第43話 別に不満なんかないけど
山道を。
歩いていた。
「……なあ、レオ」
「何だ?」
「……今回の報酬、銀貨十二枚だっけ」
「ああ」
「……四人で割ったら三枚か」
「そうだな」
「…………」
悪くない。
かなり。
悪くない。
「……お前、本当に金の話ばっかりだな」
レオが。
呆れたように笑った。
「……お金は大事でしょ」
「まあ、そうだけどな」
「……お金は裏切らないし」
「じゃあ、私たちは?」
ミアが。
横から聞いてきた。
「…………」
俺は。
少し考えた。
「……たまに裏切る」
「ひどっ!」
「……昨日の晩飯とか」
「…………」
ミアが。
目をそらした。
「……あれは、ほら」
「……何?」
「……いろいろあったんだよ」
「…………」
便利だな。
いろいろ。
「……奢る約束、忘れてないからね」
「ああ!」
ミアが。
笑った。
「私も絶対に忘れないから!」
「…………」
それは。
それで。
怖いんだけど。
「……肉」
ガルムが。
ぽつりと呟いた。
「……お前も?」
「……ああ」
「…………」
何だろう。
俺の財布が。
狙われている。
『……自分から言い出したのであろう』
「…………」
分かってるよ。
◇
今回の依頼は。
山道に現れる魔物の討伐。
最近。
商人の馬車が。
襲われているらしい。
「……足跡がある」
ミアが。
地面を指さした。
「……結構多いね」
「群れかもしれないな」
レオが。
剣を抜く。
ガルムも。
盾を構えた。
「……ノア、準備は?」
「……いつでも」
俺は。
アストラを握った。
『……うむ』
「…………」
相変わらず。
偉そうな杖だ。
しばらく進むと。
茂みが。
揺れた。
「来るぞ!」
レオの声。
次の瞬間。
魔物が。
飛び出してきた。
「……三体!」
ミアが。
矢を放つ。
一体の足に。
矢が刺さった。
動きが。
鈍る。
ガルムが。
別の一体を受け止めた。
「……ノア!」
「……はいよ!」
俺は。
アストラを振り下ろす。
鈍い音。
魔物が。
地面に倒れた。
続けて。
レオが。
一体を斬り伏せる。
最後の一体も。
ミアの矢で動きを止め。
俺が。
横から殴った。
「…………」
終了。
「……結構、楽だったね」
俺が言うと。
レオが。
笑った。
「連携がよくなってきたからな」
「……だよね」
「ノアの一撃も頼りになるし」
ミアが。
そう言った。
「……もっと褒めてもいいよ」
「調子に乗るからやめとく」
「…………」
ひどい。
『……事実であろう』
「…………」
お前もかよ。
◇
「……さて」
レオが。
剣を収めた。
「依頼の対象は倒したな」
「……じゃあ、帰る?」
「ああ。念のため周囲を確認してから――」
そのとき。
ガルムが。
盾を持ち直した。
「……待て」
「どうした?」
「……何か、来る」
山道の奥。
木々の向こうから。
低い音が。
聞こえてきた。
……何だ?
