第35話 魔法使いは後衛です
「――大型の魔物です」
受付職員の。
言葉に。
レオが。
眉を寄せた。
「詳しく聞かせてくれ」
「はい。街の北側にある森で確認されました。すでに複数の冒険者が負傷しています」
「種類は?」
「現在調査中ですが、通常の個体よりかなり大きいようです」
「討伐隊を組むのか?」
「はい。すでに上位冒険者の方々にも集まっていただいています」
職員が。
奥を示した。
そこには。
いかにも強そうな連中がいた。
立派な鎧。
立派な剣。
立派な盾。
「…………」
高そう。
かなり。
高そう。
俺は。
自分の杖を見た。
『なんだ』
「いや」
『言いたいことがあるなら言え』
「これ、いくらくらいするんだろ」
『我に値段をつけるな!!』
「売らないよ」
『当たり前だ!!』
「買い取ってくれるところもなさそうだし」
『そういう意味ではない!!』
ミアが。
肩を震わせている。
「ノア、また怒られてる」
「いつものことだろ」
レオが。
ため息をついた。
そのとき。
奥にいた男が。
こちらへ歩いてきた。
背が高い。
腰には。
大きな剣。
鎧には。
いくつもの傷がある。
「お前たちが追加の冒険者か?」
「そうだ。俺はレオ。こっちはミア、ガルム、それからノアだ」
「ノア?」
男が。
俺を見る。
「魔法使いか?」
「うん」
「そうか。なら後方支援を頼む」
「…………」
後方。
支援。
「分かった」
『お前が素直に後方支援を引き受けるとはな』
「だって魔法使いだし」
『…………』
「何?」
『いや。何でもない』
男が。
俺の杖を見る。
「いい杖を持ってるな」
「そう?」
「かなりの品に見える」
「壊れないらしい」
「ほう。頑丈なのか」
「うん」
「それは心強いな」
「でしょ」
男は。
満足そうに頷いた。
『…………』
「何?」
『我の価値を耐久性だけで説明するな』
「一番大事だし」
『違う!!』
「…………」
男が。
不思議そうに。
俺を見る。
「……お前、さっきから誰と話してる?」
「杖」
「…………」
「…………」
あ。
『おい』
「いや」
『おい、ノア』
「なんでもない」
『隠す気があるのか、お前は!!』
男が。
俺の杖を見る。
そして。
俺を見る。
「……そうか」
納得したらしい。
よかった。
『絶対に納得しておらん!!』
「…………」
うるさい。
『今思ったな!?』
「思ってない」
「……大丈夫か?」
男が。
心配そうに。
聞いてきた。
「大丈夫」
『大丈夫ではないのは我の方だ!!』
「…………」
念話って。
便利だけど。
ちょっと。
面倒かもしれない。
◇
説明が。
始まった。
今回の魔物は。
森の奥から。
突然現れたらしい。
通常の魔物とは。
明らかに。
大きさが違う。
すでに。
調査に向かった冒険者が。
何人も。
負傷している。
「討伐隊は三班に分ける」
男が。
地図を広げた。
「正面から俺たちが攻撃する。第二班は側面を固めろ。第三班は後方支援だ」
レオが。
頷く。
「俺たちは第三班か」
「ああ。負傷者が出た場合の対応も頼みたい」
「分かった」
「治癒魔法を使える者はいるか?」
「俺」
手を挙げた。
男が。
こちらを見る。
「助かる。どの程度の距離まで届く?」
「…………」
距離。
「近くなら」
「どのくらいだ?」
「かなり」
「かなり?」
「近い」
『正直に言え』
「…………」
「直接」
「直接?」
「杖を当てないと治せない」
男が。
固まった。
「……それは治癒魔法なのか?」
「治癒魔法だけど」
『間違ってはおらん』
「そうか……」
男は。
少し考えた。
「まあ、治せるなら問題ない」
よかった。
理解のある人だ。
「ただし、前には出るなよ」
「うん」
「魔法使いは後衛だからな」
「うん」
『…………』
「何?」
『いや』
アストラが。
妙に。
静かだった。
後衛。
つまり。
敵から。
遠い。
「…………」
魔法は。
飛ばない。
敵が。
遠い。
ということは。
「…………」
試せないじゃん。
『ようやく気づいたか』
「…………」
困った。
「どうした?」
レオが。
聞いてきた。
「いや」
「何だ?」
「後衛だと」
「うん」
「敵、遠いよね」
「当たり前だろ」
「…………」
「お前、何を考えてる?」
「別に」
『嘘をつくな』
「…………」
せっかく。
壊れない杖を。
手に入れたのに。
殴れない。
「…………」
残念。
『残念がるな!!』
◇
出発前。
レオが。
俺の肩を叩いた。
「ノア」
「何?」
「今回は絶対に勝手に前へ出るなよ」
「分かってる」
「本当だな?」
「うん」
「お前は魔法使いなんだからな」
「そうだよ」
レオが。
少し安心した顔をした。
『…………』
「何?」
『お前は本当に後衛にいるつもりなのか?』
「いるよ」
『では、どう戦う』
「…………」
考えた。
魔法は。
飛ばない。
敵が。
近づいてこなければ。
殴れない。
「…………」
『どうした』
「暇かもしれない」
『戦場を暇つぶしの場にするな!!』
ミアが。
とうとう。
吹き出した。
「ノア、お願いだから普通にして!」
「普通だけど」
「普通の魔法使いは杖で殴らないの!」
「…………」
それは。
知っている。
知っているけど。
飛ばないものは。
仕方ない。
『……まったく』
アストラが。
呆れた声を出した。
『我ほどの杖を手に入れながら、何を考えておるのか』
「何?」
『せめて、もう少し魔法使いらしく振る舞え』
「分かった」
『本当か?』
「うん」
俺は。
アストラを。
しっかり握った。
「なるべく綺麗に殴る」
『そういうことではない!!』
レオが。
額を押さえた。
「……頼むから、今回は大人しくしてくれ」
「分かってるって」
「その返事が一番信用できないんだよ」
「…………」
ひどい。
『普段の行いだ』
「アストラまで?」
『我はまだ短い付き合いだが、十分理解した』
「…………」
早くない?
◇
討伐隊が。
森へ向けて。
出発した。
上位冒険者たちは。
堂々としている。
レオたちも。
落ち着いている。
俺も。
落ち着いている。
……と思う。
『ノア』
「何?」
『一つだけ確認しておく』
「うん」
『本当に我で殴るつもりなのか?』
「当然」
『…………』
「壊れないんでしょ?」
『壊れぬ』
「じゃあ大丈夫」
『……我は、持ち主を間違えたのかもしれん』
「今さら?」
『今さらだ!!』
「…………」
森の入り口が。
見えてきた。
初めての。
アストラとの実戦。
俺は。
少しだけ。
楽しみだった。
何しろ。
初めて。
杖が壊れる心配をせずに。
戦えるのだから。
ただし。
一つだけ。
問題がある。
「…………」
後衛。
敵から。
遠い。
「…………」
やっぱり。
試せないかもしれない。
『……嫌な予感しかしない』
アストラが。
小さく呟いた。




