EP 5
【接客の極意】キャバクラ化するレジと狂信者の暗躍
「いらっしゃいませぇ〜♡ あら、お兄さんたち、今日は随分とお疲れのようですわね? 迷宮探索の帰りですかぁ? 頑張る男の人って、すっごく素敵だと思いますわぁ〜♡」
深夜のタローソン。
静寂に包まれるはずのコンビニエンスストアの店内は、今や完全に『夜の高級ラウンジ(キャバクラ)』と化していた。
「お、おう! 今日は地下5階層まで潜って、オーガを三匹も狩ってきたんだぜ!」
「まぁっ! オーガを三匹も!? さすがはお兄さんたち、頼りになりますわぁ! ねえねえ、そんな凄いお祝いの夜には、パーッと冷たい飲み物で乾杯したくありませんこと?」
「す、するする! 乾杯するゥ!」
レジカウンターの中から、縞々のエプロンに身を包んだ女神カグヤが、上目遣いと極上の営業スマイルを放つ。
その圧倒的な美貌と、港区(歓楽街)で培われた『太客をその気にさせる距離感の詰め方』に、血気盛んな冒険者たちは完全に骨抜きにされていた。
「じゃあ、このタローソン特製の『シュワシュワ・ポーション(※100均のサイダー)』なんていかがですぅ? 疲れた身体に染み渡りますわよ♡」
「買う! 箱で買うぜェェッ!!」
冒険者がドンッ!と銀貨をカウンターに叩きつける。
カグヤはパンッ! と手を叩き、店内に響き渡る声でコールを上げた。
「ありがとうございますぅーっ!! イケメン冒険者様から、シュワシュワ・ポーション一箱、入りましたぁーっ!! 皆さん、拍手ぅーっ♡」
『パチパチパチパチッ!』
「うおおおおっ! カグヤちゃぁぁぁん!!」
レジ前に並んだ他の冒険者たちも一緒になって拍手喝采を送り、タローソンの中は異様な熱気に包まれていた。
「……なんなのよ、あれ」
隣のレジで、黙々と商品のバーコードをスキャンしているルチアナが、恨めしそうにカグヤを睨みつける。
「『シュワシュワ入りましたぁ♡』じゃないわよ。ここコンビニよ? なんでレジ前であんなに盛り上がってんのよ……私のレジ、誰も並ばないじゃない」
ルチアナの言う通り、客である冒険者たちは全員、カグヤのレジに長蛇の列を作っていた。
「えへへ、カグヤちゃん、俺の買った『からあげクン(レッド)』、一個あーんしてくれない?」と鼻の下を伸ばす冒険者に対し、カグヤは「もうっ♡ 勤務中だからダメですわ! でも、後で休憩時間に食べてあげますわね♡」と、絶妙な焦らしテクニックでさらなる追加注文を引き出している。
「……す、凄いですわ。あれが、世界神の力……!」
バックヤードの扉の隙間から、教育係のリーザが震える手でメモを取っていた。
「客の自尊心を満たし、無駄なオプション(本来買う予定のなかった商品)を次々と買わせる……。あの『夜の営業スタイル』、アイドル活動にも応用できそうですわ!」
「感心してる場合か」
その後ろで、店長の太郎が微糖の缶コーヒーを啜りながら呆れた声を出す。
「売上が伸びるのは店長としてはありがたいけどさ。完全にキャバクラのノリじゃねぇか。あいつ、普段から信者の貢物(金)でこういう店に入り浸ってるんだろうな……手際が良すぎる」
太郎国のコンビニは、今夜、一人の強欲な女神によって未曾有の売上を記録しようとしていた。
***
しかし、その狂乱のレジを、店の外から血走った目で見つめている一つの影があった。
タローソンの駐車場の植え込みの陰。
そこに隠れていたのは、ビシッとアイロンのかかった燕尾服に身を包んだ、人狼族の執事――リバロンであった。
「……おお、カグヤ様。なんというお労しいお姿……」
リバロンは、双眼鏡越しにカグヤの姿を見つめ、ギリッと奥歯を噛み締めた。
数時間前。彼の主である月兎族のキャルル姫は、「カグヤ様がタローソンでモップがけをしている」という衝撃の事実を目の当たりにし、信仰心が崩壊して白目を剥いて倒れてしまった。
リバロンは慌ててキャルルをシェアハウスのベッドに寝かしつけてきたのだが、主の心には深いトラウマが刻まれてしまったに違いない。
(キャルルお嬢様は、カグヤ様を『気高く、富と権力の象徴』として崇拝しておられる。それなのに、あのように薄汚れた下等な冒険者どもを相手に、小銭を数えて愛想笑いを振りまくなど……! あってはならない! カグヤ様の威厳は、私が守らねば!)
