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『魔法が飛ばせないので、杖でぶん殴ることにした ~落ちこぼれ魔法使い、なぜか最強の槌使いと呼ばれる~』  作者: 蝶野摩矢


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第17話 いつか飛ぶといいな

翌日。


俺たちは。


ベルナへ続く街道を。


進んでいた。


昨日。


俺の遠距離魔法は。


禁止された。


三対一。


多数決だった。


納得は。


していない。


でも。


仕方ない。


今の俺にできることは。


魔物が出たら。


近づいて。


殴る。


魔法使いとして。


非常に。


不本意だ。


「…………」


俺は。


杖を見る。


「ノア」


レオが言った。


「何」


「投げるなよ」


「投げないよ」


「本当だな?」


「紐ないし」


「紐があったら投げるのか!?」


面倒くさいな。


投げないって。


言ってるのに。


「待って」


前を歩いていたミアが。


足を止めた。


「どうした?」


「音がする」


全員。


止まる。


耳を澄ます。


確かに。


聞こえる。


剣の音。


それと。


魔物の鳴き声。


「戦ってる」


レオが。


剣に手をかける。


少し進むと。


見えた。


街道脇。


四人の冒険者。


数匹の魔物と。


戦っている。


剣士。


盾役。


弓使い。


そして。


「…………」


魔法使い。


杖を構えている。


「炎よ――」


杖先に。


炎が生まれる。


「《ファイアボール》!」


炎が。


飛んだ。


「…………」


飛んだ。


普通に。


飛んだ。


そのまま。


魔物に直撃する。


「…………」


俺は。


見ていた。


「ノア?」


ミアが呼ぶ。


「何」


「すごい見てるね」


「いや」


「うん」


「普通だなって」


「普通だよ」


そう。


普通だ。


普通の魔法使いだ。


魔法を出して。


飛ばす。


ただ。


それだけ。


魔法使いなら。


誰でもやっている。


「風よ!」


今度は。


風の刃。


飛ぶ。


「…………」


また。


飛んだ。


「ノア」


「何」


「近づいてるよ」


「見たい」


「何を?」


「どうやって飛ばしてるのか」


「普通にだよ」


それが。


知りたいんだよ。


魔法使いが。


また杖を振る。


風の刃。


飛ぶ。


「…………」


俺は。


自分の杖を見る。


相手の杖を見る。


もう一度。


自分の杖を見る。


「ずるくない?」


「何が!?」


「紐ついてない」


「普通はつけないよ!」


「回収どうするんだ」


「杖投げてねえから必要ねえよ!!」


「…………」


なるほど。


便利だな。


普通の魔法使い。


◇


戦闘は。


すぐに終わった。


魔物を倒した四人が。


こちらに気づく。


「商隊の護衛か?」


剣士が。


レオに声をかけた。


「ああ」


「悪い。道を塞いだな」


「いや、大丈夫だ」


冒険者同士。


軽く。


情報交換をする。


この先の道。


魔物の数。


近くの宿場町。


俺は。


その横で。


魔法使いを見ていた。


「…………」


「…………」


目が合った。


「何か?」


「いや」


見すぎたらしい。


相手は。


俺のローブを見る。


そして。


杖。


「君も魔法使いか?」


「はい」


「やっぱり」


少し。


嬉しそうな顔をする。


「何属性を?」


「火、水、風、土」


「四属性!?」


声が。


大きくなった。


他の冒険者も。


こっちを見る。


「四つも使えるのか?」


「はい」


「すごいな!」


「全部飛びません」


「…………」


静かになった。


「え?」


「飛びません」


「…………四属性全部?」


「はい」


「一つも?」


「はい」


「…………」


相手が。


俺の杖を見る。


「じゃあ……回復とかは?」


「できます」


「回復魔法まで!?」


また。


声が大きくなった。


「すごいじゃないか!」


「押し当てます」


「…………」


「杖を」


「…………何に?」


「傷口に」


「…………」


また。


静かになった。


「直接?」


「直接」


「杖を?」


「杖を」


「傷口に?」


「そうです」


何回。


確認するんだ。


「…………じゃあ」


魔法使いが。


少し困った顔をした。


「戦闘では?」


「殴ります」


「…………誰を?」


「魔物を」


「何で?」


「杖で」


「なんで!?」


今日。


一番大きな声だった。


「魔法が飛ばないので」


「だからって殴る!?」


「当たります」


「そりゃ当たるだろ!」


普通の魔法使いなのに。


ツッコミが。


レオに似ている。


「ちょっと待って」


相手が。


額に手を当てた。


「魔法そのものは使えるんだよな?」


「使えます」


「見せてもらっても?」


「いいですよ」


俺は。


杖を構える。


魔力を流す。


杖先。


炎。


ボッ!!


