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アパート二階にトラックが降ってきて転生!ハズレスキル『100円ショップ』の日用品チートで建国王へ成り上がる   作者: 月神世一


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EP 7

【公爵の皮を被ったただの変質者】倫理と飼い主責任の追及

ムーンキャピタルの大理石の路上で、元・悪役令嬢たちが泥だらけになりながらパンの耳を売り捌き、自立の喜びを噛み締めていた頃。

太郎、エミリア、そして太郎国の嫁たちは、広場の隅のベンチでひと時の休息を取っていた。

「いやぁ、労働って本当に素晴らしいですね! パンの耳が金貨に変わるなんて、前世のブラック企業では考えられない利益率ですわ!」

エミリアが、すっかり毒の抜けた爽やかな笑顔で、リーザから買った雑草サラダ(無農薬)をかじっている。

「おう。やっぱり自分の頭で考えて、自分の足で立つのが一番だ。お花畑のテンプレなんかに流されちゃダメだぞ」

太郎が微糖の缶コーヒーを啜りながら頷いた、まさにその時である。

「……見つけたぞ。俺の……エミリア……」

どこからともなく、極寒の冷気と、ドス黒い粘着質な声が忍び寄ってきた。

「ヒッ!?」

エミリアがビクッと肩を跳ねさせ、持っていた雑草サラダを取り落とす。

太郎が振り返ると、そこには信じられない光景があった。

先ほど、ライザとフレアによって漆黒の軍服を完全に焼き尽くされ、パンツ一丁の姿で気絶していたはずの『氷血公爵』ヴァルター・フォン・アーデルハイト。

彼が、リーザがその辺に投げ捨てていた『パンの耳が入っていた巨大な麻袋』に首と腕を通すための穴を開け、それを貫頭衣のようにすっぽりと被った姿で立っていたのだ。

帝国最強の魔剣士が、麻袋を被ってプルプルと震えている。その姿は悲壮感に満ちていたが、彼の青い瞳だけは、完全に据わったストーカーのそれであった。

「……エミリア。なぜ俺から逃げる。お前は俺の庇護下で、ただ微笑んでいればいいはずだ……」

ヴァルターは足音一つ立てずにスススッと滑るように移動し、エミリアの背後にピタリと張り付いた。

その物理的距離、わずか5センチ。

エミリアのうなじに、ヴァルターの冷たい吐息がかかるほどの異常な近さである。

「きゃあああっ! ち、近いですわ! 離れてください!」

エミリアがパニックになり、太郎の背中にダイブして隠れる。

「おいお前! 学習能力ゼロか!」

太郎がベンチから立ち上がり、ヴァルターとエミリアの間に強引に割り込んだ。

「さっきうちの嫁たちにフルボッコにされたの忘れたのか? それに、初対面の女に距離5センチまで近づくとか、ソーシャルディスタンスの概念が完全にバグってるだろ! 痴漢の距離感だぞ!」

太郎の怒号に対し、ヴァルターは麻袋の中でギリリッと歯を食いしばり、狂気に満ちた目を太郎に向けた。

「……黙れ。俺の女だ。俺がどこから見つめようと、どう愛でようと俺の勝手だ。それに……」

ヴァルターの瞳の奥で、何かがプツリと切れたような鈍い光が瞬いた。

「俺の所有物を奪い、俺の絶対的な力を否定し、俺のプライドを粉砕した貴様……佐藤太郎と言ったな。……俺の思い通りにならない存在など、久しく見ていなかった」

ヴァルターが、太郎のジャージの胸ぐらに手を伸ばそうとする。

「貴様も……俺が執着するに値する。エミリアと共に、貴様も俺の城の地下室に氷漬けにして、永遠に飾ってやろう……」

「ただの猟奇的な変質者じゃねーか!!」

太郎の強烈なツッコミ(物理的な平手打ち)が、ヴァルターの頬にスパーン!と炸裂した。

女性向けテンプレの『強引で俺様系な公爵』のメッキが完全に剥がれ落ち、そこには『自分の思い通りにならない相手を監禁しようとする、極めて危険なサイコパス』の素顔が露わになっていた。

「いいか、この麻袋変態野郎! 人の尊厳を完全に無視して『飾る』だの『所有物』だの、お前は公爵の皮を被ったただの犯罪者だ! 刑法における略取・誘拐、および監禁未遂の現行犯だぞ!」

