第13話 そのうえ金もらえる?
「……もう一回言って」
「だから」
レオが。
依頼書を指差した。
「ベルナ方面へ向かう商隊の護衛」
「うん」
「目的地まで同行するだけ」
「うん」
「食事は向こう持ち」
「うん」
「移動用の馬車にも乗せてもらえる」
「うん」
「それで」
レオが。
報酬欄を指差す。
「一人、この金額」
「…………」
俺は。
依頼書を見る。
報酬。
もう一度見る。
「…………」
レオを見る。
「これ」
「ああ」
「金もらえるの?」
「護衛依頼だからな」
「ベルナ方面に行けるのに?」
「ああ」
「馬車にも乗れる?」
「ああ」
「飯も出る?」
「ああ」
「そのうえ?」
「ああ」
「金もらえる?」
「さっきからそう言ってるだろ」
「…………」
俺は。
依頼書を手に取った。
「受けよう」
「早いな」
「今すぐ」
「まだ説明終わってないぞ」
「何を聞くことがあるんだよ」
「依頼内容」
「護衛」
「道中の危険とか」
「護衛」
「想定される魔物とか」
「護衛」
「お前、報酬しか見てないだろ」
「そんなことない」
「じゃあ依頼主の名前は?」
「…………」
依頼書を見る。
「今から見る」
「見てなかったじゃねえか!」
細かいことを。
◇
受付へ向かう。
いつもの受付のお姉さんがいた。
「こんにちは、ノアさん」
「……どうも」
笑顔。
やめてほしい。
別に。
嫌なわけじゃない。
むしろ。
その。
逆というか。
「今日はどうされました?」
「これ」
依頼書を出す。
「商隊護衛ですね」
「はい」
「ベルナ方面へ向かわれるんですか?」
「ちょっと」
「そうなんですね」
受付のお姉さんが。
依頼書を見る。
そして。
俺たちを見る。
レオ。
剣。
ミア。
弓。
ガルム。
盾。
そして。
俺。
杖。
「…………」
一瞬。
お姉さんの視線が。
俺の杖で止まった。
「何です?」
「いえ」
ニコッ。
「何でもありません」
「絶対何か思ったでしょ」
「思ってませんよ」
「本当に?」
「はい」
「じゃあなんで杖見たんですか」
「…………」
「ほら」
「ノア」
レオが。
俺の肩を掴んだ。
「やめろ」
「なんで」
「受付の人を困らせるな」
「俺が困ってるんだけど」
「お前はいつも困ってるだろ」
「どういう意味だよ」
受付のお姉さんが。
口元を押さえている。
「…………」
笑ってる。
絶対。
笑ってる。
「それでは」
お姉さんが。
気を取り直す。
「依頼主の方が裏でお待ちです」
「もう来てるんですか?」
「はい」
「では、ご案内しますね」
「お願いします」
立ち上がる。
その時。
「ノアさん」
「はい」
受付のお姉さんが。
少しだけ真面目な顔になった。
「今回は、杖、大事にしてくださいね」
「…………」
足が止まった。
「なんで知ってるんですか!?」
「ノアさん、最近ギルドで有名ですよ」
「え」
有名。
俺が?
