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『魔法が飛ばせないので、杖でぶん殴ることにした ~落ちこぼれ魔法使い、なぜか最強の槌使いと呼ばれる~』  作者: 蝶野摩矢


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第52話 魔法を飛ばせませんが、なにか?

「…………」


……うまい。


俺は。


目の前の皿を見つめた。


温かい肉。


柔らかい野菜。


そして。


焼きたてのパン。


「……幸せだ」


『……大げさであるな』


「……お前には分からないんだよ」


『……我は食事をせぬからな』


「……だろ?」


何日も。


硬いパンばかりだった。


夜は。


地面の上で寝て。


魔物に襲われないか。


びくびくしながら。


朝を迎える。


……本当に。


大変だった。


俺は。


残っていたパンを。


スープにつけた。


「…………」


……うまい。


『……いつまで食べておるのだ』


「……もう少し」


『……ギルドへ行くのではなかったか?』


「…………」


……そうだった。


ヴァルドさんを追うために。


東行きの護衛依頼を探さないと。


「……よし」


俺は。


最後のパンを口に放り込んだ。


「……行くか」


『……うむ』


……あ。


「……その前に、おかわりってできるかな」


『……行くと言ったばかりであろう!』


◇


結局。


おかわりは我慢した。


……偉いぞ、俺。


『……普通であろう』


「……心を読むなよ」


俺は。


冒険者ギルドの前に立っていた。


昨日まで。


一人で街道を歩いていたのに。


今は。


周りに冒険者がいる。


……何だか。


少し安心するな。


俺は。


扉を開けた。


中には。


大勢の冒険者がいた。


……さて。


東へ向かう護衛依頼はあるだろうか。


俺は。


依頼掲示板へ向かった。


「…………」


採取。


運搬。


護衛。


討伐。


いろいろある。


その中から。


東へ向かう護衛依頼を探す。


「……あった」


東行きの護衛依頼。


しかも。


一つじゃない。


「……二つあるな」


『……ほう』


一つは。


『東行き商隊・護衛募集』


商隊が直接。


護衛を募集している依頼だ。


ただし。


正式な受注には。


商隊の責任者との面談が必要らしい。


「……面談か」


『……不安なのか?』


「……ちょっとな」


……まあ。


まだ応募もしてないんだけど。


俺は。


もう一枚の募集を見た。


『東街道護衛・臨時パーティ募集』


こちらは。


別の商隊の護衛に参加するため。


冒険者が仲間を募集しているものらしい。


「……こっちはパーティか」


『……どちらも東へ向かうようだな』


「……だな」


……さて。


どうしよう。


そのとき。


近くから。


話し声が聞こえた。


「……魔法使い、まだ見つからないのか?」


「いや。なかなかな」


「東街道は魔物が増えてるからな。前衛だけじゃ厳しいぞ」


「分かってる。だから探してるんだろ」


「…………」


……魔法使い?


俺は。


声の方へ目を向けた。


剣を持った男と。


弓を背負った男。


二人組の冒険者だった。


……もしかして。


さっきのパーティ募集の人たちか?


