第33話 お前、呪われているのか?
遺跡に。
アストラの声が。
響いた。
それから。
少し。
経って。
「じゃあ」
俺は。
アストラを。
持ち直す。
「帰ろうか」
「そうだな」
レオが。
頷く。
ミアも。
荷物を。
持ち直した。
ガルムは。
来た道を。
確認している。
これで。
目的は。
達成した。
杖。
手に入った。
しかも。
壊れない。
かなり。
いい。
『待て』
「何?」
歩こうとした。
足を。
止める。
『その前に、一つ確認したい』
「何?」
『お前』
アストラが。
淡く。
光る。
『先ほどから、何度も言っていたな』
「何を?」
『魔法が飛ばぬ、と』
「うん」
『…………』
「何?」
『本当なのか?』
「本当だけど」
『…………』
「疑ってる?」
『疑うというより』
少し。
間。
『あり得ん』
「…………」
言い切った。
「でも飛ばない」
『あり得んと言っている』
「飛ばないものは飛ばないけど」
『お前には、あれほどの魔力がある』
「うん」
『魔力の操作もできている』
「多分」
『我へ魔力を流した際も、乱れはほとんどなかった』
「そうなの?」
『自覚がないのか』
「比べたことないし」
『…………』
アストラが。
黙った。
「だから」
俺は。
歩き出そうとする。
「帰ろう」
『待て』
「まだ?」
『試してみろ』
「何を?」
『魔法だ』
「飛ばないよ」
『それを我が見る』
「…………」
面倒だな。
『今、面倒だと思ったな』
「思ってない」
『間があったぞ』
「気のせい」
『…………』
「分かった」
俺は。
アストラを。
構える。
「何使えばいい?」
『得意な属性は』
「全部」
『…………何?』
「四属性」
『…………』
「火、水、風、土」
『…………』
「あと回復」
『待て』
「何?」
『お前』
アストラの。
声が。
低くなる。
『それだけの適性がありながら』
「うん」
『一つも飛ばせぬのか?』
「うん」
『…………』
「だから言っただろ」
『…………火だ』
「火?」
『最も単純なものでよい』
「分かった」
俺は。
アストラを。
前へ向ける。
少し離れた。
壁を見る。
「火球でいい?」
『構わん』
「じゃあ」
魔力を。
流す。
パァァァァ――。
「…………」
やっぱり。
通りやすい。
今までの。
杖とは。
全然違う。
『そのまま術式を組め』
「やってる」
『…………』
「何?」
『いや』
火の。
術式を。
組む。
熱。
炎。
形。
いつも通り。
杖先に。
小さな。
火球が。
生まれた。
ボッ。
「できた」
『…………』
「何?」
『できているではないか』
「ここまでは」
『ならば放て』
「うん」
杖先を。
壁へ。
向ける。
「ファイアボール」
ボッ!!
炎が。
大きくなる。
「…………」
『…………』
燃えている。
杖先で。
「ね?」
『…………』
「飛ばない」
『もう一度だ』
「飛ばないよ」
『もう一度やれ』
「…………」
頑固だな。
『聞こえているぞ』
「何も言ってない」
『顔に出ている』
「目ないのに?」
『早くしろ!』
「はいはい」
『返事が軽い!』
もう一度。
魔力を。
流す。
火球。
生成。
そして。
「ファイアボール」
ボッ!!
「…………」
『…………』
杖先で。
燃えている。
やっぱり。
飛ばない。
「二回目」
『…………』
「満足?」
『するわけがあるか』
「じゃあ何回?」
『回数の問題ではない!』
「そう?」
『…………』
アストラが。
静かになる。
『術式は成立している』
「うん」
『魔力も足りている』
「いっぱいある」
『知っておる』
「じゃあ」
俺は。
杖先の。
炎を消す。
「飛ばないだけ」
『その「だけ」で済ませるな!』
「でも昔からだし」
『昔から?』
「うん」
『一度も?』
「一度も」
『…………』
アストラが。
また。
黙った。
長い。
「帰っていい?」
『待て』
「…………」
まだ。
あるらしい。
『もう一度だ』
「三回目?」
『今度は違う』
「何が?」
『我が補助する』
「…………」
アストラを見る。
「できるの?」
『誰に聞いている』
「アストラ」
『そういう意味ではない!』
「…………」
『我は大賢者エルディアと共に、幾多の大魔法を放ってきた魔杖だ』
「うん」
『術者の魔力を導き、整え、術式を補助することなど造作もない』
「へえ」
『…………』
「何?」
『もう少し感心しろ』
「飛んだらする」
『…………』
「まだ飛んでないし」
『よし』
「何が?」
『絶対に飛ばしてやる』
「…………」
なんか。
火がついた。
杖なのに。
『構えろ』
「うん」
もう一度。
アストラを。
前へ。
向ける。
『魔力を流せ』
流す。
パァァァァァ――。
『そのまま』
「うん」
『我に任せろ』
次の瞬間。
感覚が。
変わった。
「…………?」
俺の。
魔力。
それが。
アストラの中で。
整えられていく。
さっきまでより。
さらに。
滑らか。
「すごい」
『当然だ』
魔力が。
杖先へ。
流れていく。
『術式を構築』
「うん」
炎。
形成。
ボォッ!!
