第32話 契約前の確認は大切です
『待てと言っている!!』
「なんで?」
『なんで、ではない!』
「でも」
俺は。
アストラを。
両手で握る。
「力を示せばいいんだろ?」
『そうだが』
「じゃあ」
柄を。
握り直す。
「見せる」
『…………』
「一番分かりやすいやつ」
『何をする気だ』
「魔力」
『…………』
「俺、一番多いの魔力だし」
『自分で言うか』
「事実だから」
魔法。
飛ばない。
杖。
壊す。
魔力。
多い。
今のところ。
最後しか。
褒められてない。
「じゃあ」
魔力を。
流す。
パァァァァ――。
アストラが。
光る。
「…………」
通る。
前の杖とは。
違う。
魔力が。
ほとんど。
引っかからない。
「まだ平気?」
『当然だ』
「そう」
少し。
増やす。
パァァァァァ――。
さらに。
増やす。
パァァァァァァァ――。
「…………」
ひび。
なし。
軋み。
なし。
魔石も。
綺麗。
「…………」
いい。
『何だ』
「別に」
『何か言いたそうだな』
「昨日買った杖より高そうだなって」
『比較するな』
「昨日の高かったんだけど」
『知らん』
「一日で壊れた」
『もっと知らん』
「じゃあ」
アストラを見る。
「お前の方がお得か」
『我を値段で評価するな!!』
「無料だし」
『そこではない!!』
「…………」
悪くない。
かなり。
悪くない。
『我を何だと思っている』
「壊れない杖」
『伝説級魔杖だ!』
「それで壊れないんだろ?」
『当然だ』
「どれくらい?」
『愚問だ』
「いっぱい?」
『我は大賢者エルディアと共に、幾多の大魔法を放ってきた』
「うん」
『並の魔杖ならば、一瞬で砕けるほどの魔力も受け止めてきた』
「うん」
『お前一人の魔力程度』
アストラが。
強く。
光る。
『恐れる理由などない』
「…………」
俺一人程度。
覚えた。
「じゃあ」
さらに。
流す。
ブゥゥゥゥン――。
光が。
部屋を。
照らす。
「ノア」
後ろから。
レオ。
「何?」
「今どれくらいだ?」
「そんなに」
「そんなにって?」
自分の中を。
確認する。
「半分くらい」
「…………」
レオが。
黙った。
ミアも。
俺を見る。
ガルムも。
眉を寄せる。
「何?」
「いや……」
レオが。
首を振った。
「お前の半分って、それなのか?」
「そうだけど」
「…………」
「少ない?」
「逆だよ」
「…………」
面倒だな。
俺は。
アストラを見る。
「これで従う?」
『まだだ』
「じゃあ増やす」
『待て』
「…………」
手を。
止める。
「何?」
『今ので、本当に半分なのか』
「多分」
『多分?』
「正確には分からない」
『…………』
「半分より少ないかも」
『…………』
アストラが。
黙った。
「何?」
『…………いや』
「続ける」
『待て』
「まだ?」
『少し確認する』
「何を?」
『…………』
答えない。
「…………」
長い。
俺は。
魔力を。
少し弱めた。
パァァ……。
光が。
落ち着く。
『…………』
アストラも。
静かになった。
「…………」
さっきまで。
あんなに。
偉そうだったのに。
「…………」
まあ。
いいか。
『何だ』
「何でもない」
『そうか』
「うん」
俺は。
アストラを。
握り直した。
『…………』
そして。
一気に。
魔力を。
流した。
ブォォォォォォォォォン!!!!
『――っ!?』
「うわっ!?」
一瞬で。
視界が。
白く染まった。
「ノア!?」
魔力を。
さらに。
流す。
一気に。
全力へ。
『待っ――』
アストラの。
声が。
途切れる。
『待て待て待て待て!!』
「何?」
『何、ではない!!』
ブォォォォォォォォン!!
