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アパート二階にトラックが降ってきて転生!ハズレスキル『100円ショップ』の日用品チートで建国王へ成り上がる   作者: 月神世一


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EP 8

【ヒーロー、精神科へ行く】俺様系パーソナリティ障害とフリスク

「……というわけで、こいつを強制入院カウンセリングさせることにした。サリー、転移ゲートを開け。行き先は太郎国の『タローソン併設・メンタルクリニック』だ」

ムーンキャピタルの広場で、麻袋を被ってプルプルと震えている帝国最強の魔剣士・ヴァルター公爵の首根っこを掴み、太郎が容赦なく指示を出した。

「は、はいっ! すぐに開きますわ!」

サリーが杖を振るうと、空間が歪み、見慣れたタローソンの看板と、その隣に新設されたプレハブ小屋クリニックへ通じるゲートが出現した。

「ま、待て! 俺は公爵だぞ! 帝国北部を治める……っ、なぜ俺が、そんな怪しげな施設に連行されねばならないのだ!」

ヴァルターが涙目で抵抗するが、太郎の万力のような握力と、背後で腕をポキポキ鳴らしているライザとフレアの無言の圧力の前に、ズルズルと引きずられていく。

「公爵だろうが魔王だろうが関係ない。お前のように『初対面の女に距離5センチまで近づいてディープキスをかます』奴は、社会生活において重大なエラーを引き起こしているんだ。エミリアへの異常な執着も、全てはお前の『コミュニケーション能力の欠如』から来ている」

太郎は冷酷に言い放ち、ヴァルターをゲートの向こう側へと放り投げた。

「た、太郎さん。私も同行したほうがいいでしょうか……?」

エミリアが、元・被害者としておずおずと尋ねる。

「おう、お前も来い。ストーカー男の治療には、被害者の『現実的な視点』が必要だからな。あいつの幻想を徹底的にぶち壊してやる」

***

太郎国、タローソン併設・メンタルクリニック(※プレハブ小屋)。

「さて、診察を始めるぞ」

太郎はジャージの上に白衣(100均で買ったペラペラのもの)を羽織り、パイプ椅子にドカッと座ってカルテ用のクリップボードを構えた。

「ちょっと待て。貴様はコンビニの店長で、国王と言っていなかったか!? なぜ医者のフリをしている!」

パイプ椅子に縛り付けられたヴァルターが抗議する。

「うるさい。俺は国王にして店長、そして太郎国が誇る『自称・産業医』だ。お前みたいな重度の精神的バグを抱えたファンタジー住人の治療は、俺みたいな現代日本の常識人にしかできないんだよ」

太郎がボールペンをカチカチと鳴らし、ヴァルターを見据えた。

「まずは問診だ。氏名、ヴァルター・フォン・アーデルハイト。年齢28歳。職業、公爵。……で、現在の主な症状だが」

太郎はエミリアの方を向き、証言を求めた。

「エミリア、こいつの異常行動をリストアップしてくれ」

「は、はい。ええと……」

エミリアは前世の社畜時代に培ったプレゼン能力を発揮し、淡々と事実を並べ立てた。

「まず、初対面で名前も知らないのに『お前は面白い女だ』と言ってきます。次に、パーソナルスペースを完全に無視して半径5センチ以内に侵入してきます。そして、同意のない顎クイからの強制的なキス。さらに、私が仕事をしようとすると『お前は俺の側で笑っていればいい』と言って部屋に監禁しようとします。……以上です」

「……」

ヴァルターが、エミリアの事務的な報告を聞いて、麻袋の中で顔を真っ赤にしてうつむいた。

女性向けテンプレ作品の『胸キュン行動』が、第三者の視点で冷静に羅列されると、ただの『連続強制わいせつ及び監禁未遂事件の調書』にしか聞こえないのだ。

「なるほど、完璧な証言だ。これで診断が確定した」

太郎はカルテにスラスラと病名を書き込んだ。

「ヴァルター。お前の病名は『重度の中二病性・俺様系パーソナリティ障害』、および『ソーシャルディスタンス認識不全』だ」

「なっ……! お、俺様系、ぱーそなりてぃ……?」

聞き慣れない医学(?)用語に、ヴァルターが目を白黒させる。

「要するにだ」

太郎が白衣のポケットに手を突っ込み、深くため息をついた。

「お前は『エミリア以外』の人間と、まともに日常会話ができないんだよ。お前、さっきから俺たちに対して『黙れ』とか『不敬だ』とか『殺す』とか、マウントを取る言葉しか発してないだろ? それは、お前が『普通の人間関係の築き方』を知らないからだ。……だから、自分より弱い(と思い込んでいる)女に対して、異常な束縛と強引な行動でしか愛情を表現できないんだよ」

「――――ッ!!」

ヴァルターの胸に、太郎の心理分析がグサリと突き刺さった。

「帝国最強とか、氷血公爵とか持て囃されて、周りの人間が全員お前にペコペコしてきた弊害だな。お前はただ、対等な人間と『おしゃべり』をするのが怖くて、俺様キャラという分厚い鎧を着て逃げているだけの、哀れなコミュ障のおっさんなんだよ!」

