EP 6
【売上バトル】奇跡の叩き売りVS港区営業
「……ふぅ。変なヒゲの客のせいで時間はロスしたが、ここからが深夜シフトの本番だぞ、お前ら」
午前2時。
タローソンのレジカウンターで、店長の太郎が微糖の缶コーヒーをコンッと置き、三人の従業員――ルチアナ、カグヤ、リーザに向けて宣言した。
「夜食の時間だ。今日のシフトで、一番『店の利益(売上)』に貢献した奴には、特別まかないとしてコレを支給する」
太郎がバックヤードのレンジから取り出したのは、黄金色に輝くパッケージに包まれた特注品。
『タローソン特製・極厚ガーリックステーキ弁当(特盛りライス付き)』であった。
フタの隙間から漂う、暴力的なまでの肉の脂とニンニクの香ばしい匂い。それは、空腹の限界を迎えている深夜の労働者にとって、いかなる宝石よりも価値のある至宝(合法ドラッグ)である。
「「「ゴクリ……ッ!」」」
三人の喉が、全く同時に鳴った。
時給800円の過酷な労働(主にモップがけと変な客の相手)で疲労困憊の彼女たちにとって、そのステーキ弁当はまさに砂漠のオアシス。
「す、すてぇき……! 最近、パンの耳とちくわしか食べていない私の胃袋が、肉を寄越せと泣き叫んでおりますわ!」
リーザが血走った目でよだれを拭う。
「私、今月はクレカの支払いで食費を完全に削ってるから……三日連続でイカソーメンしか食べてないのよ! 絶対に私が食べるわ!」
ルチアナが芋ジャージの袖をまくり上げ、鼻息を荒くする。
「オホホホ! 神たる私が下界の肉など……肉など……くぅぅっ! 悔しいけど、めちゃくちゃ良い匂いですわ! 借金返済の活力のためにも、私がいただきますわよ!」
カグヤもまた、ハイブランドのジャケットの下でお腹をグゥゥと鳴らしながら臨戦態勢に入った。
「よし。ルールは簡単。ここから朝の5時までの間に、どれだけ店の売上(利益)に貢献できるかだ。手段は問わない。スタート!」
太郎の合図と共に、三人の『ステーキ弁当争奪・売上バトル』が幕を開けた。
***
最初に動いたのは、芋ジャージの女神・ルチアナであった。
「手段は問わないって言ったわね、太郎! コンビニの利益を上げる一番の方法、それはズバリ『廃棄ロスの削減』よ!」
ルチアナはバックヤードのゴミ箱(廃棄商品入れ)から、消費期限が数時間過ぎてしまい、下げるしかなかったお弁当やおにぎりを山のように抱えて戻ってきた。
「ちょっとルチアナ。いくらなんでも、賞味期限切れの廃棄弁当を売るのは食品衛生法的にアウトだぞ」
太郎が顔をしかめる。
「ふふんっ! なめないでちょうだい。私は創造と生命を司る神よ? 『時間を巻き戻す』程度の奇跡、造作もないわ! ――神聖なる浄化!!」
ルチアナが両手をかざし、神々しい光を放つ。
すると、廃棄処分になっていたパサパサの唐揚げ弁当や、海苔がしなしなになったおにぎりが、瞬く間に『工場から出荷された直後の出来立てホカホカ状態』へと完全復活を遂げたのだ。
それどころか、神のオーラを纏ったことで、弁当自体が薄っすらと後光を放っている。
「いらっしゃいませぇーっ! 今なら、女神の奇跡でホカホカに復活した『神聖・唐揚げ弁当』が、なんと定価で販売中よーっ! 食べれば全ステータスが一時的にアップする(かもしれない)わよーっ!」
「う、うおおおっ! なんか弁当が光ってるぞ! 買う買う!」
「徹夜明けの身体に染み渡るぜェェッ!」
深夜の冒険者や夜警の兵士たちが、神聖なオーラを放つ弁当に群がり、次々と買っていく。
本来なら売上ゼロ(マイナス)になるはずの廃棄商品が、原価ゼロのまま定価で飛ぶように売れていくのだから、店としての利益率は100%である。
「……グレー。極めてグレーだが、食中毒の心配がない出来立てに戻ってるなら、ギリギリセーフとするか」
太郎は目を細めながら、ルチアナの売上をカウントしていく。
「オホホホ! 浅いですわルチアナちゃん! 弁当なんてちまちま売っていても、ラチが明きませんわよ!」
