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『魔法が飛ばせないので、杖でぶん殴ることにした ~落ちこぼれ魔法使い、なぜか最強の槌使いと呼ばれる~』  作者: 蝶野摩矢


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第37話 伝説でも心の準備は必要です

『嬉しそうな顔をするなあああ!!』


アストラが。


叫んだ。


「…………」


そんな顔。


してない。


多分。


目の前には。


巨大な魔物。


分厚い外皮。


岩のような背中。


二本の角。


そして。


こっちに向かって。


突っ込んでくる。


「ノア! 下がれ!」


レオが。


叫ぶ。


ガルムが。


俺たちの前に出た。


「俺が止める!」


巨大な盾を。


構える。


次の瞬間。


ドゴォン!!


魔物が。


激突した。


「ぐっ……!」


ガルムの足が。


地面を削る。


盾が。


大きく。


軋んだ。


「ガルム!」


レオが。


飛び込む。


魔物の横へ。


回り込み。


剣を振るう。


ガキンッ!!


硬い。


刃が。


外皮に。


弾かれた。


「くそっ!」


「レオ、離れて!」


ミアが。


矢を放つ。


ヒュンッ!


矢は。


魔物の目元を。


かすめた。


「グオオッ!!」


魔物が。


首を振る。


一瞬。


動きが。


止まった。


「…………」


すごい。


三人とも。


ちゃんと。


戦えている。


でも。


「ぐっ……!」


ガルムが。


膝をついた。


盾を。


押し込まれている。


このままだと。


まずい。


「…………」


俺は。


アストラを見る。


『……何だ』


「行く」


『待て』


「何?」


『先ほどの試練を覚えておるな?』


「うん」


『お前の魔力は異常だ。あの量をそのまま流して振るえば、周囲まで巻き込むぞ』


「…………」


そうなの?


