EP 4
【ド底辺研修】リーザ先輩の黒い教え
「いいですか、新人のお二人。タローソンで働く上で、最も大切なことは何かわかりますこと?」
深夜のタローソン、バックヤード。
普段は在庫の段ボールが積まれているだけの薄暗い空間が、今夜は異様な緊張感に包まれていた。
パイプ椅子の上に仁王立ちになり、腕を組んで二人を見下ろしているのは、ピンク色の芋ジャージにタローソンの制服を羽織った地下アイドル・リーザである。
そして彼女の目の前で、直立不動の姿勢をとらされているのは、青と白の縞々エプロンを着せられた二人の女神――ルチアナとカグヤであった。
「……ま、まごころを込めた接客、とか?」
ルチアナが、おずおずと自信なさげに答える。
「オホホ。品出しを迅速に行い、お客様に快適な買い物空間を提供する……ですわよね?」
カグヤが、港区女子特有の『分かってますよ感』を出しながら答える。
二人の回答を聞いたリーザは、フッと鼻で笑い、首を横に振った。
「甘い。甘すぎますわ。そんなパンの耳の白い部分のような生温い考えでは、この厳しい時給800円のサバイバルを生き残ることはできませんのよ!」
「なっ……! 世界神たる私たちの答えが、パンの耳以下ですって!?」
カグヤが抗議しようとするが、リーザの底辺で培われた謎の威圧感の前に、言葉を飲み込むしかない。
太郎国の王命(太郎の指示)により、「仕事ができない奴はまかない(廃棄弁当)抜き」という絶対的なルールが敷かれているため、彼女たちは教育係であるリーザに逆らうことができないのだ。
「よくお聞きなさい! 接客の基本、それはズバリ……『いかにして客から、合法的に、かつ効率的にお金を搾取するか』ですわ!!」
リーザがバンッ!とパイプ椅子の背もたれを叩いて力説する。
「さ、搾取って……。コンビニのアルバイトって、そういう仕事だっけ?」
ルチアナが引き攣った顔で尋ねる。
「当然ですの! コンビニに来るお客様は、全員が『財布の紐が緩んでいる獲物』! アイドルで言えば、ライブハウスの最前列でペンライトを振っている太客と同じですわ! 彼らの財布から一円でも多くのお金を吸い上げ、私たちの豊かな生活(茹で卵の追加)へと繋げる……それがタローソン店員の使命ですのよ!」
リーザの目が、$マークのようにギラギラと輝いている。
(……この子、アイドルの解釈もコンビニ店員の解釈も、何か根本的に間違ってないかしら……)
二人の女神が心の中で全く同じツッコミを入れるが、口には出せない。
「では、具体的な『搾取の極意』を実践で教えますわ。レジカウンターへ移動しますの!」
リーザに連れられ、店内のレジへと移動した三人。
深夜のタローソンはまだ客足がまばらで、静まり返っている。
「さぁ、これが私が独自に開発した、タローソン・レジ横専用の『集金システム』ですわ!」
リーザがドンッ! とレジの真横(本来なら募金箱やチロルチョコが置いてあるスペース)に設置したのは、木製の立派な『お賽銭箱』であった。
ご丁寧に、箱の正面には毛筆で『皆様の愛(お賽銭)は、困窮する従業員の生活費になります』と書かれた紙が貼られている。
「……お賽銭箱? 神社にあるやつじゃないの」
ルチアナが目をパチクリとさせる。
「そうですわ! いいですか新人! お釣りを渡す時、お客様の目を見て、最高のアイドルの笑顔でこう言うのです! 『細かいお釣りはよろしければこちらへ♡』と!」
リーザが実演してみせる。
商品をピピッとスキャンし、架空の客に向かって極上の上目遣いと笑顔を向け、そっとお賽銭箱を指し示す。その手際の良さと、一切の躊躇いもない強欲な姿勢は、まさにプロの所業であった。
「な、なるほど……! 会計のついでに、チップを要求するということですのね!」
カグヤが感心したように声を上げる。
「その通りですわ、カグヤ! そしてここからが一番重要です! ここに入ったお金は、店長の目を盗んで、シフト終わりのバックヤードで『私達のポッケ(非課税)』にダイレクトに入りますのよ!!」
リーザがドヤ顔で、両手の親指と人差し指を擦り合わせるジェスチャーをする。
「「――――ッッ!!」」
その瞬間。
二人の女神の脳内に、雷のような衝撃が走った。
「ポッケに……ダイレクトに、入る……!?」
ルチアナの呼吸が荒くなる。
(ということは……このお賽銭箱の売上を全てくすねれば……! 今夜引けなかった『月人君SSR確定・深夜の星空ガチャ』が……回せる!?)
ルチアナの瞳に、重度のソシャゲ廃人特有の濁った炎が宿る。
「信仰心の、ダイレクト課金……ッ!」
カグヤもまた、ブルブルと震えていた。
(私が今までやってきた、信者から貢物を貰って質屋で換金するという面倒な手順をすっ飛ばし……信者(客)から直接、現金を吸い上げる究極のシステム! しかも非課税! あぁ、なんて奥深くて合理的な集金方法なんでしょう! これならすぐに20万円の借金を返して、またブランドバッグが買えますわ!)