隣のレジで、カグヤが高笑いを上げた。
彼女は自身の『エンジェルスマートフォン(ブラックカード連結)』を取り出し、三脚にセットしてゴッドチューブの生配信を開始したのだ。
『はぁ〜い、夜ふかししている迷える子羊(太客)の皆様ぁ〜♡ 世界神のカグヤですわよぉ〜♡』
カグヤがカメラに向かって、ウインクと共に極上の投げキッスを放つ。
『実は今、私、下界のタローソンというお店で、期間限定の「一日店長」イベントをやっておりますの! 今からお店に来て、金貨1枚(1万円)以上の高額商品をお買い上げいただいた方には、特別に私とのツーショットチェキと、握手の特典をプレゼントしちゃいますわ〜っ♡』
その配信からわずか数十分後。
『キキィィィィッ!!』『ブルルルルンッ!!』
タローソンの駐車場に、高級な魔導馬車や、いかにも成金といった風貌の魔族、貴族の乗るオープンカーが次々と押し寄せてきたのだ。
カグヤのゴッドチューブの信者(主に富裕層のガチ恋勢)たちである。
「カグヤちゃぁぁぁん!! 金貨持ってきたぞぉぉっ!!」
「チェキ! 俺とチェキ撮ってくれぇぇぇ!」
「はぁい皆様、順番に並んでくださいませぇ♡ あ、そこのおじ様、金貨1枚ならこちらの『贈答用・高級化粧品セット』がオススメですわ! 金貨5枚出してくれるなら、『特選・メロンの詰め合わせ』と『最高級ワイン』のセットもありますわよ♡」
カグヤのレジは、完全に『悪徳アイドルのオフ会会場』と化していた。
コンビニにおいて、普段は全く売れず、ただ棚の肥やしになっているだけの高額商品(お中元・お歳暮用ギフト)が、飛ぶように、しかも大量に売れていく。
「大金貨、入りましたぁーっ!! 次の信者、前へどうぞぉーっ♡」
カグヤの圧倒的な『港区営業(インフルエンサーの暴力)』により、レジの売上は天文学的なスピードで跳ね上がっていく。
「くっ……! あの女、自分の信者を使って高額商品を売り捌くなんて、汚いわね!」
ルチアナがハンカチを噛み締めて悔しがる。
「フッ……。神々のお二方とも、まだまだ商売というものを分かっておられませんわね」
その時。
店の奥から、教育係であるリーザが、堂々たる足取りでやってきた。
彼女の肩には、大きな麻袋が担がれている。
「リーザ? お前、何を持ってきたんだ?」
太郎が尋ねると、リーザは不敵な笑みを浮かべ、レジの前に麻袋の中身をドドンッ!と広げた。
「皆様、ご覧くださいませ! 私の魂の手作り料理……『城下町の無農薬ハーブ(ただの雑草)サラダ』と、『ワイルド・ラスク(パンの耳のカリカリ焼き)』のセットですわ!!」
「「「…………は?」」」
太郎、ルチアナ、カグヤの三人が、同時にぽかんと口を開けた。
カウンターの上に並べられたのは、どう見ても『その辺で摘んできた草』と、『パン屋のゴミ箱から拾ってきたであろうパンの耳』であった。
「ちょっとリーザ。いくらなんでも、そんなゴミ……ゲフンゲフン、タローソンの商品じゃないものを店内で売るなんてルール違反だぞ。売上にもならないし」
太郎が注意するが、リーザは余裕の表情を崩さない。
「ルール違反ではありませんわ、店長! これは『委託販売』ですの! 私のオリジナル商品をタローソンのレジを通してお客様に売り、売上の50%を『場所代(テナント料)』としてタローソンに納めますわ!」
「なるほど、委託販売ね。……で? そんな原価ゼロの草とパンの耳が、誰に売れるって言うんだ?」
太郎が呆れ顔で尋ねた、その瞬間。
『ズドドドドドドドッ!!』
地鳴りのような足音と共に、タローソンの自動ドアがぶっ壊れんばかりの勢いで開き、数十人の屈強な男たち(主におじさん)が雪崩れ込んできた。
「リーザちゃぁぁぁん!! 買いに来たぞぉぉぉっ!!」
「レモン早食い大会の時から、ずっとファンでしたァァッ!」
「お前ら、押すな! 俺が一番最初にリーザちゃんの手作り料理を食うんだ!」