『そうなのだ!!』


「でも」


俺は。


ガルムを見る。


もう。


余裕がない。


「助けないと」


『…………』


アストラが。


少し。


黙った。


『……ならば抑えろ』


「魔力?」


『そうだ。必要以上に込めるな』


「分かった」


『本当に分かっておるのだな?』


「うん」


俺は。


アストラを。


握り直した。


「ちょっとだけにする」


『……その「ちょっと」が信用できん』


◇


魔力を。


流す。


いつもの。


感覚。


身体の中から。


腕へ。


腕から。


杖へ。


「…………」


おお。


流れる。


すごく。


流れる。


今までの杖なら。


この辺りで。


嫌な音が。


していた。


でも。


アストラは。


何ともない。


『当然だ』


「まだ何も言ってない」


『顔に出ておる』


「…………」


便利。


『だから感心するところが違う!』


俺は。


さらに。


魔力を流そうとして。


止めた。


「…………」


いや。


抑えるんだった。


普段より。


少なめ。


かなり。


少なめ。


これくらいなら。


大丈夫。


『……うむ。その程度にしておけ』


「少なくない?」


『十分だ!』


「そう?」


『十分すぎる! その魔力量ならば――』


「うん」


『…………』


「何?」


『……待て』


「うん?」


『そういえば、お前』


「何?」


『今から何をするつもりだった?』


「殴る」


『…………』


「…………」


『……殴る?』


「うん」


『…………』


「…………」


『そ、そうだった!!』


「忘れてたの?」


『忘れてなどおらん!!』


「…………」


『いや、待て! 我は今、魔力の制御について指導しておったのだ!』


「うん」


『その魔力で魔法を放つのならば、何の問題も――』


「飛ばないよ」


『そうだった!!』


「…………」


大丈夫かな。


この杖。


『お前に心配される筋合いはない!!』


俺は。


前を見る。


ガルムが。


必死に。


魔物を押さえている。


「じゃあ、行くね」


『ま、待て待て待て!!』


「何?」


『本当に我で殴るのか!?』


「うん」


『魔力を込めた我を!?』


「うん」


『…………』


「…………」


『まだ心の準備ができておらん!!』


「…………」


杖にも。


心の準備って。


あるんだ。


『あるわ!!』


◇


「ガルム!」


俺は。


声をかけた。


「少しだけ、どいて!」


「……ノア!?」


ガルムが。


こちらを見る。


「何をする気だ!」


「殴る!」


「……分かった!」


「分かるのか!?」


レオが。


叫んだ。


でも。


ガルムは。


盾を。


斜めに構え直した。


魔物の。


頭が。


横へ流れる。


その瞬間。


俺は。


踏み込んだ。


「…………」


近い。


届く。


アストラを。


振り上げる。


『ノア!』


「何?」


『本当にやるのか!?』


「うん」


『我は杖だぞ!?』


「知ってる」


『大賢者が愛用した伝説の魔導杖だぞ!?』


「知ってるって」


『それをお前は――』


振り下ろした。


ドゴォォン!!


『ぐおおおおおっ!?』


「…………」


え。


魔物の。


巨体が。


横へ。


よろめいた。


地面が。


揺れる。


外皮に。


一本の。


亀裂が。


走った。


「グオオオッ!!」


魔物が。


吠える。


でも。


それ以上に。


『な、な、な……!!』


アストラが。


騒いでいた。


「何?」


『殴った……!!』


「うん」


『本当に殴りおった!!』


「言ったじゃん」


『言っていたが!!』


「…………」


『我は二百年もの間、数多の魔法を扱ってきた!』


「うん」


『炎を生み! 大地を操り! 偉大なる魔法使いと共に戦ってきたのだぞ!!』


「すごいね」


『それが!!』


「うん」


『初めてお前と戦った結果が!!』


「…………」


『鈍器ではないかあああ!!』


「…………」


俺は。


アストラを見る。


傷。


なし。


欠け。


なし。


ひび。


なし。


「…………」


すごい。


『聞いておるのか!?』


「壊れてない」


『そこではない!!』


「でも」


『でも!?』


「すごく殴りやすかった」


『褒めるなあああ!!』


「…………」


褒めたのに。


『我の二百年の歴史が泣いておる……!!』


「…………」


杖って。


泣くんだ。


『泣かせておるのはお前だ!!』


◇


「……おい」


誰かの。


声。


振り返ると。


大剣の男が。


立っていた。


「今のは……何だ?」


「…………」


何だって。


「魔法」


「…………」


男が。


俺を見る。


次に。


魔物を見る。


外皮の。


亀裂。


そして。


また。


俺を見る。


「……魔法?」


「うん」


「今、杖で殴らなかったか?」


「殴った」


「…………」


「魔法で」


「…………」


男が。


黙った。


『説明になっておらん』


「なってるけど」


『お前の中ではな!!』


「……誰と話している?」


男が。


聞いてきた。


「…………」


あ。


また。


「なんでもない」


「…………」


男の。


表情が。


さらに。


複雑になった。


その時。


「来るぞ!!」


レオの。


声。


魔物が。


体勢を。


立て直した。


「グオオオッ!!」


亀裂の。


入った外皮。


でも。


まだ。


動ける。


「…………」


倒れてない。


『当然だ。お前は魔力を抑えておったからな』


「うん」


まだ。


全然。


余裕がある。


さっき流したのは。


俺の魔力の。


ほんの。


一部。


本気で。


流そうと思えば。


もっと。


ずっと。


流せる。


でも。


『増やすなよ』


「…………」


『今、増やそうと考えただろう』


「考えただけ」


『考えるな!!』


「…………」


厳しい。


◇


「全員、聞け!」


大剣の男が。


声を張り上げた。


「奴の外皮に亀裂が入った! そこを狙う!」


冒険者たちが。


一斉に。


動いた。


「盾役、正面を押さえろ!」


「おう!」


大盾を。


持った冒険者が。


魔物の。


正面に立つ。


ガルムも。


加わった。


「ノア!」


レオが。


俺を見る。


「お前は一度下がれ!」


「でも」


「十分だ! あとは俺たちがやる!」


「…………」


十分?


まだ。


ちょっとしか。


殴ってないのに。


『それでよい』


「…………」


アストラが。


言った。


『戦いは、一人でするものではない』


「…………」


そうなの?


