第14話 新品なので手加減します
「早くない?」
「魔物に言え!」
レオが。
剣を抜いた。
俺も。
荷台から身体を起こす。
「どこ?」
「あっち!」
ミアが指差す。
街道の脇。
森の中から。
何かが出てくる。
一匹。
二匹。
三匹。
四匹。
「…………」
さらに。
五匹。
「多くない?」
「寝てる場合じゃないでしょ!」
「まだ寝てない」
「寝てたよ!」
「目を閉じてただけ」
「横になって!?」
「休息」
「寝てたんだよ!」
魔物が。
街道へ出てくる。
四足。
狼に似ている。
ただし。
普通の狼より。
かなり大きい。
牙も。
でかい。
「フォレストウルフだ!」
レオが。
前へ出る。
「ガルム!」
「ああ」
ガルムが。
盾を構えた。
ミアも。
弓を引く。
「ノア!」
「何!」
「馬車を頼む!」
「分かった!」
俺は。
杖を握る。
買ったばかりの。
新しい杖。
「…………」
握る。
「…………」
ちょっと。
力を緩める。
「ノア?」
「何」
「なんでそんな優しく持ってるの?」
ミアが。
こっちを見ていた。
「新品だから」
「戦闘始まってるよ!?」
分かってる。
だからこそだ。
こいつは。
買ったばかり。
まだ。
ほとんど使ってない。
できれば。
長く付き合いたい。
「来るぞ!」
フォレストウルフが。
一斉に走り出した。
ガルムへ。
二匹。
「来い!」
盾。
激突。
一匹を。
完全に止める。
もう一匹が。
横へ回る。
そこへ。
レオ。
「はっ!」
剣が。
走った。
一撃。
フォレストウルフが。
倒れる。
「…………」
強い。
反対側。
二匹。
ミアが。
矢を放つ。
一本。
命中。
もう一本。
命中。
「…………」
強い。
残り一匹。
レオが。
斬る。
終わった。
「…………」
俺は。
杖を持ったまま。
立っていた。
「終わった?」
「ああ」
「…………」
何も。
してない。
レオが。
剣についた血を払う。
ミアが。
弓を下ろす。
ガルムも。
盾を戻す。
「…………」
俺は。
杖を見る。
無傷。
「よかった……」
「何が?」
「杖」
「そっち!?」
だって。
新品だぞ。
「ノア」
レオが。
俺を見る。
「馬車を守ってただろ」
「何から?」
「…………」
「全部そっちで倒したよね?」
「…………」
「俺、本当にいる?」
「また始まった」
ミアが言った。
「でも」
俺は。
真剣だった。
「剣士」
レオ。
「いる」
「弓」
ミア。
「いる」
「盾」
ガルム。
「いる」
そして。
俺。
「…………」
「照明?」
「昼だって言ってるでしょ!」
「治療?」
「誰も怪我してないぞ」
「…………」
よし。
「寝るか」
「なんでそうなる!」
俺が。
荷台へ戻ろうとした。
その時。
「待て!」
レオの声。
「…………何」
「まだいる!」
「え」
森。
草木が。
大きく揺れた。
一匹。
さっきより。
少し大きい。
フォレストウルフ。
「六匹目!」
「後から来るなよ!」
魔物に。
順番という概念は。
ないらしい。
六匹目が。
走る。
だが。
俺たちへじゃない。
横。
「まずい!」
レオが叫ぶ。
フォレストウルフが。
戦線を回り込む。
向かっているのは。
後ろ。
商隊。
「馬車だ!」
「ノア!」
分かってる。
今。
一番近いのは。
俺。
「…………」
俺は。
杖を見る。
フォレストウルフを見る。
もう一度。
杖を見る。
新品。
魔物。
新品。
魔物。
「…………」
嫌だ。
「ノア!」
分かってる!
