第28話 金は貯まると消えていきます
「それで」
俺は。
受付嬢を見る。
「何するの?」
「珍しいですね」
「何が?」
「報酬より先に仕事内容を聞くなんて」
「…………」
確かに。
「で」
「はい」
「高い?」
「結局そこですか」
大事だ。
非常に。
大事だ。
受付嬢が。
一枚の依頼書を。
取り出した。
「魔導工房からの依頼です」
「また魔力入れる?」
「簡単に言えば」
「やる」
「最後まで聞いてください」
「…………」
最近。
よく言われる。
受付嬢が。
依頼書を。
俺の前へ置く。
「魔具の製造には、大量の魔力を必要とする工程があります」
「うん」
「通常は工房にある蓄魔石から供給します」
「うん」
「ですが現在、その蓄魔石への補充が追いついていないそうです」
「…………」
俺は。
依頼書を見る。
「つまり?」
「魔力を補充してほしいそうです」
「やる」
「まだです」
「まだあるの?」
「あります」
受付嬢が。
俺を見る。
「昨日のように、一気に流さないこと」
「…………」
「絶対に」
「分かってる」
「設備を壊した場合」
「弁償?」
「はい」
「…………」
俺は。
依頼書から。
手を離した。
「やめます」
「早いですね」
「危ない」
「大丈夫です」
「昨日も壊れかけた」
「今回は工房の職人が調整します」
「…………」
「ノアさんは指示された量を流すだけです」
「本当に?」
「本当にです」
「壊れない?」
「指示を守れば」
「…………」
条件付き。
怖い。
「それで」
俺は。
聞く。
「報酬は?」
受付嬢が。
金額を言った。
「やる」
「早いですね」
「いつ行けばいい?」
「今からでも」
「行く」
「ノア」
横から。
レオが。
俺を見る。
「何」
「さっきまで怖がってなかったか?」
「怖い」
「じゃあなんで行くんだよ」
「金」
「…………」
レオが。
ため息をついた。
◇
魔導工房。
中へ入った瞬間。
熱かった。
「暑い」
「工房だからな」
レオが言う。
あちこちに。
魔石。
金属。
杖。
剣。
見たことのない。
魔具。
「…………」
俺は。
杖を見る。
一本。
二本。
三本。
「ノア」
「何」
「見るな」
「見てない」
「値札見てるだろ」
「…………」
高い。
やっぱり。
杖は。
高い。
「お前が魔力供給の冒険者か?」
声。
振り返る。
大きな男。
腕が。
太い。
「そうです」
「話は聞いてる」
男が。
工房の奥を指す。
「こっちだ」
ついていく。
そこには。
いくつもの。
透明な魔石が。
並んでいた。
「これ」
「蓄魔石だ」
「全部?」
「ああ」
「…………」
結構ある。
「これに魔力を入れる」
「壊れない?」
「普通にやればな」
「…………」
普通。
難しい言葉だ。
「安心しろ」
職人が。
一つの装置を指す。
「直接入れるわけじゃない」
「そうなの?」
「ああ」
魔石へ。
何本もの管が。
繋がっている。
中央に。
小さな台。
「ここへ流せ」
「これなら?」
「こっちで量を調整する」
「…………」
素晴らしい。
「俺がいっぱい入れても?」
「限界を超えた分は止める」
「…………!」
素晴らしい。
「ノア」
レオが。
俺を見る。
「何」
「今、絶対ろくなこと考えなかったか?」
「考えてない」
「本当か?」
「いっぱい入れても大丈夫なんだって」
「やっぱり考えてるじゃねえか」
職人が。
俺を見る。
「…………」
「何?」
「いや」
少し。
不安そう。
「とりあえず」
職人が言う。
「やってみろ」
「はい」
俺は。
杖を。
台へ当てた。
「流すよ」
「ああ」
魔力を。
流す。
少し。
ブゥン。
装置が。
光る。
「もっといいぞ」
「うん」
増やす。
ブゥゥゥン。
「もっと」
増やす。
ブォォォン。
「まだいける」
「…………」
俺は。
職人を見る。
「本当に?」
「ああ」
「いっぱい?」
「一気にはやめろ」
「…………」
残念。
少しずつ。
増やす。
ブォォォォン――。
一つ目の。
蓄魔石が。
青く染まっていく。
「おお」
俺は。
見る。
「溜まってる」
「ああ」
「これ満タンになったら?」
「次へ切り替わる」
「へえ」
便利。
しばらく。
魔力を流す。
一つ目。
満タン。
二つ目。
満タン。
三つ目。
「…………」
職人が。
俺を見る。
「何?」
「まだいけるか?」
「うん」
「…………」
また。
その顔。
「何?」
「普通は」
「うん」
「一つ満たす前に休憩を挟む」
「…………」
俺は。
並んでいる。
蓄魔石を見る。
三つ。
終わった。
「これで?」
「ああ」
「…………」
少なくない?
