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『魔法が飛ばせないので、杖でぶん殴ることにした ~落ちこぼれ魔法使い、なぜか最強の槌使いと呼ばれる~』  作者: 蝶野摩矢


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16/58

第16話 回収までが遠距離魔法です

翌朝。


宿場町を。


出る前。


俺は。


道具屋にいた。


「これください」


店主が。


俺の手元を見る。


「紐?」


「はい」


「何に使うんだ?」


「杖です」


「…………」


店主が。


俺を見る。


「杖?」


「はい」


「…………そうか」


納得してない顔だった。


別にいい。


必要なのは。


理解じゃない。


紐だ。


代金を払う。


「…………」


財布を見る。


減った。


絶対に。


無駄にはできない。


◇


宿の前。


商隊は。


出発の準備をしていた。


レオが。


俺を見る。


「何してる?」


「準備」


「何の?」


俺は。


杖の柄に。


紐を結ぶ。


ぎゅっ。


もう一度。


ぎゅっ。


「…………」


レオが。


黙った。


ミアが来た。


「何してるの?」


「準備」


「何の?」


「遠距離魔法」


「…………」


ミアが。


レオを見る。


レオが。


ミアを見る。


「昨日のやつ?」


「昨日のやつ」


「まだ諦めてなかったの?」


失礼な。


諦めるどころか。


一晩。


考えた。


「昨日は問題があった」


「うん」


「杖を投げたら」


「うん」


「取りに行かないといけない」


「うん」


俺は。


紐を持ち上げる。


「解決した」


「してない」


早い。


「まだ説明してない」


「分かるからだよ!」


「投げる」


「うん」


「紐を引く」


「うん」


「戻ってくる」


「…………」


完璧だ。


「どう?」


「どうって言われても……」


ミアが。


杖を見る。


紐を見る。


俺を見る。


「ちょっと見たい」


「ミア!?」


レオが叫んだ。


「だって戻ってくるんでしょ?」


「戻ってくる」


「どうやって?」


「引っ張る」


「ただの紐付きの棒だぞ!!」


棒じゃない。


杖だ。


そこは。


大事だ。


ガルムも来た。


俺の杖を見る。


「何だ、それ」


「遠距離魔法」


「紐だろ」


「遠距離魔法」


「紐だ」


こいつ。


頑固だな。


「とにかく」


レオが。


俺を指さした。


「投げるなよ」


「分かった」


「本当だな?」


「うん」


「絶対だぞ?」


「しつこいな」


信用がない。


◇


商隊は。


宿場町を出た。


しばらく。


何も起きなかった。


平和。


非常に。


平和。


「…………」


俺は。


杖を見る。


紐は。


ちゃんとついている。


「ノア」


「何」


「触るな」


「触ってない」


「触ってる」


手を離す。


「…………」


暇だ。


「ノア」


「何」


「投げるなよ」


「分かってるって」


本当に。


信用がない。


さらに。


しばらく進む。


「止まって!」


ミアが。


声を上げた。


馬車が。


止まる。


レオが。


剣を抜く。


「どうした?」


「前」


街道脇。


茂み。


何かが。


動いた。


一匹。


二匹。


三匹。


魔物が。


姿を現す。


小型。


犬みたいな魔物。


昨日の。


フォレストウルフより。


小さい。


「三匹!」


ミアが。


弓を構える。


ガルムが。


前へ出る。


レオも。


剣を構えた。


俺は。


杖を持つ。


「ノア」


「何」


「投げるなよ」


「分かってる」


魔物が。


走ってくる。


一匹を。


レオが迎え撃つ。


もう一匹を。


ミアの矢が止める。


残り。


一匹。


ガルムの横を抜けた。


こっちへ。


来る。


「ノア!」


「分かってる!」


杖を構える。


魔力を流す。


杖先に。


炎。


「…………」


魔物。


距離。


まだ。


ある。


いつもなら。


近づく。


そして。


殴る。


でも。


今日は。


違う。


俺には。


遠距離魔法がある。


「ノア」


レオの声。


「まさか――」


「大丈夫」


「何が!?」


俺は。


杖を。


振りかぶった。


「遠距離魔法」


「待て!!」


投げた。


「分かってねえ!!」


杖が。


飛ぶ。


炎も。


飛ぶ。


「…………」


本当に。


飛んだ。


そのまま。


魔物へ。


直撃。


ドンッ!!


