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『魔法が飛ばせないので、杖でぶん殴ることにした ~落ちこぼれ魔法使い、なぜか最強の槌使いと呼ばれる~』  作者: 蝶野摩矢


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第47話 折れないからって何してもいいわけじゃない

魔物が。


低く唸った。


「…………」


俺は。


アストラを握り直す。


……どうする。


近づけば逃げる。


隙を見せれば襲ってくる。


今までは。


レオたちがいた。


だから。


何も考えずに。


殴れていた。


でも。


今は違う。


『……どうするのだ』


「……考えてる」


『……相手は待ってくれぬぞ』


「……分かってるよ!」


魔物が。


一歩。


近づいた。


俺は。


アストラを構える。


……近づけないなら。


向こうから来るのを待つ。


それだけだ。


「……来い」


魔物が。


地面を蹴った。


「……っ!」


速い。


俺は。


杖を振ろうとした。


しかし。


魔物は。


急に進路を変えた。


「……うわっ!」


慌てて身体をひねる。


鋭い爪が。


腕をかすめた。


「……痛っ!」


服が裂け。


血が滲む。


「……くそ」


『……大振りしすぎだ』


「……分かってる!」


……今ので分かった。


俺は。


魔物を吹き飛ばそうとして。


いつも。


思い切り振っていた。


でも。


一人では。


そんな余裕はない。


魔物が。


再び身を低くする。


俺は。


杖を短く持ち直した。


「……もう一回」


今度は。


大きく振らない。


魔物が。


飛びかかってくる。


俺は。


半歩だけ。


横へずれた。


牙が。


目の前を通り過ぎる。


「……ここ!」


アストラを。


横から叩き込む。


ごっ。


鈍い音が響いた。


魔物の身体が。


地面を転がる。


そのまま。


動かなくなった。


「…………」


俺は。


しばらく。


杖を構えていた。


「……倒した?」


『……そのようだな』


大きく。


息を吐く。


「……怖っ」


たった一匹。


今までなら。


何度も倒してきた相手だ。


それなのに。


一人だと。


こんなに苦労する。


『……無事か』


「……ちょっと怪我した」


俺は。


傷口に杖先を当てた。


回復魔法を使う。


淡い光が。


腕を包む。


傷が。


ゆっくり塞がった。


「……ふう」


治せるからいい。


……いや。


よくない。


次も同じように。


避けられるとは限らない。


「……一発当てればいいって考え方、変えないとな」


『……ようやくか』


「……さっきから厳しくない?」


『……一人なのだから仕方あるまい』


「…………」


……そうだな。


俺は。


倒した魔物から。


討伐の証明になる部位を回収した。


荷物を背負い直す。


「……次の街まで、あとどれくらいだろ」


『……我に聞くな』


「……伝説の杖って、道案内もできないんだな」


『……我は地図ではない!』


……知ってるよ。


◇


それから。


しばらく歩いた。


道中。


魔物に遭遇することもあった。


最初は。


相手の動きを見て。


飛びかかってくるのを待った。


でも。


すべての魔物が。


正面から来るわけじゃない。


横から回り込む奴。


距離を取ったまま。


こちらをうかがう奴。


二匹で現れたこともあった。


「……無理無理無理!」


そのときは。


全力で逃げた。


『……戦わぬのか!』


「……二匹同時は無理だって!」


『……先ほど、一人で戦えるようになると言っておったではないか』


「……死なない範囲でな!」


幸い。


森の中までは追ってこなかった。


……いや。


普通に怖かった。


「……はあ……はあ……」


木の幹に。


背中を預ける。


「……なあ、アストラ」


『……何だ』


「……俺、今までよく生きてたな」


『……仲間がおったからな』


「…………」


……そうだな。


でも。


今は。


その三人がいない。


二匹相手に。


どう動けばいいのかさえ。


分からなかった。


「……一匹なら、何とかなると思ったんだけどな」


『……相手が増えれば、考えることも増えるのであろう』


「……簡単に言うなよ」


『……簡単だとは言っておらぬ』


「…………」


……そうだった。


俺は。


アストラを見た。


……でも。


ずっと逃げているわけにもいかない。


ヴァルドさんに追いつくには。


この先も。


一人で進むしかない。


「……少しずつ、慣れるしかないか」


『……うむ』


◇


翌日。


街道の脇で。


小さな魔物を見つけた。


こちらには。


まだ気づいていない。


「…………」


避けて通ることもできる。


でも。


一匹だ。


昨日のように。


二匹いるわけじゃない。


「……よし」


俺は。


アストラを構えた。


……まずは。


近づきすぎない。


相手の動きを見る。


魔物が。


こちらに気づいた。


低く唸る。


「……来い」


魔物が。


駆け出した。


俺は。


杖を握る手に力を込める。


……まだ。


まだだ。


魔物が。


飛びかかってきた。


「……今!」


半歩。


横へ。


そして。


杖を振る。


……が。


空振った。


「……え?」


魔物は。


思ったよりも。


低い位置を通り抜けていた。


「……うわっ!」


振り返る。


魔物が。


再び飛びかかってきた。


「……くそっ!」


俺は。


アストラを身体の前に出した。


がんっ。


魔物の牙が。


杖にぶつかる。


『うおっ!?』


「……っ!」


