第19話 加減は試練に含まれますか?
翌朝。
俺たちは。
ベルナを出た。
目的地は。
アストラが眠る場所。
昨日。
食堂で会った冒険者から。
場所は聞いている。
ベルナから。
歩いて数時間。
森を抜けた先に。
古い遺跡があるらしい。
そこに。
壊れない伝説の杖。
アストラが眠っている。
「…………」
俺は。
歩きながら。
杖を見る。
もう少し。
こいつには。
頑張ってもらわないといけない。
「ノア」
「何?」
レオが。
俺を見る。
「緊張してる?」
「少し」
「珍しいな」
失礼な。
俺だって。
緊張くらいする。
昨日。
聞いた。
最初は。
魔力の試練。
挑戦した魔法使いの。
ほとんどが。
そこで帰る。
それどころか。
昔。
王宮魔導師まで。
挑戦したらしい。
名の知れた。
すごい魔法使い。
その人も。
入口で帰った。
「…………」
俺は。
少し考える。
「レオ」
「何だ?」
「失敗したらどうする?」
「帰るしかないだろ」
「もう一回できる?」
「知らん」
「一日一回とか?」
「知らん」
「二回目から金かかったり」
「昨日から金の心配しかしてねえな!」
「大事だろ」
「まず突破できるか心配しろ!」
してる。
両方。
してる。
「でも」
ミアが。
振り返る。
「ノアなら大丈夫じゃない?」
「なんで?」
「魔力量すごいし」
「王宮魔導師でも無理だったんだろ?」
「そうだけど」
ミアが。
少し考える。
「その人より多いかもしれないじゃん」
「まさか」
王宮魔導師だぞ。
俺は。
ただの冒険者。
しかも。
魔法が。
飛ばない。
「魔力量と魔法の腕は別だろ」
ガルムが言った。
そう。
第一試練が見るのは。
純粋な魔力量。
魔法の技術でも。
経験でもない。
だから。
どれだけ強い魔法使いでも。
魔力量が足りなければ。
そこで終わる。
逆に。
魔力量だけあっても。
魔法が下手なら。
「…………」
「ノア?」
「何?」
「なんで自分指さしてるの?」
「分かりやすい例がいた」
「自覚あったんだ……」
ある。
魔法が飛ばないことくらい。
知っている。
◇
昼を過ぎた頃。
森の奥。
それは。
あった。
「…………」
古い。
石造りの遺跡。
岩壁に。
埋め込まれるように。
巨大な扉がある。
苔。
蔦。
崩れた石柱。
明らかに。
古い。
「ここか」
レオが。
周囲を見る。
「多分」
俺は。
扉を見る。
閉まっている。
その横。
黒い石が。
立っていた。
俺の胸くらいまである。
表面には。
古い文字。
「何て書いてあるの?」
ミアが聞く。
レオが。
扉の横を見る。
比較的新しい文字で。
翻訳されたものが。
刻まれていた。
「『力なき者に、我を持つ資格なし』」
「…………」
「『魔力を示せ』」
全員。
黒い石を見る。
「これだな」
「多分」
俺は。
石の前に立つ。
「触ればいい?」
「そう聞いてる」
「魔力を流す?」
「ああ」
「どれくらい?」
「知らん」
「…………」
俺は。
測定石を見る。
王宮魔導師でも。
足りなかった。
なら。
中途半端にやっても。
仕方ない。
「レオ」
「何だ?」
「王宮魔導師でも駄目だったんだよな?」
「そうらしいな」
「じゃあ」
俺は。
測定石に。
手を置いた。
「最初から全部入れればいいか」
「待て」
魔力を。
一気に。
流し込んだ。
バチィッ!!
「ノア!?」
測定石が。
強烈な光を放つ。
扉に刻まれた。
古い模様。
一つ。
二つ。
三つ。
次々に。
光っていく。
ゴゴゴゴゴ……!!
地面が。
揺れた。
「ノア!」
レオが叫ぶ。
「どれくらい入れてる!?」
「全部!」
「なんで!?」
「王宮魔導師でも駄目だったから!」
「だからって最初から全力でやるな!」
試練なんだから。
全力でやるのが。
普通じゃないのか。
バチッ!
バチバチッ!!
測定石から。
光が弾ける。
「もういい!」
「でも!」
「止めろ!」
「まだ扉開いてない!」
「石の方が先に壊れる!!」
「試練だろ!?」
「お前じゃなくて石が試されてるんだよ!!」
「…………」
それは。
まずい。
俺は。
魔力を止めた。
「…………」
静かになった。
全員。
扉を見る。
閉まっている。
「…………」
開かない。
「足りなかった?」
「絶対違う」
レオが。
即答した。
「でも開かない」
「待て」
「何を?」
「分からんけど待て」
測定石を見る。
文字が。
浮かんでいた。
【測定中】
「…………」
「まだ測ってる?」
「みたいだな」
待つ。
【魔力量――測定中】
さらに。
待つ。
【魔力量――――】
「…………」
【――――】
「壊れた?」
「言うな」
「もう一回やる?」
「やめろ」
俺は。
もう一度。
測定石に。
手を伸ばす。
「ノア」
「何?」
「何してる?」
「もう一回」
「やめろ」
「今度はもっと――」
「何を増やす気だ!!」
その時。
【測定不能】
「…………」
「…………」
俺は。
手を止めた。
「失敗?」
「多分違う」
「でも測定不能って」
「少なくて測れないなら、あんなことにはならないだろ」
「じゃあ何?」
ミアが。
測定石を見る。
「多すぎたんじゃない?」
「…………」
そんなこと。
あるのか。
「確かめる?」
「確かめるな!!」
その瞬間。
【資格を確認】
【第一試練――通過】
「…………」
ゴゴゴゴゴゴゴゴ……!!