地面が。
揺れている。
「……大きいね」
ミアが。
弓を構えた。
次の瞬間。
木が。
一本。
倒れた。
さらに。
もう一本。
幹が。
折れる。
そして。
現れた。
「…………」
でかい。
さっきの魔物とは。
比べものにならない。
岩のような外殻。
太い四肢。
頭には。
湾曲した角。
その巨体が。
木々を押しのけながら。
山道へ出てきた。
「……何、あれ」
ミアの声が。
震えた。
レオが。
息を呑む。
「……嘘だろ」
「……知ってるの?」
「……鎧角獣だ。普通はもっと山奥にいる魔物だ」
「……ランクは?」
「……今の俺たちが正面から相手にする魔物じゃない」
「…………」
……なるほど。
高ランク。
ってことか。
鎧角獣が。
低く唸った。
その足元で。
石が。
砕ける。
「……撤退するぞ!」
レオが。
叫んだ。
ミアが。
後ろへ下がる。
俺も。
走ろうとした。
その瞬間。
鎧角獣が。
地面を蹴った。
「――っ!」
速い。
あの巨体で。
何だよ。
その速度。
「ガルム!」
「……おおっ!」
ガルムが。
盾を構える。
次の瞬間。
轟音。
「ぐっ……!」
ガルムの身体が。
後ろへ滑った。
足元の土が。
えぐれる。
「……ガルム!」
「……まだ、平気だ」
「…………」
いや。
平気そうには。
見えないんだけど。
レオが。
鎧角獣の側面へ回り込んだ。
「ミア! 目を狙え!」
「分かった!」
矢が。
飛ぶ。
だが。
鎧角獣は。
頭を振った。
矢が。
外殻に当たって。
弾かれる。
「……硬っ!」
レオの剣も。
同じだった。
刃が。
外殻を滑る。
「くそっ……!」
「…………」
……まずいな。
これ。
◇
「……ノア!」
レオが。
叫んだ。
「……分かってる!」
俺は。
アストラを構えた。
……ああ。
これ。
普通に殴ったら。
駄目なやつだ。
『……ようやく気づいたか』
「……何?」
『……あれの外殻は、先ほどの魔物とは比べものにならぬ』
「……見れば分かるよ」
『……ならば、どうする』
「…………」
……決まってる。
もっと。
魔力を込める。
俺は。
アストラに。
魔力を流した。
杖に埋め込まれた魔石が。
淡く光り始める。
「…………」
まだ。
足りない。
ヴァルドさんに。
勧誘されたとき。
あの魔物を。
殴った。
あのときより。
もっと。
必要だ。
さらに。
魔力を流し込む。
魔石の光が。
強くなる。
アストラの表面に。
淡い光が走った。
『……ノア』
「……何?」
『……周囲を見ろ』
「…………」
俺は。
顔を上げた。
レオ。
ミア。
ガルム。
三人とも。
すぐ近くにいる。
『……お主の一撃は、魔物だけに影響するとは限らぬ』
「…………」
……ああ。
そうか。
こいつを。
本気で振ったら。
周りまで。
吹き飛ばすかもしれない。
……まだ。
込められる。
もっと。
ずっと。
でも。
これ以上は。
危ない。
「……分かった」
俺は。
魔力を流すのを止めた。
『……それでよい』
「……足りる?」
『……当てられればな』
「…………」
……そこ。
一番難しいんだけど。
◇
鎧角獣が。
再び。
突進してきた。
「……ノア! 下がれ!」
レオが。
叫ぶ。
「……いや」
俺は。
アストラを構えた。
「……俺がやる」
レオが。
俺を見る。
アストラの魔石が。
光っている。
その光を見て。
レオの表情が。
変わった。
「……分かった」
「ガルム! もう一度だけ止められるか!」
「……やる」
「ミア! 足を狙え!」
「……分かった!」
レオが。
剣を構えた。
「ノア! 絶対に外すなよ!」
「…………」
……無茶言うなあ。
『……外すでないぞ』
「……お前まで!?」
でも。
俺は。
笑った。
「……任せて」
◇
鎧角獣が。
突進してくる。
地面が。
震える。
「……今だ!」
ミアの矢が。
飛んだ。
一本。
二本。
外殻ではなく。
前脚の関節を狙う。
鎧角獣の。
動きが。
わずかに乱れた。
「……ガルム!」
「……おおおっ!」
ガルムが。
盾を構えた。
衝突。
鈍い音が。
響く。
ガルムの足が。
地面を削る。
「ぐっ……!」
盾が。
軋む。
「……レオ!」
「分かってる!」
レオが。
側面へ回り込んだ。
剣を。
振る。
狙ったのは。
鎧角獣の目元。
「――っ!」
鎧角獣が。
頭を振った。
一瞬。
その巨体が。
止まる。
「ノア!!」
「……はいよ!」
俺は。
踏み込んだ。
アストラを。
振り上げる。
青い光が。
軌跡を描いた。
「……いっけえええ!!」
振り下ろす。
次の瞬間。
轟音。
アストラが。
鎧角獣の外殻に。
めり込んだ。
岩のような装甲が。
砕ける。
亀裂が。
一気に広がる。
そして。
巨体が。
地面へ叩きつけられた。
衝撃が。
山道を走った。
土が。
舞い上がる。
近くの石が。
跳ねた。
「……うわっ!」
ミアが。
腕で顔を覆う。
レオも。
姿勢を低くした。
ガルムが。
盾を構え直す。
土煙が。
ゆっくりと。
晴れていく。
そこには。
倒れた鎧角獣がいた。
「…………」
動かない。
「……あれ?」
俺は。
アストラを持ち上げた。
「……終わった?」
『……うむ』
「……よかった」
俺は。
息を吐いた。
「……ちょっと、強く殴りすぎたかな」
『……ちょっと、ではないな』
「…………」
……そう?
