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『魔法が飛ばせないので、杖でぶん殴ることにした ~落ちこぼれ魔法使い、なぜか最強の槌使いと呼ばれる~』  作者: 蝶野摩矢


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29/60

第29話 高いものほど大切にしましょう

翌朝。


「…………」


俺は。


新しい杖を持って。


待ち合わせ場所へ。


向かった。


「あっ!」


ミアが。


俺を見るなり。


声を上げた。


「ノア!」


「何?」


「それ!」


指を差す。


俺の。


手。


正確には。


持っている。


杖。


「買ったの!?」


「うん」


「やったじゃん!」


ミアが。


駆け寄ってくる。


「やっとだね!」


「やっと」


長かった。


欲しい杖を。


見つけて。


値段を聞いて。


依頼を受けて。


魔力を売って。


設備に魔力を入れて。


壊しかけて。


また働いて。


ようやく。


買った。


ガルムも。


俺の杖を見る。


「例の杖か?」


「うん」


「かなり頑丈なんだろ?」


「店主はそう言ってた」


「魔力も?」


「前のより、かなり通るらしい」


「そうか」


ガルムが。


笑う。


「よかったな」


「うん」


レオが。


横から。


杖を見る。


「ただし」


「何?」


「店主は普通の使い方ならって言ってたからな」


「…………」


ミアが。


俺を見る。


ガルムも。


俺を見る。


「何?」


「ノア」


ミアが。


杖を指す。


「殴るんだよね?」


「うん」


「普通じゃないじゃん」


「…………」


確かに。


でも。


そのために。


買った。


「大丈夫」


「なんで?」


「高かったから」


「値段で決めないでよ」


「でも高かった」


「どれくらい?」


「…………」


思い出す。


財布。


中身。


ほとんど。


消えた。


「聞かないで」


「そんなに!?」


「聞かないで」


悲しくなる。


「でも」


ミアが。


笑う。


「よかったね」


「何が?」


「ずっと欲しがってたでしょ?」


「…………」


俺は。


杖を見る。


確かに。


欲しかった。


これが。


なければ。


第二の試練を。


突破できない。


そして。


その先に。


アストラが。


いる。


「うん」


「珍しい」


「何が?」


「素直」


「…………」


失礼な。


「それで」


ガルムが。


聞く。


「いつ行く?」


「どこに?」


「試練だ」


「…………」


俺は。


新しい杖を見る。


決まっている。


「今から」


「だと思った」


レオが。


笑った。


◇


歩いて。


数時間。


森を。


抜ける。


そして。


見えてきた。


古い。


石造りの遺跡。


岩壁に。


埋め込まれた。


巨大な扉。


「…………」


戻ってきた。


ガルムが。


俺を見る。


「今度はいけそうか?」


「多分」


「また多分か」


「やってみないと分からない」


でも。


前とは。


違う。


杖が。


違う。


俺は。


新しい杖を見る。


これなら。


第二の試練を。


突破できる。


多分。


俺たちは。


巨大な扉へ。


近づいた。


その横。


黒い。


測定石。


「…………」


俺は。


止まる。


表面。


小さな。


ひび。


「直ってない」


「そりゃそうだろ」


レオが言った。


「誰がこんな森の奥まで直しに来るんだよ」


「でも試練だよ?」


「試練でも壊れたら壊れたままだろ」


「…………」


俺は。


測定石を見る。


前回。


ここに。


全力で。


魔力を流した。


結果。


【測定不能】


そして。


【第一試練――通過】


最後に。


ひび。


「ノア」


ミアが。


俺を見る。


「何?」


「今度は少しずつね」


「分かってる」


「本当に?」


「最近、力加減覚えた」


「…………」


三人が。


俺を見る。


「何?」


「いや」


レオが。


首を振る。


「何でもない」


「言いたいことあるなら言って」


「設備」


「…………」


なんで。


知ってるんだ。


「壊しかけたんだろ?」


「壊してない」


「壊しかけたんだろ?」


「…………」


壊してない。


大事なのは。


そこ。


「今回は」


俺は。


測定石を見る。


「少しずつやる」


「そうしてくれ」


「石のために」


「そうしてくれ」


俺の。


心配は?