カグヤの港区女子(偽)としてのドス黒い虚栄心が、お賽銭箱を前にして最高潮に達する。
「やります! やらせてください、リーザ先輩!」
「私にも! 私にもその集金システムを使わせなさい! 月人君のSSRが私を待っているのよォォッ!」
二人の駄女神は、もはや時給800円の労働の苦痛など完全に忘れ去り、レジ横のお賽銭箱を奪い合うようにして目を輝かせた。
「オホホホホ! さすがはリーザ先輩! 底辺を這いずり回って生きてきただけのことはありますわ! 一生ついていきますわぁっ!」
「アンタ天才よ! これで無課金(限界)生活からおさらばよーっ!」
「ふふんっ! わかればよろしいのですわ! さぁ、気合いを入れて客(獲物)を待ち構えますわよ!」
三人がレジの中でがっちりと握手を交わし、完全なる『悪の枢軸(横領同盟)』が結成されようとした、まさにその時である。
『スパーーーーーーーンッッ!!!』
「「「あべっ!?」」」
鋭い破裂音と共に、三人の頭にハリセン(100均のパーティーグッズ)の強烈な一撃が振り下ろされた。
「……あいたたたっ! な、何をするんですの!?」
リーザが涙目で後ろを振り向く。
そこには、鬼のような形相でハリセンを構えたタローソン店長――佐藤太郎が立っていた。
「お前ら……。バックヤードのモニターで全部見てたぞ」
太郎の声は、氷のように冷たく、そして地を這うように低かった。
「て、店長……! 違うんですの、これは従業員のモチベーションを上げるための画期的な福利厚生システムであって……!」
リーザがしどろもどろになって言い訳をする。
「レジ横でお客から金をせびって、それを自分のポッケに入れる。……それ、世間一般では『ただの横領』って言うんだよ、馬鹿どもが!!」
太郎が再びハリセンを振り上げ、三人の頭に連続でツッコミを入れる。
「痛っ! いやぁっ! 神の頭を叩かないで!」
「私のお小遣いがぁぁぁっ!」
「ごめんなさいですわーっ! 廃棄弁当抜きだけは勘弁してくださいませぇぇっ!」
太郎はお賽銭箱をヒョイと持ち上げると、無慈悲にゴミ箱へと放り投げた。
「いいか。お前らの時給は800円。それ以上でもそれ以下でもない。お客様から頂くのは『商品に対する対価』だけだ。チップだのお賽銭だの、ふざけた真似をしたら即刻クビにして、借用書を借金取りに回すからな」
太郎の冷酷な言葉に、カグヤとルチアナは「ヒィッ!」と震え上がった。
借金取り(ゴルド商会のオロチ)に回されれば、今度こそマグロ漁船(ファンタジー版)に乗せられるかもしれない。
「わ、わかりましたわ……。真面目に、真面目にレジを打ちますわ……」
カグヤがエプロンの裾を握りしめながら、涙声で頷く。
「わかればよろしい。ほら、お客さんが来たぞ。リーザ、ちゃんと『まともな』接客の手本を見せてやれ」
入店チャイムが鳴り、深夜のタローソンに数人の冒険者グループが入ってきた。
「は、はいっ!」
リーザは慌てて姿勢を正し、先ほどの悪徳アイドルの顔から、純真な『タローソン店員』の顔へと一瞬で切り替えた。
「いらっしゃいませぇーっ! タローソンへようこそですわーっ♡ 本日は新作のポーション(栄養ドリンク)がお安くなっておりますのよーっ♡」
底辺で培われた愛嬌と、アイドルとしての完璧なスマイル。
冒険者たちはリーザの笑顔にデレデレになり、「お、おう。じゃあそれ一本もらうわ」と、カゴに大量の商品を入れていく。
「さぁ、カグヤ。ルチアナ。あなたたちもやるのよ」
太郎が腕を組んで指示を出す。
「くっ……! この私が、下界の冒険者風情に頭を下げるなんて……!」
カグヤはギリッと歯を食いしばった。しかし、背に腹は代えられない。彼女は深呼吸をすると、かつて夜の街(ギャラ飲み)で培った『最高の営業スマイル』を顔に貼り付けた。
「いらっしゃいませぇ〜♡ そこのお兄さんがた、お仕事帰りですかぁ? 頑張る男の人って、素敵ですわぁ〜♡」
カグヤの、港区女子特有の『距離感の近い甘ったるい接客』。
それに直撃された冒険者たちは、「ド、ドヒャーーッ! 超絶美人がいるぞ!?」「ねぇちゃん、俺の買ったフライドチキン、一緒に食うか!?」と、完全に鼻の下を伸ばし始めた。
(……ほう。こいつら、金が絡むと妙にハイスペックになるな)
太郎はレジの奥からその様子を眺め、少しだけ感心したようにコーヒーを啜った。
ド底辺アイドルのド根性接客と、港区系女神のキャバクラ風接客。
神々の威厳はゼロだが、タローソンの深夜シフトは、かつてないほどの売上を叩き出そうとしていた。
果たして、この狂気のアルバイト生活は無事に終わるのか。
タローソンの夜は、まだ始まったばかりである。
最後までお読みいただき、本当にありがとうございます!
「リーザの黒い教え、横領で草ww」「神様がポンコツすぎる!」「太郎のハリセンツッコミ最高!」と少しでも楽しんでいただけましたら、
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次回、『【接客の極意】キャバクラ化するレジと狂信者の暗躍』!
カグヤの接客が完全に「夜のお店」状態に!? そして、主の尊厳を守るため、あの『有能執事』が裏でとんでもない行動に出る……!
引き続き、太郎国のドタバタ日常コメディをお楽しみください!
応援よろしくお願いいたします!




