第30話 伝説の価値は人それぞれです
『我を――従えてみせよ』
「…………」
静寂。
俺は。
アストラを見る。
アストラも。
多分。
俺を見ている。
目。
ないけど。
「…………」
一つ。
分からない。
「どうやって?」
『…………』
「何すればいいの?」
『それを見つけることも、試練の一つだ』
「…………」
なるほど。
教えてくれない。
「面倒だな」
『…………』
後ろから。
レオが。
俺の肩を掴んだ。
「ノア」
「何?」
「聞こえてるぞ」
「…………」
そうだった。
喋るんだった。
アストラが。
淡く。
光る。
『今』
低い声。
『面倒だと言ったか?』
「言ってない」
「言ったよ」
ミアが。
後ろから言った。
「…………」
なんで。
そっちの味方するんだ。
『言ったではないか』
「聞き間違い」
『我は数百年、この地で挑戦者を待ち続けてきた』
「うん」
『幾人もの魔法使いが我を求め』
「うん」
『誰一人として、ここまで辿り着けなかった』
「うん」
『その最後の試練を』
アストラが。
強く。
光る。
『面倒だと?』
「…………」
怒ってる。
多分。
「ごめん」
『…………』
光が。
少し。
弱くなった。
『分かればよい』
「じゃあ教えて」
『何をだ』
「従える方法」
『だから、それを見つけるのが試練だ!』
「…………」
駄目だった。
◇
俺は。
アストラの前に。
立った。
「…………」
従える。
どうやって。
杖を。
従える。
「持つとか?」
『好きにするがいい』
「いいの?」
『できるものならな』
「…………」
なんか。
腹立つ。
俺は。
アストラへ。
手を伸ばした。
柄を。
掴む。
「…………」
掴めた。
「取れた」
『まだだ』
「え?」
引く。
「…………」
動かない。
もう一度。
引く。
「…………」
動かない。
「ノア?」
ミアが。
聞く。
「何?」
「取れない?」
「取れる」
引く。
「…………」
取れない。
両手で。
掴む。
「…………っ!」
引く。
動かない。
「ノア」
レオが。
言う。
「取れてないぞ」
「今から取れる」
「そうか」
「…………っ!」
全力。
動かない。
「…………」
おかしい。
浮いているのに。
なんで。
こんなに。
重い。
『どうした』
「…………」
『我を従えるのではなかったか?』
「今やってる」
『そうか』
「…………」
絶対。
馬鹿にしてる。
「ガルム」
「なんだ?」
「手伝って」
『待て』
「何?」
『これはお前の試練だ』
「でも取れない」
『だから試練なのだ!』
「二人なら取れるかもしれない」
『そういう問題ではない!』
「…………」
難しいな。
試練。
◇
一度。
手を離す。
「力じゃないのか」
『…………』
返事なし。
教える気は。
ないらしい。
「じゃあ」
俺は。
アストラを見る。
第一の試練。
魔力量。
第二の試練。
魔法。
第三の試練。
服従。
「…………」
魔力?
俺は。
もう一度。
アストラを掴んだ。
「流していい?」
『好きにするがいい』
「壊れない?」
『…………』
アストラの光が。
少し。
強くなった。
『我を誰だと思っている』
「アストラ」
『そうだ』
「壊れない杖」
『…………』
「違う?」
『間違ってはいない』
「じゃあ大丈夫か」
『待て』
俺は。
魔力を。
流した。
パァァァァァ――!!
「…………!」
アストラが。
強く。
光る。
魔力が。
流れる。
「…………」
すごい。
さらに。
流す。
パァァァァァァァ――!!