「……ちょっと聞いてみるか」


『……うむ』


◇


「……あの、すみません」


声をかけると。


剣を持った男が振り返った。


「ん? どうした?」


「……魔法使いを探してるって聞いたんですけど」


「おお! あんた魔法使いか!」


「……はい」


「ちょうどよかった。俺たち、東行きの護衛に参加するために魔法使いを探してるんだ。魔法で広い範囲を攻撃できる奴が欲しくてな」


「……なるほど」


「俺は剣士で、こっちは弓使いだ。前衛と遠距離攻撃はできるんだが、複数の魔物が出たときに対応できる魔法使いが欲しいんだ」


「……そうなんですね」


「属性は?」


「……火、水、風、土です」


「四属性!?」


男が。


目を丸くした。


「全部使えるのか!?」


「……はい」


「すげえな!」


もう一人の男も。


身を乗り出した。


「回復魔法は?」


「……使えます」


「回復まで!?」


「……はい」


二人が。


顔を見合わせた。


「おい、当たりじゃないか?」


「ああ。こんな奴が見つかるとはな!」


「…………」


……なんだろう。


すごく。


褒められている。


ちょっと嬉しい。


「よし! じゃあ、一緒に――」


「あ、あの!」


「ん?」


「……一つ、言っておきたいことがあって」


「何だ?」


俺は。


アストラを握り直した。


「……俺、魔法が飛ばせないんです」


「…………」


「…………」


二人が。


黙った。


「……飛ばせない?」


「……はい」


「火魔法も?」


「……はい」


「水魔法も?」


「……はい」


「……じゃあ、どうやって戦うんだ?」


「……これで」


俺は。


アストラを少し持ち上げた。


「……殴ります」


「…………」


「…………」


沈黙。


……長い。


「……殴る?」


「……はい」


「杖で?」


「……はい」


「……魔法使いなのに?」


「……魔法使いです」


男が。


困ったように頭をかいた。


「……悪い。俺たちが探してるのは、普通の魔法使いなんだ」


「…………」


……普通。


「離れた場所から魔法で攻撃してくれる奴が欲しくてな」


「……そうですか」


「回復が使えるのはありがたいんだが、今回はちょっと……」


「……分かりました」


俺は。


小さく頭を下げた。


その場を離れる。


『……残念だったな』


「……まあ、仕方ないよ」


……分かってる。


あの二人が。


間違ったことを言っているわけじゃない。


魔法使いを募集しているなら。


普通は。


魔法を飛ばせる奴が欲しい。


俺みたいに。


杖を持って前へ出る奴じゃない。


「…………」


……でも。


悔しくないわけじゃない。


レオたちと別れて。


一人で旅をして。


少しずつ。


戦えるようになってきた。


それでも。


魔法が飛ばせない。


その一言で。


また断られた。


「…………」


……いつか。


見返してやる。


魔法が飛ばせなくても。


立派な魔法使いになれるって。


証明してやる。


『……ノア?』


「……何でもない」


俺は。


アストラを握り直した。


……まだまだ。


これからだ。


◇


俺は。


もう一度。


依頼掲示板へ戻った。


さっきの。


商隊が直接募集していた護衛依頼。


「…………」


……こっちは。


一人でも応募できるんだよな。


『……面談があるのであろう』


「……そうだな」


……断られるかもしれない。


でも。


聞いてみないと。


分からない。


俺は。


受付へ向かった。


◇


「……すみません」


「はい。あ、昨日の方ですね」


「……はい」


受付にいたのは。


昨日のお姉さんだった。


「…………」


……またこの人か。


いや。


別に嫌なわけじゃない。


むしろ。


綺麗な人なんだけど。


……だから困る。


「本日はどのようなご用件でしょうか?」


「……あの、護衛依頼について聞きたくて」


「護衛依頼ですね」


「……はい」


「どちらの依頼でしょうか?」


俺は。


掲示板で見つけた依頼書を示した。


「……東行き商隊の、面談がある方です」


「ああ、こちらですね」


お姉さんが。


依頼内容を確認した。


「現在、護衛を募集しておりますよ」


「……よかった」


「ただし、正式な受注には商隊の責任者との面談が必要になります」


「……はい。それは見ました」


……面談。


少し緊張するな。


「……あ、その前に」


「はい?」


「……討伐の証明も、確認してもらいたくて」


「討伐証明ですね。承知しました」


俺は。


荷物から袋を取り出した。


受付の上に置く。


どさっ。


「…………」


お姉さんが。


袋を見た。


「……こちら、すべてですか?」


「……はい」


「確認いたしますね」


袋を開ける。


中に入っていた。


討伐証明の部位を。


一つずつ取り出していく。


「…………」


一つ。


二つ。


三つ。


……まだある。


お姉さんの手が。


少し止まった。


「……あの」


「……はい?」


「こちらの魔物は、すべてご自身で討伐されたのですか?」


「……はい」


「お一人で?」


「……はい」


「…………」


……あれ。


何かおかしいこと言ったかな。


「……これだけの数を、単独で?」


「……何日もかかりましたけど」


お姉さんが。


もう一度。