リバロンの目に、人狼族特有の狂気(忠誠心)が宿る。
カグヤが時給労働から逃れられない(借金がある)以上、彼女をレジから引き剥がすことはできない。
ならば、どうするか。
(カグヤ様が『底辺の労働者』に見えるのがいけないのだ。……ならば、カグヤ様が常に『莫大な黄金(大金)』を動かす、超VIP対応のレジ係であると錯覚させれば良い!!)
リバロンは懐から、変装用の『黒のトレンチコート』と『怪しいティアドロップ型のサングラス』を取り出し、素早く身に纏った。そして、口元には付け髭を装着する。
これで、誰がどう見ても『深夜のコンビニに現れた不審な太客(金持ち)』の完成である。
「……行くぞ」
『カランコロン♪』
入店チャイムと共に、トレンチコートの男がタローソンに足を踏み入れた。
彼は脇目も振らず、駄菓子コーナーへ直行すると、100均で大量に仕入れられている1本10円(銅貨1枚)のコーンスナック『タロー棒(めんたいこ味)』を一つだけ鷲掴みにした。
そして、冒険者たちが群がるカグヤのレジの列に割り込み、最前列へと進み出た。
「ちょっとアンタ! 順番待ち……ヒッ!?」
文句を言おうとした冒険者が、リバロンの放つ『凄まじい人狼の殺気(太客のオーラ)』に気圧され、道を譲る。
「……お会計を」
リバロンは、カグヤの目の前に、10円のタロー棒をドンッ!と叩きつけた。
「い、いらっしゃいませぇ……。ええと、タロー棒が一本で、銅貨1枚(10円)になりますわ」
不審すぎる客の風貌に、カグヤの営業スマイルが少しだけ引き攣る。
すると、リバロンは懐から、眩い黄金の輝きを放つ『大金貨(日本円にして1万円札相当)』を取り出し、レジのコイントレイにカーン!と勢いよく置いた。
「これで頼む」
「…………え?」
カグヤが目を丸くする。10円の駄菓子を買うのに、1万円札を出してきたのだ。
「あ、あの、お客様? 細かい銅貨や銀貨はお持ちではありませんこと? これだとお釣りが、9990円(銀貨99枚と銅貨9枚)になってしまいますが……」
「構わん。私は大金貨(万札)しか持ち歩かない主義でね。つべこべ言わずにレジを打て」
リバロンの低く響く声。
その手元にある黄金の輝きを見た瞬間。カグヤの『港区女子(キャバ嬢)の血』が、理性を完全に吹き飛ばして沸騰した。
(お、おおおお大金貨ぁぁぁっ!? 10円の駄菓子に、万札を出してくる超絶VIP(太客)キターーーーーッ!!)
カグヤの瞳孔が開き、声のトーンが三段階ほど跳ね上がった。
「わぁぁぁぁっ! お客様ぁ、大金貨でのお支払い、ありがとうございますぅーっ♡ 凄ぉぉい! お金持ちなんですねぇっ♡」
カグヤは手際よくレジを操作し、再び店内に響き渡るコールを上げた。
「ダンディなサングラスのお客様からぁ! 大金貨、入りましたぁーっ!!♡」
『パチパチパチパチッ!』
「う、うおおおっ! すげぇ! 駄菓子一個に大金貨だ!」
周りの冒険者たちも、圧倒的な財力(?)の前に思わず拍手をしてしまう。
(フッ……。これでいい。カグヤ様は、大金貨を扱うに相応しいお方だ)
リバロンは心中でガッツポーズを決めながら、ジャラジャラと大量のお釣り(9990円)を受け取った。
「ありがとうございましたぁ♡ また来てくださいね♡」
カグヤの極上の笑顔に見送られ、リバロンは一度店の外に出た。
しかし、彼はそのまま帰ることはなかった。
外に出たリバロンは、受け取った大量の小銭(お釣り)を懐の亜空間収納に放り込むと、再び別の『大金貨(万札)』を一枚取り出し、クルリときびすを返して、再びタローソンに入店したのだ。
『カランコロン♪』
そして再び駄菓子コーナーへ向かい、『タロー棒(コーンポタージュ味)』を一本手に取ると、カグヤのレジに並んだ。
「……お会計を」
「あ、あら? さっきのダンディなお客様? タロー棒一本で、10円ですが……」
「これで頼む」
カーンッ!