太郎が、元・現代日本人の常識とコンプライアンスを武器に、ヴァルターを徹底的に追い詰め始める。

「そもそもだ! 俺を飾る前に、お前の『ペットの管理責任』をどうにかしろ!」

「……ペット、だと?」

頬を叩かれて呆然としていたヴァルターが、怪訝な顔をする。

「さっきエミリアに張り付いてた『コン太』っていう白いモフモフの聖獣のことだ! あれ、お前がエミリアに与えた護衛兼ペットなんだろ?」

太郎が、広場の隅で気絶したまま放置されているコン太をビシィッと指差した。

「あの獣、俺に敵意を向けて巨大な火柱を吹きやがったぞ! 人間様(しかも無害な一般市民)に危害を加えるなんて、完全に狂犬病だ! しかもあいつ、エミリアの胸に顔を埋めて腰を振ってたからな。中身は絶対におっさんだ!」

「なっ……聖獣コン太が……?」

ヴァルターが初めて動揺を見せた。

「ペットが他人に危害を加えた場合、民法第718条『動物の占有者の責任』により、飼い主であるお前には厳格な損害賠償責任が発生するんだよ!!」

太郎の怒涛の法律用語ラッシュが火を噴く。

「リードもつけずにあんな凶暴な火を吹くペットを街中で放し飼いにした挙句、人間に噛み付かせようとする。……そんな危機管理能力とコンプライアンス意識がゼロの奴に、国(帝国北部)の統治ができるわけねぇだろ! 領民が明日にも暴動を起こすぞ!」

「……っ! 聖獣の行動は、神の意志であり……俺の責任では……」

ヴァルターが苦しい言い訳を絞り出そうとする。

「神の意志だろうがおっさんの意志だろうが、お前が与えた時点で管理下にあるんだからお前の責任だ! 飼い主としての義務も果たせない男が、人間の女を囲って養えると思うな! 生活費はどうする! 保険は! 将来の年金は! お前みたいな衝動的なストーカー男に、エミリアの人生のライフプランが描けるのか!!」

太郎の「生活と責任」を問うリアルすぎる説教に、ヴァルターの脳内処理能力は完全に限界を超えた。

これまで、剣の腕と爵位だけで全てを押し通してきた彼にとって、「民法上の賠償責任」や「年金とライフプラン」という概念は、未知の言語による精神攻撃に等しかったのだ。

「俺は……俺はただ、彼女を愛して……っ」

ヴァルターが頭を抱え、麻袋の中でうずくまる。

「愛じゃねぇ! 相手の気持ちを一切考えず、自分の欲求だけを押し付けるのは『執着』であり『自己愛』だ! 相手が何を嫌がり、何を望んでいるのか、対話すらしようとしない。……だからお前は『コミュ障』なんだよ!!」

ついに、太郎の口から決定的な言葉が放たれた。

「こ、コミュ障……っ!?」

ヴァルターが、雷に打たれたように顔を上げる。

「そうだ! お前、エミリアに顎クイしてキスして『お前は俺のものだ』って言っただけで、普通の世間話の一つもしてないだろ! 趣味の話は? 好きな食べ物は? 休日の過ごし方は? そういう段階を踏まずにいきなり距離を詰めるから、変質者扱いされるんだよ!」

太郎は大きく息を吸い込み、トドメの一撃を放った。

「お前は『氷血公爵』なんて大層な二つ名で呼ばれて、周りから恐れられてきたせいで、人間とまともにコミュニケーションを取る訓練をしてこなかったんだ。……要するに、ただの『友達がいない寂しいおっさん』なんだよ」

「――――ッ!!」

ヴァルターの心臓に、見えない巨大な杭が打ち込まれた。

彼のアイデンティティであった『冷徹な俺様系のヒーロー』という鎧が完全に剥がれ落ち、ただの『コミュニケーション能力が欠如した悲しい男』という現実が、大理石の広場に晒されたのである。

「あ、あぁ……俺は、俺は……どうすれば……」

ヴァルターが、麻袋を被ったまま、ついにその場に膝をついて泣き崩れた。

「た、太郎さん。なんだか、少し可哀想になってきましたわ……。前世で、コミュ障をこじらせて新入社員にパワハラしてた万年係長を思い出します」

エミリアが、少しだけ同情のこもった目を向ける。

「同情するな。こいつの病根は深い。……仕方ない、こうなったら荒療治だ」

太郎が首のタオルで汗を拭きながら、深くため息をついた。

次回、太郎はこのどうしようもないコミュ障公爵を更生させるため、ついに「現代の医療」をファンタジー世界に持ち込む。氷血公爵の、精神科クリニックへの強制連行が始まる。

読んでいただきありがとうございます。

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