「《火球》!」


炎が。


魔物に命中する。


怯んだところへ。


ディランさんが斬り込む。


残った一匹も。


エリスさんの風魔法で足を止められ。


俺が近づく前に。


ディランさんが仕留めた。


……終わった。


「周囲を確認しろ」


ディランさんの指示で。


俺たちは。


もう一度辺りを見回した。


……追加はいない。


どうやら。


本当に終わったらしい。


「よし。討伐部位を回収したら、先へ進むぞ」


「おう!」


「はい」


「……はい」


……なんだろう。


今の戦闘。


すごく。


戦いやすかった。


俺が穴を作れば。


ディランさんが仕留める。


俺が殴れない位置の魔物は。


エリスさんが魔法で止める。


馬車に近づいた敵は。


ボルグさんが防ぐ。


……これが。


連携か。


前のパーティでも。


レオたちが。


俺のために隙を作ってくれていた。


あの頃は。


助けられることのほうが多かったけど。


今は。


少しだけ。


俺も役に立てている気がする。


『……少しだけ、か?』


……少しだけでいいんだよ。


最初は。


◇


魔物の討伐部位を回収して。


再び歩き始めた。


「ノアさん」


エリスさんが。


俺の隣へ来た。


「さっきの魔法、すごく面白かったです」


「……穴のやつですか?」


「はい。魔物を直接攻撃するのではなく、動きを制限するために使うんですね」


「……あれくらいしか、できないので」


「でも、ああいう使い方は思いつきませんでした」


「…………」


……褒められている。


多分。


「私は土魔法が使えないので、ああいう使い方は新鮮でした」


「……そうなんですか」


「はい。私が使えるのは火と風だけなんです」


「……でも、魔法を飛ばせるのは羨ましいです」


「ふふっ。お互い、得意なことが違いますね」


……なんだろう。


普通に。


魔法の話ができている。


それが。


ちょっと嬉しい。


「そういえば、ノアさんは火魔法も使えるんですよね?」


「……はい」


「どんなふうに使うんですか?」


「……杖の先から、火を出します」


「……そこから飛ばすのではなく?」


「……はい。出るだけです」


「なるほど……」


エリスさんが。


少し考え込んだ。


……やっぱり。


変だよな。


「それなら、炎の大きさを調整するのが難しそうですね」


「……大きさですか?」


「はい。火魔法は、魔力をたくさん込めればいいというものでもないんです」


「……そうなんですか?」


「もちろん魔力量も大切ですけど、炎をどのくらいの範囲に広げるかも重要なんですよ」


……範囲。


「例えば、広い場所を燃やしたいなら炎を大きくします。でも、狭い場所を狙うなら、炎を広げずに集中させるんです」


「……なるほど」


「私もまだ練習中ですけどね」


エリスさんが。


少し照れたように笑った。


……集中。


俺の場合。


魔力を増やすと。


火も大きくなる。


だから。


火力を上げようとすると。


自分まで熱くなる。


……そうか。


小さくしたまま。


強くする方法もあるのか。


『……興味深いな』


……だな。


今度。


試してみよう。


ただ。


「……あの」


「はい?」


「……炎を集中させるのって、難しいですか?」


「最初は難しいと思います。魔力を強く流すと、どうしても広がろうとしますから」


「……ですよね」


「でも、ノアさんは魔力の扱いに慣れていそうですし、できるかもしれませんよ」


「…………」


……慣れている。


……かなあ。


杖で殴るために。


魔力を込めることなら。


結構やっている。


でも。


繊細な調整となると。


話は別だ。


『……お主に繊細さがあるとは思えぬな』


……うるさい。


「……練習してみます」


「はい。うまくいったら、ぜひ見せてください」


「……分かりました」


……約束してしまった。


ちゃんと。


練習しよう。


◇


それから。


しばらく進んだ。


太陽は。


少しずつ傾いている。


森が。


街道の近くまで迫ってきた。


「……妙だな」


先頭のディランさんが。


呟いた。


「どうした?」


ボルグさんが尋ねる。


「……さっきから、魔物の気配が少ない」


「少ないなら、いいことじゃねえか?」


「普段ならな」


ディランさんが。


森の奥を見た。


「ここまで静かだと、逆に気になる」


……確かに。


言われてみれば。


さっきまで。


鳥の鳴き声が聞こえていたのに。


今は。


ほとんど聞こえない。


「……止まれ!」


突然。


ディランさんが声を上げた。


馬車が。


ゆっくり停止する。


俺は。


前方を見た。


……木?


街道の真ん中に。


大きな木が倒れていた。


幹が太く。


馬車では。


とても乗り越えられそうにない。


「……倒木か」


ボルグさんが。


盾を持ち直す。


「どうする、ディラン?」


「……待て」


ディランさんは。


倒れた木を見つめていた。


「……おかしい」


「何がだ?」


「……あの木、どこから倒れてきた?」


「……え?」


俺も。


周囲を見る。


街道の左右には。


木が生えている。


でも。


倒れた木と同じくらい太い木が。


根元から折れたような場所は。


見当たらない。


「……確かに」


俺は。


アストラを握り直した。


……何だろう。


嫌な感じがする。


「全員、警戒しろ」


ディランさんが。


剣に手をかけた。


ボルグさんが。


馬車の前へ出る。


エリスさんも。


杖を構えた。


俺も。


アストラを構える。


そのとき。


足元で。


土が。


わずかに動いた。


「…………」


……ん?


今。


地面が動かなかったか?


俺は。


足元を見た。


……あれ?


街道の土が。


少しだけ。


盛り上がっている。


一か所じゃない。


倒木の周囲から。


こちらへ向かって。


細長く。


いくつも。


……何だ、これ。


俺が。


声を出そうとした。


そのとき。


ずるり。


倒木の下で。


何かが動いた。


「……え?」


……今。


木が。


動いた?


俺は。


もう一度。


地面を見る。


盛り上がった土が。


こちらへ。


近づいていた。


「……ディランさん!」


俺が叫んだ。


その瞬間。


地面が。


大きく。


盛り上がった。



ここまで読んでくださり本当にありがとうございます!

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