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『魔法が飛ばせないので、杖でぶん殴ることにした ~落ちこぼれ魔法使い、なぜか最強の槌使いと呼ばれる~』  作者: 蝶野摩矢


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第44話 まだ奢ってないからな

「…………」


誰も。


答えなかった。


レオも。


ミアも。


ガルムも。


ただ。


俺を見ていた。


「…………」


何だよ。


その顔。


……俺は。


まだ。


一緒にいたいのに。


三人だって。


そう言ったのに。


「……もういい」


俺は。


吐き捨てた。


「ノア?」


ミアが。


俺を見た。


「……そんなに勧めるなら」


「…………」


「……だったらこんなパーティ、こっちから抜けてやる!」


言った。


言ってしまった。


「…………」


ミアの顔が。


強張った。


レオも。


目を見開いていた。


ガルムだけは。


いつもどおり。


静かだった。


……いや。


違う。


ガルムも。


少しだけ。


俯いていた。


「……ノア」


レオが。


俺の名前を呼ぶ。


「……何だよ」


「俺たちは、そんなつもりじゃ――」


「……分かってるって!」


声が大きくなった。


「……俺のためなんだろ!」


「…………」


「……分かってるよ、そんなこと!」


何を言っても。


三人が。


俺のことを考えているのは。


分かってしまう。


だから。


余計に。


苦しかった。


「……別に、俺だって!」


俺は。


三人を見た。


「……このパーティに、そんなに未練があるわけじゃないし!」


「…………」


嘘だ。


口にした瞬間。


分かった。


でも。


止まらなかった。


……そうだ。


嫌なところだって。


いっぱいある。


「……だいたい、レオは口うるさいし!」


「…………」


レオが。


黙った。


「……いっつも、危ないことするなとか、無茶するなとか!」


何度も。


注意された。


危ないことをするな。


無茶をするな。


一人で突っ込むな。


……うるさかった。


本当に。


うるさかった。


でも。


俺が。


無茶をしようとするたび。


本気で。


心配してくれたのも。


レオだった。


魔物に狙われたとき。


杖を振る隙がなかったとき。


いつも。


真っ先に駆けつけてくれた。


あいつが。


前にいてくれたから。


俺は。


安心して。


杖を振れた。


「……ミアは、いつも俺をからかってくるし!」


「…………」


ミアが。


唇を噛んだ。


「……人が真面目に話してても、すぐ茶化してくるし!」


何度も。


からかわれた。


言い返して。


また笑われて。


……腹が立った。


でも。


俺が。


本当に落ち込んでいるとき。


ミアは。


絶対に。


からかわなかった。


「……大丈夫だよ」


「……ノアには、ノアの戦い方があるでしょ」


そう言って。


いつも。


笑ってくれた。


くだらないことで。


言い合って。


結局。


みんなで笑っていた。


……そういう時間が。


嫌いじゃなかった。


「……ガルムなんか、全然喋らないし!」


「…………」


ガルムが。


俺を見る。


「……何考えてるか分かんないし!」


「…………」


「……返事も短いし!」


「…………」


「……肉のことばっかりだし!」


「…………」


ガルムが。


少しだけ。


目を伏せた。


「……すまん」


「謝るなよ! そういうところだよ!」


思わず。


叫んだ。


「…………」


何だよ。


本当に。


この人は。


でも。


戦うとき。


いつも。


大きな盾を構えていた。


多くは語らず。


黙って。


俺たちを守る。


今日だって。


あの鎧角獣の突進を。


真正面から。


受け止めてくれた。


ガルムが。


耐えてくれなかったら。


俺は。


あの一撃を。


当てられなかった。


口数は。


少ないくせに。


その背中は。


いつも。


頼もしかった。


「…………」


何だよ。


何だよ。


これ。


◇


視界が。


ぼやけた。


「…………」


あれ。


何だ。


目に。


何か入った?


俺は。


眼鏡を外した。


袖で。


目元を拭う。


「…………」


おかしい。


拭ったのに。


また。


ぼやける。


「……ノア」


ミアの声がした。


「……何だよ」


「…………」


「……何か言えよ」


ミアは。


答えなかった。


代わりに。


小さく。


鼻をすする音がした。


「…………」


俺は。


もう一度。


目元を拭った。


濡れていた。


「…………」


え?


何で?


俺。


泣いてる?


