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『魔法が飛ばせないので、杖でぶん殴ることにした ~落ちこぼれ魔法使い、なぜか最強の槌使いと呼ばれる~』  作者: 蝶野摩矢


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第51話 魔法の可能性は足元にあります

「……落とし穴か」


俺は。


東へ続く街道を歩きながら。


足元を見た。


……うん。


悪くない。


氷で滑らせることができたんだ。


だったら。


土魔法で穴を作れば。


魔物の動きを止められるんじゃないか?


『……何を考えておる』


「……落とし穴」


『……また罠か』


「……魔法の応用だよ」


『……言い方を変えておるだけではないか?』


「……違うって」


俺は。


真剣なんだ。


魔法が飛ばない。


だったら。


飛ばさなくても使える方法を探す。


それだけだ。


……別に。


卑怯な戦い方を目指しているわけじゃない。


『……目を潰し、足を滑らせ、次は穴に落とすのか』


「…………」


……言い方。


『……なかなか恐ろしい魔法使いになってきたな』


「……普通の魔法使いを目指してるんだけど」


『……道を間違えておらぬか?』


「……間違えてない!」


……たぶん。


◇


俺は。


街道から少し離れた。


人の通らない場所で。


実験を始めた。


「……よし」


アストラの先を。


地面に当てる。


土魔法。


魔力を流す。


ぼこっ。


地面が。


少し盛り上がった。


「…………」


……違う。


穴を作りたいんだ。


盛り上げてどうする。


『……土が増えたな』


「……見れば分かるよ」


俺は。


もう一度。


魔力を流した。


今度は。


地面を下げるイメージ。


ぐぐっ。


土が。


ゆっくり沈んでいく。


「……おっ」


……できた。


小さな。


くぼみ。


「……よし!」


『……浅いな』


「……最初だから!」


俺は。


さらに魔力を込めた。


ぐぐぐっ。


くぼみが。


少し深くなる。


「……おお!」


……いいぞ。


これなら。


魔物の足くらいは。


落とせるかもしれない。


俺は。


完成した穴を見た。


「…………」


……ただ。


問題がある。


『……何だ』


「……これ、丸見えだな」


『……うむ』


「……魔物、落ちるかな?」


『……避けるであろうな』


「……だよな」


……落とし穴って。


穴を作るだけじゃ駄目なんだな。


隠さないと。


意味がない。


「……草でもかぶせるか」


俺は。


周囲の草を集めた。


穴の上に。


そっと置く。


「…………」


……うん。


怪しい。


ものすごく怪しい。


『……何だ、あれは』


「……落とし穴」


『……誰が見ても分かるな』


「……言うなよ!」


……難しい。


罠って。


作るだけでも大変なんだな。


◇


それから。


何度か試した。


穴を小さくする。


深さを調整する。


土を周囲へ逃がす。


……すると。


少しずつ。


地面の変化が。


目立たなくなってきた。


「……よし」


俺は。


小さな穴を見た。


……これなら。


魔物の足が入れば。


一瞬くらい。


動きが止まるかもしれない。


『……随分と小さくなったな』


「……いいんだよ」


俺は。


アストラを持ち上げた。


「……魔物を丸ごと落とす必要はないんだ」


『……ほう』


「……足が引っかかれば、それでいい」


一瞬。


動きが止まる。


それだけで。


俺には十分だ。


……だって。


当たりさえすれば。


倒せるんだから。


「……これなら使えそうだ」


『……うむ』


俺は。


少し満足した。


……よし。


次は。


実戦だな。


◇


しばらく進むと。


街道の脇に。


魔物が一匹いた。


「……いた」


俺は。


足を止めた。


……ちょうどいい。


相手は。


小型の魔物。


今までにも。


何度か戦った種類だ。


「……試してみるか」


『……うむ』


俺は。


魔物から少し離れた場所で。


地面に杖先を当てた。


土魔法。


小さな穴を作る。


……よし。


準備完了。


「……来い」


魔物が。


こちらに気づいた。


低く唸る。


そして。


駆け出した。


……そのまま。


そのまま。


「…………」


魔物が。


穴へ近づく。


……あと少し。


あと。


一歩。


すっ。


「……え?」


魔物が。


穴を避けた。


「…………」


……避けた?


