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『魔法が飛ばせないので、杖でぶん殴ることにした ~落ちこぼれ魔法使い、なぜか最強の槌使いと呼ばれる~』  作者: 蝶野摩矢


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50/63

第50話 工夫と悪知恵は紙一重です

「……さて」


俺は。


東へ続く街道を歩きながら。


アストラを見た。


『……何だ』


「……次は何を試そうかな」


『……まだやる気か』


「……当たり前だろ」


照明魔法。


あれは。


思った以上に使えた。


……最初は。


自分が食らったけど。


でも。


おかげで。


大量の魔物から逃げられた。


つまり。


魔法は飛ばせなくても。


使い方次第で。


戦いに役立つ。


「……次は水かな」


『……水?』


「……ああ」


俺は。


少し考えた。


水魔法。


杖先から水を出すことはできる。


ただし。


遠くへ飛ばすことはできない。


……水をかけて。


どうする?


「…………」


魔物を濡らす?


『……何を考えておる』


「……水で魔物を倒す方法」


『……溺れさせるのか?』


「……そんな大量の水、どうやって出すんだよ」


『……我に聞くな』


「…………」


……まあ。


そうだよな。


俺は。


歩きながら考えた。


水。


水か。


……そういえば。


冬になると。


道が凍って。


滑ることがあったな。


「…………」


……ん?


凍る。


滑る。


「……あ」


『……どうした』


「……水って、凍らせられないかな」


『……凍らせる?』


「……ああ」


水を出して。


冷やす。


氷にする。


……できるか?


そもそも。


俺は氷魔法なんて。


使ったことがない。


でも。


水魔法は使える。


水を凍らせるくらい。


できてもよさそうな気がする。


「……試してみるか」


『……またか』


「……まただよ」


俺は。


街道から少し離れた。


人のいない場所を探す。


……さすがに。


道の真ん中でやったら。


誰かが転ぶかもしれない。


俺だって。


そこまで馬鹿じゃない。


『……本当に大丈夫なのか?』


「……大丈夫だって」


『……その言葉は信用できぬ』


「……ひどくない?」


◇


「……よし」


俺は。


地面にアストラの先を向けた。


まずは。


水魔法。


杖先から。


水が流れ出す。


地面に。


小さな水たまりができた。


「……ここまでは簡単なんだよな」


『……うむ』


問題は。


ここからだ。


……冷やす。


水を。


凍るくらいまで。


冷たくする。


俺は。


水たまりに杖先を触れさせた。


魔力を流す。


「…………」


……冷たく。


冷たく。


「…………」


何も起きない。


「……あれ?」


『……水だな』


「……見れば分かるよ」


……もう少し。


魔力を込める。


水面が。


小さく揺れた。


「……お?」


さらに。


魔力を流す。


しかし。


水は。


ただ広がるだけだった。


「…………」


……あれ?


『……増えただけではないか?』


「……そうみたいだな」


俺は。


水たまりを見つめた。


……違うな。


ただ水魔法を強くしても。


水が増えるだけだ。


「……冷やすって、どうやるんだ?」


『……我に聞かれてもな』


「……伝説の杖なのに?」


『……伝説の杖は便利な教科書ではない!』


「……そうですか」


……じゃあ。


自分で考えるしかない。


俺は。


アストラを持ち上げた。


水魔法を止める。


「…………」


……冷たさ。


冬の朝。


吐く息が白くなるような。


凍える空気。


ああいうものを。


杖先から出せないだろうか。


俺は。


魔力を集めた。


水を出すのとは。


少し違う感覚で。


「…………」


すると。


ふわっ。


杖先から。


白い霧のようなものが漏れた。


「……ん?」


『……ほう』


「……何これ」


俺は。


そっと手を近づけた。


「……冷たっ!」


慌てて。


手を引っ込める。


「……おお!」


『……冷気のようだな』


「……冷気?」


俺は。


アストラを見た。


杖先から。


白い冷気が流れ出している。


「……できた!」


『……何がだ』


「……冷たくするやつ!」


『……何とも曖昧な説明だな』


「……いいだろ、できたんだから!」


……でも。


これだけじゃ。


ただ冷たいだけだ。


俺は。


地面の水たまりを見た。


「…………」


……あ。


もしかして。


「……これを水に当てたら?」


『……試してみればよかろう』


「……だな」


俺は。


水たまりへ。


アストラの先を近づけた。


冷気が。


水面に触れる。


「…………」


……あれ。


何も起きない。


「……弱いのかな」


『……そのようだな』


「……だったら」


俺は。


もう一度。


杖先に魔力を集中させた。


冷気が。


さらに強くなる。


白い霧が濃くなり。


杖先に。


小さな霜が付いた。


「……お?」


そのまま。


水面へ近づける。


ぱきっ。


「…………」


……ん?