まあ。


いい。


一度。


突破した。


試練。


また。


測る必要が。


あるのかは。


分からない。


でも。


扉は。


閉まっている。


なら。


やるしかない。


俺は。


測定石の前へ。


立つ。


手を。


伸ばす。


「…………」


少し。


本当に。


少し。


今度は。


いきなり。


全部なんて。


入れない。


あと。


少し。


指先が。


測定石へ。


触れる。


その直前。


【資格を確認】


「…………」


俺の手が。


止まった。


【第一試練――通過】


「…………え?」


ゴゴゴゴゴゴゴ……!!


巨大な。


石扉が。


動き始める。


「ちょっと待って」


俺は。


自分の手を見る。


測定石を見る。


扉を見る。


「まだ触ってない」


誰も。


答えない。


「今回の魔力量は?」


【第一試練――通過】


「測らなくていい?」


【第一試練――通過】


「…………」


レオが。


俺の肩を。


掴んだ。


「ノア」


「何?」


「もう触るなってことじゃないか?」


「なんで?」


「前回壊しかけたからだよ」


「壊してない」


俺は。


ひびを見る。


「ちょっと割れただけ」


「それを壊しかけたって言うんだよ」


「…………」


そうなのか。


横を見る。


ミアが。


口元を。


押さえている。


「何?」


「いや」


「笑ってる?」


「笑ってない」


「笑ってる」


「だって」


ミアが。


測定石を見る。


「絶対、触ってほしくないんだよ」


「石が?」


「試練が」


「…………」


そんなこと。


ある?


ガルムが。


開いた扉を見る。


「通れたならいいだろ」


「でも」


「ノア」


「何?」


「触るな」


「…………」


ガルムまで。


俺は。


測定石を見る。


ひび。


まだ。


残っている。


「…………」


まあ。


いいか。


楽だった。


俺たちは。


開いた扉へ。


向かう。


最後に。


振り返る。


黒い。


測定石。


「…………」


なんとなく。


安心しているように。


見えた。


気のせいだ。


多分。


◇


遺跡の中を。


進む。


薄暗い。


通路。


壁には。


青白い光。


前と。


同じ。


しばらく。


歩く。


その先。


広い。


部屋。


「…………」


あった。


正面。


次へ続く道を。


塞いでいる。


巨大な。


石の塊。


前回。


俺が。


突破できなかった。


第二の試練。


その横。


刻まれた文字。


『魔法をもって――道を開け』


「ノア」


レオが。


言う。


「今度こそだな」


「うん」


俺は。


杖を見る。


このために。


買った。


前回。


ここで。


失敗した。


俺の魔力に。


杖が。


耐えられなかった。


だから。


働いた。


金を。


貯めた。


そして。


今。


新しい杖が。


ある。


「…………」


俺は。


巨大な石へ。


向かって。


歩き出す。


一歩。


二歩。


三歩。


「…………」


誰も。


何も言わない。


さらに。


歩く。


「…………」


振り返る。


三人。


普通に。


ついてきている。


「何?」


ミアが聞く。


「いや」


「どうした?」


「止めないの?」


「何を?」


「俺」


「…………」


ミアが。


レオを見る。


レオが。


ガルムを見る。


ガルムが。


俺を見る。


「止めてほしいのか?」


「いや」


「じゃあ行け」


「…………」


前回は。


あんなに。


止められたのに。


「慣れた?」


「諦めた」


レオが言った。


「…………」


何を?


◇


巨大な石の。


目の前。


俺は。


見上げる。


大きい。


厚い。


前回と。


何も。


変わっていない。


違うのは。


俺の。


杖。


「ノア」


ミアが。


少し後ろから。


声をかける。


「何?」


「大丈夫?」


「多分」


「杖」


「…………」


俺じゃない。


やっぱり。


杖。


「大丈夫」


俺は。


新しい杖を。


持ち上げる。


「高かったから」


「それしか言わないね」


大事だから。


俺は。


杖先を。


巨大な石へ。


当てる。


そして。


魔力を。


流す。


パァァァ――。


「…………」


すぐに。


分かった。


前の杖とは。


全然。


違う。


魔力が。


通る。


前の杖より。


ずっと。


滑らかに。


杖先へ。


集まっていく。


「ノア?」


レオが。


聞く。


「どうだ?」


「すごい」


「何が?」


「通る」


「魔力が?」


「うん」


さらに。


流す。


パァァァァァ――!!