さっきより。
大きい。
綺麗な。
火球。
『よし』
アストラの。
声が。
少し。
得意げになる。
『魔力経路、正常』
「うん」
『術式、正常』
「うん」
『出力も問題なし』
「うん」
『放出の瞬間も我が補助する』
「分かった」
『今だ』
「ファイアボール」
ボォッ!!
炎が。
強く。
燃え上がった。
「…………」
『…………』
杖先で。
「…………」
『…………』
燃えている。
「…………」
飛ばない。
『…………』
「ね?」
『待て』
「何?」
『おかしい』
「だから言っただろ」
『もう一度だ』
「まだやるの?」
『もう一度!!』
「…………」
四回目。
同じ。
『もう一度!!』
五回目。
同じ。
『もう一度だ!!』
「何回やるの?」
『飛ぶまでだ!!』
「多分ずっと終わらないよ」
『黙れ!!』
六回目。
アストラが。
さらに。
細かく。
魔力を。
調整する。
『今だ!!』
「ファイアボール」
ボォッ!!
「…………」
『…………』
飛ばない。
「…………」
『…………』
「アストラ?」
『黙れ』
「まだ何も言ってない」
『少し考えさせろ』
「うん」
静かに。
なった。
俺は。
待つ。
レオたちも。
いつの間にか。
黙って。
見ていた。
「…………」
長い。
「アストラ」
『待て』
「帰りたい」
『待てと言っている!』
「もう終わっただろ」
『終わっておらん!』
「何が?」
『我が納得しておらん!!』
「知らないよ」
『お前のことだ!!』
「俺は納得してる」
『なぜだ!?』
「ずっと飛ばないから」
『そこに納得するな!!』
「…………」
難しい杖だな。
『…………』
アストラが。
また。
黙る。
『魔力量』
「うん」
『問題なし』
「うん」
『魔力操作』
「うん」
『問題なし』
「うん」
『術式』
「うん」
『問題なし』
「うん」
『魔力伝導』
「うん」
『問題なし』
「うん」
『我が放出まで補助した』
「うん」
『…………』
「でも飛ばない」
『なぜだ!!』
「俺に聞かれても」
『あり得ん!』
「でも飛ばなかった」
『あり得ん!!』
「目の前で見ただろ」
『見たから言っている!!』
「…………」
アストラ。
面倒だな。
『…………お前』
「何?」
声が。
急に。
低くなった。
『まさか』
「うん」
『呪われているのか?』
「…………」
失礼だな。
「多分違う」
『なぜ分かる』
「呪いなんて言われたことない」
『では何なのだ!』
「知らない」
『自分のことだろう!!』
「分からないものは分からない」
『…………』
「だから」
俺は。
アストラを。
持ち直す。
「殴ってる」
『…………』
「飛ばないから」
『…………』
「近づいて」
『…………』
「杖に魔力込めて」
『待て』
「何?」
『その先は言うな』
「殴る」
『言うなと言っただろう!!』
「聞いたのアストラだけど」
『…………』
「これで分かった?」
『何がだ』
「なんで殴るのか」
『…………』
長い。
沈黙。
『…………理解はした』
「よかった」
『納得はしておらん』
「面倒だな」
『今度は聞こえたぞ!!』
「言ったから」
『開き直るな!!』
「じゃあ帰ろう」
『待て! まだ話は――』
俺は。
歩き出す。
「ノア」
レオが。
隣へ。
並んだ。
「何?」
「どうだった?」
「何が?」
「伝説の杖」
「…………」
手の中の。
アストラを見る。
壊れない。
魔力。
いっぱい入る。
補助も。
できる。
ただ。
「ちょっとうるさい」
『誰がうるさい!!』
「こういうところ」
「ははっ」
レオが。
笑った。
後ろで。
ミアも。
笑っている。
『ノア!!』
「何?」
『我はまだ、お前の魔法について――』
「帰ってからでいい?」
『よくない!!』
「疲れた」
『我の方が疲れておるわ!!』
「杖なのに?」
『誰のせいだと思っている!!』
「…………」
やっぱり。
相性。
悪いかもしれない。
でも。
俺は。
手の中の。
アストラを見る。
「…………」
悪くない。
多分。
『今度は何を考えている』
「別に」
『絶対に何か考えているだろう!』
「帰ったら」
『何だ』
「試しに殴ってみたいなって」
『やめろ!!』
アストラの。
声が。
遺跡中へ。
響いた。




