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『魔法が飛ばせないので、杖でぶん殴ることにした ~落ちこぼれ魔法使い、なぜか最強の槌使いと呼ばれる~』  作者: 蝶野摩矢


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26/58

第26話 商売って難しい

翌日。


「…………」


俺は。


冒険者ギルドに。


立っていた。


首から。


板を下げて。


『魔力貸します』


「…………」


完璧だ。


「何が完璧なんだよ」


隣で。


レオが。


頭を抱えていた。


「見れば分かるだろ」


「分からないから聞いてる」


「商売」


「昨日言ったよな?」


「何を?」


「変な商売始めるなって」


「聞いた」


「じゃあなんで始めてるんだよ」


「金になるから」


「…………」


レオが。


深いため息をついた。


「お前な」


「何」


「冒険者だろ」


「そうだけど」


「依頼受けろよ」


「受けてる」


「今日は?」


「休み」


「じゃあ休めよ」


「休みながら稼ぐ」


「…………」


レオが。


俺を見る。


「お前」


「何」


「金好きだな」


「杖が欲しいだけ」


「同じようなもんだろ」


違う。


多分。


「…………」


俺は。


ギルドの中を見る。


冒険者。


たくさん。


剣士。


弓使い。


盾持ち。


そして。


魔法使い。


「…………」


いる。


客。


たくさん。


「いける」


「何が?」


「需要」


「昨日一人に渡しただけだろ」


「一人いた」


「だから?」


「一人いるなら、他にもいる」


「…………」


レオが。


何か言いたそうにしている。


でも。


言わなかった。


「…………」


俺は。


待った。


◇


しばらく。


待った。


「…………」


誰も。


来ない。


「…………」


おかしい。


「なあ」


レオが。


隣で。


笑いを堪えている。


「何」


「需要」


「ある」


「客は?」


「これから」


「そうか」


「…………」


さらに。


待つ。


冒険者が。


前を通る。


板を見る。


俺を見る。


通り過ぎる。


「…………」


別の。


魔法使い。


板を見る。


俺を見る。


通り過ぎる。


「…………」


「ノア」


「何」


「帰る?」


「帰らない」


「でも」


「まだ朝」


「もう昼前だぞ」


「…………」


時間。


経つの。


早いな。


「場所が悪い」


「ギルドのど真ん中だぞ」


「板が悪い」


「お前が書いたんだろ」


「字?」


「普通」


「じゃあ何が悪いんだ」


「商売じゃないか?」


「…………」


それは。


困る。


その時。


「あの……」


声。


俺は。


顔を上げた。


「…………」


女の子。


だった。


俺と。


同じくらい。


多分。


魔法使い。


ローブ。


手には。


杖。


「あの」


「…………」


「魔力を貸してもらえるって、本当ですか?」


「…………」


「ノア?」


レオが。


俺を見る。


「何」


「いや」


「…………」


俺は。


女の子を見る。


目が合う。


「…………」


逸らす。


「本当」


「あ、よかった」


笑った。


「…………」


「ノア」


「何」


「声、小さくない?」


「普通」


「そうか?」


「普通」


「…………」


レオが。


ニヤニヤしている。


腹立つ。


「それで」


女の子が。


俺の前まで来る。


「どうすればいいですか?」


「…………」


近い。


「ノアさん?」


「肩」


「肩?」


「杖」


俺は。


自分の杖を。


持ち上げる。


「当てるから」


「あ、はい」


女の子が。


少しだけ。


髪を避けた。


肩が。


見える。


「…………」


女の子も。


少しだけ。


緊張したように。


身体を固くする。


「…………」


「お願いします」


「…………」


やりにくい。


昨日は。


何とも。


思わなかったのに。


「ノアさん?」


「今やる」


「はい」


「…………」


杖先を。


肩へ。


近づける。


女の子が。


少し。


息を呑んだ。


「…………」


「…………」


「ちょっと待って」


「はい?」


「…………」


落ち着け。


肩だ。


ただの。


肩。


「お前」


レオが。


横から。


小さな声で言う。


「緊張してる?」


「してない」


「してるだろ」


「してない」


「顔赤いぞ」


「暑い」


「今日、涼しいぞ」


「…………」


うるさい。


俺は。


杖先を。


女の子の肩へ。


当てた。


「……っ」


「ごめん」


「い、いえ」


「いくよ」


「はい」


魔力を。


流す。


少し。


「……っ」


女の子の身体が。


小さく揺れた。


「大丈夫?」


「はい……!」


「もう少し?」