『……避けたな』


「……見れば分かる!」


……くそ。


やっぱり。


分かるのか。


魔物が。


飛びかかってきた。


「……っ!」


俺は。


横へずれた。


そして。


アストラを振る。


ごっ!!


魔物が。


地面に倒れた。


そのまま。


動かなくなる。


「…………」


……倒せた。


でも。


「……罠、使えなかったな」


『……うむ』


「……難しいな」


俺は。


穴を見た。


……もっと。


自然に見せないと。


駄目か。


いや。


待てよ。


俺は。


ふと思った。


……そもそも。


穴を隠す必要って。


あるのか?


『……何だ』


「……魔物が避けるなら」


俺は。


地面を見つめた。


「……避ける方向を決められるんじゃないか?」


『……ほう』


「……こっちに穴があったら、反対側に動くだろ?」


『……そうだな』


「……だったら、その先で待てばいい」


『……なるほど』


……そうだ。


必ずしも。


落とす必要はない。


相手が。


どう動くか。


分かればいい。


「……これも使い方次第だな」


『……お主、随分と悪知恵が働くようになったな』


「……工夫だよ!」


『……紙一重だな』


「……それ、昨日も言われた気がする!」


俺は。


倒した魔物から。


討伐の証明になる部位を回収した。


そして。


作った穴を。


土魔法で埋め直す。


……誰かが落ちたら。


大変だからな。


『……そこは真面目なのだな』


「……当たり前だろ」


『……自分が落ちるのは構わぬのか?』


「……構わなくない!」


……本当に。


何を言っても。


返してくるな。


◇


それから。


しばらく歩いた。


「…………」


……腹減った。


俺は。


荷物を背負い直した。


もう何日も。


硬いパンと。


保存食ばかりだ。


「……そろそろ温かい飯が食いたい」


『……またその話か』


「……大事なことだろ」


『……そうであるな』


「……珍しく素直だな」


『……腹が減っておるのであろう?』


「……そうだけど」


『……ならば食えばよかろう』


「……だから、どこで?」


『…………』


「……ほら」


……このやり取り。


何回目だろう。


俺は。


ため息をついた。


……ヴァルドさん。


どこまで行ったんだろうな。


追いかけているつもりなのに。


全然。


距離が縮まっている気がしない。


でも。


一人で旅を始めた頃よりは。


少しだけ。


戦えるようになった。


照明魔法。


氷の罠。


土魔法。


どれも。


完璧じゃない。


でも。


使い方は分かってきた。


「……まあ、焦っても仕方ないか」


『……そうだな』


「……まずは次の街だな」


そう呟いたとき。


前方の景色が。


少し開けた。


「…………」


……ん?


俺は。


目を細めた。


遠くに。


建物が見える。


その周囲には。


高い壁。


そして。


街道の先にある。


大きな門。


「…………」


……あれ。


「……アストラ」


『……何だ』


「……街じゃない?」


『……そのようだな』


「…………」


……街。


「……街だ!」


思わず。


声が大きくなった。


「……やっと着いた!」


『……うむ』


「……温かい飯!」


『……最初にそれか』


「……当たり前だろ!」


俺は。


少し早足になった。


……いや。


走った。


『……そんなに急がずとも街は逃げぬぞ』


「……飯が逃げるかもしれないだろ!」


『……どのような理屈だ!』


……知らない。


とにかく。


今は。


温かい飯が食いたい。


◇


街の門をくぐった。


「…………」


……人がいる。


当たり前だけど。


人がいる。


店がある。


建物がある。


そして。


いい匂いがする。


「…………」


俺は。


思わず足を止めた。


通りの向こう。


食堂らしい店から。


湯気が上がっている。


「……アストラ」


『……何だ』


「……あそこ」


『……食堂だな』


「……行っていい?」


『……我に許可を求めるな』


「……じゃあ行く!」


……いや。


待て。


俺は。


足を止めた。


「…………」


……ヴァルドさん。


そうだ。


まずは。


ヴァルドさんの情報だ。


食事は。


そのあとでもいい。


「……先にギルドだな」


『……珍しく我慢したな』


「……俺だって優先順位くらい分かるよ」


『……そうであったか』


「……どういう意味?」


……まあいい。


俺は。


通りを歩きながら。


冒険者ギルドを探した。


◇


「……すみません」


「はい。ご用件は?」


受付にいたのは。


若い女性だった。


「…………」


……綺麗な人だな。


いや。


今はそれどころじゃない。


「あの……人を探していて」


「お探しの方のお名前は?」


「……ヴァルドさんです」


「ヴァルド様ですね。冒険者の方でしょうか?」


「……はい。大剣を使う人で」


お姉さんが。


少し考えた。


「ああ、あの方ですね」


「……えっ!」


……知ってる?


