EP 8
【借金取り襲来】ゴルド商会と太郎の「100均論破」
「……はぁ、はぁ。お、終わりましたわ……。私の、神としての尊厳が、完全に粉砕されましたわ……」
「……もう何も考えたくない。月人君……助けて……」
タローソンのバックヤードの鉄扉が開き、中から二つの『燃え尽きた灰』のような物体が這い出てきた。
ヴァルキュリアによる恐怖の『5時間正座&壁ドン説教』を耐え抜いた、ルチアナとカグヤである。
二人の女神の顔からは一切の生気が失われ、プルプルと生まれたての子鹿のように足が震えていた。
「お疲れ。とりあえず休憩していいぞ。廃棄のちくわでも食ってろ」
レジを打ち終えた太郎が、労い(?)の言葉をかける。
カグヤがフラフラとイートインスペースの椅子に倒れ込もうとした、まさにその時であった。
『キキィィィィッ!! ドスゥゥンッ!!』
タローソンの駐車場に、下品な装飾が施された黒塗りの巨大な魔導装甲車が三台、乱暴に乗り上げてきた。
「なんだなんだ!? また変な客ですか!?」
品出しをしていたリーザが身構える。
バンッ!と車のドアが開き、中から屈強なオークやトロールの用心棒たちがゾロゾロと降りてくる。
そして、その中央から、ギラギラとした派手なスーツに身を包んだ蛇目族の男――大陸屈指の悪徳商人であるゴルド商会のオロチ会長が、葉巻を吹かしながら姿を現した。
「おうおうおう! 邪魔するだぎゃあ! この店に、ウチから逃げ回っとる『借金まみれの女神』が隠れとるって聞いたんだがよぉ!」
オロチがズカズカとタローソンに入店し、ドスの効いた声で怒鳴る。
「ヒッ……!? オ、オロチ……!?」
カグヤの顔から、先ほどとは別のベクトルで血の気が引いた。
「ガハハハ! おったおった! 月界の女神、カグヤの姉御ォ! ……って、なんちゅう格好しとるんだぎゃ。シャネリアのジャケットの上に、コンビニのエプロンたぁ、傑作だわ!」
オロチがカグヤの姿を見て、下品な笑い声を上げる。
「な、何しに来ましたの! 天界の監査局には、ちゃんと少しずつ返すって……」
「監査局たぁ関係にゃあ! ウチはウチのルールで取り立てさせてもらうだぎゃ!」
オロチは懐から、分厚い羊皮紙の束を取り出し、バサァッ!とカグヤの目の前に突きつけた。
「姉御がウチの系列の質屋で借りた金、レンタカーの延滞金、夜の街でのツケ……それに『トイチ(十日で一割)』の複利が乗っかって、現在の借金総額は……ジャスト『金貨100万枚(100億円)』だぎゃあ!」
「ひゃ、100おくえんっ!?」
カグヤが悲鳴を上げてその場にへたり込む。
元々の借金は数百万円程度だったはずが、悪徳商会特有の法外な利息と延滞金により、雪だるま式に天文学的な数字へと膨れ上がっていたのだ。
「さぁ、耳を揃えて払ってもらうだぎゃ。払えねぇってんなら……その頭に乗っかってる『ダイヤの光輪』をひっぺがして売り飛ばすか、ウチの経営してる地下労働施設で、マグロ漁船(ファンタジー版)の船漕ぎとして100年ほど働いてもらうぎゃあ!」
屈強なオークの用心棒たちが、ニヤニヤと笑いながらカグヤを取り囲む。
「い、いやぁぁっ! 助けて! ルチアナちゃん、助けて!」