「ノア」
レオが。
俺を見る。
「今の顔やめろ」
「何」
「絶対『少なくない?』って思っただろ」
「なんで分かるんだよ」
「付き合い長くなってきたからな」
「…………」
嫌な成長だ。
「まだいけるなら」
職人が。
次の魔石を見る。
「続けてくれ」
「分かった」
魔力を。
流す。
四つ目。
五つ目。
六つ目。
「…………」
職人が。
無言になった。
七つ目。
「…………」
レオも。
無言。
八つ目。
「…………」
俺は。
二人を見る。
「何?」
「いや……」
職人が。
俺を見る。
「お前」
「うん」
「魔力切れって知ってるか?」
「知ってる」
「なったことは?」
「ない」
「…………」
「何?」
「いや」
また。
それ。
九つ目。
十。
そして。
「よし」
職人が。
装置を止めた。
「終わりだ」
「もう?」
「全部満タンだ」
「…………」
俺は。
並んだ。
蓄魔石を見る。
全部。
青く。
光っている。
「これだけ?」
「これだけって……」
職人が。
何か言いかけて。
やめた。
「…………」
俺は。
自分の中を。
確認する。
減った。
結構。
減った。
でも。
まだ。
ある。
「もう一個ない?」
「ない」
「別の設備」
「ない」
「…………」
残念。
「お前」
職人が。
俺を見る。
「なんで残念そうなんだ」
「もっとやったら」
「報酬は増えんぞ」
「…………」
「急に普通の顔に戻るな」
◇
ギルドへ。
戻った。
「お疲れさまでした」
受付嬢が。
報酬を。
カウンターへ置く。
「…………」
俺は。
受け取る。
数える。
一枚。
二枚。
三枚。
「…………」
もう一回。
数える。
「ノア」
レオが。
隣から覗く。
「何」
「合ってるぞ」
「確認」
「さっきから三回目だぞ」
「大事だから」
もう一度。
頭の中で。
計算する。
今まで。
貯めた金。
昨日の報酬。
追加分。
今日。
そして。
欲しい杖。
「…………」
俺は。
止まった。
「どうしました?」
受付嬢が。
俺を見る。
「…………」
足りる。
「ノア?」
レオが。
顔を覗く。
「何」
「どうした?」
「足りる」
「何が?」
俺は。
顔を上げた。
「杖」
「…………」
レオが。
一瞬。
黙った。
そして。
笑った。
「やっとか」
「うん」
やっと。
長かった。
魔物を倒した。
依頼もした。
魔力も売った。
設備も。
壊しかけた。
全部。
このため。
「行ってくる」
「今から?」
「今から」
「少し休めよ」
「店閉まる」
「…………」
「行く」
「分かった分かった」
俺は。
ギルドを。
出た。
◇
「…………」
店主が。
俺を見る。
「何だ」
「杖」
「見れば分かる」
「違う」
俺は。
財布を。
カウンターへ置いた。
「いいやつ」
「…………」
店主が。
財布を見る。
俺を見る。
「また壊したのか?」
「壊してない」
「本当か?」
「今回は」
「今回は?」
「壊してない」
「その言い方やめろ」
失礼な。
俺は。
最近。
杖を。
大切にしている。
殴ってない。
「前に見せてもらったやつ」
「どれだ」
「魔力がいっぱい通るやつ」
「…………」
店主が。
俺を見る。
「金は?」
「ある」
「足りるのか?」
「多分」
「多分で来るな」
店主が。
奥へ。
入っていく。
しばらくして。
一本の杖を。
持ってきた。
「これだ」
「…………」
俺は。
見る。
前にも。
見た。
杖。
今使っているものより。
明らかに。
作りがいい。
柄。
金具。
そして。
先端の魔石。
大きい。
「魔力伝導率も高い」
店主が言う。
「魔石の許容量も、安物とは比べものにならん」
「頑丈?」
「…………」