「…………」
まさか。
俺もついに。
冒険者として。
名が知られるように――
「依頼に行くたび杖を壊して帰ってくる魔法使いって」
「そっち!?」
レオが。
吹き出した。
「お前、それで有名なのかよ!」
「知らねえよ!」
ミアまで。
笑っている。
「ノア、有名人じゃん」
「嬉しくねえ!」
「よかったな」
ガルムが言う。
「何が!?」
「名前を覚えてもらえて」
「覚えられ方の問題だろ!」
受付のお姉さんが。
笑っている。
「ちなみに」
「まだあるんですか」
「この前は」
お姉さんが。
俺の新しい杖を見る。
「買ったばかりだったそうですね」
「…………」
なんで。
そこまで。
知られてるんだ。
「誰が喋ったんです?」
「秘密です」
「絶対あの魔具店の店主だろ」
「さあ?」
「目逸らした!」
「では、ご案内しますね」
「逃げた!」
このギルド。
嫌いになりそうだ。
受付以外。
いや。
受付も。
ちょっとだけ。
◇
案内された部屋には。
一人の男が待っていた。
四十代くらいだろうか。
少し丸い体。
綺麗な服。
商人。
見た瞬間。
分かる。
「初めまして」
男が立ち上がる。
「今回、護衛をお願いするハンスです」
「レオです」
レオが。
代表して挨拶する。
俺たちも。
順番に名乗った。
「レオ」
剣を見る。
「剣士ですな」
「はい」
「ミア」
弓を見る。
「弓使い」
「そうです」
「ガルム」
盾を見る。
「盾役ですな」
「ああ」
そして。
男が。
俺を見る。
「ノア」
杖を見る。
男の顔が。
明るくなった。
「おお!」
「…………」
嫌な予感がする。
「魔法使いですな!」
「…………はい」
「それは心強い!」
「…………」
レオが。
俺を見る。
ミアも。
俺を見る。
ガルムも。
俺を見る。
「何だよ」
「いや」
レオが。
顔を逸らした。
「別に」
絶対何かある。
ハンスは。
嬉しそうに頷いている。
「剣士に弓使い、盾役」
そして。
俺を見る。
「さらに魔法使い!」
「…………」
「実にバランスのいいパーティですな!」
「…………」
三人が。
また俺を見る。
「だから何だよ!」
「何も言ってないだろ」
「顔が言ってる!」
ハンスが。
不思議そうに首を傾げた。
「どうされました?」
「いえ」
レオが答える。
「お気になさらず」
「そうですか?」
「はい」
「では」
ハンスが。
俺へ笑顔を向ける。
「道中、魔物が現れても安心ですな!」
「…………」
俺は。
眼鏡を押し上げた。
「まあ」
「ノア」
レオが。
小声で呼ぶ。
「何」
「ちゃんと説明しろ」
「何を」
「魔法」
「使える」
「その後だよ」
「…………」
ハンスが。
首を傾げる。
「何か?」
「いや」
「ノア」
「分かったよ」
俺は。
ため息をついた。
「あの」
「はい」
「一応、言っておきますけど」
「何でしょう」
「俺」
杖を持ち上げる。
「攻撃魔法」
「はい」
「使えます」
「おお!」
「でも」
「はい」
「飛びません」
「…………」
ハンスの笑顔が。
止まった。
「…………はい?」
「飛ばないんです」
「魔法が?」
「はい」
「使えるんですよね?」
「使えます」
「…………」
「出ます」
「はい」
「でも」
「はい」
「ここから離れません」
杖先を指差す。
「…………」
ハンスが。
杖を見る。
俺を見る。
また。
杖を見る。
「それは……」
「はい」
「攻撃できるんですか?」
「できます」
レオが。
顔を上げた。
ミアも。
俺を見る。
ガルムまで。
俺を見る。
「何だよ」
「いや」
レオが言う。
「どう説明するのかなって」
「普通に」
俺は。
ハンスを見る。
「近づいて」
「はい」
「殴ります」
「…………」
沈黙。
ハンスが。
俺を見る。
「杖で?」
「はい」
「魔法使いが?」
「はい」
「魔物を?」
「はい」
「…………」
ハンスは。
レオを見る。
レオは。
静かに頷いた。
「本当です」
「…………」
ミアも頷く。
「本当です」
「…………」
ガルムも。
「強いぞ」
「そこだけ聞くと余計ややこしいだろ!」