杖を見る。


大丈夫。


魔石。


大丈夫。


柄。


大丈夫。


まだ。


いける。


「…………」


俺は。


少し。


笑った。


「何?」


ミアが聞く。


「金ってすごい」


「杖でしょ」


「高かった」


「知ってる」


さらに。


魔力を。


流す。


パァァァァァァ――!!


光が。


強くなる。


でも。


杖は。


耐えている。


折れない。


まだ。


折れない。


これなら。


いける。


俺は。


一度。


杖を。


巨大な石から。


離した。


「ノア」


レオが。


俺を見る。


「何?」


「まさか」


「何?」


「殴るのか?」


「うん」


「…………」


「そのために買った」


「店主が聞いたら泣くぞ」


「知らない」


杖を。


握り直す。


魔力。


十分。


杖先。


光っている。


「…………」


俺は。


振りかぶる。


「ノア」


ミアが。


言う。


「何?」


「壊さないでね」


「石?」


「杖」


「…………」


「絶対、杖」


「分かってる」


石は。


壊す。


そのための。


試練。


俺は。


巨大な石を見る。


「いく」


足を。


踏み込む。


腰を。


回す。


そして。


「――っらぁ!!」


ドゴォォォォォォン!!!!


杖先が。


巨大な石へ。


叩き込まれた。


光。


衝撃。


轟音。


遺跡全体が。


揺れる。


「うわっ!」


石の表面に。


亀裂。


一本。


二本。


三本。


一気に。


走る。


バキッ。


バキバキバキバキッ!!


次の瞬間。


ドゴォォォォン!!


