第49話 得意魔法は強力です
四方から。
魔物たちが。
地面を蹴った。
「うわあああっ!?」
俺は。
咄嗟に身体をひねった。
目の前を。
一匹が飛び抜ける。
「……危なっ!」
だが。
避けた先にも。
別の魔物がいた。
「……っ!」
アストラを。
横に振る。
ごっ。
鈍い音とともに。
魔物が吹き飛んだ。
「……よし!」
『……後ろだ!』
「……え?」
振り返る。
そこには。
すでに飛びかかってきた魔物がいた。
「……うわっ!」
俺は。
アストラを身体の前に出した。
がんっ。
牙が。
杖にぶつかる。
『……また盾にしたな!?』
「……今それ言う!?」
腕に。
重い衝撃が走った。
「……くそっ!」
そのまま。
魔物を押し返す。
しかし。
今度は。
右から。
二匹。
「……ちょっと!」
俺は。
慌てて後ろへ跳んだ。
一匹は避けた。
だが。
もう一匹の爪が。
足をかすめる。
「……痛っ!」
『……囲まれておるぞ!』
「……見れば分かる!」
……まずい。
一匹なら。
倒せる。
でも。
倒している間に。
次が来る。
右を見れば。
左から。
前を見れば。
後ろから。
……これ。
どうすればいいんだ?
◇
「……はあ……はあ……」
俺は。
アストラを構え直した。
魔物たちは。
一定の距離を保ちながら。
周囲を回っている。
「…………」
……何だよ。
さっきまで。
あんなに飛びかかってきたのに。
今度は。
近づいてこない。
『……様子を見ておるようだな』
「……嫌なこと言うなよ」
『……事実であろう』
「…………」
……確かに。
こいつら。
ただ突っ込んでくるだけじゃない。
俺が。
杖を振れば。
離れる。
動きを止めれば。
近づいてくる。
……まるで。
俺が疲れるのを。
待っているみたいだ。
「……頭いいな、お前ら」
魔物が。
低く唸った。
「……褒めてないからな」
『……伝わっておらぬと思うぞ』
「……知ってるよ!」
そのとき。
一匹が。
飛びかかってきた。
「……っ!」
俺は。
短く持ったアストラを振る。
ごっ。
魔物が。
地面に転がった。
……当たった!
だが。
喜ぶ暇はなかった。
「……うわっ!」
背後から。
別の魔物が迫る。
俺は。
地面を蹴った。
どうにか避ける。
……危ない。
危なすぎる。
「……レオたち、よくこんなの相手にしてたな」
『……お主も一緒に戦っておったであろう』
「……俺は殴ってただけだよ!」
……本当に。
そうだったんだな。
レオが。
敵の注意を引いて。
ミアが。
動きを制限して。
ガルムが。
攻撃を防いでくれていた。
だから。
俺は。
殴ることだけを考えていられた。
「…………」
……今さらだけど。
三人とも。
すごかったんだな。
◇
魔物たちが。
再び動き始めた。
「……っ!」
一匹。
二匹。
さらに。
後ろからも。
「……無理だって!」
俺は。
アストラを振り回した。
一匹が。
吹き飛ぶ。
だが。
空振りも多い。
……駄目だ。
このままじゃ。
体力がもたない。
「……何か……何かないか……」
魔物が。
飛びかかってきた。
「……っ!」
俺は。
横へ転がった。
牙が。
すぐ横を通り過ぎる。
「……はあ……はあ……」
……駄目だ。
このままじゃ。
体力がもたない。
魔法。
何か。
使える魔法は……。
火。
水。
風。
土。
……どれも飛ばない。
「……くそっ!」
別の魔物が。
地面を蹴った。
俺は。
アストラを振る。
だが。
魔物は。
軽々と避けた。
「……っ!」
……まただ。
当たらない。
こいつらが。
少しでも動きを止めてくれれば……。
「…………」
……待てよ。
動きを。
止める?
その瞬間。
今朝の光景が。
頭をよぎった。
真っ白になった視界。
何も見えなくなった自分。
「…………」
……あれだ!
魔物たちが。
一斉に。
距離を詰めてくる。
俺は。
アストラを前へ突き出した。
『……ノア?』
「……目を閉じれば!」
杖先に。
魔力を集める。
光が。
急速に強くなった。
『……おい、まさか!』
「……照明!」
俺は。
顔を背け。
目を強く閉じた。
カッ!!
まぶたの向こうまで。
白く染まった。
周囲から。
魔物たちの悲鳴が響いた。
「…………」
……どうだ?
恐る恐る。
目を開ける。
魔物たちは。
足を止めていた。
顔を振る奴。
地面を転がる奴。
ふらふらと。
見当違いの方向へ歩く奴。
「……効いた?」
『……そのようだな』
「……よし!」
俺は。
アストラを握り直した。
……今だ。
魔物たちの間に。
隙間ができている。
俺は。
そこへ向かって走り出した。
だが。
目の前に。
一匹。
ふらつく魔物がいた。
「……邪魔!」
アストラを。
短く振る。
ごっ。
魔物が。
横へ吹き飛んだ。
……当たった。
しかも。
避けられなかった。
「…………」
……そうか。
相手が。
こっちを見られなければ。
俺の攻撃も。
避けられない。
『……ノア!』
「……あっ!」
……今は逃げるんだった。
俺は。
街道へ向かって。
全力で走った。
◇
「……はあ……はあ……はあ……」
どれくらい。
走っただろう。
俺は。
ようやく足を止めた。
後ろを振り返る。
「…………」
……追ってきてない。
「……助かった……」
その場に。
座り込む。
足が。
少し震えていた。
……怖かった。
本当に。
死ぬかと思った。
『……無事のようだな』
「……何とかな」
俺は。
傷ついた足に。
アストラの先を当てた。
回復魔法を使う。
淡い光が。
傷を包む。
「……ふう」
……でも。
一つ。
分かったことがある。
「……なあ、アストラ」
『……何だ』
「……照明魔法って、強いな」
『……使い方次第であろう』
「……だよな」
……今まで。
照明魔法なんて。
暗い場所を照らすためのものだと思っていた。
でも。
あんな使い方も。
できるんだな。
「……これ、結構すごい発見じゃない?」
『……そうかもしれぬな』
「……だろ?」
俺は。
アストラを見た。
「……しかも、魔力はまだまだ余裕あるし」
『……お主の魔力量ならば、当然であろうな』
「……これなら、何回でも使えそうだ」
『……ただし、周囲には気をつけるのだぞ』
「……周囲?」
『……味方まで目が見えなくなっては困るであろう』
「…………」
……あ。
確かに。
レオたちと一緒だったら。
全員まとめて。
目をくらませていたかもしれない。
「……一人だから使えたのか」
『……そういうことだ』
「……なるほど」
……一人で戦うのは。
大変なことばかりだと思っていた。
でも。
一人だからこそ。
使える戦い方もあるんだな。
俺は。
立ち上がった。
東へ続く街道を見る。
……まだ。
先は長い。
でも。
少しだけ。
前に進めた気がする。
「……よし。行くか」
『……うむ』
俺は。
アストラを肩に担いだ。
「……次は、もっと上手く使えるようになりたいな」
『……まずは自分の目を潰さぬことだ』
「……もうやらないって!」
『……今朝もそう言っておったぞ』
「…………」
……確かに。
俺は。
何も言い返せないまま。
東へ歩き出した。