カグヤが隣のルチアナにすがりつくが、ルチアナは「ご、ごめん! 私もクレカのリボ払いで首が回らないの!」と全力で目を逸らした。
(お、終わりましたわ……。私の華やかな港区女子ライフが、マグロ漁船で……っ)
カグヤが絶望の涙を流し、オロチの手が彼女の光輪に伸びようとした、その瞬間である。
「……おいおい。ちょっと待てよ」
レジカウンターの奥から、静かな、しかし確かな威圧感を伴った声が響いた。
首にタオルを巻いた、タローソン店長・佐藤太郎である。
「なんだぁ、店長? 俺たちはゴルド商会だぎゃ。時給800円の貧乏コンビニ店長はすっこんでろ」
オロチが鼻で笑う。
太郎はレジカウンターから身を乗り出し、微糖の缶コーヒーをコンッと置いて言った。
「あのさぁ。そのポンコツ女神は、今、ウチの店の大事な『従業員』なんだわ。営業時間中にうちの従業員を脅して連れ去ろうとするなんて、随分と舐めた真似をしてくれるじゃないか」
「ガハハハ! 従業員だぁ? 笑わせるなだぎゃ! こちとら金貨100万枚の『借用書』という絶対的な証拠があるんだ! ファンタジー世界じゃ、借用書は魔法契約と同じ! 誰にも文句は言わせねぇ!」
オロチが借用書をビラビラと見せつける。
「なるほど、借用書ね。ちょっと見せてみろ」
太郎はオロチから借用書をスッと抜き取ると、その内容をパラパラと確認した。
「……トイチの複利。さらに延滞損害金が1日につき元本の30%。……ふむ」
太郎は深くため息をついた。
「オロチ。お前、ここはどこだと思ってる?」
「あ? 太郎国だぎゃ」
「そう、太郎国だ。俺が法律を作った国だ。……お前、太郎国特例民法第90条『公序良俗違反』、および『利息制限法』を知らないのか?」
「り、りそくせいげんほう……?」
聞き慣れない現代日本の法律用語(太郎が勝手に導入した)に、オロチが目を白黒させる。
「太郎国の法律では、年利20%を超える金利設定は『違法』であり、それを超える部分の利息は全て無効。さらに、暴利行為による契約そのものが公序良俗に反し、『契約自体が初めから存在しなかった(無効)』とみなされるんだよ」
太郎が極めて流暢な法律用語で、ゴルド商会の悪徳契約を論破し始める。
「な、なにをゴチャゴチャと……! こ、これは当人同士が合意した契約だぎゃ! 無効になるわけが……」
「無効になるんだよ。それに……」
太郎は右手を虚空にかざし、自身のユニークスキルを発動させた。
「いでよ、100円ショップ! 個人情報保護の要……『5連刃シュレッダーハサミ』!!」
ポンッ!と太郎の手に現れたのは、刃が5枚重なった、100均の文房具コーナーで売られている特殊なハサミであった。本来は郵便物の宛名などを細かく切り刻むためのものである。
「な、なんだその不気味な武器は!?」
「これは、違法な契約を物理的に無に帰すための魔法道具……名付けて『契約無効化カッター』だ!」
太郎は極めて堂々としたハッタリをかますと、オロチの手から奪い取った借用書に向かって、シャキッ!シャキッ!とハサミを入れた。
5枚の刃が、分厚い羊皮紙を容赦なく短冊状に切り刻んでいく。
「ああっ!? 俺の、俺の金貨100万枚の借用書がァァッ!!?」
オロチが悲鳴を上げる。
シャキシャキシャキッ!