衝撃で。


腕が痺れた。


でも。


魔物の動きが。


一瞬だけ止まった。


「……そこ!」


杖先を。


そのまま押し込む。


ごっ。


魔物が。


地面に倒れた。


「…………」


……倒した。


俺は。


大きく息を吐いた。


「……今の、危なかったな」


『……お、お主!』


「……ん?」


『我を盾代わりに使ったな!?』


「……いや、咄嗟に」


『長きにわたる我が歴史の中で、このような屈辱を受けたのは初めてだぞ!』


「……え、初めてなの?」


『当然だ! 我は伝説の杖だぞ! 盾ではない!』


「……でも、お前、折れないだろ?」


『そういう問題ではない!』


「……俺も死にたくなかったし」


『……それは分かるが!』


「……まあ、助かったよ。ありがとな」


『…………』


「……アストラ?」


『……ふん。分かればよい』


「…………」


……何が?


ただ。


受け止めた衝撃まで。


消えるわけじゃない。


腕が。


まだ少し痛い。


「……毎回これやったら、腕がもたないな」


『……当然だ! 二度と我を盾代わりにするでないぞ!』


「……状況によるかな」


『状況によるな!』


「…………」


……面倒くさい杖だ。


俺は。


倒した魔物から。


討伐の証拠になる部位を回収した。


……少しずつだけど。


荷物が増えてきたな。


◇


その日の夕方。


俺は。


街道を歩きながら。


今日の戦いを思い返していた。


一匹なら。


何とか倒せる。


でも。


相手が二匹になっただけで。


逃げるしかなかった。


……逃げるのも。


立派な判断だ。


たぶん。


『……自分に言い聞かせておるな』


「……うるさい」


ただ。


少しだけ。


分かったことがある。


俺は。


今まで。


相手に近づいて。


思い切り殴ることしか考えていなかった。


でも。


一人だと。


それだけじゃ駄目だ。


相手がどう動くのか。


どこに隙ができるのか。


自分がどこに立つのか。


考えることが。


多すぎる。


「……魔法使いって、こんなに大変だったっけ」


『……普通の魔法使いは、そこまで近づかぬのではないか?』


「……それ言う?」


『……事実であろう』


「…………」


……否定できない。


でも。


魔法が飛ばせない以上。


俺は。


近づくしかない。


「……だったら、近づき方を考えないとな」


『……うむ』


……それに。


まだ試していないこともある。


火。


水。


風。


土。


俺は。


四属性の魔法が使える。


飛ばせないだけで。


魔法そのものが。


使えないわけじゃない。


「……なあ、アストラ」


『……何だ』


「……俺、殴ることばっかり考えてたけどさ」


『……うむ』


「……魔法も、もう少し使い方を考えたほうがいいよな」


『……今さらであるな』


「……本当に今日、厳しくない?」


『……いつもであろう』


「……自覚あったんだ」


……まあ。


それはともかく。


杖先でしか使えない魔法。


だからこそ。


できることも。


あるかもしれない。


……まだ。


何も思いつかないけど。


◇


「……疲れた」


『……またか』


「……仕方ないだろ」


街道から少し離れた場所に。


荷物を下ろす。


今日も。


ここで野営だ。


硬い地面。


夜中の物音。


硬いパン。


「……なあ、アストラ」


『……何だ』


「……そろそろ温かい飯が食いたい」


『……食えばよかろう』


「……どこで?」


『…………』


俺は。


周囲を見渡した。


右には森。


左には草原。


そして。


どこまでも続く街道。


「……店、どこにもないんだけど」


『……ならば街まで我慢するのだな』


「……お前、伝説の杖のくせに冷たいな」


『……温かい飯の話ではなかったのか?』


「……そういう意味じゃない!」


「……はあ」


俺は。


荷物から。


いつもの硬いパンを取り出した。


……またこれか。


「……明日こそ、何かうまいもの食いたいな」


『……街に着かねば無理であろう』


「……分かってるよ」


俺は。


パンをかじった。


……硬い。


焚き火の向こうに。


アストラを置く。


「…………」


……そういえば。


今日は。


魔物を倒すのに。


杖で殴ることしかしていなかった。


「……なあ、アストラ」


『……何だ。まだ飯の話か』


「……違うって」


俺は。


焚き火を見つめた。


「……俺、魔法使いなんだよな」


『……今さら何を言っておる』


「……いや、魔法が飛ばせないのは分かってるんだけどさ」


『……うむ』


「……別に、魔法が使えないわけじゃないんだよな」


『……そうであるな』


「……だったら、何かできることがあるんじゃないかって」


『……例えば?』


「…………」


……それを考えてるんだよ。


俺は。


焚き火の炎を見つめた。


火を起こすことはできる。


水も出せる。


風も起こせる。


土だって動かせる。


全部。


杖先だけだけど。


「……攻撃に使えなくても、何かできないかな」


『……試してみればよかろう』


「……簡単に言うなよ」


『……考えているだけでは分からぬこともあろう』


「…………」


……確かに。


俺は。


アストラを手に取った。


「……じゃあ、明日、何か試してみるか」


『……うむ』


「……できれば、痛い思いをしないやつで」


『……それはお主次第であろう』


「……だよな」


……まあ。


何もしなければ。


今のままだ。


明日は。


少し違うことを。


試してみよう。


そう考えながら。


俺は。


残りの硬いパンをかじった。


……やっぱり硬い。



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