魔物が。


吹き飛んだ。


地面を転がる。


動かない。


「…………」


静かになった。


俺は。


杖の先から伸びる。


紐を見る。


そして。


レオを見る。


「飛んだ」


「杖がな!!」


「魔法も」


「杖についてただけだ!!」


「でも飛んだ」


「投擲だよ!!」


昨日も。


聞いた気がする。


「ノア!」


ミアが。


目を輝かせている。


「当たった!」


「うん」


「すごい!」


「だろ」


「褒めるなミア!!」


レオが。


怒っている。


何が。


そんなに不満なんだ。


結果は。


出た。


魔物。


倒した。


杖。


無事。


しかも。


俺は。


ここから。


一歩も動いてない。


完璧。


「そして」


俺は。


紐を握る。


「何する気だ」


レオが。


嫌そうな顔をした。


「回収」


「待て」


「大丈夫」


「待てって」


紐を。


引く。


「ノア!!」


杖が。


動いた。


地面から。


浮く。


そして。


こっちへ。


飛んできた。


速い。


「…………」


思ったより。


速い。


「ノア!!」


「…………」


速い。


かなり。


速い。


「避けろ!!」


避けた。


杖が。


俺の横を通過した。


「危なっ」


「お前ぇ!!」


レオも。


避ける。


「こっち来た!!」


ミアが。


しゃがむ。


杖は。


さらに。


飛ぶ。


その先。


ガルム。


「…………」


ガルムが。


盾を構えた。


ガァン!!


杖が。


盾にぶつかった。


止まった。


「…………」


「…………」


「…………」


全員。


黙る。


俺は。


ガルムを見る。


「ガルム」


「何だ」


「ナイス」


「二度とやるな」


「…………」


怒っている。


「でも」


俺は。


ガルムの盾に当たって。


地面へ落ちた杖を拾う。


確認。


ひび。


なし。


魔石。


無事。


「成功した」


「どこが!?」


レオが。


叫んだ。


「魔物を倒した」


「その後俺たちも倒しかけただろ!!」


「倒れてない」


「結果論だ!!」


「でもガルムなら防げる」


ガルムが。


俺を見る。


「俺を回収装置にするな」


「毎回とは言ってない」


「一回もやらん」


厳しい。


「ノア」


ミアが。


手を上げた。


「私、禁止に一票」


「…………」


さっき。


褒めてたのに。


「俺もだ」


レオ。


ガルムも。


手を上げる。


「同じく」


「…………」


三対一。


「今後」


レオが。


俺の杖を指さした。


「杖を投げるの禁止」


「なんで」


「危ないから!」


「魔物には当たった」


「俺たちにも当たりかけた!!」


「次はもっと弱く引く」


「次を考えるな!!」


「じゃあ紐を長くする」


「改善案を出すな!!」


「でも」


「禁止!」


「…………」


民主主義に。


遠距離魔法を。


奪われた。


俺は。


杖を見る。


紐を見る。


「…………」


せっかく。


買ったのに。


「紐がもったいない」


「そこかよ!!」


仕方なく。


紐を外す。


丸める。


鞄に入れる。


いつか。


何かに使おう。


「で」


俺は。


レオを見る。


「何だよ」


「次からどうやって戦えばいい?」


「…………」


レオが。


俺を見る。


杖を見る。


また。


俺を見る。


「…………いつも通りでいいんじゃないか?」


「いつも通り?」


「…………」


レオが。


少しだけ。


嫌そうな顔をした。


「殴れ」


「…………」


聞いた。


今。


確かに。


聞いた。


「レオ」


「何だよ」


「もう一回言って」


「嫌だ」


「殴っていい?」


「今だけだ!!」


「杖で?」


「そうだよ!!」


「魔物を?」


「そうだよ!!」


「魔法使いなのに?」


「お前が言うな!!」


「…………」


なるほど。


俺は。


杖を握る。


投げるのは。


ダメ。


飛ばすのも。


無理。


だったら。


仕方ない。


次からは。


ちゃんと。


近づいて。


殴ろう。


「…………」


「ノア」


「何?」


「なんで嬉しそうなんだよ」


「気のせい」


「絶対違うだろ」


俺たちは。


再び。


街道を進み始めた。


結局。


今日も。


俺の魔法は。


飛ばなかった。


杖は。


飛んだけど。



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