巨大な石扉が。
動き始めた。
ゆっくり。
開いていく。
「開いた!」
ミアが。
声を上げる。
「…………」
俺は。
扉を見る。
その奥。
暗い通路が。
続いている。
「遅い」
「お前が早すぎるんだよ!!」
でも。
通った。
王宮魔導師でも。
突破できなかった。
第一試練。
俺が。
突破した。
「…………」
少し。
嬉しい。
「ノア」
ミアが。
笑う。
「すごいじゃん」
「うん」
「測定不能だけど」
「壊れてたのかな」
「なんで自分がすごい可能性を考えないの?」
だって。
俺だぞ。
魔法。
飛ばないし。
「まあ」
ガルムが。
開いた扉を見る。
「入れるならいい」
「そうだな」
レオが。
頷く。
「行こう」
俺は。
測定石から。
手を離した。
少しして。
パキッ。
「…………」
「…………」
全員。
止まった。
「今」
ミアが。
測定石を見る。
「何か鳴った?」
「…………」
俺も。
見る。
測定石。
その表面。
小さな。
ひび。
「…………」
レオが。
俺を見る。
「ノア」
「何?」
「全力で入れたよな?」
「うん」
「なんで?」
「足りなかったら嫌だから」
「加減って知ってる?」
「試練なのに?」
「石にも限界があるんだよ!!」
「…………」
知らなかった。
試す側なのに。
壊れるのか。
「これ」
俺は。
ひびを見る。
「弁償?」
「知らん!」
「高いかな」
「今それを心配するな!」
高そう。
かなり。
高そう。
「ノア」
ミアが。
扉を指さした。
「それより」
「何?」
「閉まってきてる」
「え?」
見る。
巨大な扉が。
ゆっくり。
動き始めていた。
「急げ!」
レオが走る。
「石は!?」
「置いてけ!」
「でも割れた!」
「お前が割ったんだよ!!」
俺たちは。
慌てて。
中へ入る。
レオ。
ミア。
ガルム。
俺も。
扉をくぐる。
最後に。
振り返る。
測定石。
ひび。
「…………」
ごめん。
弁償は。
できれば。
したくない。
ゴゴゴゴゴ……。
巨大な扉が。
閉じた。
◇
遺跡の中を。
進む。
薄暗い。
壁には。
ところどころ。
青白い光。
足音だけが。
響く。
「…………」
俺は。
後ろを見る。
巨大な扉。
完全に。
閉まっている。
「レオ」
「何だ?」
「帰れるよね?」
「多分」
「多分?」
「試練なんだから、途中で諦める方法くらいあるだろ」
「なかったら?」
「…………」
レオが。
黙った。
「ミア」
「私に聞かないで」
「ガルム」
「進め」
「…………」
そうしよう。
考えても。
仕方ない。
しばらく。
歩く。
その先。
広い部屋へ。
出た。
「…………」
大きな。
部屋。
そして。
正面。
次へ続いているはずの道を。
巨大な石の塊が。
完全に。
塞いでいた。
「何これ」
ミアが。
見上げる。
俺たちより。
ずっと大きい。
かなり。
厚そうだ。
その横。
また。
文字がある。
レオが。
読む。
「『魔法をもって――』」
一度。
止まる。
「『道を開け』」
「…………」
全員。
巨大な石を見る。
魔法で。
これを。
壊す。
そういう。
試練らしい。
「第二試練か」
ガルムが言う。
「みたいだな」
レオが。
石を見る。
「これを魔法で壊せばいいらしい」
「なるほど」
俺は。
頷く。
そして。
石を見る。
距離。
少し。
ある。
「…………」
届かない。
俺は。
歩き出した。
「ノア?」
ミアが。
呼ぶ。
「何?」
「どこ行くの?」
「石」
「なんで?」
俺は。
巨大な石を指さす。
「ここからじゃ届かない」
「…………」
「魔法が」
「…………」
レオが。
俺を見る。
俺の杖を見る。
巨大な石を見る。
もう一度。
俺を見る。
「ノア」
「何?」
「一応聞くけど」
「うん」
「何する気だ?」
俺は。
杖を握った。
「壊す」
「どうやって?」
「魔法で」
「…………」
「…………」
レオが。
俺の杖を指さした。
「その杖を下ろせ」
「なんで?」
「嫌な予感しかしない」




