↓ ↑ページトップへ
表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
『魔法が飛ばせないので、杖でぶん殴ることにした ~落ちこぼれ魔法使い、なぜか最強の槌使いと呼ばれる~』  作者: 蝶野摩矢


この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

PR
4/57

第4話 楽して金がもらえると思ってました

王国軍の大規模討伐。


報酬につられて。


いや。


治癒魔法使いとしての使命感から。


俺は救護班へ参加することになった。


「……すげえな」


目の前を。


何十人もの兵士が通り過ぎていく。


剣。


槍。


盾。


弓。


その向こうには。


ローブを着た魔法使いたち。


さらに。


銀色の鎧を身につけた騎士たちまでいる。


俺が普段いる街とは。


まるで違う。


「王国軍って、本当にいるんだな」


「当たり前でしょ」


「…………」


隣から。


声がした。


振り向く。


白いローブを着た少女が立っていた。


俺と同じくらいの年齢だろうか。


長い髪を。


後ろでまとめている。


胸元には。


治癒魔法使いを示す紋章。


「何?」


「いや」


俺は。


目を逸らした。


「別に」


「変な人」


「…………」


初対面でそれ言う?


少女は。


俺の杖を見る。


「あなたも治癒魔法使い?」


「一応」


「一応?」


「使えるから来ただけ」


「ふーん」


じーっ。


「…………」


まだ見てる。


「何?」


「別に」


今度は。


向こうが言った。


「…………」


なんだこいつ。


いや。


話しかけるな。


女の子と話すの。


苦手なんだよ。


「じゃ」


俺は。


逃げるように歩き出した。


「どこ行くの?」


「救護所」


「そっち、炊事場だけど」


「…………」


足を止める。


振り返らない。


「知ってる」


「救護所、反対だよ」


「…………」


俺は。


無言で方向転換した。


少女の横を通り過ぎる。


「ふふっ」


「笑うな」


最悪だ。


◇


救護所は。


戦場から少し離れた場所に作られていた。


大きな天幕が。


いくつも並んでいる。


中には。


大量の簡易ベッド。


包帯。


薬。


治療道具。


そして。


「多いな……」


治癒魔法使い。


十人どころじゃない。


白いローブを着た人間が。


あちこちにいる。


「…………」


俺。


本当に必要か?


「救護班として来た者はこちらへ!」


声に従って。


受付へ向かう。


名前。


所属。


使える魔法。


順番に確認されている。


そして。


「次」


俺の番。


「名前」


「ノア」


「年齢」


「十八」


「治癒魔法の経験は?」


「三年」


担当者が。


紙へ書き込む。


「遠隔治癒は?」


「無理です」


ペンが止まった。


「……範囲治癒は?」


「無理です」


「複数人への同時治癒」


「無理です」


「…………」


担当者が。


顔を上げた。


「…………」


俺を見る。


「…………」


俺も見る。


なんだよ。


「では」


担当者が聞いた。


「何ができる?」


「直接なら」


「直接?」


俺は。


杖先を指した。


「これを傷口に押し当てれば治せます」


「…………」


また。


沈黙。


「治癒魔法使い……だよな?」


「魔法使いです」


「そこはどうでもいい」


「俺には重要です」


「…………」


担当者は。


紙に何かを書き込んだ。


「後方待機」


「はい」


ですよね。


◇


討伐が始まった。


遠くから。


ドォン――!


