第21話 杖を買うための杖がない
ベルナへ。
戻る頃には。
日が。
傾き始めていた。
「暗くなってきたな」
レオが。
空を見る。
「ノア」
「何?」
「ライト」
「…………」
俺は。
レオを見る。
「何だよ」
「…………」
俺は。
手に持っていたものを。
見せた。
折れた杖。
「…………」
「あ」
「…………」
「ごめん」
「今ので結構傷ついた」
杖がない。
つまり。
魔法が使えない。
火も。
水も。
回復も。
ライトも。
何も。
使えない。
「ノアって」
ミアが。
俺を見る。
「杖なくなると本当に何もできないんだね」
「言い方」
「剣使える?」
「使えない」
「弓は?」
「使えない」
「素手は?」
「魔物相手に?」
「…………」
ミアが。
前を向いた。
「早く杖買おう」
「そうしよう」
今。
少し。
可哀想なものを見る目だった。
◇
翌日。
俺たちは。
ベルナの杖屋へ。
来ていた。
店の中には。
大量の杖。
短いもの。
長いもの。
魔石が付いたもの。
高そうなもの。
そして。
もっと高そうなもの。
「…………」
俺は。
値札を見ないように。
歩いた。
「何を探してる?」
店主が。
声をかけてくる。
「丈夫な杖」
「丈夫?」
「はい」
俺は。
折れた杖を。
見せる。
店主が。
受け取った。
「派手にやったな」
「はい」
「魔物にでもやられたか?」
「いえ」
「じゃあ何にぶつけた?」
「何にも」
「…………」
店主が。
俺を見る。
「何にも?」
「はい」
「じゃあどうやって折れた?」
「魔力を込めました」
「…………」
「本気で」
「…………」
店主が。
杖を見る。
俺を見る。
もう一度。
杖を見る。
「これに?」
「はい」
「何かにぶつける前に?」
「はい」
「…………」
レオが。
横から言った。
「遺跡の魔力測定石にも、ひび入れてます」
「余計なこと言うな」
店主の。
目が変わった。
「…………」
「違います」
「まだ何も言ってない」
「壊すつもりはなかったです」
「壊したのか?」
「ひびだけです」
「帰ってくれ」
「なんで!?」
まだ。
何もしてない。
「冗談だ」
「顔が本気だったけど」
「それで」
店主が。
折れた杖を置く。
「本気で魔力を流しても耐えられる杖が欲しいと」
「はい」
「何に使う?」
「伝説の杖を取りに」
「…………」
また。
変な目で見られた。
「そのために杖がいるのか?」
「はい」
「伝説の杖を取るために?」
「はい」
「別の杖を買う?」
「はい」
「…………」
店主が。
少し考える。
「大変だな」
「俺もそう思います」
本当に。
そう思う。
店主は。
店の奥へ。
入っていった。
しばらくして。
一本の杖を。
持って戻ってくる。
「この辺りだな」
「…………」
見た瞬間。
分かった。
高そう。
持ち手。
魔石。
装飾。
全部。
今まで使っていた杖とは。
違う。
「持ってみろ」
「いいんですか?」
「ああ」
俺は。
杖を受け取る。
「…………」
軽い。
それに。
魔力が。
通りやすい。
少し流しただけで。
杖先の魔石が。
淡く光った。
「おお」
「どうだ?」
「すごくいい」
「だろう」
「これなら?」
「お前の魔力量を実際に見ないと断言はできんが、普通の杖よりは遥かに頑丈だ」
「…………」
これなら。
第二試練を。
突破できるかもしれない。
「店主さん」
「何だ?」
「大事なこと聞いていいですか?」
「ああ」
「いくら?」
店主が。
答えた。
「…………」
俺は。
杖を。
そっと戻した。
「早いな」
「触ってたらお金取られそう」
「取らん」
高い。
想像より。
高い。
「もう少し安いのは?」
「ある」
「どれくらい?」
店主が。
別の杖を指す。
値段を見る。
「…………」
高い。
「さらに安いの」
「耐久性も落ちるぞ」
「…………」
困る。
安い。
壊れる。
高い。
買えない。
「二割引きになりません?」
「ならん」
「三割」
「ならん」
「半額」
「増えてるぞ」
「じゃあ七割」
「帰れ」
「なんで!?」
◇
店を出た。
「…………」
俺は。
財布を見る。
中身。
少ない。
「足りないな」
レオが言った。
「知ってる」
「かなり」
「知ってる」
「全然」
「もう言わなくていい」
現実を。
何回も。
突きつけないでほしい。
「どうする?」
ミアが聞く。
「…………」
俺は。
三人を見る。
「相談がある」
「何だ?」
「金を貸してほしい」
「却下」
「まだ金額言ってない!」
レオが。
ため息をつく。
「俺たちだって、そんな余裕ないぞ」
「ガルム」
「ない」
「まだ聞いてない」
「顔で分かる」
また。
顔を。
読まれた。
「じゃあどうするんだよ」
「稼ぐしかないだろ」
「…………」
「冒険者なんだから依頼受けろよ」
「…………」
なるほど。
「なんで今気づいたみたいな顔してるんだ」
「してない」
してたかもしれない。
◇
冒険者ギルド。
掲示板の前。
俺たちは。
依頼を見ていた。
採取。
護衛。
討伐。
調査。
色々ある。
「これなら――」
レオが。
依頼書を取ろうとする。
「待って」
「何だ?」
「こっち」
俺は。
別の依頼を。
指さした。
「…………」
「ノア」
「何?」
「内容読んだか?」
「討伐」
「何の?」
「…………」
「…………」
俺は。
依頼書を見る。
知らない。
魔物の名前。
「これ何て読む?」
「報酬しか見てなかっただろ!!」
仕方ない。
一番。
数字が大きかった。
「これなら早く貯まる」
「その分危険なんだよ!」
「でも高い」
「だから危険なんだよ!」
「高い」
「金しか見えてねえ!」
失礼な。
魔物も。
見ている。
今。
見た。
「この依頼は」
後ろから。
声がした。
受付嬢だった。
「単独パーティでの受注は推奨しておりません」
「ほらな」
レオが言う。
「じゃあ無理?」
俺が聞く。
「いえ」
受付嬢が。
首を振る。
「現在、別のパーティも参加予定です。共同討伐であれば受注できます」
「共同討伐」
「はい」
なるほど。
それなら。
人数も増える。
「報酬は?」
「そこから聞くのかよ」
レオが。
呆れている。
大事だろ。
「成功した場合、参加したパーティ間で分配となります」
「…………」
「ノア?」
「減る?」
「増えるわけないだろ」
「…………」
困る。
「でも」
受付嬢が続ける。
「通常の依頼を何度も受けるよりは、まとまった報酬になりますよ」
「受けます」
「早い!」
決まりだ。
これで。
杖に。
近づく。
「じゃあ詳しい内容を――」
レオが。
そこで。
止まった。
「…………」
俺を見る。
「何?」
「ノア」
「何?」
「お前」
レオが。
俺の手を見る。
「杖ないだろ」
「…………」
「…………」
俺も。
自分の手を見る。
ない。
「どうやって依頼行くつもりだったんだ?」
「…………」
忘れてた。
「ノア?」
「杖を買うために」
「うん」
「杖がいる」
「そうなるな」
「…………」
おかしい。
また。
同じ問題が。
出てきた。