「ノア」
レオが。
少し。
離れた。
「何?」
「また全力でやるなよ」
「分かってる」
最近。
覚えた。
力加減。
多分。
「…………」
魔力を。
少し増やす。
アストラへ。
流れていく。
引っかからない。
今までの。
どの杖とも。
違う。
「…………」
まだ。
余裕がある。
でも。
これ以上は。
やめておく。
さっき。
レオにも。
言われた。
また全力で。
やるなと。
「…………」
杖を見る。
何も。
起きない。
ひび。
入らない。
軋まない。
魔石も。
割れない。
「…………」
俺は。
思わず。
笑った。
「すごい」
『…………』
「本当に壊れない」
『…………』
「これ欲しい」
『待て』
「何?」
『お前』
アストラの声が。
少し。
低くなった。
『先ほどから、我の何に感動している?』
「何って」
俺は。
アストラを見る。
「壊れないところ」
『…………』
静かに。
なった。
「ノア」
レオが。
小さな声で。
言う。
「何?」
「多分」
「うん」
「それ、怒ってるぞ」
「なんで?」
『我は』
アストラが。
強く。
光った。
『大賢者エルディアが生涯を共にした、伝説級魔杖である』
「知ってる」
『最高峰の魔力伝導率を誇り』
「うん」
『術者の魔力を余すことなく引き出し』
「うん」
『かつては、この杖より放たれた大魔法が――』
「でも俺、飛ばないから」
『…………』
「大魔法」
『…………』
「飛ばせない」
『…………』
静か。
「だから」
俺は。
アストラを見る。
「壊れない方が大事」
『…………』
「魔力いっぱい入りそうだし」
『…………』
「殴っても大丈夫そう」
『待て』
「何?」
『今』
アストラの声が。
変わった。
さっきまでの。
低く。
威厳のある声。
それが。
少し。
崩れた。
『何と言った?』
「魔力いっぱい入りそう」
『その後だ』
「殴っても大丈夫そう」
『…………』
「何?」
『我で』
「うん」
『何を殴るつもりだ』
「魔物」
『なぜだ』
「倒すため」
『魔法を使え!』
「使ってる」
『どこがだ!』
「杖に魔力込めて」
『うむ』
「殴る」
『最後がおかしい!!』
「…………」
アストラ。
結構。
声大きいな。
後ろから。
小さな。
笑い声。
振り返る。
ミアが。
口を押さえている。
「笑った?」
「笑ってない」
「笑ったよね?」
「ごめん」
笑ってる。
レオも。
顔を逸らしている。
ガルムまで。
少し。
笑っている。
「何?」
「いや」
レオが。
肩を震わせる。
「伝説の杖に怒られる魔法使い、初めて見た」
「俺も初めて会った」
『我も初めてだ!!』
「…………」
全員。
アストラを見る。
「今」
ミアが。
小さく。
呟いた。
「普通に会話してるね」
「…………」
確かに。
さっきまで。
もっと。
威厳があった気がする。
◇
「でも」
俺は。
アストラを見る。
「壊れないんだよね?」
『当然だ』
「殴っても?」
『その確認をするな』
「壊れない?」
『我は不壊の魔杖だ』
「じゃあ大丈夫」
『何がだ!』
「俺に合ってる」
『どこがだ!』
「壊れない」
『それ以外を見ろ!!』
「魔力も通る」
『そうだ!』
「いっぱい入る」
『そうだ!』
「殴れる」
『そこから離れろ!!』
「…………」
注文。
多いな。
「ノア」
レオが。
言う。
「多分、嫌われてるぞ」
「まだ何もしてない」
『十分している!』
「魔力流しただけ」
『我を鈍器として評価しただろう!』
「杖だろ?」
『魔杖だ!!』
「同じじゃない?」
『違う!!』
「…………」
面倒だな。
『今また面倒だと思っただろう!』
「思ってない」
『思ったな!?』
「思ってない」
『では我を見て言え!』
「目どこ?」
『…………』
「…………」
後ろで。
ミアが。
吹き出した。
「ご、ごめん……!」
アストラが。
しばらく。
何も言わなかった。
「…………」
怒った?
『…………もうよい』
「何が?」
『試練を続ける』
「まだ続いてたの?」
『終わっておらんわ!!』
「…………」
そうだった。
俺は。
まだ。
アストラを。
取れていない。
「じゃあ」
俺は。
もう一度。
柄を掴む。
「どうしたら従う?」
『それを』
アストラが。
言う。
『己で見つけろ』
「ヒント」
『ない』
「少しくらい」
『ない』
「一個」
『ない』
「半分」
『ヒントに半分などあるか!』
「…………」
難しい。
俺は。
アストラを見る。
アストラも。
多分。
俺を見ている。
「…………」
「…………」
『…………』
相性。
悪いかもしれない。
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