EP 6
旅立ちの朝と、少女の決意
翌朝。
太郎は部屋で、ひとり黙々と作業をしていた。
ウィンドウを開き、『バッグ・トラベル用品』のカテゴリから必要なものを選んでいく。
【 ポリエステル製リュックサック(黒):300P 】
【 アルミ保温シート:100P 】
【 携帯用救急セット:100P 】
「よし……これくらいあれば、とりあえずは大丈夫か」
リュックに缶詰や水を詰め込んでいると、背後で扉が開いた。
「太郎さん? 何をしてるんですか?」
朝食の呼び出しに来たサリーが、荷造りされたリュックを見て目を丸くした。
太郎は手を止め、彼女の方に向き直った。
「うん。……僕は、村を出ようと思って」
「えっ……?」
サリーが持っていたお盆を取り落としそうになる。
「そんな!? ずっと村に居て良いんですよ? お父さんだって許してくれたし、村のみんなだって太郎さんのこと……!」
「うん、分かってる。みんな温かいし、ここは本当に良い村だ。でも……」
太郎は言葉を選びながら、自分の想いを伝えた。
「ありがたいけど、僕はこれ以上、君たちに甘えているわけにはいかない。それに……僕は自分のこのスキルで、世界を見てみたいんだ。僕の『100円ショップ』だって、外の世界ならもっと何か役に立つかも知れない」
「危険です!」
サリーが声を張り上げた。
「太郎さんは戦う力がないじゃないですか! 森でウルフに襲われた時だって、あんなに震えて……外にはもっと怖い魔物がいるんですよ!?」
「分かってる。でも、決めたんだ」
太郎の瞳は揺るがなかった。平和主義で穏やかな彼だが、一度決めたら譲らない芯の強さがそこにはあった。
サリーは唇を噛み締め、俯いた。そして――。
「……分かりました」
「分かってくれたか、サリ……」
「私も付いて行きます!」
「え!?」
予想外の言葉に、太郎は素っ頓狂な声を上げた。
「だ、駄目だよ! 君を巻き込むわけにはいかない! 危険だって言ったのはサリーじゃないか!」
「だから……だから! 一緒に行くって言ってるんじゃないですか!」
サリーが顔を上げると、その瞳には涙が溜まっていた。
「太郎さんは放っておいたらすぐ死んじゃいそうだし、世間知らずだし、騙されそうだし……! 私がいないと駄目なんです!」
「いや、でも……」
「太郎さんの馬鹿っ! 分からず屋!」
サリーは涙を拭いながら、真っ直ぐに太郎を睨みつけた。そこには、ただの親切心以上の熱い感情が宿っていた。
その剣幕に、太郎はたじろぎ、そして小さく苦笑した。
(……敵わないな)
彼女がいれば、これほど心強いことはない。それに何より、彼女と離れるのが寂しいと感じていたのは、太郎自身でもあった。
「……サリー、ありがとう。うん、一緒に行こう」
「……はい! 太郎さん!」
サリーはようやく、雨上がりのような眩しい笑顔を見せた。
旅の支度を整えた二人は、村長宅のリビングへと向かった。
サンガは腕組みをして、仁王立ちで二人を待っていた。どうやら、サリーの様子から全てを察していたようだ。
「そうか……行くか、太郎さんや」
「はい。サンガさん、本当にお世話になりました。命を助けていただいたこと、一生忘れません」
太郎が深く頭を下げると、サンガは寂しそうに、しかし満足そうに頷いた。
「なに、礼には及ばん。お主が村のガラクタを片付けてくれたおかげで、倉庫もスッキリしたしな。……サリーを、頼んだぞ」
「お父さん、行ってくるわね。たまには手紙送るから」
サリーもまた、覚悟を決めた顔で父親を見上げた。
サンガは大きな手で、娘の頭をワシワシと撫でた。
「ああ。気をつけてな。お前の選んだ道だ、好きにやってこい! ……だが、危なくなったらすぐに帰ってくるんだぞ!」
「もう、心配性なんだから」
村の入り口。
見送りに来てくれた村人たちに手を振り、二人は歩き出した。
目指すは、この大陸でも有数の大国「デルン王国」。
その中心に位置する巨大都市――中央都市アルクス。
冒険者ギルドの本部や大きな市場があり、多くの人々が集まる場所だ。そこなら、太郎のスキルを活かす道も見つかるかもしれない。
「行きましょう、太郎さん!」
「ああ!」
リュックを背負ったコンビニ店員と、杖を持った村娘。
凸凹コンビの冒険が、今ここに始まった。




