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第39話 モブ執事は気づかぬうちに建築している

『ヘルデイズ〜災厄の魔女の再臨〜』に登場する錬金工房の主──ダリア・メイクラッドは、特殊サブコンテンツである「錬金術」で主に登場するキャラクターである。


 ほら、あれだよあれ。よくソシャゲとかでキャラを強化する時にUIの横で鎮座してる特殊キャラとかいるだろ。そういった光景を思い浮かべてもらえると分かりやすいかもしれない。


 一般(ライト)層プレイヤーの彼女への認識はそれくらいの感覚だ。


 だが、無駄に自由度の高い『ヘルデイズ』ではそんな一見、おまけキャラ的な立ち位置であろうキャラクターにだっていろんな要素を盛りに盛りまくる。

 特殊エリアである錬金工房でしか会うことのできないキャラでさえ攻略対象に仕立て上げ、しかもその内容が男性プレイヤー垂涎モノの百合ルートとなっているのだから本当に開発陣の熱意は凄まじい。


 ゲームでのダリアと言うキャラの最初の印象は、無気力でダウナーで、ナイスバディの魔女お姉さんだが、それは仮初の姿であり、本性はこれまでの彼女の言動でお察しの通り、メチャクチャ厨二病を拗らせた素はポンコツな残念お姉さんキャラだ。


 しかし、彼女の本性──所謂、「素」は、錬金術コンテンツを進めていき、なおかつ特定のタイミングで発生するコミュニケーションイベントを、全て最大好感度で攻略して、その果てにフラグを発生させて、ダリアの百合ルートに突入しなければ判明しないことである。


 そこまでにたどり着くまでは、見た目通りのクールでエッチなお姉さんを堪能できる。

 敢えて、一歩先に進むのを止めれば、見た目通り、想像通りの安心安全の魔女っ子お姉さんを永遠に堪能できたりする。やったね。


 ……さて、ここでボイスコンテンツの解放を最終目標とするプレイヤーたちは、その全員が目的達成の為にダリアの錬金工房、そして彼女の百合ルートを完全攻略しなければならない。

 そして、ほとんどのプレイヤーがこの()()()()()()()()と言われる通称「ダリア攻略」で、一度は『ヘルデイズ』の完全攻略を諦めたことだろう。


 ……と言うのも、散々言っているがこの「錬金術」と言うコンテンツは、そもそもが全ての錬金レシピを解放して、トロフィー開放に必要な一定の錬金回数をこなすのに膨大な時間が必要となる。

 そして何より唯一のご褒美パートとも言える百合ルートですら、その突入条件やシナリオ内容が異常な難易度をしているのだ。


 一つ目の錬金レシピ云々は何となく想像しやすいと思う。


 ならば二つ目はどういうことか?


 この『ヘルデイズ』では、ギャルゲーや乙女ゲーでよくある好感度の数値が可視化されていない。


 そして好感度を上げるためには攻略したいキャラとパーティを組んでゲームを進行したり、アイテム類の貢物をしたり、特定のタイミングで発生するコミュニケーションイベントでグッド以上の選択肢を選ぶなどなど……まぁ結構色々と揃っている。

 だが、それはメイン攻略対象のイケメンキャラ達のみの話であり、特殊ルートであるダリアは圧倒的に好感度を上げる機会が少ない。


 何せ、唯一の好感度を上げるポイントが完全ランダムで発生するコミュニケーションイベントしかないからだ。


 付け加えると、このコミュニケーションイベントがクソほど難しい。


 会話の選択肢は五択で、しかも繰り広げられる会話の内容は、噂では数百通り存在し、しかもその内容のほとんどが錬金工房を訪れる際に一言二言、主人公とダリアの間で交わされる会話の内容を細かく覚えていないと答えられないものなのだ。


 ……うん、普通に無理ゲーだね。


 ただでさえ虚無な錬金作業の合間で見ることになる会話なんて、最初は律儀に読んでいても途中からは作業の方に気が向かって大概読み流してしまう。


 現に、当時の俺も件の会話を聞き逃して激しく後悔。ゲームデータを削除して、もう一度最初からやり直しさせられるハメになった。


 しかも、やっとの思いで突入した百合ルートも敵やらイベントダンジョンの難易度が高すぎるし、バッドエンド分岐も豊富過ぎて普通にクリアするのが至難。

 内容も結構鬱気味で、シナリオを読んでいて何度気分が落ち込んだかわからない。


 だからほとんどの一般(ライト)層プレイヤーはこの難易度の高さに何度もメンタルを砕かれる。


 では、なぜ数ある攻略必須コンテンツの中でこのダリアの錬金工房が一番難易度が低いのか?