「お願いします」


さらに。


流す。


「…………」


昨日より。


少なく。


昨日。


怒られたから。


「……すごい」


「何が?」


「もう、かなり戻りました」


「これで?」


「はい」


「まだ全然入れてないけど」


「…………」


女の子が。


俺を見る。


「何」


「ノアさんって……魔力量、多いんですね」


「多いらしい」


「どれくらいあるんですか?」


「…………」


考える。


分からない。


「いっぱい」


「…………」


「何」


「いえ」


なんだ。


その顔。


「もういい?」


「あ、はい。十分です」


杖を。


離す。


女の子が。


少しだけ。


ほっとしたように。


息を吐いた。


「ありがとうございました」


「うん」


「それで」


「何?」


「おいくらですか?」


「…………」


「…………?」


俺は。


黙った。


「ノアさん?」


「…………」


レオを見る。


レオも。


俺を見る。


「いくら?」


「俺に聞くなよ」


「…………」


「お前」


レオが。


額を押さえる。


「昨日から金のことしか考えてなかっただろ」


「考えてた」


「値段は?」


「…………」


「決めてなかったのか?」


「今から決める」


「商売舐めんな」


「…………」


確かに。


値段。


必要だった。


俺は。


考える。


高すぎると。


売れない。


安すぎると。


儲からない。


「…………」


難しい。


「じゃあ」


適当に。


金額を言う。


「それで」


「分かりました」


女の子が。


財布を出す。


硬貨を。


俺へ。


渡した。


チャリン。


「…………」


手の中。


硬貨。


増えた。


「ありがとうございました」


「…………」


魔力。


ほとんど。


減ってない。


でも。


金。


増えた。


「…………」


すごい。


「ノア?」


「待って」


「え?」


帰ろうとした。


女の子を。


止める。


「もう少しいる?」


「え?」


「魔力」


「いえ、もう十分です」


「三割引き」


「大丈夫です」


「半額」


「いりません」


「…………」


女の子が。


少し困った顔をする。


「本当に、もう満タンなので」


「…………」


満タン。


なら。


仕方ない。


「また減ったら来て」


「はい」


「いつでもいるから」


「依頼行けよ」


レオが。


横から言った。


女の子が。


笑う。


「じゃあ、またお願いします」


「…………うん」


女の子が。


離れていく。


「…………」


俺は。


手の中の。


硬貨を見る。


「レオ」


「何」


「これ」


「何だよ」


「いける」


「何が?」


「商売」


「一人来ただけだぞ」


「一人来た」


「…………」


さっき。


同じ会話を。


した気がする。


◇


「なあ」


声。


俺は。


顔を上げた。


男の。


魔法使い。


さっきから。


少し離れたところで。


こっちを見ていた奴だ。


「さっきの」


「何?」


「本当に魔力もらえるのか?」


「もらえる」


「どれくらい?」


「金額による」


「もう商売人になってるな……」


レオが。


何か言っている。


聞こえない。


「頼めるか?」


「もちろん」


二人目。


魔力を。


渡す。


金。


もらう。


「…………」


それを。


見ていた。


別の魔法使いが。


近づいてきた。


「俺もいいか?」


「いいよ」


三人目。


魔力。


渡す。


金。


もらう。


「…………」


また。


一人。


板を見て。


足を止める。


「本当に回復するのか?」


「する」


「じゃあ俺も」


「次」


「お前、楽しそうだな」


「気のせい」


「さっきから金もらうたびに板見てるぞ」


「確認」


「何の?」


「仕事」


「…………」


一人。


また一人。


さっきまで。


誰も。


来なかったのに。


気づけば。


俺の前に。


数人。


集まっていた。


「…………」


俺は。


客を見る。


財布を見る。


客を見る。


「レオ」


「何」


「依頼」


「ああ」


「行かなくてもいいかもしれない」


「やめろ」


「一日ここにいた方が」


「お前、冒険者やめる気か?」


「…………」


考える。


魔力。


余ってる。


売る。


金になる。


危険。


ない。


杖。


壊れない。


「…………」


悪くない。


「魔力商人になる」


「魔法使いどこ行った」


「…………」


それは。


困る。


俺は。


魔法使いだ。


「魔法使い兼」


「やめろ」


「まだ何も言ってない」


「ろくなこと言わないだろ」


失礼な。


その時。


「ちょっと」


声を。


かけられた。


「…………?」


振り返る。


ギルドの。


受付嬢。


ベルナへ来てから。


何度か。


依頼の受付をしてもらった人だ。


笑っている。


「…………」


笑っている。