水たまりの端に。


薄い白いものが広がった。


「……これ」


俺は。


しゃがみ込んだ。


指で。


そっと触れる。


「……冷たっ!」


『……どうした』


「……凍ってる!」


薄い氷が。


水面に張っていた。


「……できた!」


『……ほう』


「……俺、氷魔法も使えるじゃん!」


『……水と冷気を組み合わせたわけか』


「……そういうこと!」


俺は。


凍った水たまりを見つめた。


水魔法で。


水を作る。


そこへ。


強い冷気を当てる。


すると。


氷になる。


……なるほど。


「……氷魔法って、こういうことか」


『……少なくとも、お主にはそのやり方が合っておるようだな』


「……だな!」


……よし。


だったら。


もう少し広げてみよう。


俺は。


アストラを握り直した。


水を増やす。


そして。


杖先に冷気を集める。


水面に近づけると。


ぱきっ。


ぱきぱきっ。


氷が。


少しずつ広がっていく。


「……おお!」


……すごい。


ちゃんと。


凍ってる。


「……これなら魔物の足元を――」


ずるっ。


「……え?」


足が。


滑った。


「うわああっ!?」


どさっ!


「…………」


……痛い。


俺は。


地面に仰向けになっていた。


『…………』


「…………」


『……何をしておる』


「……転んだ」


『……見れば分かる』


「……じゃあ聞くなよ!」


……くそ。


いつの間にか。


自分の足元まで。


凍っていたらしい。


俺は。


ゆっくり起き上がった。


「……危なかった」


『……お主が作った氷であろう』


「……そうだけど」


『……自分で作った罠に自分でかかるとはな』


「……まだ実験中だから!」


『……魔物が見ておらずよかったな』


「…………」


……それは。


本当にそう思う。


◇


俺は。


凍っていない場所へ移動した。


「……もう一回」


『……まだやるのか』


「……ちゃんと使えるようになりたいからな」


俺は。


アストラの先を。


地面に向けた。


まずは。


水魔法。


自分から少し離れた場所に。


水たまりを作る。


そして。


冷気。


「…………」


杖先に。


魔力を集める。


水面へ近づけると。


ぱきっ。


薄い氷が張った。


「……よし」


……できた。


さっきより。


少し狭い。


でも。


これでいい。


俺は。


凍った地面を見つめた。


「……これなら、魔物を滑らせられるかも」


『……待ち伏せでもするのか?』


「……そうなるな」


『……都合よく来るとは限らぬぞ』


「……分かってる」


……だから。


実戦で使うには。


まだ工夫が必要だ。


水を出して。


冷気を集めて。


凍らせる。


今の俺では。


それぞれを。


順番にやるしかない。


魔物が目の前にいたら。


悠長に準備なんてできない。


「……難しいな」


『……うむ』


「……でも、できないわけじゃない」


……それに。


もっと練習すれば。


水と冷気を。


同時に扱えるかもしれない。


そうなれば。


杖先から直接。


氷を作ることだって……。


「…………」


……いや。


さすがに。


まだ早いか。


今は。


凍らせるだけで精いっぱいだ。


俺は。


アストラを担ぎ直した。


「……とりあえず、試せる相手がいたら使ってみよう」


『……うむ』


◇


しばらく。


東へ進んだ。


途中。


小さな魔物を一匹倒した。


以前なら。


相手が飛びかかってくるまで。


待つしかなかった。


でも。


今は。


少しだけ違う。


相手の動きを見て。


避ける。


そして。


確実に殴る。


ごっ!!


