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第41話 モブ執事は大会に参加する

 王都レリニアムで一番の繁華街〈アウレリフ大通り〉は、昼夜問わず多くの人で賑わっている。


 すれ違う人の種類も様々、冒険の道具類を調達しに来た冒険者や卸売りの業者、商談帰りの商人に、あとは王都一番の繁華街を観光に来た旅行客(おのぼりさん)など、本当にいろいろだ。


 その実、百貨店に屋台、露店、王都に古くから根城を構える魔道具店や鍛冶工房の老舗店……ここに来れば大抵のモノが揃うくらいには、この通りには色んな店が存在する。


 商業区画と比べれば、その賑わいは圧倒的であった。


 そんな雑多な喧騒が渦巻く通りをすり抜けて、更に奥へ進むとクリーンで健全な表の繁華街とは反転するかのように、薄汚れた血と紫煙くゆるディープな路地裏通りが待ち構えている。


 それこそが、暴力や賭博、殺傷沙汰が日常茶飯事の裏社会……王族や貴族が存在を黙認している闇市場〈アウレリス〉である。


 前述したとおり、ここでは非合法な薬物の売買に賭博、暴力沙汰なんてのは日常茶飯事であり、酷いときではこのアウレリスを牛耳っている四つの闇組織(マフィア)の抗争なんかも勃発する。

 正に、絵に描いたかのような裏社会がそこに広がってり、常識的な思考の持ち主は何があろうとも、足を踏み入れるなんて考えない場所である。


 ……正直、俺だって自分がこんな物騒な場所に、こうして呆気なく足を踏み入れるなんて夢にも思わなかった。だって、普通に怖いじゃん。

 闇組織(マフィア)に賭博とか薬物の売買──暴力沙汰は……まぁ別にどうでもいいか──とか、もうその響きだけで怖いし、万が一にも巻き込まれようもんなら面倒くさいのは必至である。


