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スキル『100円ショップ』で異世界暮らし。素材回収でポイント貯めて、美味しいご飯と便利グッズで美少女たちとスローライフを目指します  作者: 月神世一


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EP 7

ゴルド商会の馬車と、100均スリングショット

ポポロ村を出て数日。

太郎とサリーは、王都アルクスへと続く街道をひたすらに歩いていた。

舗装などされていない土の道は、歩き慣れていない太郎の足を容赦なく痛めつける。

「はぁ、はぁ……結構、きついな……」

「太郎さん、大丈夫ですか? 少し休みますか?」

サリーが心配そうに声をかけたその時だった。彼女の視線が街道の向こう側へと釘付けになる。

「あ! あれは……『ゴルド商会』の商隊ですよ!」

視線の先には、立派な紋章を掲げた数台の幌馬車と、武装した護衛たちが列をなして進んでくるのが見えた。

「ゴルド商会?」

「はい! 大陸で一番大きな商会です。彼らと一緒なら、魔物に襲われても安全に街まで行けます! 私、頼んできます!」

「えっ、ちょっとサリー!?」

止める間もなく、サリーは小走りで商隊の先頭へと駆けていった。

護衛の男たちに物怖じせず話しかけ、身振手振りを交えて交渉している。

太郎 (すごいな……。この行動力とコミュ力、僕には無い所だ)

現代日本では「指示待ち人間」なんて言われることもあった太郎にとって、彼女のたくましさは眩しかった。

やがて、サリーが満面の笑みで戻ってきた。

「太郎さん! 一緒に行って良いって!」

「まじで!?」

二人が馬車に近づくと、先頭の馬車から浅黒い肌の強面こわもてな男が顔を出した。商隊長のゴルスだ。

「おぅ、荷馬車に乗っていいぜ。あんちゃん達、村娘と……どこのボンボンか知らねぇが、見ねぇ服だな」

ゴルスは太郎のパーカーを値踏みするように見たが、すぐに興味を失ったように鼻を鳴らした。

「ありがとうございます。世話になります、ゴルスさん」

「おう。ただし、何かあったら自分の身は自分で守れよ」

太郎たちは最後尾の荷馬車に揺られることになった。

わらが敷かれた荷台は、歩くよりも数倍快適だった。

「ふぅ……助かったぁ」

「よかったですね、太郎さん。ゴルド商会の護衛なら腕利きばかりですから、これで安心で――」

サリーが言いかけた、その時だった。

ヒュンッ! ドスッ!

風を切り裂く音と共に、御者台の近くに矢が突き刺さる。

「敵襲ぅぅぅ!!」

護衛の叫び声が響き渡る。

街道の脇の茂みから、汚れた緑色の肌をした小鬼の集団――ゴブリンがわらわらと飛び出してきた。その数、およそ20匹。

「ゴブリンが出たぞ! 隊列を組め! 荷を守れ!」

ゴルスの怒号が飛ぶ。

護衛の傭兵たちが剣を抜き、ゴブリンたちと激突する。

金属音と、魔物の奇声が入り混じる。

「ギギャァァァ!」

「ウラァァッ!」

太郎 「こ、これが……本当の戦闘……」

テレビゲームや映画とは違う。生々しい殺意と、血の匂い。

太郎の足がすくむ。恐怖で喉がカラカラになった。

隣を見ると、サリーが青ざめた顔で杖を握りしめていた。

彼女の手はカタカタと震えている。

(……サリーが震えてる。彼女は女の子だぞ。男の僕が怖がってどうする!)

太郎は、震える自分の頬を両手で強く叩いた。

パァァン!!

太郎 「しっかりしろ! 佐藤太郎! 役に立て!」

剣は使えない。魔法も使えない。

でも、あの女神は言った。『使い方次第』だと!

太郎 「ウィンドウ・オープン! 『玩具・ホビー』カテゴリ!」

緊迫した戦場には不似合いな電子音が太郎の脳内に響く。

彼は迷わず、子供の頃によく遊んだ「アレ」を選択した。

【 競技用スリングショット(ゴム製):100P 】

「出ろぉぉぉ!!」

太郎の手に、Y字型のプラスチック製グリップと、強力なゴムがついた道具が現れた。

いわゆるパチンコだ。

太郎は足元に転がっていた手頃な石を拾い上げ、ゴムにセットする。

狙うは、ゴルスと鍔迫り合いをしているリーダー格のゴブリン。

太郎 「当たれぇぇぇッ!!」

ギリギリと限界まで引き絞り、放つ。

バシュッ!

石は唸りを上げて飛び、ゴブリンの顔面――その大きな鼻を直撃した。

「ギャッ!? ギャウッ!?」

予想外の方向からの衝撃と激痛に、ゴブリンが怯み、両手で鼻を押さえる。

その一瞬の隙を、歴戦のゴルスは見逃さなかった。

「よおし! 今だ! 押し返せ!」

ゴルスの大剣が一閃し、リーダー格のゴブリンを吹き飛ばす。

司令塔を失ったゴブリンたちは統率を失い、傭兵たちによって次々と討ち取られていった。

戦闘終了後。

「ふぅ……」

太郎はその場にへたり込んだ。心臓が早鐘を打っている。

「や、やったぁ……」

「太郎さん、凄い! あの距離から当てるなんて!」

サリーが目を輝かせて駆け寄ってくる。

そして、血振るいを終えたゴルスが、重い足取りで太郎の前に立った。

「やるじゃねぇか、坊主。あのタイミングでの援護、助かったぜ」

「い、いやぁ、まぐれです……」

ゴルスは太郎の手にあるプラスチック製のスリングショットをじろりと見た。

「……初めて見る武器だが、妙な素材だな。ドワーフの新作か? まぁいい、腕は確かなようだ」

ゴルスはニカッと笑って背中を叩いてくれたが、その目は鋭く光っていた。

太郎 (……ありがとうございます)

笑顔で返しつつ、太郎の背中には冷や汗が流れていた。

太郎 (もしかして、不味い物を見られた? この世界の常識にない素材……僕のスキルって、商人の前で使うのはヤバイのか?)

『100円ショップ』の商品は、プラスチックやビニールなど、この世界には存在しない素材オーバーテクノロジーの塊だ。

目利きの商人に目をつけられることの危険性を、経済学部生の太郎は肌で感じていた。

(これからは、使う場所をもっと慎重に選ばないと……)

勝利の安堵と共に、新たな悩みを抱えながら、馬車は再びアルクスへと動き出した。

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