「……よし」


魔物が。


地面に倒れた。


……一匹なら。


だいぶ慣れてきたな。


俺は。


討伐の証明になる部位を回収した。


『……順調だな』


「……だな」


……まあ。


油断はしないけど。


そのとき。


がさっ。


「……ん?」


少し離れた草むらが。


揺れた。


魔物が。


一匹。


姿を現した。


「…………」


……ちょうどいい。


俺は。


周囲を確認した。


ほかの魔物はいない。


街道からも。


少し離れている。


「……アストラ」


『……何だ』


「……さっきの、試してみよう」


『……氷か』


「……ああ」


俺は。


魔物との距離を確かめた。


……まだ。


こちらには気づいていない。


今なら。


準備できる。


俺は。


地面に杖先を向けた。


水魔法。


水が。


地面に広がる。


次に。


冷気。


杖先へ。


魔力を集中させる。


水たまりに。


強い冷気を当てる。


ぱきっ。


ぱきぱきっ。


薄い氷が。


広がっていく。


「……よし」


魔物が。


こちらに気づいた。


低く唸る。


「…………」


俺は。


氷を挟んだ反対側へ移動した。


……これなら。


俺に飛びかかるには。


あそこを通るしかない。


『……なるほど』


「……だろ?」


俺は。


アストラを構えた。


「……来い」


魔物が。


走り出す。


……そのまま。


そのまま。


氷の上へ。


前足が。


凍った地面を踏んだ。


ずるっ。


「……おっ!」


魔物の身体が。


横へ傾いた。


そのまま。


どさっ!


地面に転がる。


「……今だ!」


俺は。


踏み込んだ。


ただし。


氷の上には乗らない。


横から。


アストラを振り下ろす。


ごっ!!


魔物が。


動かなくなった。


「…………」


……倒した。


俺は。


氷を見た。


それから。


魔物を見た。


「……成功した?」


『……そのようだな』


「……成功した!」


思わず。


声が大きくなった。


「……これ、使えるじゃん!」


『……うむ』


「……魔物が勝手に転んでくれるなら、殴りやすい!」


『……お主も転んでおったがな』


「……それは言わなくていいだろ!」


……まあ。


確かに。


自分も滑った。


でも。


今度は違う。


ちゃんと。


魔物だけを転ばせた。


……いや。


正確には。


魔物が通る場所に。


氷を作った。


それだけだ。


俺は。


倒した魔物から。


討伐の証明になる部位を回収した。


……荷物が。


また少し重くなったな。


「…………」


……なるほど。


俺は。


少し考えた。


今までは。


魔物が近づいてきたら。


避けて。


殴る。


それしかなかった。


でも。


こうすれば。


相手の動きを。


少しだけ。


こっちで決められる。


「……これ、結構大きいんじゃないか?」


『……使いどころ次第であろうな』


「……だよな」


準備に時間がかかる。


場所も選ぶ。


それに。


自分が滑る危険もある。


……でも。


使える。


俺は。


アストラを握り直した。


「……よし」


『……何だ』


「……次は土魔法だな」


『……また実験か』


「……ああ」


俺は。


足元の地面を見た。


……土なら。


穴とか。


作れないかな。


「……落とし穴とか、よさそうじゃない?」


『……ほう』


「……魔物が落ちたところを殴ればいいし」


『……なるほど』


「……しかも、氷みたいに滑らない」


『……そうだな』


「……よし。次はそれだ!」


『……一つ聞いてよいか』


「……何?」


『……お主は魔法使いなのだな?』


「……そうだけど?」


『……最近、罠ばかり作っておらぬか?』


「…………」


……言われてみれば。


照明魔法で。


目くらまし。


水と冷気で。


滑る罠。


次は。


落とし穴。


「…………」


……まあ。


いいか。


「……魔法で作ってるんだから、魔法使いだろ」


『……そういうものか?』


「……そういうものだよ」


俺は。


東へ続く道を見た。


……ヴァルドさん。


まだまだ。


追いつけそうにないけど。


少しずつ。


一人で戦えるようには。


なってきた。


……次の街まで。


あとどれくらいだろう。


俺は。


荷物を背負い直した。


「……さて、行くか」


『……うむ』


……ただ。


次の実験では。


自分が落とし穴に落ちないようにしよう。


さすがに。


それは。


笑えない。



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