第18話 伝説より大事なもの
翌日。
俺たちは。
ベルナへ続く街道を。
進んでいた。
天気。
晴れ。
魔物。
なし。
杖。
無事。
「…………」
平和だ。
素晴らしい。
俺は。
歩きながら。
杖を見る。
昨日。
会った魔法使いに。
言われた。
いつか。
飛ぶといいな。
「…………」
杖先を見る。
当然。
何も出ていない。
「ノア」
「何?」
「また杖見てる」
ミアが。
隣から覗き込む。
「飛ばないかなと思って」
「何もしてないのに?」
「急に」
「飛んだら怖いよ」
確かに。
何もしてないのに。
急に魔法が飛び始めたら。
それはそれで。
困る。
「じゃあいいか」
「いいんだ……」
俺は。
杖を肩に担ぐ。
「ノア」
今度は。
レオ。
「何?」
「投げるなよ」
「投げないよ」
「その持ち方が怖いんだよ」
「普通に持ってるだけだろ」
「お前の場合は信用できない」
失礼な。
昨日から。
一度も投げていない。
かなり。
我慢している。
「我慢するものじゃないからな?」
「…………」
最近。
心を読まれる。
◇
昼を過ぎた頃。
俺たちは。
休憩を取っていた。
馬車の横。
俺は。
パンを食べている。
「そういえば」
ハンスが。
俺を見る。
「ノアさんたちは、ベルナへ行かれるのは初めてですかな?」
「はい」
「何かご用で?」
「杖を探しに」
「杖?」
「壊れないやつです」
「…………」
ハンスが。
俺の杖を見る。
「普通の杖では駄目なのですかな?」
「壊れます」
「なるほど」
「すぐ」
「…………」
「かなり」
「…………」
「何本も」
「もういい」
レオが。
止めた。
「ハンスさん。聞かない方がいいです」
「そうですか」
「はい」
ハンスが。
俺を見る。
「…………」
なんだ。
その目は。
「ですが」
ハンスが言う。
「壊れない杖、ですか」
「何か知ってるんですか?」
「ベルナには、昔から一つ有名な話があります」
俺は。
パンを食べる手を止めた。
「杖?」
「ええ」
ハンスが。
頷く。
「《アストラ》」
「…………」
知ってる。
俺たちが。
探している杖だ。
「伝説の魔法使いが使ったとも、古代の魔道具だとも言われておりますが」
「壊れない?」
「そう伝わっております」
「欲しい」
「早いな」
レオが言った。
壊れない。
それだけで。
十分だ。
「ですが……」
ハンスが。
少し困った顔をした。
「?」
「本気でアストラを手に入れようとしている方を、私は初めて見ましたな」
「なんで?」
「誰も手に入れたことがありませんから」
「…………」
俺は。
パンを置いた。
「見つかってない?」
「いえ」
「場所が分からない?」
「場所は知られております」
「…………」
おかしい。
「じゃあ」
俺は。
首を傾げる。
「取りに行けばいいのでは?」
「皆、そう思うそうです」
「…………」
嫌な言い方だ。
「アストラのもとへ辿り着くには、試練を越えなければならないと伝わっております」
「試練?」
「ええ」
「…………」
聞いてない。
「何個?」
「そこまでは私も」
「…………」
面倒だな。
「ノア」
レオが。
呆れた顔をする。
「顔に出てるぞ」
「何が?」
「面倒くさいって」
「出してない」
「言ったぞ」
「…………」
出ていたらしい。
「伝説の杖だぞ?」
「うん」
「普通、もっとこう……ワクワクしないか?」
「なんで?」
「伝説だぞ!」
「壊れないんだろ?」
「そこしか見てないのか!?」
そこが。
一番大事だ。
伝説とか。
古代とか。
正直。
どうでもいい。
俺は。
殴っても。
壊れない杖が。
欲しい。
「試練か……」
ミアは。
少し楽しそうだ。
「面白そう」
「代わる?」
「嫌」
「なんで」
「ノアの杖でしょ」
正論だった。
「ガルムは?」
「何が」
「試練」
「頑張れ」
「…………」
誰も。
手伝ってくれない。
「ノア向きだとは思うぞ」
「本当?」
「ああ」
ガルムが。
俺の杖を見る。
「壊れないなら」
「だろ?」
「杖が可哀想だが」
「なんで?」
誰も。
答えなかった。
◇
夕方。
街道の先に。
大きな街が見えた。
高い外壁。
行き交う馬車。
大勢の人。
ハンスが。
振り返る。
「見えてきましたぞ」
「ベルナ?」
「ええ」
ようやく。
着いた。
ベルナ。
壊れない杖。
アストラが眠る街。
正確には。
街の近く。
らしいけど。
馬車は。
門を抜ける。
中へ入ると。
さらに。
人が多い。
商人。
冒険者。
魔法使い。
店も。
たくさんある。
「…………」
俺は。
周囲を見る。
杖屋。
ある。
もう一軒。
ある。
向こうにも。
ある。
「ノア」
「何?」
「アストラ探しに来たんだよな?」
「うん」
「なんで杖屋見てるんだ?」
「念のため」
「何の!?」
分からない。
でも。
杖屋を見ると。
値段が。
気になる。
「まず依頼だ」
レオが。
俺の背中を押す。
「終わらせるぞ」