大きな炎が。


生まれる。


「おお……!」


相手が。


目を見開いた。


「すごい魔力だ……!」


「ありがとうございます」


「それなら飛ばせるだろ!」


「飛ばないんですよ」


「いや、飛ぶって!」


「飛びません」


「やってみて」


「はい」


杖を。


前へ向ける。


「…………」


炎。


杖先。


「…………」


「…………」


「ほら」


「待って」


何を。


待つんだ。


「もう一回」


「はい」


炎を出す。


「そのまま前方を意識して」


「はい」


「魔力を押し出す」


「はい」


「放つ!」


「はい!」


「…………」


「…………」


炎。


杖先。


「…………」


相手の顔が。


真剣になった。


「魔力との繋がりを切ってみて」


「やりました」


「杖を振る!」


振る。


炎も。


一緒に動く。


「…………」


「…………」


「詠唱は?」


「やりました」


「魔法陣は?」


「やりました」


「放出のイメージは?」


「やりました」


「もっと強く!」


「やりました」


「もっと前に!」


「やってます!」


「放て!!」


「放してます!!」


「なんで飛ばないんだ!?」


「俺が聞きたいんですよ!!」


気づけば。


二人とも。


声が大きくなっていた。


◇


十分後。


「もう一回」


「はい」


「炎を小さくして」


「はい」


「そう。今度は――」


少し離れたところで。


ミアたちが。


座っていた。


「まだやってる」


「放っとけ」


レオが。


言った。


◇


さらに。


十分後。


「違う!」


「何が!?」


「分からない!」


「じゃあ違うって言わないでくださいよ!」


◇


さらに。


少しして。


「…………」


「…………」


俺たちは。


地面に座っていた。


結論。


飛ばない。


「…………ごめん」


魔法使いが。


言った。


「いえ」


「分からない」


「ですよね」


「こんなの初めて見た」


「よく言われます」


慣れている。


相手が。


俺の杖を見る。


「でも」


「はい」


「その魔力量なら、飛ばせなくても何か使い道はあると思うぞ」


「あります」


「え?」


「殴れます」


「…………」


「かなり」


「…………」


相手が。


黙った。


「あと」


「まだあるの?」


「昨日までは遠距離もできました」


「え!?」


立ち上がった。


「できるの!?」


「はい」


「どうやって!?」


「杖を投げます」


「…………」


「魔法ごと」


「…………」


「紐をつければ回収もできます」


「…………」


「でも禁止されました」


「…………」


相手は。


何も聞かなかった。


賢明だと思う。


◇


別れ際。


相手の魔法使いが。


俺の肩を叩いた。


「頑張れ」


「ありがとうございます」


「いつか飛ぶといいな」


「はい」


いい人だった。


俺たちは。


再び。


商隊と一緒に歩き始める。


しばらくして。


俺は。


レオに言った。


「いい人だったな」


「そうだな」


「最後、すごい目で見てたけど」


「お前のせいだよ」


「なんで」


「説明が全部おかしいからだ」


失礼な。


全部。


事実なのに。


前を走る馬車から。


ハンスが。


顔を出した。


「皆さん!」


「はい?」


「この調子なら、明日の夕方にはベルナへ着けそうですぞ!」


「本当ですか?」


「ええ!」


「…………」


ようやく。


ベルナ。


探していた。


壊れない杖に。


少し。


近づく。


俺は。


歩きながら。


杖を見る。


「…………」


普通の魔法使い。


魔法を飛ばせる。


俺。


飛ばせない。


でも。


殴れる。


「…………」


まあ。


いいか。


「よくないだろ」


レオが言った。


「声に出てた?」


「全部な」


「…………」


俺は。


杖を肩に担いだ。


いつか。


飛ぶかもしれない。


多分。


そのうち。


きっと。


それまでは。


殴ろう。



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