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『魔法が飛ばせないので、杖でぶん殴ることにした ~落ちこぼれ魔法使い、なぜか最強の槌使いと呼ばれる~』  作者: 蝶野摩矢


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第15話 杖は投げるものでもない

フォレストウルフを倒してから。


数時間。


馬車は。


街道を進んでいた。


「…………」


俺は。


杖を見ていた。


ひび。


なし。


魔石。


問題なし。


柄。


多分。


大丈夫。


「…………」


よし。


「まだ見てるの?」


向かいに座っていたミアが。


呆れた顔をしている。


「確認は大事だろ」


「さっきから何回目?」


「七回」


「数えてるんだ……」


当たり前だ。


こいつには。


ベルナまで。


頑張ってもらわないといけない。


「でも」


ミアが。


杖を見る。


「二回殴って壊れなかったんだから、意外と丈夫なんじゃない?」


「そういう油断が一番危ない」


「何と戦ってるの?」


「耐久力」


「魔物と戦って」


正論だった。


俺は。


杖を膝に置く。


「だから考えた」


「何を?」


「なるべく殴らずに戦う方法」


「…………」


ミアが。


目を見開いた。


「ノアが」


「うん」


「杖で」


「うん」


「殴らない?」


「そう」


「…………」


前を歩いていたレオが。


振り返った。


「どうした?」


「ノアが杖で殴らないって」


「熱でもあるのか?」


「ないよ!」


ガルムまで。


俺を見る。


「頭は?」


「正常だよ!」


「本当に?」


「なんで全員疑うんだよ!」


失礼な。


俺だって。


学習する。


杖で殴る。


壊れる。


金がなくなる。


なら。


殴らなければいい。


完璧な理論だ。


「で?」


レオが聞く。


「どうやって戦うんだ?」


「それを考えてる」


「まだ何もなかった!」


「今からだよ!」


俺は。


杖を持つ。


魔力を流す。


杖先に。


小さな炎。


「ほら」


「うん」


ミアが言う。


「いつもの」


「…………」


炎は。


動かない。


杖を。


前へ振る。


炎も。


一緒に動く。


止める。


炎も。


止まる。


「…………」


やっぱり。


離れない。


「投げたら?」


ミアが言った。


「何を?」


「杖」


「…………」


全員。


黙った。


俺は。


杖を見る。


確かに。


魔法は。


杖から離れない。


なら。


杖を飛ばせば。


魔法も。


飛ぶ。


「…………天才?」


「待て」


レオが。


止めた。


「絶対やめろ」


「なんで」


「お前、今その杖なくしたらどうするんだ」


「拾う」


「戦闘中に!?」


「ガルム」


「拾わんぞ」


「まだ頼んでない」


「顔で分かる」


最近。


顔を読まれすぎている。


「でも」


俺は。


杖を見る。


「理屈としては間違ってない」


「間違ってる」


「魔法を飛ばしたい」


「うん」


「魔法は杖から離れない」


「うん」


「杖を飛ばす」


「やめろ」


「魔法も飛ぶ」


「やめろ!」


「俺はついに遠距離魔法を――」


「それ投擲だよ!」


「魔法使いの投擲」


「投擲だよ!!」


「…………」


でも。


飛ぶ。


「ノア」


「何」


「構えるな」


「構えてない」


「今、完全に投げる構えだったぞ!」


ちっ。


「舌打ちした!?」


◇


夕方。


商隊は。


街道沿いの小さな宿場町へ入った。


今日は。


ここで一泊するらしい。


「着きましたぞ」


ハンスが。


馬車から降りる。


「本日の移動はここまでです」


「…………」


俺も。


荷台から降りる。


身体を伸ばす。


「終わった……」


「何もしてないだろ」


レオが言った。


「護衛した」


「後半ずっと杖見てただろ」


「馬車の中から」


「何を?」


「周囲」


「ほぼ下向いてたぞ」


細かい。


宿へ。


荷物を運ぶ。


それが終わると。


ハンスが。