巨大な石が。


崩れた。


大量の。


石片。


砂埃。


その向こう。


道が。


開いている。


「やった!」


ミアの声。


「ノア!」


レオが。


走ってくる。


「突破したぞ!」


「待って」


「何?」


俺は。


杖を見る。


先端。


魔石。


大丈夫。


柄。


大丈夫。


金具。


大丈夫。


「…………!」


耐えた。


「折れてない!」


「おお!」


レオも。


杖を見る。


「今度は大丈夫そうだな!」


「うん!」


「やったね!」


ミアが。


笑う。


「頑張って買った甲斐あったじゃん!」


「ああ」


よかった。


本当に。


よかった。


これなら。


これからも。


使える。


依頼でも。


魔物を。


殴れる。


もう。


杖を。


買い直さなくて。


いい。


「…………」


俺は。


少し。


笑った。


ピシッ。


「…………」


笑顔が。


止まった。


「…………」


今。


聞こえた。


「ノア?」


「静かに」


「え?」


全員。


黙る。


「…………」


俺は。


杖を見る。


気のせい。


多分。


気のせい。


ピシッ。


「…………」


気のせいじゃない。


「ノア」


レオが。


杖を見る。


「それ」


「待って」


魔石。


一本。


細い。


亀裂。


「…………」


待って。


ピキッ。


二本。


「待って待って」


三本。


「ノア……」


ミアの声。


「大丈夫」


「でも」


「大丈夫」


高かった。


大丈夫。


高かったから。


ピシッ。


亀裂が。


広がる。


「…………」


嘘だろ。


パキン。


小さな。


魔石の欠片が。


地面へ。


落ちた。


カラン。


「…………」


俺は。


見下ろす。


欠片。


見る。


杖。


見る。


欠片。


もう一度。


見る。


「…………」


終わった。


「ノア?」


ミアが。


恐る恐る。


俺を見る。


「大丈夫?」


「…………」


何日も。


働いた。


魔力を。


売った。


設備を。


壊しかけた。


頑張って。


金を。


貯めた。


そして。


昨日。


ほとんど。


全部。


使った。


「…………」


俺は。


杖を見る。


「死んだ」


「えっ!?」


ミアが。


一瞬。


慌てる。


「どこ!? 怪我した!?」


「杖」


「またそっち!?」


「…………」


また。


壊れた。


レオが。


杖を見る。


「でも」


「何?」


「石は壊したぞ」


「…………」


見る。


巨大な石。


ない。


その向こう。


道。


開いている。


「第二の試練は突破した」


「…………」


確かに。


突破。


した。


「じゃあ」


ガルムが。


言う。


「無駄じゃなかった」


「…………」


無駄。


ではない。


この杖が。


あったから。


突破できた。


でも。


「高かった」


「それはもう分かった」


「ほとんど全財産」


「それも聞いた」


「昨日買った」


「…………」


レオが。


俺の肩を。


叩いた。


「元気出せ」


「無理」


「アストラがあるだろ」


「…………」


俺は。


顔を上げた。


「壊れない杖」


レオが。


道の先を見る。


「それを取りに来たんだろ?」


「…………」


そうだった。


伝説級魔杖。


《アストラ》。


どれほどの。


魔力を。


流しても。


決して。


砕けない。


杖。


俺は。


壊れた杖を見る。


もう一度。


道の先を見る。


「行く」


「切り替え早いな」


「もうこれしかない」


「理由が切実だな……」


本当に。


これしかない。


次。


また。


杖を買う金なんて。


ない。


俺は。


壊れた杖を。


鞄へ。


しまった。


そして。


開いた道へ。


向かう。


「アストラ」


絶対。


持って帰る。


◇


長い。


通路。


静か。


足音だけが。


響く。


俺たちは。


奥へ。


進む。


「…………」


俺は。


時々。


鞄を見る。


「ノア」


ミアが。


横から。


俺を見る。


「何?」


「まだ気にしてる?」


「気にしてない」


「さっきから鞄見てるけど」


「…………」


気にしてない。


多分。


「アストラ手に入ったら」


ミアが。


笑う。


「もう壊れないんでしょ?」


「うん」


「じゃあ大丈夫だよ」


「…………」


そう。


どれだけ。


魔力を流しても。


壊れない。


俺が。


探していた。


杖。


「絶対欲しい」


「頑張ろう」


「うん」


しばらく。


歩く。


その先。


大きな。


扉。


俺たちは。


止まった。


今までとは。


違う。


細かな。


装飾。


中央には。


杖の紋様。


「ここか?」


レオが。


聞く。


「多分」


「また多分」


「初めて来たから」


仕方ない。


俺は。


扉へ。


近づく。


触れる。


ゴゴゴゴゴゴ……。


扉が。


ゆっくり。


開いた。


その先。


暗い。


部屋。


俺たちは。


足を。


踏み入れる。


一つ。


明かりが。


灯る。


次。


また。


一つ。


一つずつ。


部屋が。


照らされていく。


「…………」


ミアが。


息を呑んだ。


俺も。


足を止める。


部屋の。


中央。


一本の。


杖。


浮いている。


「…………」


見た瞬間。


分かった。


今まで。


見てきた。


どの杖とも。


違う。


俺が。


昨日。


ほとんど全財産を使って。


買った杖。


それすら。


比べものにならない。


「……あれが」


レオが。


呟く。


「アストラ……?」


ミアの声。


ガルムも。


黙って。


見つめている。


「…………」


俺は。


一歩。


前へ出た。


壊れない。


伝説の杖。


やっと。


見つけた。


「…………」


欲しい。


ものすごく。


欲しい。


その瞬間。


アストラが。


淡く。


光った。


『よくぞ』


「っ!?」


俺は。


反射的に。


足を止めた。


後ろで。


レオが。


剣の柄へ。


手をかける。


ガルムも。


盾を。


構えた。


ミアが。


周囲を見回す。


「誰!?」


「…………」


返事は。


ない。


誰も。


いない。


俺たち以外。


この部屋に。


いるのは。


一本の。


杖だけ。


「…………まさか」


ミアが。


ゆっくり。


アストラを見る。


俺も。


見る。


「今の」


レオが。


眉をひそめる。


「こいつか?」


「…………」


杖が。


もう一度。


光った。


『第一の試練――魔力』


「…………!」


今度は。


全員。


アストラを見る。


間違いない。


「喋った……」


ミアが。


呟く。


「杖が……」


俺も。


アストラを見る。


「…………」


喋るのか。


杖って。


『第二の試練――魔法』


「…………」


普通に。


続けた。


俺たちが。


驚いていることなんて。


気にもしていない。


「ノア」


レオが。


小さな声で言う。


「何?」


「伝説の杖って、喋るのか?」


「俺に聞くなよ」


俺だって。


初めて見た。


『二つを越えし者よ』


アストラの。


光が。


強くなる。


自然と。


誰も。


喋らなくなった。


『最後の試練を与える』


「…………」


最後。


ここまで。


来た。


俺は。


アストラを。


見つめる。


『我を――』


一瞬。


部屋が。


静まり返る。


そして。


『従えてみせよ』



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