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『魔法が飛ばせないので、杖でぶん殴ることにした ~落ちこぼれ魔法使い、なぜか最強の槌使いと呼ばれる~』  作者: 蝶野摩矢


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第53話 面接で実技があるとは聞いてません

翌朝。


俺は。


ギルドの前に立っていた。


「…………」


……帰りたい。


『……まだ何も始まっておらぬぞ』


「……分かってる」


……分かってるけど。


初対面の人間と。


面談。


しかも。


護衛の仕事だ。


俺が。


ちゃんと役に立てるのか。


確認される。


「……緊張するな」


『……普段どおりにすればよい』


「……普段どおりって」


……普段どおりにしたら。


杖で殴る魔法使いだぞ。


『……事実であろう』


「……そうだけど」


俺は。


深呼吸した。


……昨日。


魔法を飛ばせないと言っただけで。


断られた。


あの二人が。


間違っていたわけじゃない。


でも。


悔しかった。


……今度は。


ちゃんと。


自分にできることを伝えよう。


「……よし」


俺は。


扉を開けた。


◇


ギルドの奥。


依頼の打ち合わせに使う部屋へ。


俺は案内された。


そこには。


三人の冒険者と。


商人らしい男性がいた。


「君が、ノア君か」


最初に声をかけてきたのは。


三十代くらいの男性だった。


短く切った髪。


使い込まれた剣。


落ち着いた雰囲気。


「……はい」


「俺はディラン。今回の護衛をまとめることになっている」


「……よろしくお願いします」


「よろしく。まあ、座ってくれ」


俺は。


勧められた椅子に座った。


その隣には。


大柄な男性がいた。


背中には。


大きな盾。


「俺はボルグだ。よろしくな!」


「……よ、よろしくお願いします」


……でかい。


ガルムも大きかったけど。


この人も。


かなり大きい。


「そんなに緊張するなよ! 取って食ったりしねえから!」


「……は、はい」


……食われそうな迫力はあるけど。


『……失礼なことを考えておるな』


「…………」


……黙っていよう。


そして。


もう一人。


「初めまして。エリスといいます」


女性だった。


年齢は。


俺より少し上だろうか。


落ち着いた声。


整った顔立ち。


手には。


細身の杖。


「魔法使いをしています。よろしくお願いしますね」


「…………」


……魔法使い。


しかも。


女性。


……綺麗な人だ。


「……あ、あの」


「はい?」


「……よ、よろしく、おねがい、します」


……噛んだ。


思いっきり。


噛んだ。


エリスさんが。


少し首を傾げる。


「……大丈夫ですか?」


「……だ、大丈夫です!」


『……まったく大丈夫には見えぬな』


「…………」


……うるさい。


◇


「さて」


ディランさんが。


依頼書を机に置いた。


「今回の仕事は、東の街まで商隊を護衛することだ」


商人の男性が。


軽く頭を下げる。


「商隊を預かっているマルクと申します。よろしくお願いします」


「……よろしくお願いします」


「最近は東街道の魔物が増えておりまして、通常の乗合馬車も運休している状況です」


……やっぱり。


そうなのか。


「それでも、東の街へ届けなければならない荷物があります。十分な護衛を揃えられれば出発したいと考えています」


ディランさんが。


こちらを見た。


「すでに俺たち三人は護衛を引き受けている。ただ、もう一人欲しいという話になってな」


「……なるほど」


「ギルドから聞いたが、東街道を一人で移動して、かなりの数の魔物を討伐したそうだな」


「……はい」


「それは立派な実績だ。だが、護衛は討伐とは違う」


「……はい」


「敵を倒すことより、商人と荷物を守ることが優先だ。勝てない相手なら、戦わずに逃げる判断も必要になる」


「……分かりました」


……そうだよな。


俺が一人で戦うなら。


危なくなったら逃げればいい。


でも。


護衛では。


それだけじゃ駄目だ。


……レオたちと。


護衛依頼を受けたときも。


守る相手がいることを。


意識していた。


「それで、君の得意分野を聞きたい」


「……得意分野、ですか」


「ああ。ギルドからは魔法使いと聞いているが」


「……はい。魔法使いです」


……よし。


嘘はついてない。


「使える属性は?」


「……火、水、風、土です。あと、回復魔法も使えます」


「四属性に回復まで?」


ディランさんが。


少し驚いた顔をした。


エリスさんも。


こちらを見る。


「……すごいですね」


「……あ、ありがとうございます」


……やめてください。


そんな。


期待した目で見ないでください。


「それなら、後衛としても頼りになりそうだな」


「…………」


……来た。


来てしまった。


その話が。


「……あの」


「ん?」


「……一つ、言っておかないといけないことが」


「何だ?」


俺は。


アストラを握った。


「……俺、魔法を飛ばせないんです」


「…………」


部屋が。


静かになった。


「……飛ばせない?」


「……はい」


「火球や風の刃を放てない、ということか?」


「……はい」


「……では、どうやって戦う?」


「……杖で殴ります」


「…………」


「…………」


「…………」


……静かだ。


ものすごく。


静かだ。


『……予想どおりだな』


「…………」


……また。


この沈黙か。


昨日と。


同じだ。


でも。


今度は。


これだけで終わらせたくない。


「……あの、でも」


俺は。


顔を上げた。


「……近づけば、ちゃんと戦えます」


「近づけば、か」


ディランさんが。


腕を組んだ。


「それなら、前衛としての動きを確認したいな」


「……はい」


「少し、外で試してみよう」


◇


ギルドの裏手。


訓練用の広場。


俺たちは。


そこへ移動した。


ディランさんが。


木剣を持って立っている。


「簡単な模擬戦だ。俺に一撃当てられるか、見せてくれ」


「……分かりました」


……模擬戦。


しかも。


相手は経験豊富な剣士。


「……アストラ」


『……何だ』


「……魔力は使わない方がいいよな」


『……当然であろう』


「……だよな」


……さすがに。


模擬戦で。


魔法を使って殴るわけにはいかない。


俺は。


アストラを構えた。


「……お願いします」


「ああ。来い」


……さて。


どうする。


相手は。


魔物じゃない。


動きも。


ずっと速そうだ。


俺は。


一歩踏み込んだ。


ディランさんが。


すっと横へ動く。


……速い。


俺は。


杖を振りかけた。


……いや。


大振りじゃ駄目だ。


一人旅で。


それは学んだ。


俺は。


杖を短く振った。


ディランさんが。


木剣を少し引いて。


杖をかわす。


「……っ!」


……反応した!