「分かってる」
俺たちは。
ハンスたちと一緒に。
商会の建物へ向かった。
◇
荷物を。
運び終える。
確認も。
終わった。
ハンスが。
俺たちの前に立つ。
「皆さん」
「はい」
「ここまでありがとうございました」
ハンスが。
頭を下げた。
「これにて護衛依頼は完了です」
「…………」
完了。
その言葉を。
待っていた。
ハンスが。
袋を取り出す。
「こちらが報酬です」
俺は。
受け取る。
「ありがとうございます」
重い。
硬貨の音。
「…………」
いい音だ。
「ノア」
「何?」
「すごい笑顔だぞ」
レオが言う。
「気のせい」
「アストラの話を聞いた時より嬉しそうだな」
「そんなことない」
「じゃあ、その袋置いてみろ」
「なんで?」
「いいから」
「嫌だ」
「ほら!」
仕方ないだろ。
伝説は。
財布に入らない。
金は。
入る。
俺は。
袋を大事にしまう。
「ノア」
ミアが。
呆れた顔をしている。
「何」
「すごく大事そうにしまったね」
「大事だから」
「杖とお金、どっちが大事?」
「やめろ」
「まだ何も言ってないよ?」
危なかった。
選べない。
杖も。
大事。
金も。
大事。
どちらも。
なくなると。
困る。
特に。
杖は。
よくなくなる。
壊れるから。
◇
夜。
ベルナの宿。
食堂。
護衛依頼も。
終わった。
明日から。
俺たちは。
自由だ。
つまり。
アストラを。
探せる。
俺たちは。
夕食を食べながら。
昼に聞いた話をしていた。
「問題は試練だな」
レオが言う。
「どんな試練か分からない」
「腕相撲とか?」
ミアが言った。
「杖の試練で?」
「分からないじゃん」
「だったらガルムに任せよう」
俺が言う。
ガルムが。
こっちを見る。
「俺の杖になるのか?」
「…………」
それは。
困る。
「魔法関係じゃない?」
ミアが言う。
「伝説の魔杖なんでしょ?」
「それならノアは有利かもな」
レオが。
俺を見る。
「四属性使えるし」
「飛ばないけど」
「今それ言うな」
「回復もできる」
「押し当てるけど」
「黙ってろ」
なんでだ。
長所なのに。
「でも」
ミアが。
俺を見る。
「魔力量ならノアすごいよね」
「そう?」
「そうだよ」
自分では。
よく分からない。
使える。
だから。
使っている。
それだけだ。
「――アストラ?」
近くから。
声がした。
俺たちは。
振り向く。
隣のテーブル。
一人の男が。
こちらを見ていた。
冒険者らしい。
「今、アストラって言ったか?」
「はい」
「探してるのか?」
「はい」
男が。
少し驚いた顔をした。
「珍しいな」
「そんなに?」
「ああ。昔は挑戦する魔法使いも多かったらしいが」
「今は?」
「ほとんど聞かない」
「なんで?」
男は。
酒を飲む。
「無理だからだよ」
「…………」
また。
嫌な言い方だ。
「試練があるんですよね?」
レオが聞く。
「ああ」
「知ってるんですか?」
「少しだけな」
男が。
指を一本立てた。
「最初は、魔力の試練らしい」
「魔力?」
「ああ」
「何するんです?」
「アストラが眠る場所の入口に、特殊な石がある。それに魔力を流す」
「それだけ?」
俺が聞く。
男が。
笑った。
「それだけだ」
「簡単そう」
「ノア」
レオが。
小声で言った。
「そういうこと言うな」
なんで。
「一定以上の魔力があれば道が開く」
男が続ける。
「なければ?」
「そこで終わり」
「…………」
「挑戦者のほとんどは、そこで帰るらしい」
「ほとんど?」
「ああ」
男は。
酒を置いた。
「そこまで辿り着けるような魔法使いでも、だ」
「…………」
思っていたより。
難しいらしい。
「ちなみに」
ミアが聞く。
「その先は?」
「知らん」
「え?」
「最初を越えた奴自体が少ないからな」
「…………」
なるほど。
俺は。
考える。
魔力。
どれくらい。
必要なんだろう。
足りなかったら。
どうする。
せっかく。
ベルナまで来て。
入口で。
帰る。
「…………」
それは。
嫌だな。
「ノア」
ミアが。
俺を見る。
「不安?」
「少し」
「珍しいね」
「うん」
俺は。
男を見る。
「一つ聞いていいですか?」
「何だ?」
「その試練」
「おう」
「入場料とかあります?」
「…………」
男が。
止まった。
レオも。
止まった。
ミアも。
止まった。
ガルムも。
俺を見る。
「…………何?」
「いや」
男が。
首を振る。
「そこを心配してる奴は初めて見た」
「無料?」
「多分」
「よかった」
「ノア!!」
レオが。
頭を抱えた。
「魔力の心配しろよ!!」
している。
でも。
金も。
大事だ。
もし。
魔力が足りなくて。
その上。
金まで取られたら。
最悪だ。
俺は。
財布を確認する。
ちゃんと。
ある。
よし。
第一関門。
入場料。
多分。
無料。
「そこ第一関門じゃねえからな!」
「…………」
また。
声に出ていたらしい。