太郎はわずか数秒で、借用書をただの「紙くずの山(細切り)」へと変え、ゴミ箱へとバサァッ!と捨てた。
「はい、これで証拠は消滅。契約は無効だ」
「き、貴様ァァァッ! いくらなんでもふざけるなだぎゃあ! 野郎ども、この店長をぶっ殺して、店ごとスクラップにして……」
オロチが激昂し、オークたちが武器を構えようとした、その時。
「おっと。暴れるのは勝手だが、いいのか?」
太郎が、首のタオルで汗を拭きながら、極めて冷酷な、そして絶対的な強者の眼差しでオロチを睨み据えた。
「俺はただのコンビニ店長だが……この国の『国王』でもある。うちの店で暴れて器物損壊と営業妨害を働けば、今すぐT-SWAT(太郎国警察特殊部隊)の鮫島を呼んで、お前らゴルド商会を国家反逆罪でフルボッコにして、全財産を国庫に没収するけど。……やるか?」
「――――ッ!!」
オロチの全身の毛穴から、ブワッ!と冷や汗が噴き出した。
目の前のラフな格好の男。そうだ、こいつはただのコンビニ店長ではない。かつて魔王を単独で討ち果たし、神殺しの武具をサンダル代わりにする、規格外のバケモノにして一国の王――『佐藤太郎』その人であった。
そんな男の城で暴れるなど、自殺行為以外の何物でもない。
「ひぃっ……! も、申し訳にゃあです、太郎王! じょ、冗談だぎゃあ!」
オロチは即座に土下座の姿勢をとった。
「わかればいい。お前らの暴利契約は無効だが……元本(実際に借りた数百万円)の返済義務までは消えない。元本だけは、後でこいつらにちゃんと払わせてやるから、今日はさっさと帰れ。……ああ、それと」
太郎は、オロチの足元に転がっていた『タロー棒』を指差した。
「営業妨害の迷惑料として、お前らの乗ってきた装甲車と、身につけてる貴金属は全部置いていけ。歩いて帰れよ」
「そ、そんな殺生なだぎゃあぁぁぁっ!!」
オロチと屈強な用心棒たちは、太郎の圧倒的な理不尽(王権発動)の前に涙を流し、身ぐるみを剥がされた挙句、パンツ一丁でタローソンから逃げ出していった。
***
静寂が戻ったタローソン。
「……た、太郎、様……っ」
カグヤが、床に座り込んだまま、潤んだ瞳で太郎を見つめていた。
借金取りから自分を守り、あの恐ろしいオロチを言葉一つ(とハサミ)で撃退してくれた。
その背中は、どんな神々よりも大きく、そして頼もしく見えた。
(あぁ……っ。なんて男らしいんでしょう……! まるで、ピンチのヒロインを救い出すナイトのようですわ! 私、こんな店長さんになら、一生ついていっても……っ♡)
カグヤの胸に、かつてないほどの『キュンッ』という高鳴りが生まれた。
彼女が頬を赤らめ、太郎に向かって両手を差し伸べようとした、その時。
「おいカグヤ。何ボーッとしてるんだ」
太郎が、無慈悲な声でカグヤを見下ろした。
「え?」
「オロチには『元本は払わせる』って約束しただろ。お前が質屋や車屋で作った借金数百万円と、うちの駐車場代(20万円)。……1円たりとも踏み倒させないからな。さっさとモップ持って、トイレ掃除してこい。時給800円の労働は終わってないぞ」
太郎の冷酷な『店長モード』の前に、カグヤの胸のときめきは、パリリンッ!と音を立てて粉々に砕け散った。
「……っ! この、血も涙もない悪魔ぁぁぁっ! 感動を返してくださいませぇぇっ!!」
泣き叫びながら、便所用ブラシを持ってトイレへとダッシュしていくカグヤ。
「ふはははっ! ざまぁないわねカグヤ! あいたっ! 太郎、叩かないでよ!」
ルチアナも太郎にハリセンでどつかれ、慌てて品出しに戻る。
神々の労働は、まだ終わらない。
膨大な借金(元本)を返すため、太郎はある『炎上必至の作戦』を企てていた。
最後までお読みいただき、本当にありがとうございます!
「太郎の現代法律無双キターww」「100均のシュレッダーハサミで契約無効化は草」「カグヤのキュンが1秒で終わって可哀想(笑)」と少しでも楽しんでいただけましたら、
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【☆☆☆☆☆】を【★★★★★】にして評価していただけると、執筆のモチベーションが爆上がりします!(作者が泣いて喜びます!)
次回、『【炎上×スパチャ】借金返済ライブと乱入者』!
借金返済のため、太郎の提案で神々が「ゴッドチューブの謝罪配信」を決行! しかし、そこにあの『底辺強欲アイドル』が乱入してきて……!?
引き続き、太郎国のドタバタ日常コメディをお楽しみください!
応援よろしくお願いいたします!