だったら。


もう一度。


俺は。


続けて踏み込もうとした。


その瞬間。


ディランさんの姿が。


視界の端へ移った。


「……え?」


木剣が。


俺の肩の手前で止まっていた。


「……そこまで」


「…………」


……負けた。


早い。


早すぎる。


『……当然だな』


「…………」


……分かってるよ。


ディランさんが。


木剣を下ろした。


「なるほど。近接戦闘の技術は、まだ発展途上だな」


「……はい」


……そのとおりです。


「ただ、最初の一振りは悪くなかった」


「……え?」


「大きく振るのを途中でやめただろう。あれは自分で考えたのか?」


「……はい」


「そうか」


ディランさんが。


小さく頷いた。


「でも、相手がどう動くかまでは読めていなかったな」


「……はい」


……耳が痛い。


「だが、ギルドに提出した討伐証明は事実だ。今の動きだけでは、あれだけの魔物を倒せた理由が分からない」


「…………」


……よく見てるな。


「何か工夫しているんだろう?」


「……はい」


俺は。


少し考えた。


「……魔法で、相手の動きを妨害しています」


「ほう?」


「……照明魔法で目を眩ませたり、水を凍らせて滑らせたり、土魔法で足元に穴を作ったり」


「…………」


ディランさんが。


黙った。


ボルグさんも。


黙った。


エリスさんが。


小さく呟いた。


「……落とし穴?」


「……はい」


「……魔法で?」


「……はい」


「…………」


……あれ。


何か。


おかしいこと言ったかな。


ボルグさんが。


突然。


笑い出した。


「がっはっはっは!」


「……え?」


「面白えな、お前!」


「……そ、そうですか?」


「魔法使いが、目くらましして穴に落として殴るってか!」


「……言い方!」


……アストラと。


同じこと言ってる。


『……事実であろう』


「…………」


……くそ。


ディランさんは。


少し考えてから。


口を開いた。


「……なるほどな」


「……?」


「前衛として完成しているわけではない。だが、敵の動きを妨害できるなら護衛でも役に立つ」


「……本当ですか?」


「ああ。ただし、味方を巻き込まないことが条件だ」


「……はい!」


……よかった。


エリスさんが。


少し考えるように。


首を傾げた。


「でも、照明魔法で目を眩ませるなら、近くにいる味方も危険ではありませんか?」


「……あ」


……そうだった。


一人なら。


自分だけ目を閉じればよかった。


でも。


今度は。


仲間がいる。


「……使うときは、先に知らせます」


「それなら、私たちも対処できますね」


エリスさんが。


微笑んだ。


「……は、はい!」


……よかった。


ちゃんと。


話せた。


『……今の程度で喜ぶな』


「…………」


……うるさい。


「それと」


ディランさんが。


こちらを見た。


「回復魔法も使えるんだったな」


「……はい」


「どの程度まで治せる?」


「……直接触れる必要はありますけど、重い怪我も治したことがあります」


「それは心強いな」


ディランさんが。


頷いた。


「護衛中に負傷者が出たとき、治療できる人間がいるのは大きい」


「…………」


……そっか。


俺は。


魔法を飛ばせなくても。


仲間を治すことはできる。


「それに、単独で東街道を越えてきた経験もある」


ディランさんが。


続けた。


「近接戦闘はまだまだだが、魔物の動きを妨害できて、回復もできる。護衛経験もあるなら、十分に役割はあるだろう」


「……本当ですか?」


「ああ。ただし、勝手に前へ出て戦うのはなしだ。護衛中は俺の指示に従ってもらう」


「……はい!」


……よし。


今度は。


ちゃんと。