「頑丈?」
「普通の杖よりはな」
「殴れる?」
「殴るな」
「…………」
そこは。
変わらないらしい。
「試していい?」
「ああ」
俺は。
杖を。
受け取る。
「…………」
軽い。
握る。
魔力を。
少し。
流す。
パァァ――。
「…………!」
違う。
今までより。
ずっと。
魔力が。
通る。
引っかからない。
流した分が。
そのまま。
杖先へ。
集まっていく。
「…………」
俺は。
杖先を見る。
「すごい」
「だろう」
「これなら」
もっと。
入る。
もっと。
流せる。
「…………」
俺は。
杖を見る。
店主が。
嫌そうな顔をした。
「お前」
「何」
「今、何を考えた」
「別に」
「絶対殴ること考えただろ」
「考えてない」
「俺を見て言え」
「…………」
俺は。
杖を見る。
「買う」
「話を逸らすな」
「いくら?」
店主が。
金額を言った。
「…………」
知っていた。
知っていたけど。
高い。
俺は。
財布を見る。
杖を見る。
財布。
杖。
「…………」
「どうする?」
「買う」
「即答か」
「これのために稼いだ」
金を。
カウンターへ。
置く。
店主が。
数える。
俺も。
見る。
減る。
俺の金が。
どんどん。
店主の方へ。
移動していく。
「…………」
「そんな顔するな」
「してない」
「してる」
最後の。
硬貨。
チャリン。
「…………」
店主が。
杖を。
俺へ渡した。
「ほら」
「…………」
受け取る。
杖。
手に入った。
念願の。
名品。
「どうだ?」
「…………」
「嬉しくないのか?」
「嬉しい」
「そう見えんぞ」
「金が消えた」
「お前が払ったんだろ」
「…………」
財布を。
見る。
軽い。
非常に。
軽い。
「…………」
でも。
杖を見る。
「よし」
これなら。
いける。
前の杖とは。
違う。
魔力が。
通る。
許容量も。
大きい。
俺は。
このために。
金を貯めた。
「店主」
「なんだ」
「これ」
杖を。
持ち上げる。
「本当に丈夫なんだよね?」
「普通に使えばな」
「…………」
「普通に使えよ」
「分かってる」
「絶対分かってないだろ」
失礼な。
今度こそ。
大丈夫。
多分。
◇
店を。
出る。
外では。
レオが。
待っていた。
「買えたか?」
俺は。
新しい杖を。
見せる。
「おお」
レオが。
近づく。
「いいやつじゃん」
「高かった」
「知ってる」
「財布が死んだ」
「また稼げ」
「…………」
簡単に。
言うな。
「それで?」
レオが。
聞く。
「どうする?」
「何が?」
「その杖」
「…………」
俺は。
杖を見る。
決まっている。
何のために。
これを。
買ったのか。
「行く」
「どこに?」
「試練」
「…………」
レオが。
俺を見る。
「もう一回やるのか?」
「そのために買った」
前回。
第二の試練。
遠くにある。
標的を。
魔法で破壊する。
俺の魔法は。
飛ばない。
だから。
近づいた。
そして。
杖へ。
魔力を込めた。
殴ろうとした。
その前に。
杖が。
折れた。
「…………」
俺は。
新しい杖を。
握る。
魔力を。
少し。
流す。
パァァ――。
今度は。
違う。
魔力が。
素直に。
流れていく。
もっと。
入る。
前より。
ずっと。
「…………」
これなら。
俺は。
杖を。
肩へ担いだ。
「今度はいける」
レオが。
俺を見る。
「何が?」
俺は。
答えた。
「殴る前に折れない」
「基準そこなのかよ」
そこが。
一番。
大事だ。
第二の試練。
今度こそ。
ぶっ壊す。
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