低い音が響く。


地面が。


微かに揺れた。


「始まったか」


救護所の空気が変わる。


さっきまで話していた。


治癒魔法使いたちも。


全員。


入口を見る。


しばらくして。


「負傷者だ!」


声が飛んだ。


兵士たちが。


運び込まれてくる。


五人。


いや。


七人。


「こっちへ!」


「ベッドを空けて!」


一気に。


慌ただしくなる。


俺も。


立ち上がった。


「手伝います」


「待って」


「え?」


前へ出たのは。


一人の女性だった。


白いローブ。


他の治癒魔法使いとは。


身につけている紋章が違う。


「負傷者を並べて」


落ち着いた声。


兵士たちが。


簡易ベッドへ寝かされる。


腕から血を流している者。


脚を負傷した者。


肩を斬られた者。


七人。


女性が。


杖を掲げた。


「《ヒール》」


瞬間。


パァァァァ――。


「…………は?」


救護所全体が。


淡い光に包まれた。


暖かい。


まるで。


部屋そのものが。


治癒魔法になったようだった。


そして。


光が消える。


「……傷が」


負傷兵の一人が。


起き上がる。


腕の傷が。


塞がっている。


「俺もだ!」


「脚が動く!」


七人。


全員。


治っていた。


「…………」


俺は。


自分の杖を見る。


女性を見る。


もう一度。


自分の杖を見る。


俺の場合。


まず。


一人目まで歩く。


しゃがむ。


杖を押し当てる。


「《ヒール》」


一人終了。


立つ。


二人目まで歩く。


しゃがむ。


杖を押し当てる。


「《ヒール》」


二人目終了。


これを。


七回。


あの人。


「《ヒール》」


一回。


「…………」


俺。


「いらなくね?」


思わず。


声に出た。


「何か言った?」


近くにいた治癒魔法使いが。


振り向く。


「いや」


俺は。


静かに椅子へ戻った。


「なんでもないです」


なんで俺。


呼ばれたんだ。


◇


それから。


しばらく。


俺に仕事はなかった。


負傷者が来る。


上級の治癒魔法使いが治す。


また来る。


他の治癒魔法使いたちが治す。


俺。


座ってる。


「…………」


これ。


金もらっていいのか?


「…………」


まあ。


くれるなら。


もらうけど。


俺は。


椅子へ深く座り直した。


これなら。


悪くない仕事かもしれない。


そう思った。


数時間後。


その考えを。


死ぬほど後悔することになる。


◇


昼を過ぎた頃。


「負傷者来ます!」


十人。


運び込まれる。


「こちらにも!」


さらに。


八人。


「重傷者!」


三人。


「待って! ベッドが足りない!」


救護所の空気が。


一変した。


「《ヒール》!」


パァァァ!


上級治癒魔法使いの。


範囲魔法。


だが。


「次!」


治療が終わるより早く。


新しい負傷者が。


運ばれてくる。


「こっちもお願いします!」


「待って!」


「重傷者を優先して!」


怒号が。


飛び交う。


俺は。


椅子に座ったまま。


その光景を見ていた。


「…………」


帰っていい?


駄目だよな。


そんなことを考えていると。


一人の兵士が。


運び込まれた。


腹部から。


大量の血。


「重傷者!」


「こっちへ!」


治癒魔法使いが走る。


その間にも。


「また来ます!」


「十二名!」


「…………」


ああ。


なるほど。


俺が呼ばれた理由。


分かった。


「ノア!」


受付をしていた男が。


叫ぶ。


「治療できるな!?」


俺は。


ゆっくり立ち上がった。


「直接なら」


「なんでもいい! やれ!」


「はいはい」


杖を持つ。


「楽して金もらえると思ったのに……」


「何か言ったか!?」


「使命感に燃えてます!」


「なら早く行け!」


「はい!」


◇


「《ヒール》」


一人。


「次!」


走る。


しゃがむ。


杖を押し当てる。


「《ヒール》」


二人。


「次!」


「こっち!」


「今行く!」


三人。


四人。


五人。


「待って待って!」


次々。


運ばれてくる。


「一人ずつ持ってこい!」


「無茶言うな!」


「こっちも一人ずつしか治せねえんだよ!」


傷口へ。


杖を押し当てる。


「《ヒール》!」


治る。


走る。


また治す。


効率は。


悪い。


死ぬほど悪い。


でも。


魔力だけはある。


「次!」


まだいける。


普通の治癒魔法使いたちは。


徐々に。


休憩を挟み始めていた。


魔力が。


尽き始めている。


俺は。


「ノア! まだいけるか!?」


「誰に言ってんですか」


魔力だけなら。


腐るほどある。


「次!」


負傷者のところへ。


走る。


その時。


「待って!」


声が響いた。


「重傷者!」


運び込まれてきた兵士。


「…………」


酷い。


胸から腹にかけて。


深く裂かれている。


「これは……」


治癒魔法使いが。


顔を曇らせた。


例の。


上級治癒魔法使いもやってくる。


「《ヒール》!」


光が。


広がる。


傷が。


少しずつ塞がっていく。


だが。


「……駄目」


女性が。


息を吐いた。


「深すぎる」


「そんな……」


「もう一度!」


杖を構える。


だが。


その手が。


少し震えていた。


何度も。


範囲治癒を使っている。


魔力を。


かなり消耗しているんだ。


「…………」


俺は。


兵士を見る。


血が。


止まらない。


「どいて」


「え?」


女性が。


俺を見る。


「ちょっと」


俺は。


兵士の横へしゃがんだ。


「あなた、何を――」


「治します」


「でも、その傷は――」


「直接なら」


俺は。


杖先を。


傷口へ押し当てた。


「《ヒール》」


魔力を。


流す。


いつもより。


多く。


さらに。


多く。


パァァァァッ!!