彼らは、先日の『レモン早食い選手権』のコロシアムで、リーザのド底辺の叫びに涙し、彼女のファン(保護者)となった名もなき市民や冒険者たちであった。
「皆様! お待ちしておりましたわ! 今日は特別に、私が普段食べている『愛のサバイバルセット』をご提供しますの! お値段は……タローソンのレジを通しますので、皆様の『愛(言い値)』でよろしくてよ♡」
「「「うおおおおおおおおっ!!」」」
おじさんたちが、涙を流しながら財布の紐を限界まで引きちぎった。
「リーザちゃんの手作り草サラダ! 金貨1枚(1万円)で買うぜ!」
「俺はパンの耳に金貨3枚(3万円)だァァッ! 栄養つけろよリーザちゃぁん!」
ピッ。ピッ。ピッ。
レジのバーコードリーダーが(太郎が急遽作った『リーザ委託品』のバーコードを読み取り)小気味よい音を立てる。
原価0円の雑草とパンの耳が、金貨(数万円)という暴利で飛ぶように売れていく。
そして、その売上の50%が、タローソンの『純利益』として容赦なく計上されていくのだ。
「ば、バカな……っ!? ただの雑草が、私の売っている高級メロンと同じ値段で売れていくですって!?」
カグヤが目をひん剥いて驚愕する。
「あ、ありえないわ! 奇跡も魔法も使っていないのに、ただの同情とファン心理だけで、原価ゼロのゴミを錬金術のように現金に変えている……!」
ルチアナも震え声で後ずさる。
神々の高額商品や奇跡の弁当など、リーザの『ド底辺のアイドル商法(同情ビジネス)』の前では、利益率において全く比較にならなかった。
***
午前5時。
朝焼けがアルクス城下町を照らし始める頃、タローソンの過酷な深夜シフトが終了した。
「……結果発表だ」
太郎がレジを締め、集計結果が印字されたレシートを掲げた。
「本日の深夜シフト、タローソンの『純利益』に最も貢献した第1位は……利益額ダントツで、リーザ!」
「やりましたわぁぁぁぁっ!! 特上ステーキ、ゲットですわぁぁっ!!」
リーザが両手を突き上げ、嬉し涙を流しながら歓喜のステップを踏む。
敗北した二人の女神は、床に膝をつき、真っ白に燃え尽きていた。
「……神の美貌とインフルエンサーの力をもってしても、あのパンの耳アイドルには勝てないなんて……」
「……これが、底辺を這いずり回って生きてきた者の『商魂』……。恐ろしい子……ッ」
神々はついに、リーザの圧倒的な逞しさと強欲さの前に、完全にひれ伏したのである。
「ほら、お前らは負け組のまかないだ。ルチアナが復活させた廃棄弁当の余りを食え」
太郎が、二人の女神に『しなしなの唐揚げ弁当(魔法の効果が切れた)』をポンと渡す。
「うぅ……っ。私の、私のお肉……」
「モサモサしますわ……。でも、お腹が空いているから、美味しいですわ……」
カウンターの奥で、リーザが「んっふふ〜♡ お肉が口の中でとろけますわ〜♡ にんにく最高〜♡」と幸せそうにステーキ弁当を頬張る横で、二人の駄女神は涙と鼻水を垂らしながら、冷たい廃棄弁当を分け合ってすするのだった。
タローソンの時給労働の現実は、神にも悪魔にも等しく、無慈悲に牙を剥く。
だが、彼女たちの借金返済への道のりは、まだ始まったばかりである。
最後までお読みいただき、本当にありがとうございます!
「ルチアナの奇跡の無駄遣いww」「カグヤの港区営業エグい!」「リーザの同情ビジネス最強すぎたww」と少しでも楽しんでいただけましたら、
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【☆☆☆☆☆】を【★★★★★】にして評価していただけると、執筆のモチベーションが爆上がりします!(作者が泣いて喜びます!)
次回、『【天界からの刺客】ヴァルキュリアの視察』!
タローソンに天界からの恐るべきお目付け役が降臨!? 借金まみれの女神たちに、ついに裁きの鉄槌が下る……!
引き続き、太郎国のドタバタ日常コメディをお楽しみください!
応援よろしくお願いいたします!