 その理由は単純明快、()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()からだ。


 ……うん、マジで猛者の『ヘルデイズ』プレイヤーたちの思考はわけわからん。

 そもそも、こんな苦行をずっと続けるのが無理だから、普通の感性を持ったプレイヤーは挫折をするんだ。


 逆に言えば、やり続けているだけでは絶対にクリアできないコンテンツが『ヘルデイズ』には存在することになるのだが──ここでは主に俺の精神衛生上の為に割愛させてもらう。


 もう二度とセーブデータの強制消去なんて思い出したくもない。


 もう二度と選択肢を間違っただけでデータがクラッシュする瞬間なんて思い出したくもない。

 もう二度と──。


 ……さて、ここまで長々とゲーム内での彼女──ダリア・メイクラッドについて話したが、何が言いたいかと言うと、俺はそんなフラグを立てるだけでも困難な彼女の特殊ルートを解放させてしまっていると言う話である。


「なして……?」


 ダリアが徐に俺の修行の場として提案してきた「裏社会の闘技場」と言うのが、彼女の特殊ルートの最初のメインイベントなのだ。


 その導入と言うのが……


「実は、今度闇市(ブラックマーケット)で不定期に開かれる大オークション──〈大博覧会〉に、私がずっと欲しかった錬金素材が出品されるのよ! けどそのオークションって裏の世界でそれなりに幅を利かせてる──所謂「VIP」たちだけが参加できるヤツでね? 何とかして参加できる方法はないかと思っていたの!!」


「はあ……」


「そしたらなんと! 今度、闇市で一番の闘技場で開かれる大会の優勝賞品がそのオークションの特別参加権なんですって! これはもう参加するしかないと思っていたの!!」


 これである。


 補足するとすれば、王都レリニアムの繁華街──その裏では複数の闇組織(マフィア)が黒ずんだ社会を形成しており、そんな裏社会で開かれる闇オークション〈大博覧会〉に「参加したい!」と言うダリアに協力する……そんな筋書きだ。


 この闇オークションと言うのが、このイベントでしか手に入らないレアイテムなどが存在する特殊エリアでもあり、我らがお師匠様が欲しがっている素材と言うのもここでしか手に入らないものである。


 余談であるが、このシナリオで主人公であるヒロインは裏社会をぶっ潰すところまでしてのける。


 ──……いや、なんでこのタイミングでこのシナリオが発生するんだよ?


 本来であればこのシナリオは錬金術コンテンツが解放される時系列的にも、主人公ヒロインが学園に入学してから──細かな時期は不明であるが──発生する。


 そのはずなのに、どうしてまだ本編が始まっていないタイミングで起ころうとしているのか。これが全く分からない。


 そもそも、そもそもだ! 彼女と交流を始めてからまだそれほど長くはないのに、もう特殊シナリオのフラグが立つほど好感度を稼げていたことも驚きである。


 ──言うてまだ一、二カ月とかだろ……。


 俺としては、お嬢様の時と比べればダリアに対しては特になにかをしたつもりはなかった。


 ──てか上り幅が異常なんだよな。


 ゲームでは百合ルート解放後もしばらくはぶっきらぼうで連れない態度だと言うのに、俺の場合は出会ってからたった二日ほどで、完全に化けの皮が剥がれていたような気がする。


 ──……マジで俺の前世での苦行の数々は何だったんだ……。


「──もちろん、出てくれるよねセナ?」


 ちょっと情報量が多すぎるが故に、脳の処理が追い付かないところを眼前のお師匠様は甘えてくるような猫なで声で尋ねてくる。


 果たして、俺はこのシナリオに本当に足を突っ込んでしまっていいのか?

 そんな不安感から、俺は反射的に答えを渋る。


「え、いやぁ……別に俺が出なくても、師匠なら裏闘技場なんて余裕で優勝できるんじゃないかなぁ……みたいな?」


「いやいや、今回開かれる大会、どうやら魔術が禁止の肉弾戦のみみたいでね。流石に天才の私でも武術は苦手なんだ。だからこそのキミなんだよ、セ・ナ」


「……」


 駄目だ。この魔女、何が何でもこちらを逃がす気はないらしい。


 しかも何故か、俺の知る大会ルールとも変わっているし、変な所で辻褄を合わせようとしなくていいんだよ。


 それにだ──


「それにぃ、セナは言ってくれたよね?「お礼がしたい」って、「愛する師匠の為なら俺は何でもします」って」


「いや、お礼は合ってるけどそれ以外は──」


「言ったよね?」


「いやだから──」


「い・っ・た・よ・ね?」


「……ハイ」


 駄目だ。ここで強く否定してはいけないような……そこはかとない身の危険を感じて、俺は反射的に頷いてしまった。


 そんな俺を見て、お師匠様は今日いち嬉しそうに破顔する。


「よかったぁ! 大会が始まるのは三日後よ。それまでは、私と一緒に(・・・・・)楽しく修行をしましょうね?」


「……ァ、ハイ」


「よぉし! それじゃあ、優勝目指して二人で一緒に頑張るわよぉ!」


「ォオ……」


 それにそもそもな話、俺には彼女のお願いを拒否することができない。


 何せ、色んな意味で命の恩人なのだから。少しでも彼女の願いはかなえてあげたい。

 だから、こうなるのは必然なのだ。


『……これって浮気じゃないかな、ご主人殿?』


 やけにこの状況を面白がっているふうな、悪魔の軽薄な声が癪に障った。

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