「こちらには数日前に立ち寄られていますよ」


「……本当ですか!?」


「はい」


……いた。


ちゃんと。


この街を通ってたんだ。


「……今は、どこに?」


「すでに東へ向かわれました」


「…………」


……東。


「……また東ですか」


「はい。魔物の出現数が増えている件を調査されると伺っています」


「……なるほど」


……やっぱり。


ヴァルドさんは。


魔物の異常を追っているんだ。


「……いつ頃、出発したんですか?」


「数日前ですね」


「……そうですか」


……数日。


まだ。


追いつける距離なのかな。


『……どうするつもりだ』


……追いかけるよ。


もちろん。


「……あの」


「はい?」


「……東へ向かう馬車って、ありますか?」


「馬車ですか?」


「……はい」


「現在、東街道は魔物の出現が増えていますので、運行を見合わせている馬車も多いんです」


「…………」


……あ。


そうなんだ。


「……じゃあ、歩くしかないですか?」


「護衛を十分に確保できれば、出発する商隊もあると思いますよ」


「……護衛」


「はい。詳しくは、馬車の乗り場で確認されるとよいかと」


「……分かりました」


俺は。


頭を下げた。


「……ありがとうございます」


「いえ。お気をつけて」


お姉さんが。


微笑んだ。


「…………」


……眩しい。


『……何を固まっておる』


「……うるさい」


「え?」


「……あっ! 何でもないです!」


……またやった。


◇


ギルドを出て。


俺は。


馬車の乗り場へ向かった。


そこには。


何台かの馬車が並んでいた。


……よかった。


馬車はある。


俺は。


近くにいた男へ声をかけた。


「……すみません」


「ん? どうした?」


「……東へ向かう馬車って、ありますか?」


男は。


少し困った顔をした。


「東か……」


「……はい」


「今は出せないな」


「…………」


……やっぱり。


「……魔物が増えてるからですか?」


「ああ。少人数じゃ危なくてな。護衛が集まれば出せるんだが」


「……護衛」


「そうだ。馬車を出したくても、安全が確保できなきゃどうにもならん」


「……なるほど」


……困ったな。


俺は。


東へ続く街道を見た。


ここまで。


一人で歩いてきた。


でも。


魔物の数は。


確かに増えていた。


一匹なら。


何とかなる。


二匹なら。


工夫次第かもしれない。


……大量に出てきたら。


今だって。


逃げるしかない。


「…………」


……無理して進むのは。


違うよな。


『……どうするのだ』


「……考えてる」


『……うむ』


……護衛。


そういえば。


ギルドには。


護衛の依頼もあったな。


「……なあ、アストラ」


『……何だ』


「……東へ向かう護衛依頼、出てるかな」


『……ギルドで確認すればよかろう』


「……だよな」


俺は。


馬車の乗り場から離れた。


……護衛依頼なら。


馬車に乗って東へ向かえる。


それに。


一人で歩くより。


安全かもしれない。


「……よし」


俺は。


再びギルドへ向かって歩き出した。


その途中。


さっきの食堂が。


目に入った。


「…………」


……あ。


忘れてた。


温かい飯。


『……どうした』


「……いや」


俺は。


食堂の看板を見た。


それから。


ギルドのある方向を見る。


「…………」


……依頼は。


逃げないよな。


『……何を考えておる』


「……腹が減っては戦ができぬって言うだろ?」


『……先ほどまで、ギルドへ向かうと言っておらなんだか?』


「……まずは腹ごしらえだ!」


『……結局そうなるのか!』


俺は。


食堂の扉を開けた。


温かい料理の匂いが。


一気に広がる。


「…………」


……ああ。


やっと。


まともな飯だ。


俺は。


空いている席へ向かった。


……ギルドは。


食べ終わってからにしよう。


たぶん。


それくらいは。


許される。



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