俺たちへ小さな袋を渡した。


「こちらを」


「…………」


俺は。


受け取る。


「何です?」


「本日分の食事代です」


「…………」


袋を見る。


硬貨。


「飯代?」


「はい」


「もらえるんですか?」


「契約に含まれておりますので」


「…………」


素晴らしい。


俺は。


この仕事が。


好きかもしれない。


「ノア」


レオが。


俺を見る。


「何」


「すごい笑顔だぞ」


「気のせい」


「魔物倒した時より嬉しそう」


比較対象がおかしい。


◇


宿場町の食堂。


俺たちは。


夕食を取っていた。


「うまい」


「ノア」


「何」


「ゆっくり食え」


「食費が出てる」


「だから何だよ」


「無料」


「依頼料に含まれてるだけだ!」


俺にとっては。


同じだ。


パン。


肉。


スープ。


全部。


俺の財布が。


減らない。


素晴らしい。


「おかわりできるかな」


「やめとけ」


「なんで」


「依頼主の好意につけ込むな」


「…………」


仕方ない。


俺が。


パンを食べていると。


隣のテーブルから。


声が聞こえた。


「――知ってるか?」


「何が?」


「王都で噂の《最強の槌使い》」


「…………」


また。


そいつか。


「最強の槌使い?」


レオが。


反応する。


「何それ?」


ミアが聞く。


「王都で噂になってる奴」


俺は答えた。


「ノア、知ってるの?」


「噂だけ」


「強いの?」


「かなり」


そこは。


認める。


王国騎士でも。


仕留められなかった魔物を。


一撃で倒したらしい。


俺なんかが。


勝てる相手じゃない。


「巨大な光の槌を使う大男らしいぞ」


隣の男が言う。


「二メートルはあるとか」


「俺が聞いたのは三メートルだぞ」


「三メートル?」


ミアが笑う。


「人なの?」


「でかすぎるだろ」


レオも笑う。


ガルムが。


頷いた。


「強そうだ」


「…………」


俺は。


パンを食べる。


「見てみたいなあ」


ミアが言った。


「…………」


パンを。


握る。


「ノア」


「何」


「パン潰れてるよ」


「…………」


見る。


少し。


潰れていた。


「事故だ」


「パンで事故起きる?」


なんだろう。


気に食わない。


別に。


何かされたわけじゃない。


俺が。


杖一本買う金にも困ってる時に。


向こうは。


英雄みたいに噂されている。


それだけだ。


多分。


ミアが。


潰れたパンを見ながら言った。


「でもさ」


「何?」


「ノアも杖で殴るよね」


「…………」


「その人も槌で殴るんでしょ?」


「全然違う」


「どこが?」


「俺は魔法使いだから」


「そこ!?」


レオが。


頭を抱えた。


「杖で殴ってるだろ!」


「魔法で殴ってる」


「殴ってるじゃねえか!」


「…………」


そうとも言う。


「じゃあさ」


ミアが。


笑いながら聞く。


「《最強の槌使い》に会ったらどうする?」


「逃げる」


「即答!?」


当たり前だ。


王国騎士でも。


倒せない魔物を。


一撃で倒す奴だぞ。


勝てるわけがない。


「じゃあ」


レオが。


俺を見る。


「なんでそんなに敵意あるんだよ」


「…………」


「ノア?」


「…………」


なんか。


ムカつく。


だから。


一発くらい。


ぶっ飛ばしたい。


「ノア」


「何」


「なんで杖握った?」


「握ってない」


「握ってるぞ」


「…………」


俺は。


杖から手を離した。


「逃げるんじゃなかったの!?」


「逃げるよ」


「じゃあ杖は!?」


「一発殴ってから逃げる」


「一番ダメなやつだろ!!」


「…………」


確かに。


追いかけてきそうだ。


三メートルが。


「やっぱりやめる」


「そうしろ!」


まあ。


会うことなんて。


ないだろう。


俺は。


残ったスープを飲む。


「…………」


「今度は何だよ」


「おかわりできるかな」


「切り替え早いな!」



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