◇
レオたちは。
倒れた鎧角獣を。
見つめていた。
「……みんな、大丈夫?」
俺は。
三人を見た。
レオが。
ようやく。
口を開いた。
「……ノア」
「……何?」
「……今の、何だ?」
「……殴った」
「……それは見れば分かる」
「…………」
じゃあ。
何を聞いてるんだよ。
「……あれ、高ランクの魔物だよね?」
ミアが。
呆然と呟く。
「……そうらしいね」
「……それを、一発?」
「……うん」
「…………」
ミアが。
頭を抱えた。
「……もう、意味分かんない」
「……いや、みんなが止めてくれたからでしょ」
俺は。
そう言った。
「……一人だったら、あんなの当てられないし」
レオが。
俺を見る。
「……今ので、全力だったのか?」
「……いや」
俺は。
アストラを見た。
「……まだ、込められたけど」
「…………」
「……みんなが近くにいたから、途中で止めた」
誰も。
何も言わなかった。
「……ほら」
俺は。
少し笑った。
「……周りまで吹き飛ばしたら、危ないでしょ」
「…………」
レオの。
表情が。
変わった。
ガルムが。
小さく呟いた。
「……まだ、上があるのか」
「……うん」
……そんなに。
驚くことかな。
『……お主の感覚がおかしいのだ』
「…………」
……失礼な杖だな。
◇
その後。
俺たちは。
鎧角獣の討伐を確認した。
レオが。
ギルドへ報告するために。
特徴を記録する。
ミアが。
周囲を警戒する。
ガルムは。
盾を確認していた。
「……大丈夫?」
俺が聞くと。
ガルムは。
頷いた。
「……ああ」
「……盾、壊れてない?」
「……少し、歪んだ」
「…………」
……少し?
