EP 5
ゴミの価値と、太郎の決意
ポポロ村での生活が始まってから、数週間が経過した。
平和主義の太郎だが、この世界で生きていくための最低限の護身術として、村の自警団のおじさんたちに弓の扱いを教わっていた。
村人A 「ほれ太郎、肘が下がってるぞ! 腰を入れて!」
太郎 「は、はいっ! ……エイッ!」
ヒュンッ……ポスッ。
太郎の放った矢は、的の端っこに力なく刺さった。
太郎 「うーん、やっぱり難しいな……。剣よりはマシだけど」
運動神経が悪いわけではないが、戦闘センスという意味では、やはり太郎は現代っ子だった。
それでも、真面目に練習に参加する太郎の姿は、村人たちに好意的に受け入れられていた。
練習の休憩中、村人たちが何やら荷物を抱えて集まってきた。
村人B 「なぁ太郎ちゃん。あんたのあの不思議な『箱』、壊れた農具とかも引き取ってくれるって本当か?」
太郎 「え? あ、はい。『素材回収ボックス』に入れれば、消えちゃいますけど……」
太郎がウィンドウを開き、回収ボックスを表示させる。
村人たちは、錆びたクワ、割れた壺、ボロボロになった服などを次々と差し出した。
太郎 「ちょ、ちょっと待ってください! こんなに貰っても悪いですよ。これ、何かに使えるんじゃ……」
村人C 「いやあ、捨てる場所が無くてな。燃えないゴミもあるし、埋めるのも一苦労なんだよ。引き取ってくれるなら、こっちが助かるよ」
村人たちは笑顔でゴミを押し付けていく。
太郎は言われるがままに、それらをボックスに投入した。
【 錆びた鉄くず:回収 → 10P 】
【 ボロ布:回収 → 5P 】
【 割れた陶器:回収 → 2P 】
チャリン、チャリンと、小気味よい電子音と共にポイントが加算されていく。
太郎 「じゃあ、頂きます……」
(なるほど……。この世界にはゴミ収集車がないから、不用品の処分は重労働なんだ。僕にとってはポイント稼ぎになるし、村人にとってはゴミ処理になる。これ、Win-Winじゃないか……?)
「ゴミ捨て場」としての意外な需要に、太郎はスキルの新たな活用法を見出した。
気がつけば、初期ボーナスの1000Pから減っていた残高は、日々の「ゴミ回収」のおかげで 3000P を超えようとしていた。
夕暮れ時、村に鐘の音が響く。
サリー 「太郎さん、お疲れ様です。帰りましょう」
練習を見に来ていたサリーが、タオルを差し出しながら声をかけてきた。
太郎 「あぁ、ありがとう。サリー」
二人は並んで、夕焼けに染まる村道を歩き始めた。
家々からは夕食の支度をする煙が立ち上り、子供たちの笑い声が聞こえる。
それはとても平和で、幸せな光景だった。
サリー 「ふふっ、太郎さん、すっかり村に馴染みましたね。お父さんも『あいつは筋がいい』って褒めてましたよ」
太郎 「いやぁ、弓は全然当たらないけどね」
サリー 「そんなことないですよ。一生懸命なところが素敵です」
サリーは屈託のない笑顔でそう言った。
彼女の優しさは、異世界に来て不安だった太郎の心をどれだけ救ってくれたか分からない。衣食住を提供してもらい、こうして気にかけてもらっている。
しかし、太郎の胸の中には、温かさと同時に小さな棘のような感情が芽生え始めていた。
太郎 (……だけど、いつまでもここに居るわけには行かないな)
横を歩くサリーの横顔を見つめる。
太郎 (このままじゃ、僕はただの居候だ。サリーやサンガさんの好意に甘えっぱなしで……20歳の男がそれでいいのか?)
経済学部で学んだ彼だからこそ、尚更思う。「対価」を払わずに享受する生活は、いつか破綻すると。
それに、あの女神が言っていた「勇者や英雄になれる可能性」という言葉も、少しだけ引っかかっていた。
太郎 (何か……僕にしかできないことで、ちゃんと自立しないと)
「どうしたんですか? 太郎さん」
黙り込んだ太郎を心配して、サリーが顔を覗き込む。
太郎は努めて明るく振る舞い、首を横に振った。
太郎 「ううん、なんでもないよ。今日の夕飯、何か一品作らせてよ。いい食材(缶詰)が手に入りそうだからさ」
サリー 「本当ですか? やったぁ! 太郎さんの料理、大好き!」
無邪気に喜ぶサリーを見ながら、太郎の中で一つの決意が固まりつつあった。
ポポロ村を出て、自分の力で稼ぐ方法を探す時が近づいているのかもしれない、と。




