第12話 財布で距離は変わります
翌日。
冒険者ギルド。
「伝説の杖?」
レオが。
聞き返した。
「ああ」
「お前が?」
「ああ」
「探しに行くの?」
「ああ」
「…………」
レオが。
俺を見る。
ミアも。
俺を見る。
ガルムも。
俺を見る。
「何」
「いや」
レオが。
首を傾げる。
「なんで?」
「壊れないらしい」
「…………」
三人が。
黙った。
「それだけ?」
ミアが聞く。
「それだけって?」
「伝説の杖なんでしょ?」
「ああ」
「大賢者が使ってたとか」
「ああ」
「すごい魔法が使えるとか」
「らしいな」
「…………」
「何」
ミアが。
少し考える。
「興味ないの?」
「何に」
「すごい魔法」
「飛ばないし」
「…………」
「あ」
思い出したような顔。
やめろ。
「だから」
俺は続ける。
「重要なのはそこじゃない」
「どこ?」
「頑丈さ」
「…………」
「どれだけ魔力を流しても砕けなかったらしい」
「へえ」
「つまり」
俺は。
机へ身を乗り出した。
「殴っても壊れないかもしれない」
「用途がおかしい」
即答だった。
「なんで」
「杖だから」
「杖だな」
「魔法使いの杖だから」
「知ってる」
「知らないから言ってるの!」
知ってるって。
◇
「それで」
レオが。
地図を見る。
「その杖があるのが、ベルナ?」
「正確には」
俺も。
店主から教えてもらったことを思い出す。
「最後に記録が残ってるのがベルナ」
「いつの記録?」
「二百年以上前」
「…………」
レオが。
顔を上げた。
「二百?」
「ああ」
「年以上?」
「ああ」
「…………」
「何」
「いや」
レオが。
地図を閉じた。
「ないだろ」
「なんでだよ」
「二百年前だぞ」
「まだあるかもしれない」
「ないかもしれない」
「あるかもしれない」
「ない可能性の方が高いだろ」
「…………」
確かに。
「しかも」
ミアが。
地図を覗き込む。
「ベルナって結構遠いよ」
「知ってる」
「何日もかかるよ?」
「知ってる」
「旅費もかかる」
「…………」
「ノア?」
「そこが一番の問題なんだよ」
「伝説の杖の存在じゃなくて?」
「金は現実だからな」
「伝説の杖も現実にあるか分からないよ?」
「…………」
痛いところを。
突いてくる。
俺は。
財布を出した。
開く。
「…………」
閉じる。
「どうだった?」
レオが聞く。
「ベルナが遠くなった」
「財布で距離変わるのかよ」
変わる。
少なくとも。
俺の中では。
かなり遠くなった。
◇
「で」
ガルムが。
初めて口を開いた。
「一人で行くのか?」
「そのつもり」
「…………」
三人が。
また俺を見る。
「何」
「ノア」
レオが。
真剣な顔をした。
「お前」
「何」
「一人で?」
「ああ」
「ベルナまで?」
「ああ」
「…………」
なんだよ。
「無理だろ」
「なんで!?」
「お前、昨日まで一人でまともに依頼受けられなかっただろ!」
「…………」
忘れてた。
いや。
忘れてない。
忘れたかった。
「でも」
俺は反論する。
「今は違う」
「何が」
「魔物を倒せる」
「杖でな」
「ああ」
「その杖は?」
「…………」
カウンターの横。
俺の荷物。
そこには。
魔石の割れた杖。
「…………」
レオを見る。
「今それ言う?」
「大事だろ」
「…………」
確かに。
今の俺。
攻撃手段。
ないな。
「治癒はできる」
「直接な」
「ああ」
「攻撃は?」
「…………」
「ノア?」
「…………殴る」
「何で?」
「…………」
ない。
杖が。
ない。
「…………」
俺は。
ゆっくり椅子へ座った。
「ベルナがさらに遠くなった」
「だから距離は変わってねえよ」
◇
「新しい杖を買うしかないんじゃない?」
ミアが言う。
「金がない」
「安いのは?」
「また壊れる」
「殴らなければ?」
「…………」
正論。
まただ。
最近。
正論で殴られることが多い。
「でも」
俺は。
ガルムを見る。
「また昨日みたいになったら?」
「…………」
ガルムが。
少しだけ。
目を逸らした。
「その時は」
レオが。
自分の剣を叩いた。