自分にできることを伝えられた。


◇


「では、マルクさん」


ディランさんが。


商人の男性へ向き直った。


「俺は、ノアを加えてもいいと思います」


「そうですか」


マルクさんが。


俺を見た。


「ノアさん。護衛の仕事は初めてですか?」


「……いえ。以前、パーティを組んでいた頃に経験があります」


「そうでしたか。それなら、護衛の基本はご存じですね」


「……はい」


マルクさんが。


頷いた。


「今回も危険な道のりになります。どうか無理はなさらず、ディランさんの指示に従ってください」


「……分かりました」


「では、よろしくお願いします」


「…………」


……え?


「……あの」


「はい?」


「……採用、ですか?」


「はい。お願いしたいと思います」


「……本当ですか!?」


思わず。


声が大きくなった。


ボルグさんが。


笑った。


「よかったな、ノア!」


「……はい!」


エリスさんも。


微笑んでいた。


「よろしくお願いしますね」


「……よ、よろしくお願いします!」


……また噛んだ。


『……女性には弱いな』


「…………」


……黙っててくれ。


ディランさんが。


依頼書をまとめた。


「これで必要な人数が揃った。出発は明日の朝だ。今日は準備を整えておいてくれ」


「……分かりました」


「道中は魔物が増えている。油断は禁物だ」


「……はい」


……明日。


いよいよ。


東へ向かえる。


ヴァルドさんを。


追いかけられる。


「…………」


……よかった。


本当に。


よかった。


◇


ギルドを出た俺は。


大きく息を吐いた。


「……はあああ……」


『……疲れたのか』


「……疲れたよ」


……面談。


模擬戦。


初対面の人たち。


しかも。


女性までいた。


「……戦うより疲れたかもしれない」


『……情けないことを言うでない』


「……仕方ないだろ」


でも。


採用された。


ちゃんと。


護衛の一員として。


「……なあ、アストラ」


『……何だ』


「……俺、少しは成長したかな」


『……うむ』


「……そうか」


『……少なくとも、以前より自分にできることを理解しておる』


「…………」


……そうだな。


魔法は飛ばせない。


でも。


何もできないわけじゃない。


一人で戦う方法も。


少しずつ。


分かってきた。


そして。


今度は。


仲間と戦う。


……昨日。


普通の魔法使いが欲しいと言われて。


断られた。


あのときは。


悔しかった。


でも。


今日は。


俺の戦い方を知ったうえで。


必要だと言ってもらえた。


「……よし」


俺は。


アストラを担ぎ直した。


……明日は。


東へ出発だ。


『……ノアよ』


「……何?」


『……一つ気になることがある』


「……何だよ」


『……あの女魔法使いと、まともに話せるのか?』


「…………」


……そこ?


『……護衛中に会話できぬようでは困るぞ』


「……だ、大丈夫だよ」


『……先ほど、よろしくお願いしますすら噛んでおったが』


「……あれは緊張しただけ!」


『……明日も緊張するのではないか?』


「…………」


……否定できない。


俺は。


空を見上げた。


……魔物より。


女性のほうが。


怖いかもしれない。


『……本人に聞かれたら怒られるぞ』


「……分かってるよ!」


……明日から。


新しい旅が始まる。


とりあえず。


最初の目標は。


エリスさんと。


普通に会話すること。


……いや。


違う。


ヴァルドさんを追いかけることだ。


危ない。


目的を忘れるところだった。



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