↓ ↑ページトップへ
表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
『魔法が飛ばせないので、杖でぶん殴ることにした ~落ちこぼれ魔法使い、なぜか最強の槌使いと呼ばれる~』  作者: 蝶野摩矢


この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

PR
3/57

第3話 大賢者候補、杖を押し当てる

「左遷ではない」


教官は言った。


「いや、左遷でしょ」


「違う」


「じゃあなんですか」


「お前の適性を考えた結果だ」


「それを左遷って言うんですよ」


「違う」


「大魔導士候補だった俺が治癒魔法ですよ?」


「治癒魔法使いに失礼だぞ」


「そういう意味じゃないです」


「なら黙ってついてこい」


教官は歩き出した。


「…………」


俺はその背中を見る。


そして。


ため息をついた。


「左遷じゃん……」


「聞こえてるぞ」


◇


連れてこられたのは。


訓練場ではなく。


治療室だった。


「…………」


白い壁。


いくつか並んだベッド。


薬品らしき匂い。


間違いない。


完全に配属先が変わった。


「やっぱり左遷じゃん」


「まだ言うか」


ベッドの一つには。


男が座っていた。


腕に包帯を巻いている。


訓練中に怪我をしたらしい。


その隣には。


白いローブを着た女性が立っていた。


「あなたがノア君ね?」


「……はい」


女性が微笑む。


「話は聞いてるわ」


「…………」


何を。


どこまで。


できれば。


大賢者候補だったところまでで止めてほしい。


「魔力がすごく多いんですってね」


「ああ……まあ」


「それなのに魔法が飛ばせないって」


全部聞いてるじゃねえか。


「……そうです」


「ふふっ」


女性が笑った。


「そんなに緊張しなくていいわよ」


「してませんけど」


「そう?」


「はい」


「こっち見ないけど?」


「壁を見てるだけです」


「壁?」


「今日の壁、綺麗だなって」


「…………」


何言ってんだ俺。


女の人と話すのは。


昔から得意じゃない。


「と、とりあえず!」


俺は杖を構えた。


「何すればいいんですか」


女性がまだ少し笑っている。


「治癒魔法は知ってる?」


「知ってます」


「使ったことは?」


「ないです」


「じゃあ、やってみましょう」


女性が。


負傷した男を示した。


「腕の傷を治してみて」


「……分かりました」


俺は。


男の腕へ杖を向けた。


傷が塞がるところをイメージする。


魔力を。


杖へ流す。


すると。


杖先の球体が――


パァッ。


淡い光を放った。


「おお……」


教官が声を上げる。


女性も。


目を見開いた。


「すごい……」


「…………」


「これだけの治癒魔力を一度に……」


久しぶりだった。


自分の魔法を見て。


誰かが驚いている。


ちょっと。


いや。


かなり。


気分がいい。


「そのまま傷へ」


「はい」


俺は。


杖を向ける。


「《ヒール》」


パァァッ。


「…………」


光っている。


杖が。


とても綺麗に。


「…………」


男を見る。


傷。


そのまま。


「…………」


女性を見る。


「…………」


教官を見る。


「…………」


俺は。


杖を見る。


「…………またこれ?」


「もう一度やってみて」


「いや、これ絶対いつものやつですよ」


「いいから」


「……はい」


もう一度。


男の腕へ向ける。


「《ヒール》」


パァッ。


杖先が光る。


終わり。


「…………」


俺は。


女性を見る。


「光る杖としてなら売れそうですね」


「諦めるの早いわよ」


「十五歳まで色々試したんで」


俺は。


杖を下ろした。


「やっぱり治癒魔法でも同じです。俺の魔法は全部――」


その時だった。


コツン。


「ん?」


下ろした杖の先端が。


男の腕へ触れた。


パァッ――。


光が広がる。


「お?」


男が声を上げた。


「どうしました?」


「腕が……」


「腕?」


包帯の隙間。


そこから見えていた傷が。


「…………」


消えていた。


「…………」


俺は杖を見る。


男の腕を見る。


もう一度。


杖を見る。


教官も。


女性も。


黙っている。


「ノア君」


「はい」


「もう一度やってみて」


「……はい」


男の腕には。


まだ小さな傷が残っている。


今度は。


最初から杖先を直接当てた。


「《ヒール》」


パァッ。


光が広がる。


そして。


傷が。


みるみる塞がっていく。


「…………」


「…………」


「…………治った」


俺が呟く。


「治ったな」


教官も呟いた。


「治ったわね」


女性も呟いた。


男が。


勢いよく腕を動かす。


「おお! 痛くねえ!」


「マジで?」


「すげえじゃねえか!」


「…………」


俺は。


自分の杖を見る。


初めてだった。


自分の魔法が。


ちゃんと。


誰かの役に立った。


「……俺」


思わず。


口元が緩む。


「治癒魔法ならいけるんじゃ……」


「ええ」


女性が頷いた。