部屋が。
震えた。
壁の。
古い文字が。
一斉に。
光る。
砂埃が。
舞い上がる。
ミアが。
腕で。
顔を隠した。
髪も。
ローブも。
魔力の波に。
激しく揺れる。
「なんだ、これ……!」
レオが。
一歩。
下がる。
ガルムも。
反射的に。
盾へ。
手を伸ばした。
「ノア!」
「何!?」
「これ全部、お前の魔力か!?」
「そうだけど!」
「…………!」
レオが。
言葉を失う。
ミアも。
俺を見る。
「これ……ノアの全力?」
「まだ」
「まだ!?」
『まだだと!?』
「うん」
『聞きたくなかった!!』
「…………」
変なの。
さっきまで。
あんなに。
自信満々だったのに。
俺は。
アストラを見る。
ものすごく。
光っている。
でも。
壊れてない。
「平気そう」
『どこを見てそう思った!?』
「壊れてない」
『我が耐えているからだ!!』
「でも」
『何だ!』
「怖くないんだろ?」
『…………』
「俺一人程度」
『…………』
「恐れる理由ないって」
『…………』
「言ったよね?」
『今はその話をしておらん!!』
「してると思うけど」
『しておらん!!』
「じゃあ増やす」
『なぜそうなる!!』
さらに。
魔力を。
流す。
『増やすな!!』
「まだ残ってる」
『もう十分だ!!』
「でも試練」
『十分だと言っている!!』
「力を示せって言ったの、アストラだけど」
『…………』
「途中でやめたら」
『何だ』
「手抜きになる」
『ならん!!』
「試練なのに?」
『ならん!!』
「…………」
基準。
適当だな。
『適当ではない!!』
「まだ何も言ってない」
『顔で分かる!!』
「目ないのに?」
『今はどうでもいい!!』
その瞬間。
アストラの。
光が。
変わった。
さらに。
強く。
鋭く。
輝き始める。
『この……!』
光が。
杖全体を。
包む。
『程度で……!』
声に。
余裕がない。
『我が……!』
ブォォォォォォォン!!
『砕けるものか!!』
「…………」
本気だ。
アストラ。
本気で。
耐えてる。
「まだいけそう」
『その結論になるな!!』
「じゃあ、あと少し」
『いらん!!』
「全部見せないと」
『もう十分見た!!』
「でも」
『通す!!』
「え?」
『試練は通す! だから止めろ!!』
「…………」
俺は。
少し。
考える。
「それ」
『何だ!!』
「ズルくない?」
『何がだ!?』
「最初は全部見せろって感じだったのに」
『言っておらん!!』
「力を示せって」
『そういう意味ではない!!』
「じゃあどういう意味?」
『…………』
「ほら」
『うるさい!!』
「…………」
試験官。
結構。
適当かもしれない。
◇
レオは。
目の前の。
光景を見ていた。
肌が。
ピリピリする。
空気が。
震えている。
離れている。
自分たちまで。
圧を感じる。
その中心。
光り輝く。
杖を。
両手で握る。
ノア。
「…………」
「レオ!」
ミアが。
髪を押さえながら。
叫ぶ。
「何!?」
「ノアって、こんなに魔力あったの!?」
「俺も今知った!」
ガルムが。
ノアを見る。
「…………」
「どうした?」
「あいつ」
「うん」
「あの魔力を杖に込めて」
一度。
止まる。
「魔物を殴ってるんだよな?」
「…………」
三人。
黙った。
光り輝く。
杖。
それを。
両手で握る。
ノア。
「…………」
レオの頭に。
以前聞いた。
噂が。
浮かぶ。
――《最強の槌使い》。
「…………」
いや。
まさか。
「レオ?」
「何でもない」
大男。
だったはずだ。
目の前にいるのは。
小柄な。
眼鏡の。
魔法使い。
「…………」
違う。
多分。
◇
『もうよい!!』
アストラが。
叫ぶ。
「でも」
『十分だ!!』
「あと少し」
『いらん!!』
「…………」
自分の中を。
確認する。
本当に。
あと少し。
「…………」
ここまで。
入れた。
なら。
全部。
入れてみたい。
『待て』
「何?」
『今、何を考えた』
「別に」
『嘘をつけ』
「失礼だな」
『絶対に何かする顔だ!!』
「目ないのに?」
『今はどうでもいい!!』
「…………」
俺は。
アストラを。
握り直す。
『待て』
「大丈夫」
『何がだ』
「壊れないんだろ?」
『そういう問題では――』
残っている。
魔力。
全部。
流す。
ブォンッ!!!!
『お前――!!』
一瞬。
音が。
消えた。
そして。
ドォォォォォォォン!!!!