『今さら何を言っておる!!』


「…………」


でも。


確かに。


そうかもしれない。


俺は。


一歩。


下がった。


◇


「魔法班! 目を狙え!」


大剣の男が。


叫ぶ。


「《閃光》!」


強い光が。


魔物の。


顔を包んだ。


「グオオッ!?」


魔物が。


暴れる。


その隙に。


盾役たちが。


正面から。


押さえ込む。


「今だ!」


槍を持った。


冒険者が。


駆けた。


狙うのは。


さっき。


俺がつけた。


亀裂。


「はああっ!」


槍が。


突き刺さる。


外皮の。


奥へ。


深く。


「グオオオッ!!」


魔物が。


吠える。


そして。


大剣の男が。


動いた。


速い。


一気に。


間合いを。


詰める。


剣を。


大きく。


振り上げた。


「これで終わりだ!!」


振り下ろす。


亀裂へ。


正確に。


刃が。


叩き込まれた。


ドゴンッ!!


魔物の。


巨体が。


大きく。


揺れた。


「…………」


一歩。


二歩。


そして。


ドズゥゥン!!


倒れた。


地面が。


震える。


「…………」


静かに。


なった。


誰も。


動かない。


しばらくして。


「……討伐完了!」


大剣の男が。


叫んだ。


「おおおおおっ!!」


歓声が。


上がる。


「やった!」


ミアが。


笑った。


レオも。


大きく。


息を吐く。


ガルムが。


盾を。


下ろした。


「……何とかなったな」


「うん」


俺も。


頷く。


強かった。


みんな。


本当に。


強かった。


「…………」


俺は。


アストラを見る。


『何だ』


「やっぱりすごいね」


『……ふん。当然だ』


「壊れなかった」


『そこか!!』


◇


討伐が。


終わった。


冒険者たちは。


負傷者の。


確認を始めている。


幸い。


大きな怪我を。


した人は。


いないらしい。


「ノア」


レオが。


近づいてきた。


「何?」


「……助かった」


「うん」


「ガルムが危なかったからな」


「うん」


「でも、次は一声かけろよ」


「かけたよ」


「『どいて』だけじゃ足りないんだよ!」


「…………」


難しい。


ミアが。


笑っている。


ガルムも。


頷いた。


「俺は助かった」


「でしょ」


「だが、もう少し説明は欲しい」


「…………」


みんな。


注文が。


多い。


『当然だ』


「アストラまで」


『我は最初から言っておる』


「…………」


そうだった。


その時。


「ノア」


声が。


した。


振り返る。


大剣の男。


今回の。


討伐隊を。


率いていた。


男だ。


「少し、話がある」


「…………」


話?


「何?」


男が。


俺の杖を。


見た。


それから。


俺の顔を。


見た。


「お前、さっきの一撃……」


「うん」


「全力だったのか?」


「…………」


全力。


「違うけど」


「…………」


「ちょっとしか込めてない」


男が。


固まった。


「……ちょっと?」


「うん」


「どのくらいだ?」


「…………」


考える。


正確には。


分からない。


でも。


「かなり抑えた」


「…………」


男が。


黙った。


『ノア』


「何?」


『余計なことを言うな』


「本当のことだけど」


『だからだ!!』


「…………」


大剣の男が。


俺を。


じっと見ている。


「……そうか」


そして。


小さく。


笑った。


「面白い魔法使いだな、お前は」


「…………」


面白い?


「普通だけど」


『どこがだ!!』


男は。


もう一度。


俺を見る。


今度は。


さっきまでとは。


少し違う。


真剣な。


目だった。


「……ノアと言ったな」


「うん」


「覚えておこう」


「…………」


何を?


そう。


思ったけど。


聞かなかった。


『……ふむ』


アストラが。


小さく。


呟く。


『どうやら、お前に興味を持ったようだな』


「そう?」


『ああ』


「…………」


俺は。


アストラを見る。


「それより」


『何だ』


「次はもうちょっと込めてもいい?」


『駄目だ!!』


「…………」


厳しい。


本当に。


厳しい。



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