「あなたの治癒魔法は、最初からちゃんと発動していたのよ」


「でも飛ばない」


「ええ」


即答された。


そこは。


もう少し。


言い方があるだろ。


「ただ」


女性が続ける。


「飛ばせないなら、直接届ければいい」


「直接……」


俺は。


杖先を見る。


なるほど。


飛ばない。


なら。


こっちから。


当てに行けばいい。


「…………」


十五歳。


大賢者候補だった俺は。


ついに。


自分の魔法の正しい使い方を見つけた。


相手のところまで歩いて。


杖で触る。


「…………」


思ってた魔法使いと。


だいぶ違うな。


◇


それから。


俺は治癒魔法を習うことになった。


やることは単純。


負傷者のところまで行く。


杖を傷口へ直接当てる。


魔力を流す。


治す。


「《ヒール》」


パァッ。


「おお!」


傷が塞がる。


「次」


移動する。


杖を当てる。


「《ヒール》」


治る。


「次」


移動。


杖。


ヒール。


「次」


移動。


杖。


ヒール。


「…………」


これ。


魔法使いか?


たまに。


疑問には思った。


だが。


俺の治癒魔法にも。


長所はあった。


「……もう治ったのか?」


教官が傷口を見る。


「みたいですね」


「かなり深かったぞ」


「そうなんですか」


「普通なら何度かに分けて治療する傷だ」


「へえ」


理由は。


なんとなく分かった。


魔力量だ。


飛ばせない。


広げられない。


一人ずつしか治せない。


その代わり。


直接触れている一人になら。


俺の馬鹿みたいに多い魔力を。


そのまま叩き込める。


使い勝手は。


最悪。


効率も。


悪い。


でも。


一人を治す力だけなら。


かなり強いらしい。


「ノア」


教官が言った。


「お前、治癒魔法使いとしてなら――」


「魔法使いです」


「…………」


「治癒専門じゃなくて。魔法使いです」


「…………そうか」


「はい」


ここは。


重要だった。


◇


三年が過ぎた。


十八歳。


「《ヒール》」


パァッ。


光が消える。


「終わり」


俺は。


杖を離した。


目の前の男が。


恐る恐る腕を動かす。


「おお……痛くねえ!」


「じゃあ帰っていいですよ」


「ありがとう!」


「はいはい」


男が。


治療室から出ていく。


俺は。


椅子へ座った。


十五歳から。


三年間。


結局。


ずっとこんなことをしている。


怪我人が来る。


歩く。


杖を当てる。


治す。


次。


歩く。


杖を当てる。


治す。


次。


「…………」


昔。


俺は。


大魔導士になると言われていた。


大賢者にすら。


なれるかもしれない。


そんなことを言う奴までいた。


それが今では。


「ノア、次の患者」


「はいはい」


立ち上がる。


杖を持つ。


歩く。


押し当てる。


治す。


「…………」


治癒魔法使い。


悪くはない。


人の役には立つ。


ただ。


俺が子供の頃に想像していた。


大魔導士とは。


「だいぶ違うな……」


その日の夕方。


「ノア」


「なんです?」


治療所の責任者に呼ばれた。


「仕事だ」


「今終わったところなんですけど」


「いつもの治療じゃない」


「じゃあ嫌です」


「まだ何も言ってないだろ」


「その言い方で面倒なの確定してるじゃないですか」


「王国軍からだ」


「…………」


俺は。


黙った。


「ほら」


「何がだ」


「やっぱり面倒なやつじゃないですか」


「話くらい聞け」


責任者が。


一枚の紙を出した。


「近いうち、この地方で大規模な魔物討伐が行われる」


「へえ」


「かなりの人数が動く」


「へえ」


「当然、負傷者も出る」


「へえ」


「聞いてるか?」


「聞きたくないだけです」


責任者が。


ため息をついた。


「治癒魔法を使える者を集めている」


「…………」


嫌な予感しかしない。


紙を。


俺へ差し出してくる。


「救護班として参加してこい」


「嫌です」


「即答するな」


「俺、一人ずつしか治せませんよ」


「向こうも承知している」


「もっとまともな治癒魔法使いいるでしょ」


「いる」


「じゃあ俺いらないじゃないですか」


「人手が欲しいそうだ」


「…………」


「報酬も出る」


「いくら?」


責任者が。


金額を言った。


「…………」


俺は。


紙を受け取った。


「いつ出発です?」


「お前、本当に分かりやすいな」


「うるさいです」


財布の中身は。


ほとんど空だった。


仕方ない。


どうせ俺がやることなんて。


いつもと同じだ。


怪我人のところまで行って。


杖を押し当てて。


治す。


それだけ。


王国軍の討伐だろうが。


俺には。


関係ない。


この時の俺は。


本気で。


そう思っていた。


まさか。


この仕事で。


十年以上。


一度も飛ばなかった俺の魔法に――


別の使い道が見つかるなんて。


知るはずもなかった。


評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。