第39話 さっきの発言は取り消します
治療が。
終わった。
「…………」
疲れた。
魔力は。
ほとんど使っていない。
なのに。
妙に疲れた。
『……今後はもう少し丁寧に扱ってもらいたいものだ』
「分かったって」
『本当だな?』
「……たぶん」
『たぶん!?』
「…………」
うるさいな。
伝説の杖って。
もっと。
静かなものだと。
思ってた。
「……おい」
「…………」
今度は。
何だ。
振り返ると。
そこには。
さっきの。
ゴツい男がいた。
大剣を背負った。
今回の討伐隊の。
リーダー。
「お前、回復魔法も使えるのか?」
「…………」
嫌な予感がした。
何となく。
分かる。
こういう人に。
目をつけられると。
大抵。
面倒なことになる。
「……回復魔法じゃないです」
「ん?」
「杖を当ててただけです」
「…………」
男が。
俺を見る。
次に。
アストラを見る。
「……それで傷が治るのか?」
「…………」
「…………」
「……気のせいじゃないですか?」
『無理があるだろう』
「…………」
黙ってて。
今。
大事なところだから。
「……そうか」
男が。
少し残念そうに。
頷いた。
「もし回復魔法を使っていたなら、ギルドに追加報酬を掛け合おうと思ったんだが」
「もちろん回復魔法です」
「…………」
「…………」
男が。
止まった。
『…………』
アストラも。
黙った。
「……さっきと言っていることが違うぞ?」
「…………」
俺は。
少し考えた。
「……今、思い出しました」
「何を?」
「回復魔法が使えることを」
「…………」
『忘れるものではないだろう!!』
「…………」
細かいな。
この杖。
「……お前、さっきは杖を当てただけだと」
「当てましたよ?」
「ああ」
「回復魔法を使いながら」
「…………」
「嘘は言ってないです」
『回復魔法ではないと言っておっただろう!!』
「…………」
本当に。
細かい。
「……なるほど」
男が。
腕を組んだ。
「つまり、追加報酬が欲しいんだな?」
「…………」
失礼な。
人を。
お金で動く人間みたいに。
「……別に、そういうわけじゃ」
「そうか。なら追加報酬の話は――」
「欲しいです」
「…………」
「…………」
『せめて最後まで言わせてやれ!!』
「…………」
だって。
お金は。
大事でしょ。
男が。
突然。
笑い始めた。
「ははははっ!」
「…………」
何だろう。
失礼な人だ。
「いや、悪い悪い。面白い奴だな、お前」
「……追加報酬、減ります?」
「減らん」
「じゃあいいです」
「はははっ!」
「…………」
よく笑う人だな。
◇
「俺はヴァルドだ」
男が。
ようやく。
名乗った。
「……ノアです」
「そうか、ノア」
「はい」
「お前、回復魔法以外には何が使える?」
「…………」
何が。
使える。
「……大体は」
「大体?」
「火とか、水とか」
「ほう」
「風とか、土とか」
「…………」
「あと、回復とか」
「…………」
ヴァルドさんが。
俺を見る。
「……四属性すべて扱えるのか?」
「はい」
「しかも回復魔法まで?」
「……さっき見ましたよね?」
「いや、そういうことじゃない!」
「…………」
どういうことだろう。
「四属性を扱える魔法使いなど、そうそういないぞ!」
「……そうなんですか」
「そうなんですか、じゃないだろう!」
「…………」
怒られた。
何で。
「それだけ扱えるなら、相当な魔法使いだな!」
「…………」
あ。
そうだ。
大事なことを。
言い忘れてた。
「……飛ばないですけど」
「…………」
「…………」
ヴァルドさんが。
止まった。
「……何が?」
「魔法」
「…………」
「杖先から離れないんです」
「…………」
「一センチも」
「…………」
あ。
顔が。
変わった。
さっきまで。
あんなに。
嬉しそうだったのに。
「……そうか」
「…………」
「……なるほどな」
「…………」
「…………」
「……今、がっかりしました?」
「いや」
「しましたよね?」
「…………」
「…………」
「……少しな」
「…………」
正直だな。
この人。
「……そんなに露骨にがっかりしなくても」
「いや、すまん」
「別にいいですけど」
「…………」
よくない。
ちょっと。
傷ついた。
『……ノア』
「何?」
『今のは仕方あるまい』
「…………」
杖まで。
敵だった。
◇
「しかし……」
ヴァルドさんが。
顎に手を当てた。
「そうなると、さっきの攻撃はどういう仕組みなんだ?」
「……さっきの?」
「あの魔物の外皮に亀裂を入れた一撃だ」
「ああ」
「普通の剣でも傷つけにくい相手だった。それを杖で……」
「魔法です」
「…………」
「魔法で殴りました」