再びコイントレイに叩きつけられる、大金貨(万札)。
「だ、大金貨、入りましたぁーっ!!♡」
カグヤのコールが響く。
「……お会計を(3回目)」
「大金貨、入りましたぁーっ!!♡」
「……お会計を(15回目)」
「大、大金貨、入りましたぁーっ……!!♡」
「……お会計を(30回目)」
「だ、だい、きんか……ひぃ、お釣りの小銭が……♡」
それから一時間。
タローソンの店内は、完全に『異常事態』に陥っていた。
トレンチコートの不審者が、タロー棒を一本ずつ大金貨(万札)で買うという謎のループ行為(爆買い)を繰り返し続けた結果。
カグヤのレジの中は、数え切れないほどの大金貨でパンパンに膨れ上がっていたのだ。
「な、なんだあの太客……。俺たちの銀貨なんて、ハナクソみたいじゃねぇか……」
冒険者たちは、リバロンの圧倒的な財力の暴力の前に恐れをなし、誰一人としてカグヤのレジに並ば(並べ)なくなってしまった。
「はぁ……はぁ……。お釣り……お釣りですわ、お客様……♡」
カグヤは満面の笑みを浮かべてはいるものの、9990円のお釣りを正確に数えて渡すという過酷な脳トレ(単純作業)を連続でやらされ続け、顔面は汗だくで引き攣っていた。
(カグヤ様……! 今の貴女は、最も黄金に愛された女神として輝いておられますぞ! これでキャルルお嬢様の名誉も守られました!)
リバロンは、タロー棒を抱えながら、サングラスの奥で忠誠の涙を流していた。
「……おい、そこのヒゲの不審者」
その時。
ついに見かねた店長の太郎が、バックヤードから出てきてリバロンの肩をガシッと掴んだ。
「お前が連続で万札を出すせいで、うちのレジの千円札と百円玉(小銭)が完全に底を尽きたんだけど。両替機じゃねぇんだぞ。……ていうか、リバロンだろお前。匂いでわかるわ」
「なっ!? ば、バレていましたか、太郎王!」
リバロンがビクッと肩を震わせる。
「当たり前だ。お嬢様の信仰心を守るためにやってるんだろうが、ただの営業妨害(両替テロ)だぞ。出禁にする前に帰れ」
「くっ……! 申し訳ありません! しかし、私は後悔などしておりません! カグヤ様、万歳っ!」
リバロンはバサァッ!とトレンチコートを翻し、大量のタロー棒を抱えて夜の闇へと消えていった。
「……はぁ、疲れた。変な客に絡まれて最悪ですわ。でも見てください店長! 私のレジ、大金貨がこんなにいっぱい! 私の売上、トップですわよね!?」
カグヤが疲労困憊になりながらも、レジの中の札束を指差してドヤ顔を決める。
「馬鹿。あれだけ大金貨を出されても、売れてるのは10円のタロー棒なんだから、お前の売上は『300円』だよ。隣のルチアナのレジのほうが、普通に弁当売ってる分だけ売上高いぞ」
「…………え?」
カグヤの笑顔が、再びピキリと固まった。
「さぁ、そろそろ日付も変わるぞ。タローソン深夜の『売上バトル』の本番だ。一番売上が高かった奴には、特上ステーキ弁当をくれてやる。気合い入れろよ、新人ども」
太郎の号令と共に、神々と底辺アイドルによる、生き残りを懸けた血みどろの売上競争が幕を開ける。
接客の極意は、まだまだ底知れない。
最後までお読みいただき、本当にありがとうございます!
「カグヤのキャバクラ営業ワロタww」「リバロン、有能執事のはずなのにやってることがアホすぎる(笑)」「両替テロはコンビニ店員の敵!」と少しでも楽しんでいただけましたら、
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【☆☆☆☆☆】を【★★★★★】にして評価していただけると、執筆のモチベーションが爆上がりします!(作者が泣いて喜びます!)
次回、『【売上バトル】奇跡の叩き売りVS港区営業』!
まかないの「特上ステーキ弁当」を懸け、神々とリーザが売上バトルを開始! 果たして勝つのは神の奇跡か、それとも底辺の商魂か!?
引き続き、太郎国のドタバタ日常コメディをお楽しみください!
応援よろしくお願いいたします!