魔力の波が。
部屋全体へ。
広がる。
「うわっ!」
レオたちが。
さらに。
下がった。
光が。
強すぎる。
アストラすら。
見えない。
でも。
手の中には。
ちゃんと。
感触がある。
「…………!」
全部。
入る。
止まらない。
拒まれない。
俺の魔力が。
全部。
流れていく。
『ぐっ……!』
「…………」
今。
変な声。
出した。
『聞くな!!』
「聞いただけ」
『忘れろ!!』
「無理」
『忘れろ!!』
「…………」
でも。
耐えてる。
折れない。
砕けない。
俺の。
全力を。
全部。
受け止めている。
「…………」
今まで。
一度も。
なかった。
どの杖も。
途中で。
駄目になった。
魔石が。
割れた。
柄が。
軋んだ。
壊れた。
だから。
いつも。
抑えていた。
でも。
今は。
違う。
全部。
入ってる。
「…………」
俺は。
魔力を。
止めた。
ブゥゥゥゥン……。
光が。
少しずつ。
弱くなる。
手の中。
アストラ。
ひび。
ない。
折れてない。
魔石も。
無事。
「…………」
本当に。
耐えた。
『…………』
「…………」
昨日。
ほとんど。
全財産を使った。
あの杖でも。
駄目だった。
それなのに。
こいつは。
全部。
受け止めた。
「…………」
「アストラ」
『……何だ』
「これ」
『何だ』
「本当に無料?」
『…………』
「あとから請求とかない?」
『ない!!』
「じゃあ欲しい」
『感想がそれか!!』
「だって」
アストラを見る。
「初めて全部入ったし」
『…………』
「壊れなかった」
『…………』
「高い杖買わなくて済む」
『…………』
「かなりいい」
『もう少し我そのものに感動できんのか!?』
「してる」
『どこがだ!!』
「壊れないところ」
『…………』
アストラが。
黙った。
でも。
少しだけ。
光が。
柔らかくなった。
『……お前は』
「何?」
『我が知る、いかなる魔法使いとも違う』
「そう?」
『これほどの魔力を持ちながら』
『魔法を飛ばせぬと言い』
「それ悪口?」
『お前が言ったのだろう』
「…………」
そうだけど。
言われると。
腹立つ。
『杖へ直接魔力を叩き込み』
「うん」
『挙句、我を限界まで追い込んだ』
「限界だった?」
『そこに食いつくな』
「ギリギリ?」
『黙れ』
「…………」
ギリギリだったらしい。
『だが』
アストラが。
光る。
『認めよう』
「…………」
『その魔力』
『その異質さ』
『そして』
さらに。
光が。
強くなる。
『我でなければ』
『お前の全力を受け止められぬことも』
「じゃあ」
『何だ』
「やっぱり俺に合ってる」
『…………』
『第三の試練』
部屋全体へ。
光が。
広がる。
『――通過』
「…………」
「本当に?」
『二度言わせるな』
「じゃあ」
アストラを。
持ち上げる。
「…………!」
動いた。
さっきまで。
どれだけ引いても。
動かなかった。
それが。
今は。
軽い。
「取れた」
「ノア!」
ミアが。
駆け寄ってくる。
「やった!」
「うん」
「おめでとう!」
「ありがとう」
レオも。
近づいてくる。
でも。
なんか。
俺を見ている。
「何?」
「…………いや」
「何?」
「何でもない」
「変なの」
ガルムも。
アストラを見る。
「これなら、もう杖を壊す心配はないな」
「多分」
『なぜ多分なのだ!』
「さっきギリギリだったから」
『ギリギリではない!!』
「でも変な声出てた」
『忘れろ!!』
「無理」
『忘れろ!!』
「…………」
怪しい。
でも。
耐えた。
それで。
十分。
「これからよろしく」
『…………』
「アストラ」
少し。
間。
『……仕方あるまい』
アストラが。
淡く。
光る。
『お前を我が主と認めよう』
「うん」
『ただし』
「何?」
『二度と先ほどのような真似をするな』
「無理」
『…………何?』
「戦う時も全力で使うし」
『…………』
「そのために欲しかった」
『…………』
「嫌なら今言って」
『…………』
長い。
沈黙。
『待て』
「何?」
『我は』
さらに。
長い。
沈黙。
『とんでもない者を主に選んだのではないか?』
「今さら?」
『…………』
「試練通したのアストラだよ」
『…………』
「俺のせいじゃない」
『お前のせいだ!!』
「それに」
俺は。
アストラを。
両手で握る。
「これで」
『…………』
「思いっきり殴れる」
『待て』
「何?」
『お前』
アストラの。
声が。
震える。
『今までの話を聞いて』
「うん」
『なぜ最初に出てくるのが殴るなのだ!!』
「俺、飛ばないから」
『…………』
「魔法」
『…………』
「飛ばないし」
『……それは先ほどから聞いておる』
「じゃあ問題ない」
『大問題だ!!』
「…………」
注文。
多いな。
『今、面倒だと思ったな!?』
「思ってない」
『我を見て言え!!』
「目どこ?」
『…………』
「…………」
後ろで。
ミアが。
吹き出した。
『…………主を』
「何?」
『間違えたかもしれん』
「返品できないと思う」
『我が返品する側だ!!』
「でも試練通したし」
『お前は本当に……!!』
アストラの。
声が。
遺跡中へ。
響いた。