「なっ……!」


杖先から。


強烈な光。


俺の魔力が。


直接。


兵士へ流れ込んでいく。


傷が。


塞がっていく。


深い裂傷。


止まらなかった血。


それが。


少しずつ。


確実に。


そして。


光が消えた。


「……どう?」


兵士が。


小さく息をする。


傷は。


塞がっていた。


「嘘……」


誰かが。


呟いた。


「治った?」


俺は。


立ち上がる。


「みたいですね」


上級治癒魔法使いが。


俺を見ている。


「あなた……」


「なんです?」


「今、どれだけ魔力を使ったの?」


「分かりません」


「分からない?」


「いっぱい」


「…………」


俺は。


眼鏡を押し上げた。


「俺、それしか取り柄ないんで」


そして。


次の負傷者を見る。


「まだいるんでしょ?」


「あ……ええ」


「じゃあ」


杖を肩へ乗せる。


「次」


◇


夕方。


「…………死ぬ」


俺は。


椅子へ沈み込んだ。


魔力は。


まだある。


体力が。


ない。


「魔力より先に俺が尽きる……」


結局。


ほとんど休めなかった。


「俺、いらなくね?」


なんて思っていた。


数時間前の自分を。


少し殴りたい。


いや。


やっぱりいい。


腕を上げるのも。


面倒だ。


「これで報酬安かったら帰るからな……」


そんなことを。


呟いた。


その時だった。


「きゃあああああ!!」


外から。


悲鳴。


「…………」


救護所にいた全員が。


入口を見る。


「なんだ?」


兵士が。


立ち上がる。


外が。


騒がしい。


「魔物だ!!」


誰かが叫んだ。


「魔物がこっちに来たぞ!!」


「…………は?」


ここ。


後方だぞ。


前線には。


王国軍がいる。


騎士も。


魔法使いも。


そいつらを抜けて。


ここまで?


「護衛!」


「入口を固めろ!」


残っていた兵士たちが。


武器を手にする。


俺も。


ゆっくり立ち上がった。


「……マジかよ」


今日は。


本当に。


面倒な日だ。


外へ出る。


そして。


見えた。


「…………」


一体の魔物。


人のように。


二本の脚で立っている。


大きくない。


俺より。


少し背が高い程度。


武器も。


持っていない。


身体には。


いくつもの傷。


血も。


流れている。


「なんだ」


俺は。


少しだけ力を抜いた。


もっと。


巨大な魔物でも。


来たのかと思った。


「一匹だけじゃねえか」


その時。


前に立っていた兵士が。


叫んだ。


「止まれ!」


魔物が。


一歩。


踏み出す。


「それ以上近づくな!」


また。


一歩。


「止まれと言っている!」


兵士が。


剣を構える。


次の瞬間。


魔物の姿が――


消えた。


「……え?」


ドゴッ!!


鈍い音。


兵士の身体が。


宙を舞った。


「…………は?」


俺の目の前を。


人間が。


飛んでいく。


地面へ。


叩きつけられる。


誰も。


声を出せなかった。


人型の魔物が。


ゆっくりと。


こちらを向く。


その先には。


武器を持たない。


治癒魔法使いたち。


治療を終えたばかりの。


負傷兵。


そして。


俺。


「…………」


俺は。


杖を握った。


一歩。


後ろへ下がる。


「いやいや……」


魔物が。


こちらを見る。


「俺」


さらに。


一歩。


下がる。


「魔法使いなんだけど」


魔物が。


一歩。


近づく。


「…………」


俺は。


杖を見る。


杖先には。


丸い魔石。


攻撃魔法は使える。


ただし。


射程。


ほぼゼロ。


「…………」


もう一度。


魔物を見る。


「いや」


無理だろ。


俺は。


小さく呟いた。


「戦えねえんだけど」



評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。