◇
説明には。
少し時間がかかった。
「なるほど……」
ハンスが。
まだ少し困惑している。
「つまり」
「はい」
「魔法は使える」
「はい」
「ただし飛ばない」
「はい」
「治癒魔法も使える」
「はい」
「ただし直接触れる必要がある」
「はい」
「そして」
「はい」
ハンスが。
俺の杖を見る。
「魔物が近づいてきたら」
「殴ります」
「…………」
「そんな顔しないでください」
「いや、その……」
「俺だって好きでこうなったわけじゃないんで」
「す、すみません」
なぜ。
依頼主に謝られているんだ。
「でも」
ハンスが。
気を取り直す。
「戦えるのであれば問題ありません」
「はい」
「むしろ治療もできる」
「できます」
「それはありがたい」
「任せてください」
「ノア」
「何」
レオが。
俺の杖を見る。
「その杖で大丈夫か?」
「…………」
全員の視線が。
杖へ集まった。
新しく買った。
普通の杖。
「…………」
俺は。
杖を見る。
「多分」
「多分?」
「一回くらいなら」
「一回!?」
ハンスの顔色が変わった。
「大丈夫です」
「何が!?」
「壊れたら」
俺は。
ガルムを見る。
「盾貸して」
「断る」
即答だった。
「なんで」
「盾は殴るものじゃない」
「杖もそうだよ!」
ミアが。
すぐに突っ込んだ。
「…………」
確かに。
「じゃあ」
レオを見る。
「剣」
「絶対貸さない」
「まだ何も言ってない」
「顔で分かる」
「何が」
「お前、剣で殴ろうとしただろ」
「剣は殴るものだろ」
「斬るものだ!」
「似たようなもんだろ」
「全然違う!」
「…………」
ハンスが。
黙って俺たちを見ている。
「…………」
まずい。
依頼。
断られるかもしれない。
「ハンスさん」
レオが。
咳払いをした。
「ご安心ください」
「は、はい」
「基本的には」
レオが。
俺を指差す。
「こいつを魔物に近づけません」
「おい」
「俺とガルムが前で止めます」
「なるほど」
「ミアが後方から援護」
「はい」
「ノアは」
一瞬。
止まった。
「…………」
「何だよ」
「後ろで待機」
「俺の役割なくなったんだけど!?」
「治療があるだろ!」
「それ魔物出た時じゃないだろ!」
「照明もできる」
「夜限定じゃねえか!」
「ほら」
ミアが。
笑顔で言う。
「ちゃんと役割あるよ」
「無理やり作るな!」
◇
翌朝。
街の門。
何台もの荷馬車が。
並んでいた。
積まれているのは。
食料。
布。
道具。
その他。
ベルナ方面へ運ぶ商品。
「では」
ハンスが。
馬車へ乗る。
「よろしくお願いします」
「はい」
レオが答える。
俺たちも。
荷物を積む。
俺は。
馬車の荷台へ乗った。
「…………」
座る。
「ノア」
「何」
「嬉しそうだな」
レオが言う。
「別に」
「顔に出てるぞ」
「出てない」
「出てる」
「…………」
馬車。
無料。
飯。
無料。
しかも。
目的地へ近づく。
さらに。
報酬。
「…………」
完璧だ。
「ノア」
「何」
ミアが。
俺を見る。
「今、絶対お金のこと考えてたでしょ」
「考えてない」
「嘘」
「…………」
馬車が。
ゆっくりと動き始める。
街の門を。
抜けていく。
こうして。
俺たちは。
ベルナへ向けて出発した。
目的は。
伝説級魔杖。
そのための。
最初の旅。
「…………」
俺は。
荷台で横になった。
揺れる。
でも。
悪くない。
「移動してるだけで金がもらえる……」
「護衛しろよ」
「まだ魔物いないだろ」
「だからって寝るな!」
「出たら起こして」
「お前なぁ……!」
目を閉じる。
最高だ。
馬車に乗って。
飯も出て。
金まで貰える。
こんな仕事。
もっと早く知りたかった。
――なお。
この時の俺は。
まだ知らなかった。
こういうことを考えた直後は。
大体。
ろくなことが起きない。
「ノア!」
「…………」
「ノア!」
「何」
「起きろ!」
「もう着いた?」
「出発して十分だ!」
「じゃあ寝かせて」
「魔物だ!!」
「…………」
俺は。
目を開けた。
「早くない?」