袋の中を確認した。


「……そうでしたか。東街道は魔物が増えていると聞いていますが……」


「……そうですね」


「ご無事で何よりです」


「……ありがとうございます」


……なんだろう。


ちょっと。


嬉しいな。


お姉さんは。


討伐証明を整理した。


「確認は問題ありません。換金できるものについては、こちらで手続きいたしますね」


「……お願いします」


……よかった。


少しでも。


旅費の足しになればいい。


「それにしても、単独でこれだけ討伐されているなら、護衛経験もおありですか?」


「……はい。以前、護衛依頼を受けたことがあります」


「そうなんですね」


お姉さんは。


冒険者証と。


依頼書を見比べた。


「今回の商隊は護衛経験や戦闘能力を重視されていますので、その点は面談でもお伝えするとよいと思います」


「……分かりました」


……面談か。


大丈夫かな。


◇


「それでは、護衛依頼についてご説明しますね」


お姉さんが。


依頼書を広げた。


「……お願いします」


「目的地は東の街です。商隊に同行し、道中の安全を確保していただく依頼になります」


「……はい」


「現在、必要な護衛人数が揃っていないため、出発日を調整しているところです」


「……なるほど」


……護衛。


商人を守りながら。


次の街まで移動する。


それなら。


東へ進める。


しかも。


報酬まで貰える。


「…………」


……いいじゃん。


『……顔に出ておるぞ』


「……え?」


「……はい?」


「……あっ、何でもないです!」


……もう。


今日は黙っててくれ。


俺は。


咳払いをした。


「……その護衛依頼って、俺でも受けられますか?」


「応募は可能ですよ」


「……おお!」


「ただし、正式な受注は商隊の責任者との面談後になります」


「……はい」


……そうだった。


「護衛は魔物を倒すだけでなく、馬車や荷物、商人の方々を守る仕事ですから」


「……分かります」


……そりゃそうだ。


俺一人じゃ。


全部は無理だ。


「……ほかにも護衛の人はいるんですよね?」


「はい。すでに何名か集まっています。今回は、その方々と協力していただく形になります」


「……それなら」


……少し。


安心だ。


レオたちと。


旅をしていた頃みたいに。


仲間と協力して戦える。


……まあ。


今度は。


初対面の人たちだけど。


「……詳しい話、聞いてもいいですか?」


「もちろんです」


受付のお姉さんが。


依頼書の下の方を示した。


集合場所。


出発予定日。


そして。


報酬。


「…………」


……おお。


思っていたより。


悪くない。


『……また報酬を見ておるな』


「……見てない」


「……え?」


「……あっ!」


……駄目だ。


今日は。


本当に駄目だ。


俺は。


慌てて依頼書へ目を戻した。


「……あの、応募したいです」


「承知しました。では、明日こちらへお越しください」


「……明日?」


「はい。商隊の責任者であるディラン様と、護衛の方々との顔合わせを予定しています」


「……分かりました」


……明日か。


少し緊張するな。


俺は。


依頼書をもう一度見た。


……護衛。


しかも。


知らない人たちと。


一緒に戦う。


「…………」


……大丈夫かな。


『……何を心配しておる』


「……いや」


俺は。


小さく呟いた。


「……俺、ちゃんと護衛できるかなって」


『……一人で戦えるようになってきたのであろう』


「……まあ、少しは」


『……ならば、今度は仲間と戦えばよい』


「…………」


……仲間と。


俺は。


少しだけ。


考えた。


レオ。


ミア。


ガルム。


あいつらと一緒にいた頃は。


自分が。


どれだけ助けられていたのか。


よく分かっていなかった。


一人になって。


初めて。


思い知った。


でも。


今なら。


前よりは。


役に立てるかもしれない。


「……よし」


『……うむ』


俺は。


受付のお姉さんへ頭を下げた。


「……明日、よろしくお願いします」


「はい。お待ちしています」


俺は。


ギルドを出た。


◇


夕暮れの街。


東の空が。


少しずつ暗くなっていく。


……ヴァルドさん。


もう少し。


待っててください。


今度こそ。


追いつきますから。


『……ノアよ』


「……何?」


『……明日の面談では、余計なことを言うでないぞ』


「……余計なこと?」


『……目を潰して、足を滑らせて、穴に落とす、などとな』


「……それ、俺の戦い方なんだけど」


『……だから心配しておるのだ』


「…………」


……確かに。


そのまま説明したら。


怪しいかもしれない。


「……じゃあ、何て言えばいいんだよ」


『……普通に魔法使いだと言えばよい』


「……それでいいの?」


『……その後は知らぬ』


「……おい!」


……まったく。


無責任な杖だ。


俺は。


宿屋へ向かって歩き出した。


……明日は。


初対面の冒険者たちと。


顔合わせ。


「…………」


……普通の魔法使い。


普通の魔法使い。


よし。


まずは。


そこからだ。


……嘘は。


ついてないからな。



ここまで読んでくださり本当にありがとうございます!

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