「あ……あぁ……っ」

ヴァルターが、顔を両手で覆い、ガクガクと震え始めた。

彼のアイデンティティであった『冷徹で強引なヒーロー』という設定が、太郎の現代的かつ論理的なカウンセリングによって、完全に解体(メッタ刺し)にされた瞬間であった。

「……なんだか、本当に可哀想になってきましたわ。前世の会社にいた、部下に威張ることでしか自己保身できなかった万年係長と完全に同じメンタルモデルです……」

エミリアが、完全に冷めた(同情の)目でヴァルターを見つめる。

もはや彼女の瞳に、公爵に対するトキメキや恐怖は一切なく、あるのは『哀れなコミュ障のおじさんを見る目』だけであった。

「よし。病状が自覚できたところで、リハビリ(認知行動療法)を開始するぞ」

太郎がパイプ椅子から立ち上がり、ヴァルターの縄を解いた。

「いいか。今日からお前は、この太郎国で『対等な人間とのコミュニケーション』の練習をするんだ。まずは基本中の基本、『挨拶と天気の話』からだ。エミリアに向かって、普通の世間話をしてみろ。顎クイも、俺の女宣言も禁止だ」

「……ふ、ふざけるな。俺がなぜ、そんな庶民のような真似を……」

ヴァルターが最後のプライドを振り絞って抵抗する。

太郎がスッと右手をかざした。

「いでよ、100円ショップ! 特大ハリセン!!」

スパーーーンッ!!

「あべっ!?」

ヴァルターの頭に、容赦のないツッコミが炸裂する。

「やれと言ったらやれ! できないなら、一生麻袋を被って生きろ!」

太郎の鬼畜ドクターぶりに、ヴァルターは涙目で頷くしかなかった。

「……わ、わかった。やる……やればいいのだろう……」

ヴァルターは深呼吸をし、エミリアの方を向いた。

距離は健全な2メートルを保っている。

「……え、エミリア。き、今日は……い、いい天気だな……」

ヴァルターの声が、まるで初めておつかいに出された5歳児のように裏返っている。

額からは大量の冷や汗が滝のように流れ落ちていた。

「はい、ヴァルター様。とてもいいお天気ですね」

エミリアが、模範的な社会人のスマイルで返す。

「そ、そうだな。……風も、心地よい……。お前の、その……ドレスも……」

ヴァルターが、ガチガチに緊張しながら言葉を紡ぐ。

(おおっ、普通に会話できてるじゃないか!)とエミリアが感動しかけた、その時。

「お前のそのドレスも……俺の城の地下室によく似合う。やはりお前は俺の……」

スパーーーーーーーンッッ!!!

「だぶっ!?」

太郎の特大ハリセンが、再びヴァルターの脳天をクリーンヒットした。

「すぐ監禁に繋げるな! 天気の話からどうやったら地下室に繋がるんだよ! お前の脳内変換回路はどんだけ猟奇的に歪んでるんだ!!」

「ゆ、許してくれ……! 俺には、これ以外の会話の引き出しが……ないのだ……っ!」

帝国最強の魔剣士が、床に這いつくばって号泣し始めた。

これまでの人生を剣と権力に全振りしてきた男にとって、「普通の世間話」は、ドラゴン討伐よりも遥かに高難易度のクエストだったのである。

「……はぁ。重症だな。こりゃ、一朝一夕で治るもんじゃない」

太郎がハリセンを下ろし、白衣のポケットから『ある薬』を取り出した。

「仕方ない。お前にはこの『心を落ち着かせる魔法の特効薬トランキライザー』を処方してやる」

太郎がヴァルターの手に乗せたのは、100均で売っているミントタブレット(ただのフリスク)であった。

「ま、魔法の特効薬……?」

「そうだ。今後、お前が『俺のものになれ』とか『監禁してやる』とか、中二病全開のセリフを言いそうになったら、必ずこのフリスクを三粒舐めろ。そして、口の中がスースーしている間は、絶対に喋るな。相手の話を黙って聞け」

太郎が極めて実践的な(プラシーボ効果を狙った)アドバイスを送る。

「……薬を舐めて、黙って聞く……。わ、わかった……俺は、治るのだろうか……?」

ヴァルターが、ミントタブレットのケースを神棚の宝物のように両手で握りしめ、縋るような目で太郎を見た。

「お前次第だ。だが、自分が『コミュ障』だと認めた時点で、治療は半分終わったようなもんだ。……少しずつ、まともな人間になっていけよ」

太郎が、少しだけ優しい声で励ました。

「……あぁ……っ。佐藤、太郎……お前は、俺の恩人だ……っ」

ヴァルターが、ボロボロと涙を流しながら太郎に頭を下げる。

女性向けテンプレの氷血公爵は、ここに完全に消滅し、ただの『人間関係に悩む不器用な青年(更生中)』として、新たな一歩を踏み出したのであった。

「よし、これで一件落着だな! エミリア、これでストーカーの恐怖からは解放されたぞ」

太郎が白衣を脱ぎ捨てて笑う。

「はいっ! 太郎さん、本当にありがとうございます! 私、ムーンキャピタルに戻って、自分の足で仕事を探して……自立して生きていきますわ!」

エミリアが、憑き物が落ちたような晴れやかな笑顔で答えた。

しかし。

彼らがムーンキャピタルの問題(テンプレの狂気)を解決し、平和な空気に包まれていた、まさにその時。

『ゴゴゴゴゴゴゴゴォォォォォォッ!!!』

太郎国の空が、突如として禍々しい赤紫色に染まり始めた。

そして、天を劈くような絶叫が、タローソンの上空から響き渡ったのだ。

「あんたらぁぁぁぁっ!! 私の治める街で、一体何をやってんのよぉぉぉっ!!!」

その声の主は、ハイブランドのドレスを振り乱し、ギラギラと輝く光輪を怒りで真っ赤に点滅させた月の女神――カグヤであった。

彼女が心血を注いで作り上げた『完璧な女性向けテンプレ世界』が、太郎のコンプライアンス指導によって木っ端微塵に破壊されたことに気づき、ついに創造神自らがブチギレて降臨したのである。

次回、キレたカグヤと、それを煽るルチアナの泥沼の戦いが幕を開ける!

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