結構。
曲がってるように。
見えるけど。
「……帰ったら、直さないとね」
「……ああ」
俺は。
回復魔法で。
ガルムの腕の痛みを和らげた。
「……これでどう?」
「……助かる」
ガルムは。
しばらく。
俺を見ていた。
「……ノア」
「……何?」
「……お前がいなければ、危なかった」
「…………」
……まあ。
確かに。
危なかったな。
「……でも、みんながいたから倒せたんだよ」
「…………」
「……俺一人じゃ、無理だったと思う」
ガルムは。
小さく。
頷いた。
「……そうだな」
「……うん」
俺は。
笑った。
「……やっぱり、四人だと強いね」
「…………」
ガルムは。
何も言わなかった。
◇
帰り道。
俺は。
上機嫌だった。
「……いやあ、すごかったね」
「…………」
「……まさか、あんな魔物が出るとは」
「…………」
「……これ、追加報酬出るかな?」
「……ギルドの判断次第だな」
レオが。
答えた。
「……そっか」
追加報酬。
出るといいな。
盾の修理代も。
かかるし。
「……でもさ」
俺は。
三人を見る。
「……俺たち、結構強くなったんじゃない?」
レオが。
俺を見た。
「……そうだな」
「……あんな魔物まで倒せたんだし」
「……これから、もっと強い依頼も受けられるかもね」
ミアが。
少しだけ。
笑った。
「……そうだね」
「……楽しみだな」
レオは。
すぐには答えなかった。
「……ああ」
その声は。
どこか。
寂しそうだった。
◇
レオは。
歩きながら。
ノアの背中を見ていた。
……勝った。
確かに。
四人で勝った。
だが。
ガルムの盾は。
もう限界だった。
ミアの矢も。
ほとんど通じなかった。
自分の剣も。
あの外殻を砕けなかった。
それなのに。
ノアは。
あの魔物を。
一撃で倒した。
しかも。
全力ではないという。
「…………」
……俺たちは。
ノアの一撃を。
当てるための隙を作るだけで。
精一杯だった。
もし。
もっと強い魔物が現れたら?
ガルムが。
突進を止められなかったら?
ミアの矢が。
一瞬の隙すら作れなかったら?
「…………」
……ノアには。
倒せる力がある。
なのに。
俺たちでは。
その力を。
活かしきれない。
今日の魔物ですら。
ぎりぎりだった。
「…………」
ヴァルドさんたちなら。
どうだろう。
あの人たちなら。
もっと強い魔物を相手にしても。
ノアが攻撃するための。
隙を作れるんじゃないか。
「…………」
……悔しいな。
本当は。
まだ一緒に冒険したい。
あいつが。
変なことを言って。
ミアが笑って。
ガルムが肉の話をする。
そんな毎日を。
もう少し。
続けていたい。
でも。
俺たちが。
ノアの足を引っ張るようになるのは。
もっと嫌だった。
ノアは。
誰にも文句を言わせない。
魔法使いになりたいと言っていた。
ならば。
ヴァルドさんたちと行くことも。
あいつにとって。
大きな一歩になるんじゃないか。
「…………」
……それでも。
決めるのは。
ノア自身だ。
俺たちが。
決めていいことじゃない。
レオは。
そう思った。
◇
街へ戻る頃には。
空が。
赤く染まり始めていた。
ギルドで。
依頼の報告を済ませる。
鎧角獣の討伐についても。
詳しく伝えた。
受付の人は。
かなり驚いていた。
……そりゃそうか。
依頼にない魔物まで。
倒したんだから。
◇
夕方。
街外れの広場。
俺たちは。
いつものように。
四人で歩いていた。
「……で、明日はどうする?」
俺が聞くと。
レオが。
足を止めた。
「……ノア」
「何?」
「少し話がある」
「…………」
また?
「……最近、話が多くない?」
「そうか?」
「……昨日も聞かれたし」
「……そうだったな」
何だろう。
最近のレオ。
妙に真面目だな。
「……何?」
レオは。
少しだけ。
言葉を選ぶように。
口を開いた。
「ヴァルドさんの勧誘についてだ」
「…………」
ああ。
あれか。
「……まだその話?」
「ああ」
「……冗談だったでしょ、あれ」
「いや。本気だと思う」
「……俺、魔法飛ばないんだけど」
「知ってる」
「杖で殴るし」
「それも知ってる」
「…………」
レオは。
平然としている。
「……普通、そんな魔法使いを誘わないでしょ」
「それでも、あの人はお前を誘ったんだ」
「……物好きなんじゃない?」
「そうかもしれないな」
「…………」
否定してほしかった。
『……あの男は、お前の力を認めておったぞ』
「…………」
アストラまで。
そう言うのか。
……本気だったのかな。
あの勧誘。
◇
「……それで?」
俺は。
レオを見る。
「本気だったとして、何?」
「……一度、考えてみてほしいんだ」
「……何を?」
「ヴァルドさんたちと冒険することを」
「…………」
……え?