 後、衛生的にも終わっているので疫病の心配もある。井戸水とか汚すぎて飲めたもんじゃない。一滴でも飲み込めば即腹を下すとか怖すぎる。百害あって一利なしなのだ。


 一応、ゲームではこのアウレリスの存在はダリアのシナリオでしか描写がされず、その内容もかなりふんわりと曖昧なものとなっている。

 なので、実際の裏社会の背景(バックボーン)などは、前世の知識はあまり役立たないと思っていい。


 だがしかし、そんな状況でありながらも俺は目の前で広がる光景はハッキリと覚えていた。


「さぁ! 三年ぶりにこの季節がやってきたぜッ! テメェら、死ぬ準備はできてるかァ!?」


「「「うぉおおおおおおおおおおおおッ!!!」」」


 陰湿な空気を熱気で塗りつぶす地下闘技場(コロッセウム)の観客席は本日も満員御礼。


「最高だぜオーディエンスッ! その調子で狂ったように今日も盛り上げろ!!」


「イドルデちゃぁああああああああああああんッ!!」


「結婚してくれぇぇええええええええええええッ!!」


「俺がここでこさえた借金なんとかなりませんかぁああああッ!!?」


 眼下に広がる殺風景な戦闘地帯に、堂々と仁王立ちした女性の声が響き、それに反射して嵐のような歓声が沸き上がる。


 繁華街の表の顔であるアウレリフの喧騒にも勝るとも劣らない、大勢の人と喧騒がそこには満ち満ちていた。


「……」


 前世(ゲーム)と同じ、見覚えのある光景を前に俺の心境は複雑であった。


 何せ、これから俺は血生臭くて、物騒な殴り合いに興じなければいけないわけで──いや、別にそれ自体はどうでもよかった。


 だってダリアからのお願いを叶えるのは、俺にできる唯一の事なのだ。


 ──本当にゲームのまんまだな……。


 今一度、自分が今立っている場所を思うと感慨深い。


 地下闘技場〈ファイトナイト〉


 それはアウレリスにひっそりと聳える草臥れた酒場、その地下に存在し、日夜多くの死闘と法外な裏賭博が繰り広げられいる無法地帯。


 そこが、ダリアの百合ルートで一番最初に繰り広げられるシナリオのメインステージであった。


「今回の大会のメインスポンサーはななな、なんと! あの数年に一度のオークション「大博覧会」を運営する派閥連合(フォーマンセル)様だ! そして、その栄えある優勝賞品が、本来ならシークレットVIPしか参加ができない「大博覧会」の参加権利! これは一部の大貴族様たちも涎を垂れ流して欲しがる超レアアイテム! 噂によると、今日の大会参加者の中にはその貴族様に雇われた凄腕の傭兵がいるとかいないとか!? ……もしこの権利を手に入れた暁には膨大な金額で売り捌くも良し! 人生でたった一度の博覧会を楽しむも良しだ! 果たして、このチケット手に入れるのはどこのアホなんだろうなぁ!?」


「「「うぉおおおおおおおおおおおお」」」


 ご丁寧な司会の女性の煽り文句に観客はこれまた劈くような雄たけびを上げる。


 ここで、今回の彼女のお願いの本命である闇オークション「大博覧会」の参加権利を手に入れなければいけないわけで……つまり、俺に求められるのはこの大会の優勝と言うわけだ。


 場のボルテージはまだメインの試合が始まってすらいないのに絶頂寸前だ。てかうるさい。耳がキンキンして不快だ。


「最高の豚声(かんせい)だぜオーディエンス! その勢いのままに、早速だが予選を始めようじゃねえか! 今回はその優勝賞品もあってか、大会には史上最大の参加希望者が大殺到だ! その数は何と三百人! これから始める予選では、この三百人を一気に八人までに絞る! さぁ出てきやがれ! 無法者の馬鹿野郎ども!!」


 司会の女の合図で鉄格子で締め切られていた四方のゲートが開く。


 そこから雪崩の如く、ハゲ、モヒカン、モヒカン、ハゲ……個性豊かな大会の参加者が戦闘地帯に入場する。次から次へと、整列していたのに順番など無視して、待機場から我先にと戦闘地帯に駆け込む大会参加者らを一瞥して、俺も今まさに血と汗の臭いが充満する脂ぎった鉄火場に身をやつそうとしていた。


「出番よ(マスクド)(マン)! 貴方のその暴れ狂う拳で全てを蹴散らしてきなさい!!」


「──イエス、マイ・マム……」


 何故か、クソダサい仮面をつけて素性を隠しながら。


 その様はまさに某パンツを被った変態仮面のような……というかもうほぼそれであった。

 これを身に着けている理由は、観客席の一番近い席で激励を送ってくる女性が全ての元凶であり、何故か悪趣味なマスクの着用を強制してきたファッションセンスが皆無な錬金術師殿であった。


 彼女も何故か俺と色違いのマスクを堂々と身に着けており、その素顔は隠されているが爛々と興奮に輝く瞳は隠しきれない。


 ──これは、完全に楽しんでいるな……。


 そんな彼女の機嫌は最高潮。俺は変な方向にスイッチが入ってしまった師匠に呆然としながら戦闘地帯へと赴く。


 その最中で、自身の脳裏に過る前世(ゲーム)の知識と今の状況を照らし合わせて、その異様なまでに乖離した現状に困惑した。


「なんなんだこの気の狂った展開は……!!」


 そう、別に俺はこの大会に参加すること自体に何ら反論はない。


 そもそも、そんなこと言える立場でもないし、本当に、どうでもいいのだ。

 ではなぜ、この場にいる俺の心境は複雑かというと、全てはその格好にあった。


 だって、誰がこんな気の狂った変装をさせられると予想できるだろうか?


『くく……よく似合ってるよ、ご主人……』


「黙れクソ悪魔……」


 殺気立つ周囲とは裏腹に俺の気分は盛り下がる一方であった。

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