俺は。
馬車から飛び降りた。
フォレストウルフが。
こっちを見る。
目が合う。
「…………」
頼む。
帰ってくれ。
「グルルルル……」
無理そう。
杖を構える。
「…………」
新品。
「ノア!」
「分かってるって!」
フォレストウルフが。
走り出す。
俺は。
魔力を流す。
杖先に。
光が集まる。
「…………」
少なめ。
できるだけ。
少なめ。
「ノア!?」
「何!」
「何でそんな弱そうなんだ!」
「杖が壊れる!」
「今それ気にしてる場合か!」
「俺にとっては重要なんだよ!」
修理代。
いや。
買い替え代。
今。
俺の財布に。
そんな余裕はない。
フォレストウルフが。
迫る。
「…………」
仕方ない。
俺は。
杖を。
振った。
「壊れるなよ!!」
ゴッ。
鈍い音。
フォレストウルフが。
吹き飛んだ。
地面を。
何度か転がる。
止まった。
「…………」
俺は。
魔物を見ない。
杖を見る。
「…………」
大丈夫。
ひび。
なし。
魔石。
大丈夫。
柄。
大丈夫。
「…………」
よし。
「ノア!」
「何!」
「前!」
「え」
顔を上げる。
フォレストウルフが。
立ち上がっていた。
「…………」
倒れてない。
「なんで!?」
「魔力抑えただろ!」
「杖が!」
「敵を心配しろ!」
再び。
フォレストウルフが。
走ってくる。
「…………」
まずい。
もう一回。
殴る?
いや。
二回。
二回は。
まずい。
多分。
何がまずいかは。
分からない。
でも。
杖には。
よくない。
「ノア!」
「分かってる!」
俺は。
杖先へ。
魔力を集める。
さっきより。
少し多く。
「これくらいなら……」
「何の調整してんだ!」
「耐久試験!」
「戦闘中にやるな!!」
来る。
仕方ない。
俺は。
杖を。
振り抜いた。
ドンッ!!
「…………」
フォレストウルフが。
飛んだ。
さっきより。
遠くへ。
かなり。
遠くへ。
木に。
ぶつかった。
落ちた。
動かない。
「…………」
今度こそ。
俺は。
杖を見る。
「…………」
無事。
「よし!」
「何が!?」
レオたちが。
駆け寄ってくる。
「倒した?」
「ああ」
「杖は?」
「知らん!」
「見て」
「なんで俺が!」
「ひびない?」
「自分で見ろ!」
冷たい。
俺は。
杖を。
光にかざした。
「…………」
大丈夫そうだ。
「よかった……」
「魔物倒した時より嬉しそうだな」
「当たり前だろ」
「当たり前じゃない」
ミアが。
倒れたフォレストウルフを見る。
そして。
俺の杖を見る。
「でも」
「何」
「今回は壊れなかったね」
「…………」
確かに。
俺は。
杖を見る。
普通の。
安い杖。
二回。
殴った。
まだ。
無事。
「…………」
いける。
「ノア」
「何」
「その顔やめろ」
レオが言った。
「何が」
「もう一回殴れるって顔してる」
「…………」
なぜ。
分かった。
「やめろよ」
「まだ何も言ってない」
「絶対やめろ」
「耐久性を確認したい」
「依頼中に確認するな!」
「大事だろ」
「杖は消耗品じゃないんだよ!」
「俺のは消耗品だけど」
「使い方のせいだ!!」
その時。
後ろから。
声がした。
「み、皆さん!」
ハンス。
馬車から。
顔を出している。
「大丈夫ですか!?」
「ああ」
レオが答える。
「全部倒しました」
「おお……!」
ハンスが。
安心した顔をする。
そして。
俺を見る。
「ノアさんも」
「はい」
「お見事でした!」
「…………」
褒められた。
「いや」
ちょっと。
照れる。
「それほどでも」
「本当に杖で殴るんですな!」
「…………」
そこ?
「説明は聞いていましたが」
ハンスが。
俺の杖を見る。
「まさか本当に」
「…………」
「魔法使いが」
「…………」
「杖で魔物を殴るとは」
「何回言うんですか」
「いや、あまりにも衝撃的で」
衝撃。
物理的にも。
そうだと思う。
「でも」
ハンスが笑う。
「これなら安心ですな!」
「任せてください」
「ただ」
「はい」
「その杖」
ハンスが。
少し心配そうに。
「最後まで持ちますか?」
「…………」
俺は。
杖を見る。
レオを見る。
ミアを見る。
ガルムを見る。
全員。
俺を見ている。
「…………」
旅は。
始まったばかり。
ベルナまでは。
まだ。
遠い。
俺は。
杖を。
そっと握った。
「持たせます」
「どうやって?」
レオが聞く。
「…………」
考える。
そして。
答えた。
「なるべく殴らない」
「やっと分かったか!」
「できれば一日二回まで」
「分かってねえ!!」
ベルナへの旅。
出発から。
まだ。
十分ちょっと。
俺の杖には。
すでに。
二回。
魔物を殴った実績がついた。
「…………」
先は。
長そうだ。