「……何で?」
レオは。
すぐには答えなかった。
「……今日の戦い、覚えてるだろ」
「……忘れるわけないじゃん」
「ああ。俺もだ」
「…………」
「ガルムの盾は限界だった。ミアの矢も、俺の剣も、ほとんど通じなかった」
「……でも、勝ったじゃん」
「ああ。四人で勝った」
「……だったら」
「でも、ノア」
レオが。
俺を見る。
「お前は、あの魔物を一撃で倒した。しかも、全力じゃなかったんだろ?」
「……うん」
「……俺たちは、あの一撃を当てるための隙を作るだけで精一杯だったんだ」
「…………」
レオは。
少しだけ。
視線を落とした。
「……悔しかったよ」
「…………」
「お前があんなに強くなってるのに、俺たちはまだ、守るだけで精一杯なんだからな」
「……何だよ、それ」
「……この先、もっと強い魔物が現れたらどうする?」
「…………」
「俺たちが相手を止められなかったら、お前はその力を使うことすらできないかもしれない」
「…………」
……だから。
何なんだよ。
「……ヴァルドさんたちなら、もっと強い相手でも、お前を支えられると思う」
「…………」
……あっちに。
行けってこと?
「……別に、ここでも強くなれるでしょ」
「ああ。もちろんだ」
「……だったら」
「俺たちだって、これから強くなるつもりだ」
「…………」
「でも、お前には別の道もある。それを、知らないままでいてほしくないんだ」
「…………」
……何だよ。
それ。
◇
「……ミアは?」
俺は。
隣を見る。
「え?」
「……ミアも、俺があっちに行ったほうがいいと思う?」
ミアは。
すぐには答えなかった。
「……私は、一緒にいたいよ」
「…………」
「ノアと、まだ一緒に冒険したい」
だったら。
それで。
いいじゃん。
そう思った。
でも。
ミアは。
続けた。
「……今日のノア、すごかった」
「…………」
「本当に、すごいって思ったよ」
ミアが。
少しだけ。
笑った。
「……でも、悔しかったんだ」
「……何が?」
「……私、もっとノアの役に立てると思ってたから」
「…………」
「なのに、あの魔物には、矢を当てるだけで精一杯だった」
「……でも、足を止めてくれたじゃん」
「……うん」
ミアは。
頷いた。
「……でも、もっとできるようになりたい」
「…………」
「だから、私も強くなるよ」
「…………」
「……ただ、ヴァルドさんたちと行くノアも、見てみたいなって思う」
「…………」
……何だよ。
それ。
「……ガルムは?」
俺は。
最後の一人を見る。
ガルムは。
いつものように。
静かだった。
「……俺は、お前とまだ組みたい」
「…………」
……あ。
「……そうなんだ」
「……ああ」
「……だが」
ガルムは。
自分の盾を見た。
「……今日、俺の盾は限界だった」
「…………」
「……次も、お前が殴るまで守れるとは限らない」
「……でも、守ってくれたじゃん」
「……今日はな」
「…………」
ガルムは。
少しだけ。
目を伏せた。
「……悔しい」
「…………」
……何だよ。
みんな。
自分のことばっかり。
責めて。
俺は。
三人がいたから。
勝てたと思ってるのに。
「…………」
それなのに。
三人とも。
俺が。
ヴァルドさんたちと行くことを。
考えている。
……何でだよ。
◇
「……別にさ」
俺は。
小さく言った。
「……不満なんかないけど」
レオが。
俺を見る。
「……何が?」
「このパーティ」
「…………」
「……レオたちと冒険するの、嫌だなんて一度も言ってないよね?」
「ああ。分かってる」
「……だったら、何でそんな話するんだよ」
「…………」
「……俺がここにいたら、駄目なの?」
「違う!」
レオが。
すぐに答えた。
「そんなことはない!」
「……だったら!」
思っていたより。
大きな声が出た。
「……俺は、ここがいいって言ってるだろ!」
レオが。
口を閉じた。
ミアも。
ガルムも。
何も言わない。
「……何だよ」
「…………」
「……何か言えよ」
レオが。
ゆっくりと。
口を開いた。
「……ノア。俺たちだって、まだ一緒に冒険したい」
「…………」
「本当は、引き止めたいくらいだ」
「…………」
「でも、俺は、お前がもっと強くなれる機会を逃すのも嫌なんだ」
「…………」
……また。
それかよ。
「……だったら、みんなで強くなればいいじゃん」
「…………」
「……俺だけじゃなくて、レオも、ミアも、ガルムも」
「…………」
「……一緒に強くなればいいだろ!」
レオは。
少しだけ。
顔を歪めた。
「……ああ」
「…………」
「……俺も、そうしたい」
「…………」
……え?