「…………」
ヴァルドさんが。
俺を見る。
「……殴ったのか?」
「はい」
「……魔法で?」
「はい」
「…………」
何だろう。
また。
変な顔してる。
「……それは、魔法なのか?」
「魔法ですよ?」
「……杖で殴っているように見えたが」
「魔力込めてますし」
「…………」
「魔力を使って攻撃してるんだから、魔法でしょ」
「……いや、しかし」
「じゃあ聞きますけど」
「何だ?」
「あんな硬い魔物、普通の杖で殴って倒せると思います?」
「……いや」
「でしょ?」
「…………」
勝った。
『勝っておらん!!』
「…………」
何で。
アストラまで。
反論するんだろう。
『それは魔法の定義の話ではない!!』
「……負け惜しみ?」
『誰が負けたのだ!!』
「…………」
伝説の杖って。
意外と。
負けず嫌いだな。
「……ノア?」
「はい?」
「今、誰と話していた?」
「…………」
あ。
そうだった。
ヴァルドさんには。
アストラの声が。
聞こえない。
「……独り言です」
「…………」
「…………」
「……随分と激しい独り言だな」
「……癖なんで」
『そんな癖があってたまるか!!』
「…………」
うるさい。
「……その杖、何か特別なのか?」
「…………」
俺は。
アストラを見る。
伝説の杖。
二百年前の。
大賢者が使っていた。
すごい杖。
「……丈夫です」
『それだけではない!!』
「壊れないんです」
『もっと他にあるだろう!!』
「……すごく丈夫です」
『言い方を変えただけではないか!!』
「…………」
ヴァルドさんが。
また。
笑った。
「はははっ! なるほど、変わった魔法使いだな!」
「…………」
何だろう。
この人。
俺と話してるだけで。
ずっと。
楽しそうだ。
◇
「……だが、面白い」
ヴァルドさんが。
少し。
真面目な顔になった。
「魔法が飛ばないのは、確かに大きな欠点だ」
「……知ってます」
「接近しなければ攻撃できない。普通の魔法使いより危険も大きい」
「……それも知ってます」
「だが、お前にはそれを補えるものがある」
「…………」
何だろう。
「まず、あの魔力量だ」
「…………」
「それに回復魔法の精度。負傷者をあれだけ手際よく治せる者は貴重だ」
「……そうですか」
「そして、あの攻撃力」
ヴァルドさんが。
倒れた魔物の方を。
振り返る。
「お前が外皮に亀裂を入れなければ、もっと苦戦していただろう」
「…………」
「まだ荒削りだが、伸びしろがある」
「…………」
また。
褒められてる。
「……何か売りつける気ですか?」
「は?」
「いや、やたら褒めるから」
「…………」
ヴァルドさんが。
一瞬。
固まった。
そして。
また。
笑った。
「ははははっ!」
「…………」
何だろう。
俺。
そんなに。
面白いこと。
言ってるかな。
『……お前は本当に変わった男だな』
「…………」
杖にまで。
言われたくない。
「安心しろ。何も売りつけん」
「……そうですか」
「純粋に、お前の腕を評価しているだけだ」
「…………」
そう。
言われても。
何だか。
落ち着かない。
「……じゃあ、追加報酬の方もお願いします」
「はははっ! 分かった分かった!」
「…………」
よかった。
話の分かる人だ。
◇
「さて、そろそろ戻るか」
ヴァルドさんが。
言った。
「ギルドにも報告しなければならん」
「……そうですね」
「ノア」
「はい?」
「今日は助かった」
「…………」
「また話を聞かせてくれ」
「……追加報酬の話ですか?」
「違う」
「…………」
違うのか。
残念。
「お前の魔法の話だ」
「…………」
魔法。
か。
「……殴る話でもいいですか?」
「……できれば、ほかの魔法の話も聞きたいな」
「…………」
注文が。
多い。
『我も殴る以外の魔法を切実に望んでおるぞ』
「…………」
この杖も。
注文が。
多い。
ヴァルドさんは。
笑いながら。
歩いていった。
「…………」
変な人だった。
でも。
悪い人では。
なさそうだ。
何より。
追加報酬の話を。
してくれた。
「…………」
いい人だ。
たぶん。
『……お前の人を見る基準は金なのか?』
「……違うけど」
『本当か?』
「…………」
まあ。
少しは。
関係あるかもしれない。
俺は。
アストラを。
握り直した。
今日も。
壊れていない。
「…………」
新しい杖を。
買わなくていい。
その上。
追加報酬まで。
もらえるかもしれない。
「…………」
今日は。
いい日だ。
『……何だか嫌な予感がするな』
「…………」
気のせいでしょ。
だって。
こんなに。
いいことが。
続いてるんだから。
……たまには。
そういう日が。
あっても。
いいと思う。