「俺たちがいるだろ」
「…………」
「お前一人で全部やる必要ない」
ミアも。
頷く。
「そうだよ」
「…………」
俺は。
三人を見る。
「何」
ミアが聞く。
「いや」
なんか。
妙に。
まともなことを言われた。
「気持ち悪い」
「なんで!?」
「急に仲間みたいなこと言うから」
「仲間でしょ!?」
「いつから?」
「昨日から!」
「そうなの?」
「私に聞かないで!」
知らなかった。
俺。
仲間。
いたらしい。
「…………」
悪くない。
そう思った。
少しだけ。
◇
「それで」
レオが。
もう一度地図を広げる。
「ベルナまで行くなら」
「うん」
「途中で依頼を受けながら行けばいい」
「…………」
俺は。
地図を見る。
「依頼?」
「ああ」
「金も稼げる?」
「当然」
「行こう」
「決断早っ!」
金が稼げるなら。
話は別だ。
「護衛依頼とか」
レオが続ける。
「採取依頼とか」
「うん」
「街を移動しながら受ければ、旅費もある程度は補える」
「うん」
「それに」
レオが。
俺を見る。
「ベルナ方面に向かう商隊の護衛があれば、一石二鳥だ」
「…………」
なるほど。
こいつ。
頭いいな。
「レオ」
「何だ」
「お前、便利だな」
「褒め方!」
「ノアよりはね」
ミアが笑う。
「何だと」
「だってノア」
指を折る。
「照明」
一つ。
「治療」
二つ。
「あと」
三つ目。
「殴る」
「待て」
「何?」
「最後おかしいだろ」
「事実でしょ」
「俺は魔法使いだぞ」
「知ってる」
「なら他にあるだろ」
「…………」
ミアが。
考える。
「…………」
長い。
「おい」
「待って」
「何を」
「考えてる」
「そんなにないの!?」
「明るくできる」
「それ最初に言った!」
レオが。
笑っている。
ガルムまで。
少し笑っている。
「…………」
こいつら。
◇
「まあ」
レオが。
笑いを堪えながら言う。
「俺たちも行くよ」
「…………」
俺は。
三人を見る。
「ベルナに?」
「ああ」
「なんで」
「なんでって……」
レオが。
困った顔をする。
「お前一人じゃ心配だから」
「…………」
「あと」
ミアが続ける。
「私たちも、しばらくこの街を離れてみようって話してたし」
「そうなの?」
「うん」
「それに」
ガルムが言う。
「借りがある」
「借り?」
「昨日」
ガルムが。
自分の脇腹へ触れる。
「お前に助けられた」
「…………」
「あれは」
「分かってる」
ガルムが。
少し笑った。
「報酬の計算が面倒だったんだろ」
「…………」
レオが。
吹き出した。
ミアも。
笑っている。
「…………」
こいつ。
意外と。
言うな。
「だから」
ガルムが続ける。
「付き合う」
「…………」
なんか。
照れる。
「別に」
俺は。
顔を逸らした。
「好きにすれば」
「顔赤いよ」
「赤くない」
「赤い」
「照明のせい」
「今、光ってないよ?」
「…………」
しまった。
◇
こうして。
俺たち四人は。
ベルナを目指すことになった。
目的は。
伝説級魔杖。
数百年前。
大賢者が使ったとされる。
伝説の杖。
魔力伝導率は。
歴史上最高峰。
所有者の魔力を。
余すことなく引き出す。
数々の大魔法を放ち。
そして。
どれほどの魔力を流しても。
決して砕けなかったという。
「…………」
完璧だ。
「ノア」
「何」
「一応聞くけど」
レオが。
俺を見る。
「《アストラ》を見つけたら」
「ああ」
「最初に何する?」
「…………」
決まってる。
俺は。
答えた。
「殴ってみる」
「やめろ」
「なんで」
「伝説の杖だぞ!」
「だからだろ」
「何が!?」
「本当に壊れないか確認しないと」
「確認方法がおかしい!」
「じゃあどうやって確認するんだよ」
「普通に魔法使えよ!」
「飛ばない」
「知ってるよ!!」
ギルド中に。
レオの声が響いた。
「…………」
周囲の冒険者が。
こっちを見ている。
「レオ」
「何だよ!」
「うるさい」
「お前のせいだろ!!」
こうして。
俺の。
伝説の杖を探す旅が。
始まった。
大賢者が聞いたら。
多分。
怒ると思う。