「……だったら」
「……でも、ノア」
レオは。
ガルムの盾を見た。
「……今日、ガルムがあと一度突進を受けていたら、どうなっていたと思う?」
「…………」
答えられなかった。
あの盾は。
もう。
限界だった。
「……俺たちは、まだまだ強くならなきゃいけない」
「…………」
「……だからこそ、お前が別の道を選ぶなら、ちゃんと応援したいんだ」
「…………」
……何だよ。
それ。
◇
「……俺の夢ってさ」
俺は。
レオを見る。
「……お前らと一緒じゃ、叶えられないの?」
レオは。
目を見開いた。
ミアが。
小さく息を呑んだ。
「……そんなことはない」
「……だったら!」
「……俺たちと一緒に叶えられたら、俺だって嬉しい」
「…………」
レオは。
少しだけ。
笑った。
でも。
その顔は。
どこか。
寂しそうだった。
「……ただ、お前には、もっと先へ行ける力がある。それも事実だと思う」
「…………」
……何だよ。
それ。
「……勝手に、俺の将来決めんなよ」
レオが。
少しだけ。
顔を歪めた。
「……俺は、ヴァルドさんたちと行ったほうがいいと思ってる」
「…………」
「……でも、それは俺の考えだ」
「…………」
「お前が残ると決めたなら、俺たちは喜んで一緒に冒険する」
「…………」
「だから、最後はお前が決めてくれ」
「…………」
……だったら。
何で。
そんなに。
寂しそうな顔するんだよ。
◇
夕方の風が。
広場を吹き抜けた。
俺は。
三人を見る。
レオ。
ミア。
ガルム。
いつも。
一緒に依頼を受けて。
一緒に戦って。
一緒に帰ってきた。
明日も。
そうするつもりだった。
その次も。
ずっと。
「…………」
俺は。
小さく。
口を開いた。
「……俺さ」
「…………」
「……まだ、お前らと冒険するつもりだったのに」
誰も。
答えなかった。
レオは。
何かを言いかけて。
やめた。
ミアは。
俯いていた。
ガルムも。
黙ったままだった。
「…………」
何だよ。
その顔。
「……俺が残るって言ったら、困るの?」
「困るわけないだろ!」
レオが。
即座に答えた。
「……だったら、何でそんな顔してんだよ」
レオは。
しばらく。
黙っていた。
そして。
小さく答えた。
「……俺たちも、別れたくないからだよ」
「…………」
……え?
「……だったら」
俺は。
言葉を探した。
「……だったら、こんな話しなきゃいいだろ」
「…………」
「……何で、わざわざ……」
最後まで。
言えなかった。
レオは。
俺と別れたくないと言った。
ミアも。
ガルムも。
まだ一緒に冒険したいと言っていた。
なのに。
三人とも。
ヴァルドさんたちと行ったほうがいいと言う。
「…………」
……分かんないよ。
何で。
そんなこと言うんだよ。
俺は。
ただ。
あいつらと。
一緒に冒険したかっただけなのに。