「…………」


何だよ。


意味分かんない。


別に。


何年も一緒にいたわけじゃない。


長い付き合いでもない。


たまたま。


一緒に依頼を受けて。


一緒に戦って。


一緒に飯を食って。


くだらない話をして。


それだけだ。


……それだけ。


だったはずなのに。


「…………」


そもそも。


俺が冒険者になったのは。


金を稼ぐためだった。


治療係を続けるより。


稼げると思ったから。


危ない目に遭うなら。


少しでも。


報酬が高いほうがいい。


そう思った。


ただ。


それだけだった。


なのに。


いつの間にか。


明日の依頼を。


四人で考えるのが。


当たり前になっていた。


レオが。


口うるさいのも。


ミアが。


俺をからかうのも。


ガルムが。


全然喋らないのも。


全部。


思い出せる。


全部。


いつものことだった。


全部。


当たり前になっていた。


「…………」


金を稼ぐために。


始めたはずなのに。


いつの間にか。


三人と。


一緒に帰るのが。


楽しみになっていた。


くだらない話をして。


飯を食って。


また明日も。


一緒に冒険する。


そんな毎日が。


ずっと。


続くと思っていた。


「…………」


ああ。


そうか。


俺。


こいつらが。


好きなんだ。


口うるさいレオも。


意地悪なミアも。


無口なガルムも。


全部。


好きなんだ。


「…………」


何だよ。


今さら。


気づくなよ。


そんなこと。


◇


「……ノア」


レオが。


一歩近づいた。


「……ごめんな」


「…………」


「お前を、傷つけるつもりじゃなかった」


「…………」


俺は。


首を振った。


「……違う」


「…………」


「……分かってるって」


声が。


うまく出なかった。


「……レオが、本気で俺を追い出したいわけじゃないのも」


「…………」


「お前らだって、こんなこと言いたくないのも」


「…………」


「……分かってんだよ」


分かってる。


本当は。


ずっと。


分かってた。


三人とも。


俺のことを。


ちゃんと。


考えてくれている。


それが。


嬉しくて。


でも。


寂しくて。


だから。


腹が立った。


「……俺さ」


俺は。


眼鏡をかけ直した。


「……誰にも文句を言わせない魔法使いになりたいんだよ」


レオが。


頷いた。


「ああ」


「……魔法が飛ばないってだけで、ずっと馬鹿にされてきたから」


「…………」


「……いつか、見返してやりたいんだ」


「…………」


「……でも」


俺は。


少しだけ。


笑った。


「……お前らと一緒にいるのも、結構好きだったんだよ」


「…………」


ミアが。


顔を覆った。


「……結構って、何よ」


「……そこ、突っ込む?」


「……突っ込むよ」


声が。


震えていた。


「……私たちは、すごく好きだったのに」


「…………」


何だよ。


それ。


反則だろ。


「……俺だって」


言いかけて。


止まった。


……いや。


もう。


隠す必要も。


ないか。


「……俺だって、すごく好きだったよ」


「…………」


ミアが。


泣いた。


声を押し殺して。


泣いた。


「…………」


ガルムは。


何も言わなかった。


ただ。


大きな手を。


俺の肩に置いた。


「……重い」


「……すまん」


「……だから、謝るなって」


「…………」


ガルムの手は。


離れなかった。


◇


しばらく。


誰も。


何も言わなかった。


夕方の風が。


少しだけ。


冷たかった。


「……なあ、レオ」


俺は。


口を開いた。


「何だ?」


「……ヴァルドさんたちって、強いんだよな」


「ああ」


「……俺なんかが、ついていけるかな」


「…………」


レオは。


少し笑った。


「ついていけるさ」


「……また簡単に言う」


「簡単じゃないのは分かってる」


「…………」


「でも、お前なら大丈夫だ」


「…………」


また。


それだ。


本当に。


この人は。


今日の戦いを。


思い出す。


鎧角獣。


ガルムの盾が。


軋んでいた。


ミアの矢が。


弾かれていた。


レオの剣も。


通じなかった。


それでも。


三人は。


必死に。


俺が杖を振る隙を。


作ってくれた。


……勝てた。


でも。


本当に。


ぎりぎりだった。


もし。


あいつが。


もう少し強かったら。


誰かが。


耐えられなかったら。


俺は。


殴れなかったかもしれない。


「…………」


ヴァルドさんは。


そんな俺を。


誘ってくれた。


魔法が飛ばないことも。


杖で殴ることも。


全部。


見たうえで。


一緒に来ないかと。


言ってくれた。


……嬉しかった。


本当に。


嬉しかった。


あの人たちとなら。


もっと強い魔物と。


戦えるのかもしれない。


俺自身も。


もっと。


強くなれるのかもしれない。


「…………」


……知りたい。


そう。


思ってしまった。


「…………」


……そっか。


俺。


本当は。


ちょっとだけ。


行ってみたかったんだ。


三人と。


別れたくない。


それは。


本当だ。


でも。


もっと強くなりたいのも。


本当なんだ。


「…………」


……どっちかを選ぶなんて。


考えたこともなかった。


ずっと。


四人で強くなっていけると。


思っていたから。


「…………」


……怖いな。


三人と別れるのも。


知らない場所へ行くのも。


でも。


行かなかったら。


きっと。


ずっと気になる。


あの人たちとなら。


自分は。


どこまで行けたんだろうって。


「…………」


それは。


嫌だった。


「……ミア」