でも。


なんだろう。


怖い。


「何をしているんですか?」


「仕事」


「依頼ですか?」


「違う」


「では?」


俺は。


首から下げた。


板を見せる。


『魔力貸します』


「魔力売ってる」


「…………」


受付嬢が。


板を見る。


俺を見る。


集まっている。


魔法使いたちを見る。


もう一度。


俺を見る。


「結構売れる」


「そうみたいですね」


「やる?」


「やりません」


即答。


「それと」


受付嬢が。


笑顔のまま。


言った。


「ギルド内で勝手に商売しないでください」


「…………」


「禁止です」


「…………」


俺は。


板を見る。


せっかく。


作ったのに。


「外なら?」


「そういう問題ではありません」


「じゃあ入口」


「もっと駄目です」


「…………」


厳しい。


「せっかく客いるのに」


「冒険者ギルドは市場ではありません」


「でも」


「駄目です」


「…………」


俺は。


周りを見る。


魔法使いたちも。


困った顔をしている。


「…………」


終わった。


俺の。


新しい仕事。


一日。


持たなかった。


「ははっ」


レオが。


笑っている。


「笑うな」


「だから言っただろ」


「何を」


「変な商売始めるなって」


「変じゃない」


「ギルドに怒られてるだろ」


「…………」


俺は。


首から。


板を外す。


その時。


「ただ」


受付嬢が。


言った。


「…………?」


顔を上げる。


受付嬢が。


俺の板を。


見ている。


「一つ、確認してもいいですか?」


「何?」


「本当に」


俺を見る。


「他人へ魔力を渡せるんですか?」


「できるよ」


「誰にでも?」


「多分」


「多分?」


「昨日初めてやったから」


「…………」


受付嬢の顔が。


少し。


引きつった。


「それで今日、商売を?」


「うん」


「行動力だけはありますね」


「褒めてる?」


「褒めてません」


最近。


これも。


よく言われる。


「どれくらい渡せるんですか?」


「どれくらい?」


「あなた自身の魔力は、あとどれくらい残っています?」


「…………」


俺は。


自分の中を。


確認する。


朝から。


何人か。


渡した。


「ほとんど」


「…………」


「減ってない」


「…………」


受付嬢が。


黙った。


「何?」


「いえ……」


何か。


考えている。


「ノアさん」


「何?」


「魔力を売りたいんですよね?」


「うん」


「お金が欲しい?」


「欲しい」


「即答ですね」


「杖買わないといけないから」


「…………」


受付嬢が。


小さく。


息を吐く。


そして。


カウンターへ。


戻っていった。


「…………」


何だったんだ。


「怒られただけだったな」


レオが言う。


「…………」


帰ろう。


俺は。


板を。


丸めようとした。


「ノアさん」


また。


呼ばれた。


「何?」


受付嬢が。


一枚の紙を。


持っている。


「魔力を売りたいのでしたら」


「うん」


紙を。


カウンターへ置く。


「ちょうど一件あります」


「…………」


俺は。


紙を見る。


文字。


たくさん。


その下。


報酬。


「…………!」


見る。


もう一度。


見る。


「やる」


「まだ内容を説明してません」


「やる」


「聞いてください」


「報酬これ?」


「そうですが」


「やる」


「ですから」


受付嬢が。


紙を。


俺から遠ざけた。


「まず説明を聞いてください」


「…………」


俺は。


紙を見る。


報酬を見る。


「逃げない?」


「依頼は逃げません」


「誰かに取られない?」


「今のところは」


「じゃあ早く」


「…………」


受付嬢が。


ため息をついた。


レオが。


横で。


笑っている。


「ノア」


「何」


「お前」


「何」


「昨日まで普通の依頼してたよな?」


「してた」


「今日、魔力売って」


「うん」


「今度は何する気だよ」


「知らない」


「…………」


俺は。


受付嬢の持っている。


依頼書を見る。


ただ。


一つだけ。


分かる。


報酬は。


高い。


「まあ」


俺は。


杖を握る。


「魔力使うだけなら」


もう一度。


報酬を見る。


「楽そう」


この時。


俺は。


まだ。


知らなかった。


楽な仕事に。


高い報酬なんて。


つかないことを。



ここまでお読みいただき、ありがとうございます!


ノアのちょっと変わった冒険を、少しでも楽しんでいただけていたら嬉しいです。


「続きが気になる!」「面白かった!」と思っていただけたら、ブックマークや評価で応援していただけると、今後の執筆の大きな励みになります!


これからも、魔法使いなのに杖でぶん殴るノアの活躍(?)を、どうぞよろしくお願いします!

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