「……何?」


「……俺、向こうでもちゃんと魔法使いやれるかな」


ミアが。


涙を拭った。


「できるよ」


「……杖で殴るけど」


「知ってる」


「……回復するときも、触らないとできないけど」


「それも知ってる」


「…………」


ミアが。


笑った。


「……それがノアでしょ」


「…………」


何だよ。


それ。


「……ガルム」


「……ああ」


「……俺、弱くないよな」


「…………」


ガルムは。


俺を見た。


「……強い」


「…………」


「……俺が、保証する」


「…………」


短い。


本当に。


短い言葉。


でも。


十分だった。


「…………」


俺は。


息を吸った。


そして。


ゆっくり。


吐いた。


「……このパーティ、抜けるよ」


「…………」


誰も。


すぐには。


答えなかった。


「……さっきみたいに、怒って言ってるわけじゃないから」


俺は。


続けた。


「……ヴァルドさんのところに行ってみる」


「…………」


「……もっと強くなりたいし」


「…………」


「……自分が、どこまでやれるのかも知りたい」


レオが。


静かに頷いた。


「……そうか」


「……うん」


「……自分で決めたんだな?」


「……うん」


俺は。


頷いた。


「……俺、もっと強くなってくる」


「…………」


「……誰にも文句を言わせない魔法使いになってくるから」


レオが。


頷いた。


「ああ」


「……だから」


俺は。


三人を見る。


「……お前らも、強くなっとけよ」


「…………」


「……次に会ったとき、俺だけ強くなってたら困るだろ」


ミアが。


涙を拭いながら。


笑った。


「……何それ」


「……事実でしょ」


「……負けないからね」


「……望むところ」


ガルムが。


頷いた。


「……鍛える」


「……うん」


「……肉も食う」


「…………」


何で。


そこで。


肉が出てくるんだ。


◇


「……あ」


俺は。


思い出した。


「……そういえば」


「どうした?」


レオが。


聞いてきた。


「……まだ奢ってないからな」


「…………」


三人が。


俺を見る。


「……飯」


「…………」


「……前に、奢るって言ったやつ」


ミアが。


目を丸くした。


「……そんなこと、今言う?」


「……大事でしょ」


「…………」


「……約束したし」


レオが。


小さく笑った。


「……ああ」


「…………」


「約束だ」


「……うん」


俺は。


頷いた。


「……いつか、絶対奢るから」


「…………」


「……だから、それまで忘れんなよ」


ミアが。


笑った。


涙を。


流したまま。


「……私、一番高いの頼むからね」


「……いや、限度はあるでしょ」


「約束したもん!」


「……高級店は駄目だからな」


「えー!」


「……普通の店!」


「けち!」


「……奢ってもらう側が言うなよ!」


ガルムが。


口を開いた。


「……肉」


「お前もかよ!!」


三人が。


笑った。


俺も。


笑った。


……泣きながら。


笑った。


◇


日が。


沈みかけていた。


街外れの広場。


いつもなら。


ここから。


四人で。


宿に戻る。


明日の依頼を。


相談して。


くだらない話をして。


また。


同じ一日を。


繰り返す。


でも。


明日からは。


きっと。


違う。


四人で。


同じ依頼を受けることは。


もう。


ないのかもしれない。


「…………」


俺は。


アストラを握った。


『…………』


珍しく。


何も言わない。


「……アストラ」


『……何だ』


「……俺、ちゃんと魔法使いになれるかな」


『…………』


少しだけ。


間があった。


『……お前は、すでに魔法使いであろう』


「…………」


「……そういう意味じゃないんだけど」


『……分かっておる』


「…………」


『……ならば、誰にも否定できぬほどの魔法使いになればよい』


「…………」


「……簡単に言うなあ」


『……我は伝説の杖だからな』


「…………」


何だよ。


その自信。


でも。


少しだけ。


安心した。


◇


「……じゃあ」


俺は。


三人を見る。


「……またな」


レオが。


頷いた。


「ああ。またな」


ミアが。


涙を拭いながら。


笑った。


「絶対、会おうね」


「……うん」


ガルムが。


片手を上げた。


「……またな」


「…………」


俺も。


手を上げた。


そして。


背を向けた。


一歩。


また。


一歩。


歩き出す。


「…………」


振り返らなかった。


振り返ったら。


また。


泣きそうだったから。


……いや。


もう。


泣いてるんだけど。


「…………」


『……泣いておるのか』


「……泣いてない」


『……そうか』


「……うん」


『……ならば、前を見ろ』


「…………」


俺は。


袖で。


目元を拭った。


「……分かってるよ」


◇


……俺は。


魔法が飛ばない。


普通の魔法使いみたいには。


戦えない。


でも。


それでも。


魔法使いだ。


いつか。


誰にも。


文句を言わせないくらい。


強くなってやる。


そして。


もう一度。


あいつらに会う。


そのときは。


俺も。


あいつらも。


今よりずっと。


強くなってるはずだ。


「…………」


……そうだ。


まだ。


奢ってないからな。


だから。


絶対に。


また会おう。


俺は。


アストラを握り直した。


そして。


夕暮れの街を。


歩き続けた。



ここまで読んでいただき、ありがとうございます!


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